第1428話 神殿都市の神学校
セレスティア達の出身となる第三の異世界。その痕跡の有無を神殿都市の大図書館地下にある秘密倉庫に調べていたカイトはそこで見つけた第三の異世界の物となるネックレスをティナに預けると、そのまま再び天桜学園が運営する屋台の補佐に戻っていた。
と、その作業であるがその翌日にはまた別の仕事が入っていた為、この日も朝から屋台の補佐ではなく神殿都市にあるとある建物を訪れる事になっていた。といっても、今日の仕事は公爵としてではなく、冒険部の長カイトとしてであった。とはいえ、それ故にここに行くのは彼一人ではなく、アルが一緒だった。
「ああ、カイト。そっち、もう大丈夫?」
「ああ。悪いな、そっちに仲介役を頼んじまって」
「あはは。僕の妹なのに僕が仲介しないという方が可怪しいよ」
カイトの感謝にアルは笑いながら首を振る。とまぁ、そういうことらしい。これから行くのは神殿都市にある神学校。目的はそこの学生達に会う為だった。そしてその一人にはアルの妹が居たのである。
これは自然といえば自然だ。先に魔導学校の生徒が言っていたが、教国の学生との間で交流会が開かれているという。なのでアユルの出迎えにはその交流相手となる神学校の生徒達が選ばれたのであった。
というわけでカイトは領主として、ルーファウス達の出向先のトップとして先んじて状況を確認しておこう、となったわけである。なお、ルーファウス達については逆にアユル達との調整があるらしく、一度マクスウェルに戻っていた。帰ってくるのは数日後という話だ。
「ま、それもそうか。じゃあ、悪いが少し頼む」
「うん」
カイトの言葉を受けて、アルが歩き始める。彼らが宿泊するホテルがあるのは街の中央付近。それに対して神学校があるのは街の北側の端に近い所だ。設立当時はそこが一番土地が余っており、学校を作れるだけの敷地を確保する事が出来たのである。
「神学校か……設立には関わったが、そこまで言う程の関わりは無かったな」
「そうなの?」
「下手に現人神扱いされたくもないんでな。年度末と年始に挨拶するぐらいだった」
やはり神殿都市はカイトの土地の中でもかなり大きな都市だし、更には当時の情勢もある。おまけに、カイトとしても教育に力を入れていた事は事実だ。そこらの兼ね合いから学年が切り替わる春には挨拶を行っていたらしい。が、やはり彼の立場上それぐらいであまり来る事も無かったそうだ。
「実際、オレが学校に行って何するよ、という話ではあったしな。なのでその程度ってわけ」
「ふーん……あ、それだったら……」
やはり幾ら祭りの最中だとはいえ、今は仕事中だと言える。なので買い食い出来るわけでもないので、二人は道中適当に話しながら歩いていく。と、その最中にカイトはアルへと問いかけた。というのも、アルが随分と慣れた様な印象があったからだ。
「にしても……ずいぶんと慣れた様子だが、よく来ていたのか?」
「ああ、こっちの方?」
「ああ。神殿都市とマクスウェルだとさほど遠くはないが、同時に近くもないだろう?」
「まぁ、そうだけどね……うん。そこそここっちにはよく来ていたかな」
アルは最近はそうじゃないけど、と頷きながらも更に告げておく。まぁ、カイトが知らない以上はそうなのだろう。というわけで、その事情を語ってくれた。
「ほら、最近はカイト達がこっちに来たり、ルーファウス達がこっちに来たりで向こうに留まる用事の方が多かったからね。その前は割と平和だったから……」
「おい……オレが騒動を持ち込んだ様な言い方だな……」
「あ、ごめん」
「いや、割とそんな気はしないでもないがな」
アルの謝罪にカイトは笑いって首を振る。当然冗談だし、実際に彼としても自分達が来て以降の怒涛の日々についてはわかっている。自分達の転移そのものでさえ、未だに二つの世界を股にかけた大事件だ。おそらくどちらの世界においても有史上最大の事件となるだろう事は明白だった。
そしてそこからの事件の連続だ。大小別け隔てなく考えれば、数ヶ月に一つは世界を揺るがす規模の事件が起きている。必然としてアル達特殊部隊については見回りではなく訓練に時間を割く事が多かった。その結果、こちらにもあまり来ていないというわけで間違いないだろう。
「さて……それで、これが神学校ねぇ……まぁ、正式名称はマクダウェル領第一神学校だが……」
「正式名称はマクダウェル領神殿都市所属第一神学校だよ……エネフィアでも有数の神学校だね」
「ま、場所が場所だからな。専攻は歴史と神学だったか」
ここは神殿都市。世界各地の神殿系の組織が支部を置いている。そして各地の神殿や宗教家達もまたここに来て研究をしている者も少なくない。神話や大精霊達に関する事であれば、ここが一番優れていると言っても過言ではないのだ。
と、いうわけで神学校についても世界有数の規模で、各種の礼拝堂等が設けられていた為か必然としてそこかしこに宗教的な意匠が設けられていた。
そんな学校なのであるがこれは当然の事門番が居て、時期が時期故か無関係の部外者が入り込まない様にしっかりと見張っていた。が、アル当人が言っていた通り何度か神殿都市に来ていた関係か顔見知りだったようだ。普通に向こう側から挨拶があった。
「これは……ヴァイスリッターさん。お久しぶりです」
「ああ、お久しぶりです」
「今日は……横にお連れの方がいらっしゃる所を見ると、久しぶりにお仕事ですか?」
「ええ……中に入りたいのですが、可能ですか? 申請は取っている筈です」
「わかりました。すぐに確認させて頂きます」
門番はアルの要請を受けて、カイトから差し出された申請書を精査する。そうして、数分後。申請書が本物かつ問題がない事が確認されて、門が開いた。
「では、お入りください」
「ありがとう」
「失礼します」
門番が開いてくれた門を通って、二人は敷地の中に入る。基本的に学校の中は門の外からは見えない様になっている為、見えていたのはあくまでも外に見える様な極一部だけだった。というわけで中に入ると、改めてその威容がはっきりと見て取れた。
「これは……ふむ……やっぱり神学校か」
カイトが見たのは、そこかしこを行き交う生徒達だ。授業そのものは収穫祭の間は無いわけであるが、基本的に寮で暮らす生徒達は大半がここに併設されている寮に住んでいる。
そして基本はこの寮で暮らす限り制服の着用が求められる。無論、今は休みなので制服を着なくても良いが、礼拝堂等で礼服を着る必要があったりする事も多いらしい。なので基本的に神殿都市に居る間は制服を着るのが通例となっているらしかった。
別に礼拝するからと制服を着る必要は無い所が大半らしいのだが、何か色々とあってこうなったらしい。詳しくはカイトも興味がないので気にしてはいなかった。何より、そこらは学生達が考えるべき事だ。カイトが口出しする事でもない。
「何が?」
「いや、制服だよ。見た限り修道服に近い清楚さがあったからな」
「ああ、それね……そういえば、そんな印象もあるね」
アルもどうやら言われて気が付いたらしい。神学校の生徒達の制服は黒や紺を基調としたり、白を使った清潔感や清楚さを重要視した配色が為されていた。
幾つか種類があるのはやはり、宗派や宗教に応じて使ってはならない色や使わなければならない装飾があるからだろう。ここらは宗教としての話があるので、仕方がない事だっただろう。
と、そんな事を話していたからだろう。やはり外からの客が来てジロジロと自分達を見ていれば注目を浴びる事になる。なのでアルが少し慌て気味に口を開いた。
「っと、じゃあ事務所に案内するよ」
「ああ、頼む」
アルの言葉を受けてカイトは再び歩き始める。そうして少し歩いて幾つかの礼拝堂の間を通り抜けると、敷地中央にある学舎へとたどり着いた。と、その学舎に入った所で修道服を来た女性に出会う事となる。その女性はどうやらアルと知り合いだったらしい。
「おや……ヴァイスリッターさん。今日はおやすみですか?」
「ああ、リアナ先生。お久しぶりです。いえ、今日は仕事です。と言っても半分仕事、半分私用という所ですが……」
「お隣はご友人ですか?」
「いえ、仕事の同僚で……」
アルはしばらく、リアナというらしい修道服を着た女性と話していく。なお、後に聞けば妹の担任らしく、仕事で神殿都市に着た折りに妹に会いに来て、そこで何度か会った事があったらしい。と、いうわけでしばらくの会話の後、アルが来意を告げると彼女は一つ頷いた。
「そうですか。では、ついでなので院長の所には私が案内しましょう」
「ついで?」
「ええ……私がその件は主導していますので……その件で私も院長の所へ行く必要があったのです」
アルの言葉を受けたリアナという女性はそういうことなら、と案内を買って出てくれた。それに、カイトが首を傾げた。
「そうなのですか?」
「ええ……私がこの学院ではルクセリオ教の指導をしている一人です。それなので、と」
歩きながらリアナはカイトへと事情を説明してくれる。どうやら丁度カイトが用事があった相手の一人だというわけなのだろう。ということで彼女と共に、カイトとアルは神学校の院長室へと通される事になった。
「院長先生。ヴァイスリッターさんと天音さんをお連れいたしました」
『ああ、入って頂いて下さい』
中から入ってきたのは、若い女の声だ。院長という事なのだろう。そうしてリアナが扉を開いて、カイト達は中へと通される。中に居たのは、エルフ系の女性だ。服装は大精霊達を祀る大神殿の神官服だ。その系列という事なのだろう。
「失礼します」
「はい……お久しぶりです、ヴァイスリッターさん」
「いえ、院長先生こそお変わり無く」
こちらもやはりアルは知り合いだったらしい。仕事で時折来ていたし、アルとて大精霊達に縁のある立場だ。何かと会った事があっても不思議はない。そして実は。カイトの方も会った事があった。
「そして……お久しぶりです、カイトさん」
「ええ、お久しぶりです……何時ぶりでしたか」
「さて……もう何時以来かも忘れてしまいましたね」
院長はカイトの問いかけに笑う。何時以来かと言われれば、おそらくカイトが帰還した時の挨拶回り以来というしかないだろう。と、それにリアナが不思議そうに首を傾げる。
「お知り合いだったのですか?」
「天桜学園の転移の折り、指導者達の会合にて一度。その時以来ですから……もう十数ヶ月以上も前でしょう」
「そんな所ですか」
院長の言葉にカイトも同意する。これは事実は事実だ。何かがあって彼女とも会う事があるかもしれない、とあの時会っていたのである。まぁ、幸いにしてその必要もなく、今ここに至るという所であった。
「にしても……本当にお変わり無く」
「あはは。これも大精霊様のご加護の賜物、という所です」
カイトの問いかけに院長は笑いながらそう嘯いた。というのも、実は彼女の年齢は優に一千を超えていた。あの『神葬の森』の墓守の一人で、歴史を知っている者としてカイトが新学校設立の際に招いたのである。丁度墓守を引退した所なので暇をしていたらしく、彼の申し出を快諾してくれたのである。
無論、墓守を引退した後なので相当な高齢だ。彼の聞く所によると墓守の長とも同年代だとも聞いた事がある。が、種族故にか肉体の老いには精神的な要因が強く、それ故にこの見た目らしかった。
「そうですね。とはいえ、正式な場できちんと挨拶するのは初めてですか。なので一応、自己紹介を。カイト・天音です」
「エフイルです」
とりあえずの社交辞令の後、二人は自己紹介を交わし合う。そうして自己紹介を交わしあった後、改めてエフイルはリアナへと一つ頷きかけた。
「それで、準備でしたね。リアナ先生。ご案内して差し上げてください。私も後でそちらに向かいましょう」
「かしこまりました」
そもそもここに来たのは院長に挨拶を、というだけだ。長々と話し合う意味はない。というわけで、カイト達は再びリアナに案内されて神学校の中にあるというルクセリオ教の教会へと向かう事にするのだった。
お読み頂きありがとうございました。
次回予告:第1429話『礼拝堂』




