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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第69話 収穫祭・中編

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第1427話 もう一つの異世界の手がかり・2

 セレスティア達の出身となるエネフィアでも地球でもない第三の異世界。その痕跡を探すべく神殿都市の大図書館地下にある秘密倉庫へと足を伸ばしていたカイト。ティナに作ってもらった魔道具を使って幾つかの地球産の漂着物を発見する事になっていた彼であるが、その最中に第三の異世界の物となるネックレスを発見するに至っていた。そうして彼はそれを手にティナの所へと帰還していた。


「と言う訳で、これがそのネックレスだ」

「ほう……」


 カイトの差し出したネックレスを見て、ティナが興味深げに魔眼を起動させる。やはり初となる地球でもエネフィアでもない第三の異世界の産物だ。学者として興味津々だったようだ。


「ふむ……なるほど。やはり魔術式そのものは似通っておるのう」

「そりゃ……所詮魔術式は世界側が統一規格の様な感じで定めているものだ。若干の主義主張、性質の違いで差は出ても、そこまで大差が生まれる様な形じゃ無いな」

「道理じゃのう」


 ティナとて地球に渡り、そこで発展した魔術を見て来ている。それ故、根本にある形式等については見知っており、異世界と言えども魔術式に大差が無い事は理解していた。これをどの様に改良し、改変するのか。世界毎に異なっているのはその差だった。

 とは言え、大抵こんなネックレス程度に仕込める魔術だから大差が無い様に見えるだけであって、これがもっと複雑な物になると一気に彼女でもわからなくなる事は多かった。

 それ故、魔術の解析とはこの魔術式毎に分解して解析するという作業になるらしい。魔術が下火の地球だから地球ではなんとかなっただけで、もしこれが地球でなければどうにもならなかった、もしくは解析にはもっと時間が掛かっただろうとは彼女の言葉であった。


「まぁ、この程度で何か魔術の解析が楽になる訳では無いが……うむ。これがあればまた別途魔道具を作る事も出来よう」

「何か作るのか?」

「うむ。お主が使ったあの魔道具のと同じ物を作る事も出来るかとな」

「ああ、これを媒体にして異世界の物を探すのか」

「うむ。お主が媒体となれる様に、このネックレスもまた媒体となれよう。まぁ、幸いな事にこのネックレスの大きさはさほどでは無い。故にこれを媒体として手持ち式の何かを作る事も容易かろう。無論、手持ち式でなくともこれだけ小さければ魔道具に組み込むのも容易い……一応聞いておくが、このネックレスの鎖を切って問題は?」

「無いだろ。土産物の領域だし」


 これを無くした持ち主が生きているかはわからないが、少なくとも名前は書いていなかった。これで名前が書いてあれば探す術もあるが、量産品の上に生産されて数百年の月日が流れてもいる。しかも何個作られて何個失われたかもわからない。調べる術もない。なら、もうこっちで勝手に使わせてもらっても大丈夫だろう。


「であれば、まぁ良いか。これを媒体としてソナーの様な物でも作る。それを使えば、そのセレスティア王女の義兄とやらも探し易くなろう」

「任せた。それについては流石にオレが考えられる事でも無いからな」

「うむー」


 ティナはカイトから受け取ったネックレスをしっかりと保管用の小箱に収納して異空間の中に突っ込んでおく。当たり前だがここは彼女の研究所でなければ、専用の検査機がある訳でも無い。なのでマクスウェルに帰還した後、しっかりとした検査機で調査してその後、魔道具の作成となるらしい。

 ここら、残念ながらカイトしか居ない上にそれを使える人員もカイトしか居ない。変に干渉が起きない様に第三の異世界の存在でもあるカイトが適任だし、事の性質からあまりおおっぴらに出来無いからだ。セレスティア達に伝える事も考えたが、量産性が無い魔道具の上に作れる事を教える訳にもいかない。

 更にはカイトが『もう一人の勇者カイト』である可能性にもたどり着かれる可能性があった。こちらで密かに探し、セレスティア達には結果のみを伝える事が最適とされたのである。


「さて、これで取り敢えず第三の異世界については手がかりを掴んだ訳じゃが……うむ。色々と気になる事はあるのう」

「気になる事?」

「うむ。セレスティア王女達は余らが帰還する前にこちらに来ていたと言うな?」

「らしいな」


 カイトは皇国上層部が取った調書の内容を思い出す。それによるとセレスティア達がエネフィアにやって来たのは正確には今から一年半程前、去年の春頃の事らしい。これは確かにサリア率いる情報屋ギルドの調査とも合致している。嘘は無いと判断していた。


「余らの帰還より一年も前となると、流石にこればかりは彼奴ら(死魔将)達の介入は不確かと言わねばなるまい」

「ふむ……やはり彼女らの転移は事故と考えるべきか?」

「と、考えたい所じゃのう。流石に余らの転移が起きるよりも前であれば、何かを狙って転移させられたとは考え難い」

「……」


 どうなのだろうか。カイトはティナの言葉に一度少しの黙考を開始する。確かに彼女の言う事は筋が通っている。が、やはり己の因果を知っていて、それでいて居るのがセレスティア・レジディアと言う王女だ。そこにどうしても作為的な物を感じざるを得なかった。とは言え、この思考は当然ティナもまた理解していた。


「お主が危惧しておる事はわかっておるよ。彼女らが意図的に召喚されたのではないか。が、その想定になると幾つかの問題点がどうしても浮かび上がる。特に、一番大きい問題。こればかりは見過ごせぬ」

「天桜学園の転移、か?」

「うむ。余とお主がおって、なおかつあれだけの規模の転移を成し遂げた。しかも、じゃ。観測した限り、そして余の記憶を見直してさえあの転移は一切が事故で起きる転移の条件に合致しておる」


 カイトの問いかけにティナははっきりと頷くと、その上で改めて天桜学園の転移に関する話を開始する。ここが、彼女にはどうしても納得が出来なかった。もしかしたら、と思いながらもここがあるからこそ決して彼女は天桜学園の転移が人為的な物では無いと考えていたのである。


「さて……以前余が危惧した事があるが、その際に気になったのであれから少しの間もし天桜学園の転移を人為的に引き起こすのなら、と言う想定で考察を行った。が、これは答えとして無理と言う結論を出さざるを得なんだ」

「そこまで難しいのか?」

「うむ。難しい」


 カイトの問いかけに同意したティナであるが、その顔には心底の呆れがあった。と言うのも、その試算で出た結果があまりにぶっ飛んでいたからだ。


「さて……この試算の結果であるが、まぁ詳しい理論や計算式は省く事にして……攻撃力換算であれば大陸一つをぶっ飛ばせよう。まず間違い無くこの世界にある名立たる地脈を陣取らねばなるまいな」

「暗黒大陸は?」

「無理じゃ。余も考えてはみたものの……まず問題として、召喚に際し顕現の場所を選択するにしてもその際に必要となる魔力の量は儀式の場所に比例して莫大となる。暗黒大陸の端にもし地脈の巨大集積地があったとて、あそこから天桜学園まで一万キロでは到底足りん。召喚の魔力に更に割増じゃな」

「その場合の試算は?」

「聞きたいか? ついでで良いのならその場合の術式の困難さの難易度の上昇率も聞かせてやろう」

「いーや、やめとくよ」


 カイトはティナの問いかけを受けて、肩を竦めて首を振る。もう聞かなくても理解出来た。間違いなく、彼女でさえ専用の祭壇等を整えてやる領域と言って良いのだろう。


「そもそもよ。そんな事が簡単に出来るのであれば今頃地球側から余らを呼び戻す事が出来よう。単独の召喚でさえ困難を極める。現実とは物語の様に簡単では無い。この世界と世界の間にどれだけの距離があると思うておる。ちょっと魔力の量が高い程度の魔術師がなんぞ魔術を唱えて勇者召喚、なぞ現実に即してみれば阿呆も良い所の巫山戯んな、じゃ。余でさえ失敗した時のリスクやそれならいっそ自分でぶっ倒した方が効率的である事を考えれば、滅多な事では異世界からの召喚なんぞやろうと思わんぞ」

「それ位オレもわかってるって。これでもオレも自力異世界転移が可能な者だ。難しさはわかってる。それに創作物だ。若干のご都合主義はしゃーない」


 どうやら学者としての顔が出た所為で、創作物にありがちな設定に対する不満があったらしい。ティナの愚痴はとどまる事を知らなかった。

 とは言え、それはそうだろう。普通に考えて異世界召喚なぞ到底人一人で賄える魔力では無い。と言うよりも、そんな事がそんな簡単に出来るのなら今頃世の中には世界間を転移する者達で溢れかえっている事だろう。

 カイト一人を召喚するのさえ、ジャンヌ・ダルクが使った旗を媒体として使ってその上で扉を門とすると言う擬似的な『転移門(ゲート)』構築によってなし得ている。しかもあの当時のカイトは今よりもずっと魔術に対する抵抗力が低かった。かなり容易であったにも関わらず、これなのだ。

 無論、これについてはカイトの召喚をなるべく密かにするという理由もあったのだろうが、それでもそうしないと難しい程の話ではあった。


「まぁ、そう言う訳でのう。余としてもあれらが天桜学園を人為的に転移させたとは思いたく無い。と言うより、現実論として出来るとは思えん。更に言えば、あれが嘘を言っている様にも思えんかったからのう……」

「それか……」


 カイトはティナの指摘を受けて、大陸間会議での道化師の表情と声音を思い出す。あれは彼が真実を言っている時の態度だ。ああいう場合は一切の嘘を言わない。真実を言った方が良いと判断しているからだ。

 であればやはりこれは考え過ぎで、カイト達の転移とセレスティア達の転移は偶然による合致と言う事なのだろう。どちらの世界もエネフィアから近い事を考えれば、こう言う可能性もあり得る事はあり得た。


「であれば、やはり偶然か……」

「うむ。まぁ、今までの事から鑑みれば、もしやすると魔力の高さが避雷針の様な感じになったのやもしれん。その場合、天桜学園の転移にはやはり余らの影響があったと言わざるを得んが……」

「流石にそれは有り得んだろう。そうであるのならオレはもっと頻繁に転移に巻き込まれていないと可怪しい訳で、更に言うと他の世界、他の星に居るのだろう英雄達が巻き込まれていないと可怪しい。地球の英雄達も然り、だな」

「む……」


 カイトの指摘を聞いて、ティナはそこに道理を見て僅かに目を見開いた。確かにそれはそうだし、そもそもそんな事を言い始めればティナ自身が数百年も巻き込まれていないと言う事実もある。確かにこれは可怪しいだろう。

 カイトが尋常では無い程に魔力が高いと言う事を考慮したとて、あまりに道理にそぐわなかった。まぁ、彼女としてもふと思いついた事を口にしただけで熟慮した訳でも無い。こう言う間違いも仕方が無いだろう。


「そうか……確かにそうじゃのう。それを考えればこれは流石に考え過ぎか……」

「だろうな。ふむ……そうなると、オレ関連かねぇ……」


 偶然と片付けるにはあまりに作為的なものが感じられる。カイトはそれ故、小さく呟いた。彼には特殊な因果が幾つもまとわり付いている。そこを考えた時、世界側がこういう事を引き起こしても不思議は無いのだ。


「まぁ、そこは知らぬよ。取り敢えず、じゃ。ネックレスを使ったソナーは作っておこう。兎にも角にもセレスティアの義兄とやらが見付かればまた別の考察も生まれよう」

「か……わかった。そこについては頼む。オレはまた屋台の補佐に戻るよ」

「うむ、そちらは少し任せる。余は余でパウダー製造装置の組み立てに行ってこよう」

「頼む」


 取り敢えずこれで考察は良いだろう。二人はそう合意を得ると、それぞれ立ち上がって向かうべき場所へと向かう事にする。ここら悲しいかな、彼らは二つの立場を行き来している。どちらも抜けの無い様に動くには忙しくなるのは仕方がなかった。と言う訳で、二人はそこで別れて各々が向かうべき場所へと向かう事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1248話『神殿都市の神学校』

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