第1426話 もう一つの異世界の手がかり
セレスティア達が居たと言う地球でもエネフィアでも無いまた別の異世界。この第三の異世界とでも言うべき世界の痕跡を探すべく、カイトとユリィの二人は異世界関連の品が収められている神殿都市の大図書館地下にある秘密倉庫へとやって来ていた。そんな二人はティナが作ってくれた魔道具を片手に異世界から来たらしい漂着物の捜索を行っていた。
「にしても……よくもまぁ、ここまで集めたもんだ」
「なにせ三百年だからねー」
カイトとユリィは無数の棚が並ぶ通路を歩きながら、目的地目指して歩いて行く。棚の大きさはおよそ3メートル程度。素材は金属。それが体育館の倍程度の広さの空間に所狭しと並べられていた。
カイトが知っている以上に広くなっていたので、彼が去った後に幾度か増設されたとい言う事なのだろう。と、そんな棚の中でも自分達が求めている物とは無関係の棚を見ながら、カイトはため息を吐いた。
「うーん……まぁ、わかってた話ちゃあ、わかってた話なんだが……やっぱり無関係の物は多いよなぁ……」
「こればっかりはねー」
カイトの指摘にユリィもわかっていた事、と頷きながらもため息を吐く。まぁ、あえて言うまでも無い事であるが、ここに収められている品の大半は異世界とは無関係の物だ。
こればかりは仕方のない事で、何かわからないが取り敢えずそうではないかと思しき物については全てここに収蔵されている。勿論、一応は検査の上で収められているので数が多い訳では無いが、それでも何かわからないが故にここに収められただけの物も多い。
無論、この第三の異世界と地球以外から流れ着いた漂着物の可能性も無いではない。なので決してはっきりと断言出来る訳では無い。が、それでも異世界の物とは言い得ないだろう物も少なくはなかった。
「後でティナに言って何か考えてもらうかぁ……」
「それが良さそうだね。このまま行くとパンクしちゃうのも目に見えた話だし」
「だな」
取り敢えず無関係の物については後で考える事にして、カイトは更に歩いて行く。そうして暫くすると、映像の青い点付近にたどり着いた。
「ここらへん……だな。上の方か」
カイトはティナの作ってくれた銃型の魔道具で表示される映像を見ながら周囲を見回して場所を確認する。そうして、青い点が正面に来る様に方向を変えるとそのまま上を見上げた。
「……この上か?」
カイトは該当の物があるらしい棚を見上げ、再度映像を確認する。どうやら正しいらしく、彼が動くのに合わせて僅かにだが映像の点も動いていた。
「さてと……何がある事やら」
カイトは浮かび上がると、棚の上から二段目を見る。そうして、持って来ていたライトを使って中を照らしてみる。一応環境としては整えられているので蜘蛛の巣が張っていたと言う事は無く、定期的に換気される様にもなっているのでホコリが被っていると言う事も無い。と、そうしてライトで照らしてみて何が反応していたのか彼にもすぐに理解出来た。
「これか。なるほど、これは確かに異世界の物だな」
「何、それ?」
カイトが手に取った薄い板状のそれを見ながら、ユリィが問いかける。材質としてはプラスチック製で、開く様になっている様子である。まぁ、はっきりと言ってしまえばCDケースであった。
エネフィアにCDは無い。確かにこれは地球の物で間違いなさそうであった。更に言えばパッケージには日本人が写っており、開いてみるとやはり中には日本語で書かれた歌詞カード等が入っていた。
「ふむ……なるほど。オレが来るより前に転移していたものが巡り巡ってこっちに来た形か」
どうやらこれはまだ日本が平成だった時代に作られた物らしい。カイトはそれを理解して付箋――異世界の物と確認したと言う記号の様な物――を張っておく。別に地球の物を探したくて来た訳では無い。が、やはり地球の漂着物であれば分かる様にしておいた方が後々何かがあった時に楽だと判断したのである。と言う訳で、これが目的の物で無い事を確認した二人は更に別の目標を探す事にする。
「さて……次はこれかな?」
「なんだろ、これ」
「さっぱりわからん」
しばらくしてカイト達が見付けたのは、奇妙な金属片だ。どうやら何かの部品らしい。転移した際の衝撃で破損したか、元々破損していたかもわからない。が、人工物の様子ではある。と言う訳で二人はこれにも付箋を張っておく。
「次は……本? お、漫画か。これも日本の……って、こんなものまで流れ着いてんのかよ!?」
「うわぁ……わっ、すごっ……」
「そんなまじまじ見るな」
「はーい……ふむふむ……」
「だから見るな、つってんだろ」
「いや、今晩の参考にでもと」
次に二人が見つけたのは、はっきりと言ってしまえば成人向けの漫画だった。ペラペラとページをめくって確認してみると、明らかに未成年厳禁なシーンが幾つも描かれていた。表紙は一見するとわかりにくかったので気にせず開いたが、まさかこんなものまで紛れ込んでいるとはカイト達も予想外であった。
やはりカイトが日本人であった事もあり、基本的にエネフィアの住人達も異世界の物とわかり易かったのはこういった日本語が書かれている物だったと言う訳なのだろう。
割合としては七割が日本語や英語が書かれた一見して異世界の品だとわかる物、残りはエネフィアでは創れない材質で、と言う所だった。と言う訳で、暫く二人は倉庫の中を見回してあれでも無い、これでも無いと付箋を貼りながら歩いて行く。
「さて……次はなんだろうな……」
「そろそろ一個位は当たり引いておきたいよねー」
「当たりあるかどうかも不明だし、無ければ無いで明日も調査なんですけどねー」
ここら悲しい所で、この地下倉庫に入れるのはカイトか冒険部上層部、つまりはカイトの正体を知る面子だけだ。が、その知る面子には屋台の調整を頼んでいるので頼めない。人海戦術も使えない。
と言うより、彼自身も分身を使って屋台の補佐はさせている。と言う訳で、仕方が無いので彼自身が時間を掛けてやるしかなかった。
「明日は私学園長としての仕事あるから手伝え無いなー」
「手伝ってるんだろうか、これは」
「まぁ、何もしてないけどね」
カイトの呈した疑問にユリィも笑う。これが出来るのはカイトが異世界人だから、と言う事に尽きる。この世界の住人であるユリィに何が出来るか、と言うとカイトとお話する位だった。
とは言え、そんな話をしながら歩いていると体感時間としてはあっと言う間に到着した事も事実である。なのでカイトとしても苦痛を感じる事無く作業が出来て有り難い事は有り難かった。
「さて……これだとかなり上の方っぽいな」
「多分一番上だね」
「かね……」
魔道具の映像を確認しながら、二人は僅かに上方にある青い点を目指して浮かび上がる。そうして案の定一番上まで浮かび上がると、青い点が真正面に捉えられた。
「どれかなー」
「んー……あれ、だろうな」
カイトは幾度か銃口に似た先端を振ってみて、一つの小さな小箱を指さした。傷付き易い物や無くなり易い小物は小箱の中に入れられる事になっており、今回の目標もそう言った類なのだろう。
「ん……ビンゴ。これだな」
カイトは小箱を動かすと動いた青い点を見て、これが目当ての物である事を確認する。そうして彼は銃型の魔道具を腰から吊り下げると、床に降りて小箱の中身を確認する事にした。
「さて……中身は何だ?」
「と言う事で、御開帳ー」
見やすい様に己の肩に腰掛けたユリィの掛け声に合わせて、カイトは小箱を開く。すると中には小さめのネックレスが収められていた。それは少し古ぼけており、長い年月を感じさせた。
「まーた面倒なのが来たな……」
「こう言うのってわからないもんねー」
やはり文字が書かれていたり、材質が明らかにエネフィアの物でなければこれは地球のものだ、とわかり易い。が、何も書かれていなかったり、地球の文字だったとしてもデフォルメされていたりする装飾品だとわかり難いのであった。
文字では無くデザイン、装飾となると芸術となり解読する魔術が通用しないのである。と言う訳で、二人は椅子と机を取り出して一度じっくりと確認してみる事にした。
「んー……多分魔道具……かな……」
「かねぇ……」
見た所デザインとしてはありきたりな中央に宝石が取り付けられた小さなネックレスだ。が、この宝石は魔石らしく、何かの術式が仕込まれていた。ティナであれば即座にこれが何か解析してくれる訳であるが、ここに彼女が居ない以上は仕方が無い。
「こんな事ならあいつも連れてくるべきだったか……さて……」
カイトはティナが居ない事を悔やみながらも、取り敢えず術式についてを確認してみる事にする。やはり多少の変化はあるが、どこの世界でも基本的にさほど魔術については大差が無い。
しかもこう言う小型のネックレスに取り付けられる程の大きさであれば、大抵がシンプルなものになる。もしこれが仰々しいものであれば一度限りの護身用の魔道具の可能性もあるが、幸いな事にこれはそう言う物では無かった。
「これは……まぁ、多分何らかの記録用の魔道具かな。この部分が記録用の魔術に使われている術式に酷似してる。音か映像かどっちかは知らんが」
「こっちの魔石の土台の側には記録を補佐する刻印が刻まれているね。と言ってもはっきりとした事はわかんないけど」
「じゃあ、確定か」
カイトはユリィからの報告を聞いて、これが何らかの記録用の魔道具であると確定させる。そしてそこらが分かれば、次に確認するのは何が記録されているか、だ。
それ次第でこれがどこの世界の物か分かる。地球では異族が排斥された時代が長い為、異族が多ければそれだけで第三の異世界である可能性が高くなるからだ。
「さて……取り敢えず起動はどうやるんだ……?」
カイトは土台の部分を確認して、魔道具の起動方法を探る。すると、側面に小さなスイッチがあった。
「良し……起動させるぞ」
「封印措置いつでもどうぞー」
「良し」
カイトはユリィの準備完了を聞いて、スイッチを押してみる。これは未知の魔道具だ。何が起きるかわからない為、万が一の時には即座に封印出来る様にしておいたのである。
とは言え、その心配はどうやら無用だったらしい。即座に映像が浮かび上がった。そうして浮かび上がった映像に、カイトは思わず息を呑んだ。
「これ……は……」
「わかるの?」
「ああ……間違い無い。これは第三の異世界の産物だ」
カイトは浮かび上がった映像を見て、はっきりとユリィの問いかけに頷いた。浮かび上がったのは一組の若い夫婦を撮った写真だ。
どうやら結婚式らしく、どこか恥ずかしげな白いタキシードに似た衣服と白い花嫁衣装に身を包んだスタイル抜群の若い新婦の姿が浮かび上がっていた。その夫婦を、カイトは見知っていた。
「ほら……随分前に語った事有っただろ? オレの義理の息子だよ。結婚式で撮った写真なんだが……まさかここでお目にかかるとは……」
久方ぶりに見た自分の息子だからだろう。丁度『もう一人のカイト』が目覚めていた事もあり、目頭が熱くなるものがあったらしい。嬉しそうであったが、同時に寂しさも抱えた顔を浮かべていた。と、言う訳でユリィが驚いた様子で問いかけた。
「と言う事は……その時の仲間の持ち物って事?」
「いや、それはわからん。当然だが中興の祖の結婚式だ。民衆達は大挙して押し寄せた。写真を撮っている奴は多かったし、記念品として写真を入れたネックレスやらも配ったからなぁ……」
やはり懐かしいものがあったからだろう。カイトは苦笑交じりにそう告げる。これで彼の姿でもあればひと目で当時の仲間――と言ってもセレスティア達のご先祖様ではなく――達の物だとわかったのだが、流石にそんな都合よく見付かる事はなかった。
どうやら、カイトの言った通り結婚式の際に配られた記念品という所だった様だ。が、これでも証拠は証拠。第三の異世界の品が流れ着いていると言う証明で間違い無い。そうして、二人は唯一の成果となるこのネックレスを持って地下の秘密倉庫を後にするのだった。
お読み頂きありがとうございました。
次回予告:第1427話『もう一つの異世界の手がかり』




