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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第69話 収穫祭・中編

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第1425話 異世界を探して

 神殿都市。それはエネフィアでも有数の宗教都市であり、カイトが治めるマクダウェル領でも有数の巨大都市でもある。名実ともにマクダウェル領第二の都市と断言して良いだろう。

 場所はマクダウェル領中央に位置する地脈の集積地。それ故、交通の便は非常に優れているし、魔物に対する防備も万全だ。そしてそれと共に、ここにはもう一つの顔があった。


「世界最大の大図書館があるマクダウェル領もう一つの学問の都、か」


 ルーファウス達を教会へと案内した数時間後。カイトは久方ぶりに訪れた大図書館を見ながらそう呟いた。この神殿都市には各種の神殿以外にも様々な公的な施設が整っている。例えばこの大図書館がそうだ。

 宗教施設と言うのは、やはりどうしても軍だろうと手出しがし難い。歴史の闇に葬られる事になるはずだった各種の資料が残っている事もままあった。とは言え、それでも何があっても大丈夫と言う訳では無い。そして持っているだけで揉め事の原因に成りかねない。対処を考える必要があった。そこで出たのが、カイトだった。


「最初は単に黒歴史を保管しておくだけの施設だったんだがなぁ……どうしてこうなった」

「どうして、って……カイトが集めたからでしょ?」

「ま、そうなんですが」


 時間が空いたと言う事で合流したユリィのツッコミにカイトは笑う。まぁ、とどのつまりそう言う事らしい。各地から保管に困って送られてきた禁書であるが、流石にカイトの管理下に置かれるとどこの組織も手出しが出来無い。

 しかもそれが神殿都市になると、もはや口出しも出来無い。それこそエンテシア皇国皇帝さえ無理なのだ。大図書館は一応、大精霊の名の下に各神殿や教会の合同で運営されている事になっている。そこに喧嘩を売ると言う事は単に宗教に喧嘩を売るより遥かにまずいからだ。

 勇者カイトに加えて大精霊達、更には揉めている以外の宗教系組織にまで喧嘩を売る事になる。民だけでなく他国や他の貴族まで喧嘩を売る事になってしまうのである。ここに持ち込まれた時点で、破棄出来るのはマクダウェル領における最高責任者となるカイトだけであった。


「木を隠すには森、と言うべきか何と言うべきか……あの当時はそんな無かったしな」

「と言うより、カイトの所為で増えたんだけどね」

「日本人の性質だ、こればっかりは」

「それねー。ほんと、何でもかんでも保存させるよね、カイト」


 カイトの言葉にユリィは呆れ混じりながらも、同時に教育者でもあるが故にありがたくも思っていた。日本人の性質、と言うのは何でもかんでも記録して保管する性質だ。

 知られた話だが、例えば奈良県にある正倉院。あそこには古代の宝物が未だに収められている事は有名だろう。他にも日本には一千年以上も前の物が今に伝わっている事も珍しくない。数百年前の日記等が残っている事も多い。こう言った事は総じて日本人の性質と言えば、日本人の性質によるものだろう。結局彼も根は日本人。そこから外れる事は無かった様だ。


「だって歴史だからなー。まぁ、不老のオレが言ってもな、って感じだが……それでも、オレ達が知れる事なんてごく一部だ。残しておく事には意味があるのさ」

「そのおかげでどれだけの貴族が頭を抱えたんだろうね」

「さぁな。黒歴史つったって歴史は歴史。歴史の闇に葬るではなく後世に残さないと、歴史を繰り返すだけだ。だから、残すのさ。今は見られたくなかろうと、数百年も経てば過去の話。そいつらだって既に居ないんだからな」


 日本人全体がそう考えているかはカイトもわからないが、少なくともこれは彼の考えでありマクダウェル領では大抵の事への記録保持が遵守されている。

 それ故か、マクダウェル領ではここ以外にも非常に多くの歴史的な資料が揃っていた。それが結果として、マクダウェル領を世界最大の学術都市へと持ち上げたのだろう。そしてその中心でもある神殿都市には、歴史を後世に伝える側面もあった。


「それはともかくとして……取り敢えず調べ物しないとな」

「何調べるの?」

「んー? ちょっと気になる事があってな」

「気になる事?」

「ああ……この世界には様々な世界からの漂着物とでも言うべき物がある。それはお前も知っているな?」

「ある意味、カイトもそうだもんね」


 カイトの問いにユリィははっきりと頷いた。彼女の言う通り、カイトは本を正すと地球人だ。異世界からの旅人と言っても間違いでは無い。無論、彼の場合一度目の転移は事故では無く意図的な召喚であった事が今ではわかっているが、現在の彼に焦点を合わせると漂流者だ。


「ああ……で、そう言った異世界の産物は基本この大図書館の地下にある秘密の倉庫に収められている訳だが……それを確認したくてな」

「どう言う事?」

「いや、まぁ、はっきりとした事は言えんし、何かがわかってる訳でも無いが……ちょっとな」


 カイトはユリィの問いかけに苦い顔で肩を竦める。先にも言ったが彼は漂流者。そしてその縁で神殿都市の大図書館の地下には、彼の縁を頼りに異世界から漂着しただろう品が収められる倉庫があった。

 公には知られていないし領主、すなわち所有者となるカイトか皇国最高責任者である皇帝直々の許可が無ければここには入る事は出来無い。後は管理を任されているごく僅かな者だけが、ここの存在を知っていた。が、そんな場所だろうとカイトは領主なので入れる訳だ。なのでそこへ向かおう、と言う事だった。

 と言う訳で大図書館の中に入った二人は申請した書類を受付に提出して、案内を受けて地下の倉庫へとたどり着いた。


「ここが、地下の秘密倉庫になります。鍵は……」

「ああ、問題ない。オレは特例でね。自由に入る事が出来る。書類にもしっかり、その旨は記されている。クズハ代行の直筆のサインも入っているだろう?」

「失礼致しました」


 この場に入る者の事は全て他言無用かつ、何も問うな。それがここで働く上での唯一にして絶対のルールである事を知っていた職員は頭を下げてその場を後にする。そうして、職員が去った後カイトは倉庫に入った。


「さてと……」

「で、何を探すの? わざわざ地球の物を探してここには来ないよね?」

「ああ……セレスティア王女達の世界からの漂着物が無いか、と気になってな。彼女らが事故であるかどうかはわからんが、近ければ漂着物がある可能性はあるだろう?」

「あ……そっか。あの世界の物があれば、兄さんも……」


 カイトの意図を理解して、ユリィがなるほど、と目を見開いた。地球とエネフィアの二つの世界の距離はかなり近いとされている。故に中津国と日本の文化風習は似通っていた訳だ。これについてはティナ曰く、世界の移動の観点から定期的に接触が起きているからなのだろう、と言う事であった。

 が、それ以外にも世界はあって、セレスティア達がそうである様に移動が起きている。もし地球と同じ様にセレスティア達の世界が近ければ頻繁に接触が起きている可能性は高く、そうなれば漂着物がある可能性はあったのだ。


「まぁな。別に頼まれた訳でも無いが……奴らが召喚した場合、このお兄さんとやらは奴らに捕らえられている可能性がある。セレスティア以上の戦闘力を持つと言うお兄さんだ。下手に敵に回られると厄介だし……何より寝覚めが悪い」

「寝覚めが悪い?」

「ダチの子孫を殺しちゃ寝覚めも悪いだろ。操られてるだけなら尚更だ。まぁ、旧縁で救うか、とな」


 セレスティアはカイト自身が理解していたが、当時の親友だった男の子孫だ。そして当然であるが、彼の妻となった人物もまたカイトは懇意にしていた。

 流石にこの二人の子孫を放置しておけるほど、彼は薄情ではない。他国の王族云々ではなく、友人の子孫だからこその話だった。と、そんなカイトに対してユリィが当たり前と言えば当たり前の事を問いかける。


「でも、そんな都合よく向こうの世界の物が見付かるの?」

「ん? ああ、そら見付かるだろ。だってここに媒体あるし」


 ユリィの疑念に対して、カイトはとんとん、と己の胸を叩く。そうして、彼は改めて明言した。


「オレは厳密には織田信長の転生であると同時にあいつからの地続き。そして厳密に言えば、あいつとオレは同一人物だ。なら、オレは地球人であると同時にあの世界の住人でもあるんだよ」

「あー、そっか。カイト自身が媒体になれば簡単に発見出来る訳ね」

「そう言う事。まぁ、残念なのはオレを媒体にした場合、地球の物まで共鳴しちまう、っていう難点がある訳だが……そこは仕方が無いと諦めるしかあるまいさ」


 カイトはそう言うと、早速とばかりにティナに開発してもらっておいたこの世界ならざる物同士を共鳴させる魔道具を使用する事にする。


「何、それ?」

「反応を可視化する為の物……だそうだ。詳しくは知らん。これを握って引き金を引いておけば、後はわかるだそうだ」


 カイトが取り出したのは、銃に似た形の魔道具だ。引き金を引くと分かる、との事なのでそれ以上の解説は聞いていない。ティナ曰く、必要も無いとの事であった。と言う訳で、カイトは手っ取り早く引き金を引いてみた。


「……点が浮かび上がった……?」

「みたいだな……ふむ……この中心にある黄色い点が多分自分の位置だろうから……青い点が目標の位置かな」

「ふーん……わきゃ!?」


 拳銃に例えれば照準の部分に相当する部分から浮かび上がった映像に触れてみたユリィであるが、驚いた様な声を上げる。青い点に触れてみた所、唐突にそれ以外の点が消えて矢印が浮かんだのである。


「なるほど。誘導装置も付いてます、と言う訳ね。もう一度触れれば消える……と言う訳でも無いのか。ふむ……」

「カイト、こっちにスイッチあるよ」

「ん?」


 カイトはユリィの指摘を受けて側面にあったスイッチを押し込んだ。すると、先程まで浮かんでいた矢印が消えて青い点が幾つも浮かび上がる。どうやら、側面がリセットスイッチらしい。ご丁寧にリセットと記載されていた。


「なるほど。これは確かに説明不要か。子供のおもちゃじゃあるまいし」

「そだねー……じゃあ、これを使って調べるの?」

「ああ。じゃあ、やるか」


 カイトはユリィの言葉に頷くと、試しに先程彼女が触った青い点に己も触って誘導装置を起動させる。と、そうして起動させた所でふとユリィが問いかけた。


「そう言えばティナは?」

「ん? ああ、確かに興味はあったらしいんだが……別途で解析する用意を整えたいって事で探索はオレに任せるって。あいつ曰く、余は役に立たんとの事だ」

「役に立たん?」

「いや、あいつこっちの住人だろ」

「あ、そっか」


 カイトの指摘を聞いて、ユリィもティナはこちら側の住人だった事を思い出す。ティナは生まれも育ちもエネフィアだ。ただ単にカイトと一緒に地球に移動したと言うだけに過ぎない。

 つまり、この魔道具を彼女が使った所で――無論ユリィもだが――反応するのはエネフィアの物になってしまうのだ。使った所でほぼ無意味と言うか、おそらくほぼ全ての物に反応を示してしまう事になるだろう。


「と言う訳で、自分は邪魔にしかならんので、と言う訳」

「なるほどねー。じゃあ、行こっか」

「ああ」


 ユリィの促しを受けて、カイトもまた歩き始める。そうして、二人はティナの作った魔道具を頼りにして地下の秘密倉庫の調査を行う事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1426話『もう一つの異世界の手がかり』

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