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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第69話 収穫祭・中編

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第1423話 活動再開

 宗矩との会話から明けて翌日。邪神の信徒達の襲撃から翌々日。カイトはこの日からは普通に天桜学園のカイトとしての行動を再開していた。と、そう言う訳なのであるが、今日はカイトは数日留守にしていた事もあって屋台を見回って何か問題が起きていないか確認する事にしていた。

 やはりここ数日は対邪神の信徒の関連で動いていた。報告は適時受けていたが、一度自分で見てみる必要があると判断したのである。と言う訳で、前日から持ち越した各種の手配を朝の内に終わらせると、午後のお昼時を超えた頃合いに各屋台の見回りを行っていた。


「そうですか。取り敢えずは問題無い、と」

「おう。つってもこっちよりそっちはどうなんだ? そっち、遠征隊出したんだろ?」

「ええ……」


 カイトは焼き鳥屋を運営するチーフの一人――三年生なのでカイトは敬語だ――の問いかけに頷いて現状を思い出す。ここ暫くは邪神の尖兵との戦いに時間を費やした所為でこちらは疎かになっていたが、それでも出来る限りや覚えておく必要がある事は覚えていた。これはその一つだった。


「まぁ、今回は取り敢えず感覚を忘れない様にする為の調整の趣きが強いですから、明後日には戻って来るでしょう」

「そうか。まぁ、お前なら問題無いか……っと、そうだ、天音。そういや学園の方で作ってるカマド、どうなってるか確認頼んで良いか?」

「何かありましたか?」


 チーフの言葉にカイトはわずかに首を傾げる。竃というのは木炭を作る際に使っていた竃の事だ。ソラがこちらに来た時にも言っていたが、屋台で使っている炭は全て天桜学園で自作している。基本的に使っているのは白炭(はくたん)と呼ばれる樫の木を原料とした炭で、長時間に渡って火が長持ちするので地球でも飲食店でよく使われているものだった。日本で代表的な備長炭もこの白炭に属している。

 とはいえ、それだけではなく黒炭(こくたん)という楢の木を使った物も使っている。こちらは短時間しか使えないものの、火力が高く着火もしやすい。バーベキュー等で多用される炭で、どうしても就業前の短時間だけ使う必要があったり、貴族達の食事会等で短時間だけ火を必要とした時に使う事にしていた。


「ああ。黒炭の方がちょっと切れそうでなぁ。備蓄を確認したら箱二つ分想定より早く減ってた。もしかしたら、また新しく作ってもらう必要が出るかもしれないんだ」

「箱二つ……何か?」


 まだ箱一つぐらいなら予想よりはるかに売れ行きが好調だったので、と言える。カイトが遠征隊を出していたのだって売れ行きが想定より好調だったから、という趣きも強い。

 が、流石にその倍になると何かがあったと考えた方が良かった。と言う訳で問いかけたカイトに対して、チーフがため息を吐いた。


「どうにも一箱白炭と間違って黒炭使っちまってたらしい。ラベルミスってたみたいだ。で、一箱足りてないんだ。まぁ、もうそろそろ追加頼んどかないとなー、とは思ってたから丁度良いタイミングっちゃあタイミングだろ。けどこの調子だとなぁ……」

「見た目はまぁ……一緒ですからねぇ……」


 カイトは白炭を二つ手にとって、軽く二つをぶつけてみる。すると、まるで鉄琴を叩いた様な音が鳴り響いた。備長炭を叩いた事のある者ならわかるだろうが、これが白炭の特徴だ。

 が、黒炭も白炭も見た目は非常に似ている。急いでいる時にいちいち白炭と黒炭の違いを確認している暇は無いだろう。ラベルをミスっていればこういうミスも起こり得たのだろう。


「まぁな。ってわけで、ちょっと追加発注掛けられるのなら早目に発注頼む。もし学園からの輸送が無理なら、そっちに何とか手配頼んで良いか?」

「ええ。その時はこちらで手配しておきましょう。備蓄としては、後どのぐらい対応出来ますか?」

「二三日で尽きる訳じゃない。けど一週間は微妙って所だ。だからそう急がなくて大丈夫だ。けどまぁ、後は白炭の消耗がどんなもんになるか、って所が読めん。こればかりはどうしてもな。なんで可能なら早目に頼む。後で焦りたくはないからな」

「そうですね。わかりました」


 カイトはチーフからの話を聞いてそれをメモに書き留める。焼き鳥屋にとって炭は生命線だ。これを切らす訳にはいかないので、確実かつなるべく早急に手配するべきだろう。

 と言っても炭そのものは二種類共天桜学園の倉庫――転移後に新しく作った物――に備蓄があるので、それを輸送させれば大丈夫だろう。が、天桜学園の保有する飛空艇での出入りが出来ない以上、今言って即座に持って来れる訳でもない。早目に行動するべきだった。と言う訳で、それについての手配を書き留めたカイトは更に問いかける事にする。


「他、何かありますか?」

「んー……こっちは基本、七輪使ってるから機材も問題無いしなぁ……醤油ベースのタレも昨日新しく仕込んだし、食材もなんとかなってるし……遠征隊が肉持って帰ってくるのを待つ位しかないな」

「そうですか……わかりました。取り敢えず定期的に本部から見回りしますんで、何かあったらすぐにそちらに」

「おう、悪いな。こっちも色々と頑張るわ」

「いえ、こっちはそちらの補佐が仕事ですから」


 チーフの感謝にカイトも笑って一つ頷いて、その場を後にする。そうして少し離れた所でヘッドセットを介して椿へと天桜学園に残留している補佐の面子に炭の発送の手配を依頼して、更に次を目指して移動する事にする。

 次に向かうのは居酒屋だ。昼を過ぎてすぐに唐揚げ屋には向かっていた――最も注力している所なので――ので、ここで最後だった。と言う訳で、カイトはカウンターに腰掛けて休憩がてら睦月から状況を聞く事にした。


「お疲れ様です」

「いや、そっちこそお疲れ。繁盛してる、っちゃあ繁盛してるな」

「ええ……あ、メニューです」

「おう、悪い。あ、取り敢えずミックスジュースで」


 カイトは睦月から差し出されたメニューを片手に取り敢えず飲み物だけ頼んでおく。メニューが差し出されたのはここ数日で色々と増えたから、らしい。

 やはり料理の開発には余念がなく、祭りの最中にも思いつけばどんどん開発して新しく提供しているらしかった。とそんなメニューを見るカイトへと、睦月がサーバーからミックスジュースをコップに入れて差し出した。


「はい……で、何します?」

「まぁ、状況が状況だからな。軽めにフライドポテトだけで。が、量多めに頼む。食べるだろ?」

「あ、はい」


 カイトの申し出を受けて、睦月がフライドポテトを揚げ始める。単に話の最中につまみが欲しいと言うだけだ。流石の彼も何件も飲食店をはしごすれば小腹が空くのであった。と、そんな事をしていると横に皐月が腰掛けた。


「ん?」

「オフで出歩いてたらあんたの背中が見えたのよ。睦月ー! こっちにも同じのちょーだい!」

「あ、はーい!」

「そか……睦月ー! フライドポテト更に増量ー!」

「はーい!」


 どうやら偶然にも皐月が近くを彷徨いている所にカイトが来たと言う所なのだろう。別に相席お断りと言う訳でもないし、仕事の会話とは言え聞かれてまずい相手でもない。それに料理人とウェイターの二つの視点から話が聞ければカイトとしても有り難い。

 と言う訳で、フライドポテトが揚げ上がった所で睦月がカイトと皐月の前にやってきた。彼から話を聞く事になっていたので、仕事は一時中断である。幸い時間としては夕方だ。飲食店としては一番客が居ない時間と言える。睦月一人が居なくても回る事は回るのであった。


「出来ましたー」

「サンキュー……あちっ」

「はふはふ……」

「いただきます」


 とりあえず三人は揚げたてのフライドポテトを軽くつまんでおく。そうしてそこそこフライドポテトを食べた所で、仕事の話を開始した。


「へー……それで、お吸い物の種類を増やすって話なのか。うどん系か」

「はい。よくよく考えればそもそもうどんの出汁作れるよなー、って気付いたので……」

「あー……そういや、お前うどんダシ自作出来るんだっけ」


 フライドポテト片手にカイトは睦月の料理の腕を思い出す。ここら、カイト以上の料理の腕を持つ睦月だ。しかも由利とは違い凝った料理も出来る。うどんの出汁も自作出来るのである。


「関西風のうどんダシは東京じゃあんまり見かけないからなぁ」

「ええ」

「わかった。ならこっちでちょっとにゅうめんやら素麺やら探してみよう。似た物はあったはずだ。まぁ、作らせたのオレなんだがな」


 睦月の申し出を受けて、カイトは笑いながらお吸い物用の細い麺の調達を決定する。麺類は当然だがエネフィアにもあって、その中には日本で言えばそうめんやにゅうめんの様な麺もあった。それと出汁さえあれば、簡単に料理を数品増やせるのである。やらない手は無いだろう。


「じゃあ、閉店後にその出汁の試作品一つ頼む。取り敢えずはおすましで良いだろ」

「わかりました。じゃあ、用意しておきますね」

「おう」


 兎にも角にも美味しいかどうか確認してからでないと、商品として料理を提供する事は出来ないだろう。そしてそれら試作品の味を客観的に確認するのも、上層部の仕事だった。と、そこらの話し合いをしている所に皐月が口を挟んだ。


「んー……そう言えばふと思ったんだけど、唐揚げ屋のパウダー? あれ、こっちに融通って出来ないの?」

「ん?」

「ほら、ポテトにパウダーまぶして味変えるの、日本じゃよくあるでしょ?」

「あー……」


 皐月の説明にカイトはファーストフード店でよく提供されているフライドポテトの事を思い出す。そもそも唐揚げにパウダーをつける事を考えついたのもこれが下地にある。だのによくよく思い出せば、そのポテトフライ向けには提供していなかった。

 これは日本ではよくある品だし、パウダーとしても日本風の物が多いのでポテトフライにも味は合うだろう。パウダーの生産状況如何では、こちらでも提供しても良いだろう。と言う訳で、カイトは皐月の話を聞いて一つ頷いた。


「そうだな。ちょっとパウダーの量産状況を少し確認しておこう。最悪は量産の為の機材そのものをもう一台設置しても良いしな」

「機材って……良いんですか?」

「飛びついた奴が居るんだよ、この話に……」


 睦月の問いかけにカイトはため息を吐いた。今回の天桜学園の目玉といえるこのパウダーであるが、これについて話を聞くなり即座に商品化について申し込んだ人物が居た。

 言うまでもないだろうが、サリアである。地球でのカイトの話を聞いてどうやらファミリー・レストランやファーストフード店に近い物を造ろうとしているらしく、その際に目玉の一つとしてこのパウダーを使いたいと申し出があったのである。今はその量産に向けて機材のコストや材料費等を算出している所で、一台位なら先行投資と言う事で作ってくれる可能性はあった。と言う訳で、カイトはそこらの話を二人へと行う。


「そう言う訳でな。パウダーの生産機を一台増やせるかもしれんし、もしかしたらもうやってるかもしれん。まぁ、本格的な交渉とかはこの収穫祭の後になるんだろうが……」

「受けるんですか?」

「受けない選択肢がありえると思うか?」


 そもそもヴィクトル商会とはカイトのスポンサーであり、マクダウェル領として見れば最大のお得意様である。となると回り回ってカイトの利益になるし、この場合は天桜学園の利益にもなる。

 そして言うまでもなくこのパウダー生産に関わる機材の特許はエネフィアでは天桜学園にある。この料理が売れれば売れるほど、特許料が入ってくる。そして唐揚げ屋の状況を見るに、パウダー系の料理は受け入れられる可能性はあるだろう。どこまで黒字になるかはわからないが受けて損はない、と言う訳で、カイトは一つ肩をすくめた。


「ま、そう言う訳で受ける事は確定だし、どーせオレの意向が最後には優先されるしな」

「領主かつ勇者って便利よねー」

「この場合はどっちかってと先達と言うか経験者の意見、って所だ」


 呆れ混じりの皐月の言葉に対して、カイトは特に思うでもなくそう答える。お金が大切なのはどこの世界でも変わらない。特に組織運営にはそれが顕著だ。定期的に、しかもそれなりの収入が見込めるのであれば、相手次第では契約しても良いだろう。

 と言う訳で、この話は結論としてカイトは天桜学園に呑ませる事にしており、それを受けたサリアが既に行動をしていても不思議はなかったのである。しかしそれでも問題が無い訳ではない。故にカイトは睦月に一応はっきりと明言しておく。


「と言っても、流石にメニューに加えるのはまだ待ってくれ。現状を確認して、更にサリアさんとの交渉もある。そこらが終わってからにするべきだな。何より優先すべきは唐揚げ屋な訳だしな。あちらでもっと増産したい、となればそちらを優先したい」

「そこらの確認、どれ位で終わりそうですか?」

「ヴィクトルへの確認は……そうだな。明後日には終わるだろう。どうなってるか聞くだけだからな。流石に今日はもう時間的に無理だから明日聞いて、確認が必要でも一日と言う所だろう」


 カイトは時計を見ながら取り敢えずの目算を語る。今すぐ聞けば間に合うが、流石に今すぐ聞ける訳でもない。流石に相手が相手なので本部に戻ってからだ。

 そうなると話が出来る時点でヴィクトル商会の定時となり、四大祭にはなるべくノー残業を掲げているサリアが却下するだろう。全てが動くのは明日と言う訳であった。


「わかりました。じゃあ、取り敢えず試作品だけは試作して、可能なら麺と同時に開始出来る様に手はずだけ整えておきます。あ、パウダーは少しだけ唐揚げ屋から貰って大丈夫ですか? こっちも試作品作りたいので……」

「ああ、そうしてくれ。唐揚げ屋についてはこちらから話を通しておこう」


 カイトは睦月の提案を良しと認めると、その後も暫く彼から提案や困り事等を聞いて本部に戻ってそれへの対処を行う事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1424話『皇国の中のルクセリオ』

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