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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第68章 四大祭・秋編

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第1422話 決意を胸に

 神殿都市への邪神の尖兵の侵攻。これを()()()で片付けたカイトはというと、その後は大精霊達に少しの釘を刺すと普通に街の中に帰還していた。というわけで何事もなかったかの様に帰還したカイトは、そのままシャルロット達と会っていた。


「……お帰り、下僕」

「ああ……まぁ、狼煙としちゃ丁度良いだろう」

「少しド派手ね。私好みではないわ」

「あっははは。それは失敗したな」


 シャルロットの苦言に笑うカイトであるが、それでもあの程度に手こずるわけにはいかない。喩え旧文明が負けたのだろうと、自分は負けられない。なにせ地球で生まれ、エネフィアで育ち、そしてまた地球で縁を結んで帰ってきたのだ。

 それでこの程度の雑魚に負けたのなら、数多の縁を結んだ地球の英雄達に面目が立たない。そして、自らに希望を託したエネフィアの英雄達に顔向けが出来ない。なら、圧勝するまでであった。


「……」


 カイトは一度目を閉じる。己が背負っているのは単なる面子だけではない。希望も期待も全て背負っている。それを彼は改めて思い直す。


「おそらく。おそらくこれは……必然だ。オレがここに立ち、そして来るべき戦いでは先頭に立つ。二つの世界にとって、これに意味が無いとは思えない」


 こうなる事を誰もが予想していたわけではない。さらに言えば二つの世界を纏めようと思うきっかけを与えたシャムロック達とて、こうなる事を見通していたわけではない。が、それでも。これは必然だったのかもしれない。カイトはそう思う。そんなカイトにシャルロットが問いかけた。


「必然偶然……貴方はどちらであって欲しい?」

「……」


 どうなのだろう。カイトは少しだけ悩む。必然であれ偶然であれ、結果はある。結果だけを見れば必然だと思える。


「……運命という言葉はオレは嫌いだな」


 偶然か必然か。ここに立つのが必然だと思っても、それが運命から見て偶然か必然かはわからない。わかるものではない。だが、少なくともこれが運命だとは思いたくはない。

 自身は自身の選択の結果ここに居るが、それでもそれが誰か(運命)の選択ではないと思っている。運命は変えられる。そう思って生きているし、実際に変えたのだ。なら、偶然が生み出した必然だと信じるだけだ。


「……そう」


 でもこれは必然だと私は思う。シャルロットはそう思う。が、カイトがこれが必然ではないというのならそれで良い。偶然か必然か。それは彼女にもわからないし、分かるのはずっと未来になってからだろう。なら、お互いに信じたい方を信じるだけで良かった。と、そんなシャルロットに対して唐突にカイトは苦笑を浮かべた。


「……いや、運命はあるんだろうが……な。それでも因果律程度だ」

「どうしたの?」

「……いや、オレが運命を否定しちゃ駄目だと思っただけだ」


 カイトが見るのは、相変わらず城壁の上で己が信頼し親愛する者達と戯れる愛する者(ティナ)だ。彼女との出会いは定められたものだ。これを運命と言わずして何と言うのか。別に運命を操ったわけではなかったが、それでもこれもわかっていなければ運命は運命だ。


「そうね……貴方が運命を否定するのも変な話ね」

「……そうだな」


 少し嫉妬する様に己の手を握ったシャルロットにカイトは笑う。確かにシャルロットとカイトが再会出来たのは奇跡としか言い得ない。ならば、これもまた運命と言えるだろう。なのでカイトはそれに納得して、街の中に戻っていく事にするのだった。




 戦いの翌日。日が昇る頃には街はまるで何もなかったかの様な状態だった。そして事実、街の住人達は何も知らない。なので彼らにとっては何も変わらない何時もの朝だった。

 が、知る者達は知っている。故に、会合を開いていた。というわけで、開始早々に皇帝レオンハルトが口を開いた。そうして開口一番に述べたのは称賛に近い言葉だった。


「流石はマクダウェル公……と本来ならば賞賛すべき所なのであろうが。公であれば当然と捉えるべきなのやもしれんな」

「ありがとうございます。本件は当家が処理して当然の事。そして有難くも賢者殿の縁を得て、襲撃を察知もしております。勇者の名にかけて、この程度と述べさせて頂きます」

「うむ」


 自らの賛辞に対して敢えて謙遜を示したカイトに対して、皇帝レオンハルトも一つ頷いた。これが当然と出来て然るべきなのが勇者なのであって、彼もそれを信頼するからこそそれに同意したというだけだ。


「さて……公よ。実際に矛を交えみて、どう感じた?」

「はい……街の周囲に最初に現れました黒い人型であれば、一体までなら陛下お一人で征伐出来る程度かと」

「ふむ。その程度か」

「はい……ですがやはり、兵達には迂闊に戦わせぬのが肝要でしょう」


 自分が見て取った通りだったために特段の驚きもなく同意した皇帝レオンハルトであるが、そんな彼へとカイトは一応の念押しを行っておく。

 可能不可能を別、真っ正面からに限定すれば、皇国においてカイト達という特例を除いた正規軍で最強と言えるのは皇帝レオンハルトだ。その戦闘能力は間違いなくランクSの冒険者に匹敵する。

 今年は一部に仕方がない側面――シャリクの事――はあるが、彼を筆頭にして大国の長に武闘派が多かった。それは現状からすれば喜ばしい事ではあるのだろう。

 とはいえ、あの敵と戦うのはその彼らと戦うと同義と考えて良い。間違いなく、並の軍人では勝ち目はない。負けないまでも、討伐するのであれば相当の被害を考慮するべきだった。そしてそれは皇帝レオンハルトも分かっていた。


「か……うむ。であれば兵達には主に飛空挺や魔導砲による砲撃を行い、雑魚の掃討を行わせるべきだと思うがどうか」

「それが最善かと。当家の獣人にせよ、ハイゼンベルグ家の龍族にせよ、流石にあれにはまともにやるべきではないでしょう」


 皇帝レオンハルトの問いに、この場に出席していたアベルは昨夜あっという間に、それこそ遊ぶ様に倒された敵を思い出す。あれは決して雑魚ではない。それを彼も、それ以外のこの場の軍高官達も全員が知っていた。

 カイトという異常なまでの戦闘員を集められる奴だから、あんなに呆気なく終わったのだ。世界でトップ連中だからこその結末であり、ここがマクダウェル家でなければそうはならない事は明白だった。隠蔽したままに終わらせられる事が出来るのは間違いなく、この神殿都市で収穫祭の最中だからこそだった。


「うむ……そうなると、各国にどれだけの秘匿戦力があるかという所であるが……」

「大国につきましては、当家が引き続き注意を促しましょう。マクダウェル家にも協力は既に要請済みです」

「うむ。それについては引き続き、ハイゼンベルグ公に一任する。が、それでもまだ足りぬだろうな」


 ハイゼンベルグ公ジェイクの申し出に頷いた皇帝レオンハルトであるが、更に苦い顔で危惧を滲ませる。基本は他国の事。彼らになにかをしてやる義理はない。

 が、陸続きだ。何かがあれば難民が押し寄せてくる可能性は高い。それは面倒だ。そしてこれは一国でどうにかなる案件でもない。なら、根本的な対処をしておく方が遥かに利益になった。と、そんな皇帝レオンハルトの提起を受けて、軍の高官がカイトへと申し出る。


「それについてはマクダウェル公。バルフレア殿に頼めぬか?」

「非常事態における国家総動員法か。どの国にもある法律を使うと考えれば……まぁ、流石に案件が案件……根回しをしておいて損はないか」


 邪神の復活は世界中で警戒されている事だ。それ故勿論、冒険者達も備えている。なので協力は望めるだろう。というわけで、カイトも一つ頷いて同意した。


「わかった。各地に拠点を置くギルドには即座に行動に入れる様に通達を出してもらおう。丁度少し先に預言者が来る。そこで出そう。またこれはレイシア皇女から申し出るより、オレから提議しよう」

「可能か?」

「というより、その方が良い。やはり何処かの国からの干渉を嫌うのがユニオンだ。特に大国が提起したとなると、それだけである程度の忌避感は生まれてしまう。あちらも巨大な組織だからな。それを考えれば、同じ冒険者であるオレから今回の一件を受けての提起にした方が角が立たん」


 やはりここらは長らく冒険者としても活動していたカイトという所だろう。軍の高官よりも冒険者達の考えもよく理解できていたようだ。というわけで、カイトは朝から昼までの間は皇国の上層部との間でこれからについての協議を行う事にするのだった。




 皇帝レオンハルト達皇国上層部との話し合いの開始から数時間。カイトは弟弟子の義務として、宗矩が宿泊するホテルへとやってきていた。この祭りの間、カイトは彼を兄弟子として扱う事を決めていた。そして逆もまた然りである。


「宗矩殿。昨夜はありがとうございました」

「……いや、気にする事ではない。民をいたずらに傷付けんとするのであれば、それを斬り捨てるまでの事だ」


 宗矩は頭を下げたカイトに対して首を振る。これは彼、柳生”但馬守“宗矩の兵法の思想だと言って間違いがない。彼が提唱したのは活人剣。たった一人の悪人を斬り捨て衆生を救うという理念だ。

 活人剣とは元来、不殺を謳うわけではない。それは最小限の犠牲を以って全てを救うという非常に合理的な理念と言える。不殺どころか必殺を謳っているのである。

 だから、彼は容赦なく斬り捨てる。今回それでも邪神の信徒達を斬り捨てなかったのは、カイトの面子を慮っての事だった。カイトが宗矩を兄弟子と敬うのなら、宗矩はカイトを弟弟子としてその面子を慮ったのである。


「ありがとうございます。この地を収める者として、重ねて感謝致します」

「良い」


 再度頭を下げたカイトに対して、宗矩は今度は頷いた。そんな彼は一つ上を向くと、ここで彼が得た物を胸に口を開いた。


「……少し気になったのだが」

「はぁ……何でしょう」

「存分に仕合う事は叶うだろうか?」

「……くっ」


 僅かな不安を覗かせた宗矩の問いかけにカイトは思わず肩を震わせる。宗矩が危惧していたのは、ここでカイト達の為に戦った事でカイトや武蔵が遠慮を生むのではないか、ということだ。

 だが彼は彼自身の事を彼が一番良くわかっていないらしい。だが、これをカイトもわかっていた。武蔵も分かっていた。なにせ武蔵が気付いて、そしてカイトもそれを教えられたに近いからだ。そしてだからこそ、カイトは答えは一つしかなかった。


「宗矩殿。もしそんな疑念を抱いたまま私の前に現れるのでしたら、師・武蔵との仕合の前に私の刃の下に散る事になりましょう」

「……そうか」


 宗矩はカイトの返答に安堵を浮かべる。何故、その様にはっきり断言するかはわからない。わからないが、カイトは言葉だけでなくはっきりと気配で明言していた。もし腑抜けた戦いをするのであれば、武蔵の前に己が斬ると。

 宗矩の思想はカイトにも受け継がれている。確かに彼は柳生新陰流ではない。が、それでも後世に生きた剣士の一人として、その思想は受け継がれていた。そして今の宗矩は間違いなく悪に堕ちた。斬られる側であり、それを知ればこそ彼はあちらに居るのである。そんな宗矩はカイトから轟々と放たれる気配に、ようやく心を定めた。


「であればその時には、俺もまた存分に腕を振るおう」

「ええ……その時には必ず私も弟弟子であると頷けるだけの腕をご覧致しましょう」


 宗矩の言葉にカイトもはっきりと応ずる。カイトとしても心は定まった。どうせ一度ぐらいは宗矩と本気で戦いたかった事は事実だ。なにせ柳生宗矩だ。剣聖とさえ言われた男の武芸。見てみたかった。それが全てが合致した上で戦えるのであれば、迷いはない。存分に戦うだけである。


「ああ……では、後しばらくは世話になる」

「ええ。今しばらくは、但馬守として逗留ください」


 カイトは三度宗矩に頭を下げる。これらは全て、ここでの事ではない。ここでの両者は兄弟弟子。まだ、戦うべき時ではない。だからカイトも笑って、しかし獰猛な笑みと共に彼に背を向ける。


「宗矩殿。先に修羅を見た者として、述べましょう」

「……聞こう」

「人とて所詮は獣なのです。無念無想も良いですが……時に獣に立ち戻るのもまた良い。生きている実感が得られる」

「そうか……俺は結局、生きている実感というものを得た事が無かった。それを味わえるのなら、良し」


 宗矩がどんな顔をしていたのかは、決して振り返らなかったカイトにはわからない。だが、一つわかった事がある。後ろに居る男は剣聖と言われた男であり、同時に剣士であると。そうして、カイトは一つの決意を胸にその場を去り、宗矩もまた一つの答えを胸にその場に留まる事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございます。

 次回予告:第1423話『活動再開』

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