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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第68章 四大祭・秋編

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第1421話 狼煙は上がった

 宗矩やバーンタインら一部の外部からの協力者達の手を借りながらも邪神の信徒達による神殿都市への襲撃を秘密裏に処理したカイトであるが、それが終わると即座に後始末に入っていた。


「ノーム。ちょっと力貸してー」

「いいよー」


 軽い感じで応じてくれたノームの力を借りながら、カイトは神殿都市全域と更にその周囲全体が見渡せる超高度まで飛翔する。何をするかというと、荒れた土地を元通りにするのである。


「あぁあぁ、自分でやった事なんですが……ちょっと暴れすぎたかねー」

「暴れたというより、皆はしゃぎすぎだと思います。シルフィ。まる」

「そかね?」


 神殿都市の周辺であるが、カイトが言ったとおり無残な有様である。無論言うまでもなく原因の大半はカイトだ。他はその残りの半分が興に乗って実験していたティナで、残りの更に半分がその他の面子という所だろう。とはいえ、逆に言えばこの程度には力を出さないと楽勝と言い切れない相手というわけでもあった。


「だってカイトはまぁ、いつものこととして……ティナとか結構派手にやってたみたい」

「あー……っぽいなぁー」


 シルフィの指摘を受けたカイトが見たのは、ティナの実験跡だ。そこには無数の武器が散乱しており、基本魔術でスマートに仕留める彼女にしては珍しい有様だった。

 今はミレーユに世話を焼かれながらその実験で得られた結果を精査している、という所だろう。これについても後で回収しておく必要があるだろう。と、そんなお世話をされている姿を見て、カイトは僅かに笑う。


「やっぱり似合うなぁ、あいつは」

「カイトは元々が一般人だもんねー」

「なんだよなぁ……オレは生まれも育ちも根っからのパンピーだし、もう一人のオレは神族の族長だけどあれだしなぁ……」


 族長だけどあれ。あれというのは孤児という事を指していた。それでも王様に拾われて王様の懐刀の騎士団長に育てられているので本来はお上品であるべきなのだろうが、その養父が悪かった。

 彼は豪快といえば豪快な性格だった為、街の住人達から非常に愛されていた。その背を見て育った『もう一人のカイト』もまた勇者と呼ばれながらも街の住人達から非常に慕われ、時に街の青年やおじさん達と飲み交わす様な男だった。

 そもそもで誰かに世話をされる事に慣れていないのだ。それどころか彼が騎士と兼任していた仕事もあり、誰かの世話をする側だった。尚更、世話をされる事は慣れていない。その分、誰かのお世話をするのは得意だ。


「もう一人の君、ねぇ……実際、君だもんね。長い付き合いだよねー、僕らも」

「あの時以来、だもんなぁ……」


 もう遥か過去の事に思えて、実際には数百年か一千年程度しか経過していない遥か昔の事をカイトは思い出す。あの地獄の始まりの日。あの時からの付き合いだった。

 勿論、実際には世界中を旅していたのでもっと長いが、カイトが居た世界を基準とすればその程度でしかなかった。と、そんなしみじみとした様子のカイトへと、ノームが指摘する。


「ねぇ、かいとー。しごとー」

「あー、はいはい。忘れとりゃしませんよ」


 ノームの力を借りたカイトの力により、戦闘で破壊された土地が一瞬にして元通りになっていく。それでもまだ色々と荒れた様子はあるが、後はゆっくりとだが自動的に元に戻る様に設定している。

 あまり急激な激変をさせると街にもわかるほどの異変になってしまうし、地響きも起きる。今が見通しの悪い夜である事を活かして、というわけだ。街を往来する飛空艇には結界の点検の為、としてこの日の夜の往来は禁止している。問題もない。


「こんな所でどうでしょ?」

「だいじょーぶー」

「おっしゃ」


 ノームの太鼓判だ。であれば明日の朝には大丈夫と考えて良いだろう。というわけで緩やかに元通りに戻り始めた地盤を見たカイトはそのまま、視線を真下の神殿都市に落とす。無論、流石の彼とてこの距離で何かを注視するわけでもないし、何よりまだ『プラネタリウム』が展開されたままだ。なので久秀達三人については気が付かなかった。

 しかしそれでも、中が見通せないわけではない。彼の力もあって人々が薄暗い闇の中で満天の星空に酔いしれている姿ぐらいは観察出来た。

 そんな彼が見たかったのは、喧騒に包まれる己の愛する地の第二の都市だ。と、そんな都市の真ん中近く。月の神殿と言われる神殿の屋根の上に、カイトは愛する女神の姿を見つけた。


「……」

「……」


 二人は視線だけで語り合い、頷きを交わす。戦いは終わった。後は帰るだけだ。が、今宵は残念ながらもうしばらくは帰れない。街の住人達が寝静まる頃まではこの結界はそのままだ。

 というわけでカイトは敢えて超越者達が眺める遥か高みから街を見下ろす事を楽しみながら、しばらくは大精霊達との語らいを楽しむ事にする。


「そういや、シルフィ」

「何ー?」

「邪神エンデ・ニル。お前の眷属だろ?」

「そうだね。一応、僕の眷属になるよ」


 邪神エンデ・ニル。それはユリィ達の調査によれば、どうやら元来は嵐の神らしい。であればすなわちそれはシルフィの眷属に他ならない。となると、一応のカイトとしては立場上お伺いを立てる必要があった。


「一応立場上聞いとくけど、ぶっ飛ばして良いんだよな?」

「別に良いんじゃない? 僕が地球の神で倒されたら困るといえば困るのってオーディンでしょ? そっちはカイトと戦う事無いだろうしねー。何より、彼は最初期からのカイト陣営だし」

「無いわなー。あの知識欲の塊がオレと戦うとか」


 そもそもそれだからシルフィが戦うと困る、という所に繋がるんだしな。カイトはそう思う。このオーディンというのは改めて言うまでもなく、北欧神話のオーディンだ。彼は北欧神話の主神であるが、その前は風の神と言われていた。それは今でも変わらない。こちらもまたシルフィの眷属だった。

 その彼であるが、カイトが関わった彼はやはり神話に伝えられる通り知識欲の塊の様な人物だったらしい。それ故に自力で異世界から帰還し、なおかつどの世界においてもオンリーワンであろうカイトには非常に興味を見出しているらしく、地球の神でも彼に非常に協力的な相手の一人と言えた。

 そしてこの知識欲旺盛な所を見込まれて、シルフィが管理する地球の世界樹『ユグドラシル』の管理者を任されていたのであった。オーディンにしてもシルフィと語らえるという利点がある。喜んで引き受けたそうだ。

 大精霊の友であるカイトと世界樹の管理人であるオーディンだ。敵対は立場上出来なかったし、基本穏健派のカイトとしてもカイトへの敵対に意味を見出さないオーディンとしてもするつもりは無かった。というわけで、シルフィの許可が出た事もあってカイトは首を鳴らして笑みを浮かべる。


「よっしゃ。じゃあ、ちょっとド派手にやるか」

「厄介だよねー。親子揃って僕らの契約者とか」

「厄介って……お前らが言うセリフかよ」


 そもそも厄介のその厄介の根源は彼女らだ。それ故、カイトはがっくりと肩を落とす。そもそも彼女らが厄介と思っていない。単に言っただけ、という所だろう。

 なお、親子の親は彼の実父である彩斗ではなく、義理の父と彼が述べるギルガメッシュの事だ。と、そんなふうに割と真面目な話をしたカイトであるが、そろそろ良いか、と最も重要な事を問いかける事にした。


「で、そろそろ一応聞いておこうか」

「良いよ?」

「相当楽しんだ様子だな、お前ら……」

「……え、えーっと……」


 カイトのジト目を受けて、最も楽しんでいた様子のウンディーネが視線を逸らす。敢えて言うまでもないかもしれないが、結界の出入りが出来ないのは普通の奴だけだ。

 ティナなら普通に出入り出来るだろうし、神々以上の格を有する大精霊達であれば何をか言わんやである。そして一応言及しておけば、大精霊全員この場には居た。だというのに何故、シルフィとノーム以外は何も喋らないのか。無論、理由があった。


「はーい、まず各々いくつか指摘がありますが……毎度毎度何時もの通り変な所でドジっ子スキル発動中のディーネちゃん。そっぽ向いた所為でほっぺのケチャップ丸見えです。ティッシュあげるから、下に戻るまでに拭いてください」

「え?」

「次……いや、お前やっぱやめ」

「なぜだ!? 凄いだろう!?」


 カイトの指摘を受けてやはり視線を逸らされた雷華が抗議の声を上げる。そんな彼女の両手には抱えきれないほどのぬいぐるみがあった。ドヤ顔も頷ける。が、確かにこれを自分のお金かつほぼ一発で取っているのなら凄いだろうが、そうではない。


「お前、いくら使った」

「……」


 つぃー、と今度は雷華がカイトから視線を逸らす。相当使ったらしい。勝負事になると熱くなる彼女の性格を知っていれば普通にありえるだろうとカイトは思ったし、この戦果であれば相当使った事は確実だと思っていた。


「さて……このお祭りは確かにお前達の為のものなのでありますが。それでもそろそろ一度、お説教をしておく事にしましょう」

「そうだよ。みんなちょっと僕よりはしゃぎまわるのはどうかと思うなー」

「「「……」」」


 流石に常日頃はしゃぎまわる筆頭のシルフィに指摘されては一同――サラマンデルを除く――黙るしかなかった。が、そんなシルフィであるが、彼女の首根っこにカイトの手が伸びている事に気付いていなかった。


「……あれ? お前何逃れられると思ってんの?」

「あ、やっぱり?」


 てへっ。可愛らしく舌を出して小首を傾げるシルフィであるが、やはり誰よりも彼女がこの祭りの中でははしゃいでいた。それこそ神官達が感涙やら慌てふためいたりで卒倒するぐらいには目撃証言があったらしい。

 数百年ぶりにおおっぴらに出歩けるのだ。大精霊達とて楽しまないわけがなかったし、カイトとしてもそれについてはお目溢しをしている。が、調子に乗るととことん調子に乗る奴らだ。そろそろ折返しで、色々と気の緩みが出て来る頃だ。一度きちんと釘を刺しておこう、と思ったのであった。


「さーて。せっかくお時間があるわけですし、ちょっとお説教タイムと参りますか」


 カイトはぶらぶらと楽しげに揺られるだけのシルフィを抱えながら、大精霊達を引き連れて神殿都市の城壁へと降りていく。そうして、彼は結界が解けるまでの間あまりはしゃぎすぎない様に大精霊達に釘を刺す事に時間を使う事にするのだった。




 さて、そんなカイト達であるが、当然だが敵の監視者によって見られていた。これはカイト達も想定内だったし、そもそもカイトとしても敵は己が勇者カイトだろうとわかっていると思っていた。なので敢えて隠さず、勇者カイトはここに在りを示すが如くに大精霊達を引き連れていたのである。


「……」


 なるほど、確かに強い。ここら一帯に潜伏する邪教徒とでも言うべき者たちを統括する男――ドーリと呼ばれた男――はカイトが彼らの神が危惧した勇者カイトである事を悟って頷いた。が、それで得たのはカイトへの畏怖ではなく、カイトが帰還している事を地脈に居ながらでも察知していた彼らの神に対する深い畏敬の念だ。


「流石は我らが神……やはり、至高の御方の危惧は正しかった。この地に最大の戦力をぶつけるべし。それも頷ける」


 これは必ず報告せねば。ドーリはそうはっきりと頷くと即座にその場から取って返す。このままこの場に居れば何時カイト達に気付かれるともわからない。部下達がその生命を神に捧げ最良の結果を出してくれたのだ。であれば、彼は一目散にその場を立ち去って神に結果を報告するのが筋だった。そうして、夜が明ける頃。彼は隠れ家へと帰還する。


「……と、いうわけです」

『そうか。うむ……はい……はい……』


 マクダウェル領を少し離れたとある領地の洞窟の中。ドーリは足早にその奥にある彼らの本拠地との連絡用の魔導具を起動して、最高位の神官を介して邪神へと報告を行なっていた。邪神はまだ復活したわけではない。故に神官の中で最も適性のある者を媒体としてしか話せなかった。


『では、やはり? はい。はい……』


 暫くの間、邪神と神官の間で何らかのやりとりが行われる。それをドーリは静かに待つだけだ。


『御意に……では、その様に』


 どうやら話し合いが終わったらしい。今ままでどこか遠くを見ていた様な神官がドーリの方を向いた。


「我らが神はなんと?」

『神託が下った。ドーリ、うぬには重要な仕事を任せる事となる』

「っ」


 おそらく、そうなのだろう。ドーリはその先を予想できていながら、それ故にこそ緊張と興奮で身体が強張るのを抑えられなかった。そして案の定の命令が、下った。


『うぬの管轄となる地の何処かに、我らが神が降臨される。無論、まだ場所は決定しておらぬそうだ。あくまでも、皇国のどこかという程度。が、お主の管轄内、ないしは非常に近くである事は明言なさった』

「おぉ……」


 こんな幸運と栄誉があって良いのだろうか。そう言わんがばかりにドーリが脱力し、歓喜の涙を流す。そんな彼に神官は僅かに呆れながら、仕方がないと声を掛ける。わからないでもないとは彼も思うからだ。


『気をしっかり持て。神は去られたが、まだ見ておられる。無様を晒すでない。話は理解したな?』

「し、失礼致しました……かしこまりました。絶対に見つからぬ様、身を慎みます」

『うむ。気をつけよ。後少し。決して気取られてはならぬぞ』


 気を取り直したドーリの返答に神官が深く頷いて、同意する。こうして、神話の戦いの火蓋は密かに切られたのだった。

 お読み頂きありがとうございました。次回でこの章もラストです。

 次回予告:第1422話『決意を胸に』

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