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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第68章 四大祭・秋編

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第1419話 星空の中で

 カイト達が神殿都市の外で密かに邪神の奉仕者達と戦っていた頃。神殿都市の内部ではソラが暗躍していた。


「彼と彼と彼と彼……全員敵です。内一人は確定で外と同じ様に变化するかと思われます」

「おう」


 トリンの指摘を受けて、ソラは標的に狙い定める。彼らがいるのは、最も人で溢れかえる神殿都市の中心。大広場だ。そこでテロを起こそうとする敵を捕らえんと彼はブロンザイト、トリンの両名と共に隠れていた。そうしてソラは敵が動く直前を待ちながら、静かに少し前を思い出す。


『全身に神剣の力を行き渡らせられないか?』

『うむ。神剣の力を全身に行き渡らせれば、今よりはるかに強い力を得られるはずじゃ』

『……』


 ソラが正式にブロンザイトに弟子入りして数日の事だ。空いた時間を見つけては指南を受けていたわけであるが、そんな最中にブロンザイトよりこう問われた。というわけで、そんなブロンザイトの問いかけにソラは一度試してみる事にした。


『……』


 ソラは頭の中で神剣に語りかけ、力を貸してくれる様に頼んでみる。それは何時もやっている事なので迷いはない。無論、この期に及んで失敗もしない。

 が、何時もと同じでは駄目だ。今回は攻撃として放つのではなく、身体全身に行き渡る様にしなければならない。そうして意識を集中して暫く。ブロンザイトの指摘通り、ソラはなんとか神剣の力を全身に行き渡らせることが出来た。


『出来た……出来ました』

『うむ。その様じゃのう』

『どうしてわかったんですか?』

『うむ? ああ、特に難しい話ではない。戦士は武器に魔力を通し、まるで一体化するという。であれば必然としてそういう事も可能かのうと思うたというに過ぎぬよ』


 ははは、と軽い感じで笑うブロンザイトに、ソラはそんな事を考えた事もなかった、と目を見開いていた。そして実は。これはアルであれば当然の様に知っていた。彼が得意とする属性は氷。武器が有する属性も氷。武器をいわば媒体や触媒として己の力を高めていたのである。もちろん、ルーファウスも同じ様に同じ事をしている。いわば戦士としては中級者以上であれば当然の技術としている事だった。

 とはいえ、これをソラが知らなかったのは無理もない。中級者であれば誰もが自然と出来ているので誰も指摘はしないし、そもそもこれは武器に特殊な力を持つからこそ出来る事だ。今までそんな特殊な力を持つ武器を使っていなかった彼らだからこそ、気付かない事だった。

 そして更に言えばカイトは教えてくれなかったというより、彼もすっかり忘れていた事だからだ。彼は当然出来て当然でもちろんやっているが、ソラ達と居る時の大半は己の魔力で編んだ武器を使っている。故にその時にはこれが使えないのである。忘れていても仕方がないだろう。


『とまぁ、そういうわけであるが。その状態であればソラ。お主は敵の力から逃れられよう』

『じゃあ……もしかして洗脳には怯えなくて良い、という事ですか?』

『うむ、そうなるじゃろう。その力は間違いなく神の力。敵の霧の中に突っ込んで味方の道を切り開く事も出来る。が……』


 ブロンザイトはソラが纏わせる神の力を見て、一つため息を吐いた。そうして、彼は一つ苦笑気味にソラへと一つ指摘を行った。


『まぁ、この程度で怯むあれも悪いのであるが……ソラ。お主は少し周囲を見渡す力を得た方が良いのやもしれんのう』

『へ? あ、わっりぃ! トリン、大丈夫か!?』

『は、はい……ちょっと目眩はしますけど……あぅぅぅぅ……』

『わぁああああ! トリン、ほんとごめん! しっかりしてくれー!』


 ふらふらー、とトリンが目眩を起こして揺れて、ソラが慌てて彼が倒れない様に肩を貸す。改めてはっきりと言う必要も無い事なのかもしれないが、トリンは冒険者に怯えている事からもわかるが戦士ではない。彼は敢えて言うのであれば軍師見習い。戦闘タイプではない。

 旅をしている分があるので冒険者のランクに表せばランクは最下位のEではないだろうが、それでもせいぜいDだ。一般人より少し強いという程度である。

 そんな彼が何の備えもなくソラの戦闘時に放つだろう圧を受ければどうなるか。自然、昏倒するしかないのであった。そうしてしばらく後、トリンが復帰した所でブロンザイトが再びソラへの教示を始めた。


『お主は一度力の強弱の付け方を学ぶ方が良いかもしれんのう。あそこまで圧を出すのでは訓練には向かんじゃろうのう。で、トリン。お主はお主でなれる様に身体の面も少し鍛えい』

『は、はい……すいません……』

『すいません……』


 ソラとトリンは揃ってしゅーん、としょげ返る。とまぁ、そうして一つ苦言を呈した所で、改めて指南を続ける事にした。


『それはお主らがまぁ、旅の間にでも練習すれば良い。旅は長い。時間はある……で、とりあえず。ソラはそれを盾に使い、敵を捕らえよ。付け焼き刃で良い。とりあえず数日で儂の言う通りに出来る様になってもらう。無論、出来ぬとは言わせぬ』

『はい』


 ブロンザイトの指南を受けて、ソラは彼の方向性に従ってしっかりと頷いた。そうして、彼は可能な限りの時間を使ってブロンザイトの指示を完璧にこなせる様になる。そして、当日。ソラはそれを思い出しながら、僅かに腹に力を込める。


「トリン。やるけど、大丈夫か?」

「はい。倒れない様にお腹に力を入れています」

「うし……」


 トリンに最後の確認を取ったソラは一つ頷いた。あれから数日トリンはソラの練習に付き合って神の力に身体を慣らしたし、今は戦場だと彼も気合を入れている。なのでソラの圧力を受けても問題はなかった。


「タイミングは僕に合わせてください。各所との連携は僕が」

「頼む」


 自分で全体を動かすのならまだしも、別々に動く各所との連携なぞソラには出来るわけもない。それ故、彼はトリンの補佐にしっかりと耳を傾ける。こういった事を学ぶ為にブロンザイトに弟子入りしているのだ。今出来ないからと嘆くではなく、トリンから少しでも学ぶだけだ。


「……はい。こちらは配置に……では、やはり? はい……はい……お師匠様。例の人物が数名を見張っていると」

「やはり、そう出るか。武蔵殿とカイト殿が仰られた通りじゃ。うむ……トリン。彼を合図とする様に指示を出せ。彼がこの場において最も優れた感覚を持とう。伝え聞く通りであれば、あちらもこちらの意図を読み合わせてくれるはずじゃ」

「はい」


 ブロンザイトの指示を受けて、トリンが即座に各所への指示を送り始める。今回、カイトの指示により町中での全体の指揮はブロンザイトが行う事になっていた。

 彼の名は知る人ぞ知るであるが、同時に知る者は必ず耳を傾ける。カイトが賢者を知る者である事を示すには良い一幕になるし、同時に彼の指示であれば納得出来る者は少なくない。ティナもカイトも外に出ている以上、最適な判断と言える。そうして指示を送り始めたトリンの傍ら、ブロンザイトはソラへと今の事を教えてくれた。


「さて……ソラ。まだ動かぬ以上、今のうちにざっとした今の事を話しておこう」

「はい」

「まず、この場において一人未知となる人物がおる。まぁ、お主であれば知っているやもしれんが」

「はぁ……」

「その様子であればカイト殿からは何も聞いておらぬか……柳生宗矩。聞いた事は?」

「え?」


 ブロンザイトの問いかけにソラが思わず呆気にとられ、彼の方を振り向こうとする。しかしその直前、ブロンザイトは即座に制止を掛けた。それもかなり強い語調で、だ。


「こちらを向くでない。喩え驚いたとて、視線を敵からは外すな。これが敵の策であれば、その瞬間にお主やお主の仲間は死んでおろう。戦いの中では決して敵から視線を逸らすな。これを、肝に銘じよ」

「っ……はい。それで、彼がどうしたんですか?」

「うむ。この街に来ておるそうじゃ。彼が、この場で動いておる。こちらの味方としてのう」

「味方として?」


 確か宗矩は敵だった筈だ。ソラはかつての中津国での一件を思い出し、そう訝しむ。が、これが何故というのは、ブロンザイトにも答えられなかった。


「儂にも良くはわからぬ。が、カイト殿と武蔵殿は揃ってこの祭りの最中において彼が敵対する事は決して無いと明言された。であれば、それは確かと見て良い」

「……」


 おそらく教えてくれなかったのは、安易に警戒させない為だろう。間違いなく見れば警戒する。その程度はソラにも理解出来た。そして同時に、ブロンザイトには教えられていたのは彼の方が遥かに信頼出来るからだとも。

 無論、この信頼は人としての信頼ではない。戦場に立つ者としての信頼だ。彼はもし敵が不測の事態を引き起こしたとて落ち着いて対処出来る、とカイトは信頼している。ソラはそれに対して動揺せずに出来るか、と言われるとソラ自身でも無理だと言うしかなかった。


「うむ。良き子じゃ」


 落ち着いて現状を理解していたソラに、ブロンザイトが微笑んで頷いた。ここで何故、と問わないという事はカイトがどういう意図で自身に教えなかったか理解しているという証拠だ。であれば、筋は良いと思えた。


「さて……まぁ、それで全てといえば全てであろう。柳生宗矩。儂の聞き及ぶ限り、そして調べた限りでは間違いなく兵法家としても優れておる。戦士としてを含め、総合的な戦場に立つ者としての腕は儂を上回っておろうな。故に、開始の合図は彼に任せた。彼がここぞ、と踏んだタイミングこそが攻め込み時。それに合わせるのが良い」

「どうやって彼について調べたんですか?」

「別に何か不思議な事はしておらんよ。単に天桜の図書館を借りただけじゃ。カイト殿の許可を貰ってのう。よほどの偉人なのか、すぐに出て来た」


 それはそうだろう。柳生宗矩。江戸時代初期の剣豪を取り扱った講談ならどんなものにだって乗っている筈の人物だ。調べれば簡単に出て来る筈だった。それをしたというに過ぎない。

 というわけで、ソラは敵がどうしてその配置についたのか、どのタイミングを狙い定めているのか、などを教えられながら、宗矩が動きを見せるのを待つ。そして、しばらく。遂にその時が来た。


「お師匠様」

「うむ」

「……」


 ついに、動くのか。ソラは警戒されない様に緩めていた力をしっかりと全身に込める。そして、次の瞬間。天を真っ黒な覆いが覆った。そして、その直前。今まで沈黙を保っていた敵が行動に入っていた事を、ソラはしっかりと見ていた。


「ソラさん!」

「おう!」


 こうなるのはすでにブロンザイトから教えられていた。であれば、ソラに迷いはない。故に彼はトリンの合図を受けて教えられている通り神剣の力を身に纏い、その力を盾へと通す。


「……」


 真っ暗闇だったのは一瞬だけ。即座に支援に入ったシャムロックとシャルロットの二人により生み出された人工の星空の明かりを受けて、街の中には視界が取り戻される。そして外がそうである様に、内側の敵もまた動き出せば止まれない。

 故に邪神の信徒達も一瞬は罠に嵌められた事を理解していても、どうする事も出来なかった。そうして、ソラはそんな邪神の信徒達に向けて球状の障壁を生み出して強制的に隔離する。


「……へ?」


 そんな結末に驚いたのは、他ならぬソラだ。強大な力で抗うのだと思っていたが、それに反して彼に返ってくる感触はあまり強くない。確かに弱いとは言い切れないが、彼でなんとか出来る程度でしかなかった。と、そんなソラに対してブロンザイトが少しいたずらっぽく笑いかけた。


「ほっほっ……どうやら想定通り、という所かの」

「え? あの……どういう……」

「神剣の力は敵の力を弾く。であれば、それで敵の全周を覆い尽くせばどうなると思う?」

「あ……そうか。敵は地脈を通して神の力を融通している。その神の力は入ってこれないから……」

「うむ。敵の変異は敵の神の力により変異するもの。であれば、その流入を阻害してやれば良い。そして如何せん敵に変異の主導権はない。罠と理解しても止まれぬ。流石にこの神殿都市全てを覆う事はカイト殿でもなければ難しいが……対象さえはっきりとわかっておれば、別に問題はなかろう?」


 ブロンザイトの言葉に、ソラは道理を見た。敵も勿論、カイトが勇者カイトである可能性を考慮している。だから、敵は神殿都市の外周にも配置していたのだ。都市全域を神の力で覆われた場合、どうすることも出来ず捕らえられるだけだ、と。

 が、それは当然、カイトにとっては己の正体の露呈にほかならない。それはあまり好ましい事ではない。それに何より、そんな無駄をしなくても良い。敵が誰かさえわかってしまえば、それで十分に捕らえる事は可能なのである。ここまで考えての指示だったのだ。


「さて。では、そのままにしておれ。すぐにシャムロック様の配下の者たちが捕らえよう」

「はい」


 ブロンザイトの力を心の底から理解したソラは、彼に弟子入りしてよかったとはっきりと理解する。そうして彼はそのままブロンザイトの指示に従い、捕らえた敵の信徒達に封印処置が施されるのを待つ事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1420話『閑話』

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