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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第68章 四大祭・秋編

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第1416話 星空を背に

 予告からタイトル変えました。

 それぞれが敵襲に備えて準備を開始していた頃。宗矩は監視を受けながらも、普通に祭りに参加していた。案外、彼は彼で祭りが好きらしい。


「ふむ……」


 宗矩は神殿都市を良い街だと素直に思う。人々には活気が溢れ、街にはその人々の活気が渦巻いている。神陰流を学ぶ彼にとって、カイトと同じく場の雰囲気を読む事は慣れたものだ。これは彼の一度目の人生においては政治にも活かせた事だし、この点に掛けては彼は父達や他の兄弟子、弟弟子達より優れていたと言える。

 とはいえその結果がこの修羅道に堕ちるという事なのだから、それが良かったのか悪かったのかは当人にしかわからない事だろう。いや、当人にもわかっていないかもしれない。まぁ、少なくとも周囲の、例えば三代将軍家光などからすれば良い事だったのだろう。


「善き哉善き哉……」


 常に泰然とした様子の宗矩に、監視を行う密偵達は密かな困惑を得ていた。彼の様子は敢えて言えば統治者のそれに近い。街が活気づいて、人々が楽しげに笑い合う。その姿を見て天下泰平を謳歌する優れた統治者の様だ。この彼が、敵。素直には信じられなかった。


「……」


 悩んでいるのだろうな。宗矩は自分を見張る密偵達に対して、僅かに楽しげに肩を震わせる。仕方がない。なにせこれは自分の性根だ。そこは変わっていない。

 というより彼らは戦士を殺す事は躊躇わないが、無闇矢鱈に一般市民を傷付けるのはごめんだ。自身が敵だから、と無闇矢鱈に暴れるわけもなかった。彼らは所詮は戦士。強い相手と戦いたいだけで、民草を殺した所で意味なぞ皆無なのである。


「……」


 ここから大いに混乱させる事になるのだろうが。宗矩はそう思う。が、仕方がない。今回は柳生但馬守宗矩として、弟弟子の街にやってきている。なら、これは自然な事だった。


「さて……」

『『『っ』』』


 ちゃきっ、とどこからともなく刀を取り出した宗矩を見て、密偵達が僅かな驚きと警戒を生む。が、手は出せない。カイト、ひいては皇帝レオンハルトからの命令は彼が攻撃するまで手出し無用だ。刀を手にしたからとて手出しは出来ないのだ。

 が、何もしないわけではない。報告はしなければならないのだ。そうして、彼らはそんな自分達の慌てる様に密かに笑う宗矩の監視を続けながらも、カイトへと報告に向かうのだった。




 宗矩の動きは即座に、カイトへと報告されていた。そんな彼であるが、この場この状況で宗矩が動く意味をしっかりと理解していた。


「……そうか。手出しは一切無用。それどころか彼の動きに助力しろ」

「助力……ですか?」

「ああ。手助けを頼む」

「はぁ……」


 カイトの意図が掴めず、密偵の一人が困惑した様子を浮かべる。それに、カイトは苦笑した。


「但馬守殿であれば、委細問題ない」


 なるほど、とカイトは報告を受けて理解していた。そして同時に、もう一人の師である武蔵があそこで宗矩を招いた理由も理解した。どうしても、彼は一献酌み交わしたかったのだ。柳生但馬守宗矩と言われた男と。そして、覚悟を定めたかったのだ。彼と戦う覚悟を。


「まったく……難儀なお人だ、あの人も。いや、仕方がないというべきか。が……ふふ」


 仕方がない事なのだろう。何故、武蔵が宗矩を絶対に生かして捕らえると信綱に明言したのか。その心底にある想いをカイトは理解した。それは仕方がない。そう、仕方がないのだ。特に彼だからこそ、だ。

 これを理解して、カイトも彼については捕縛を中心に考えている。これは彼が兄弟子云々だからではない。武蔵の顔を立てた事と、そこからある事に気付いたからだ。


「さて……難儀な奴らしか集まっていないこの裏ですが」


 カイトは敵襲に備えて密かに集まった面子を見て、くすりと笑う。当然だが、ソラはここには居ない。ソラはブロンザイトの手引きを受け、町中でテロ行為を行わんとしている信徒達を討伐するべく動いている。

 大々的な襲撃でなければテロや犯罪はこの祭りの最中に何度か起きる。なにせここまで大規模な祭りで、各地から貴族達がやってくるのだ。

 なので彼らには体の良い囮になってもらうつもりで、シャムロック達にも隠蔽に協力して貰っていた。敢えて言えば、何時も通りの祭りに何時も通り少しの華を添えるだけ。公表する時まで民達が知る事はそれで十分だった。


「カイト。来るぞ」

「おうさ」


 ティナの報告を受けて、カイトは敵が襲撃を開始すべく力を溜め始めた事を理解する。彼女には地脈の流れを監視してもらっていた。そこから、邪神の魔力が信徒達へと流れ込んでいるのを見付けたのだ。

 いくら邪神の力だろうと、地球とエネフィア二つの世界を知っている彼女を騙す事は出来ない。特にカイトは邪神の血族から加護を得ている。その彼の助力がある以上、どれだけ隠そうと見つけ出せた。


「オレの合図と共に結界の展開を開始。事情を知る者以外には結界のメンテナンスを開始する、と伝えておけ」

『はっ』


 街の周囲の平原の幾つかの地点から立ち上る黒いモヤを見ながら、カイトは僅かに舌舐めずりする。これは前哨戦。己が己たる所以を謳い上げる一戦の前哨戦だ。不甲斐ない戦いを、するつもりはなかった。


「シャムロック殿、シャル……タイミングはこちらに合わせてくれ」

『わかった』

『ええ』


 カイトの要請を受けて、二人が頷いた。まだ、その時ではない。行動するのはまだ早い。被害なく倒す為にも、敵を一網打尽にしなければならない。気付かれて自暴自棄になられるのが一番面倒だ。無論、相手もこちらに気付かれて迎撃を整えられるのが面倒と考え、全部を同時が事を起こすだろう。

 であれば、内側に潜んでいる者たちも動いてくれねばならなかった。それを待つ必要があるのだ。そうして内側に潜んだ者たちが行動を開始すると同時に、外に漆黒のモヤに汚染された幾つもの人影が現れた。


「……」


 それと、同時。カイトはシャルロットの大鎌で神殿都市の外壁を叩く。それを受けて結界が展開されて、その結界にカイトの力が加わった。


「<<常闇の城(ザ・ムーン)>>」


 何時もはただ外敵を通さないだけの結界が漆黒に染まり、外の様子を一切見せなくなる。が、それだけでは意味がない。故にそれと同時に内側ではシャムロックとシャルロットの二人がそれぞれの眷属を率いて満天の星空を映し出していた。

 それはあたかもプラネタリウム。何も知らない者たちからすれば神々によるささやかなお礼、とでも言うべき所だ。もちろん、それに合わせて屋台以外の電灯は消す様に指示している。今頃、皇帝レオンハルトから神々よりの少しの謝礼とでも言われ、誰しもが満天の星空に酔いしれている事だろう。

 これで外で何が起きても誰にもわからないし、薄暗い所為で内側でテロが起きようとしてもほとんど気付けない。隠蔽はこれで大丈夫だ。


「哀れだなぁ、おい。嵌められた事にも気付けないか」


 どうせどこかで誰かは見てはいるんだろうがな。カイトはそう思いながら、しかし何ら容赦はしない。これは戦争だ。これが洗脳なら嫌な気持ちにはなるが、今回の敵は望んで配下となっている。なら、自らとは思想信条を正反対とする敵でしかなかった。容赦をしてやる道理は何処にもない。


「さぁ、行くか」


 『プラネタリウム』を見て感動を顕にする街の喧騒を背に、カイトは静かに号令を掛ける。今回はどちらも兵力は少ないが、他方どちらも単体における戦闘力は高い。そうして、まず地面を蹴ったのはアスラエルだ。彼はこの戦いを自らの最終調整前の敵情視察と捉え、カイトに申し出て参戦していた。


「Aランク個体上位種……人を素体とした侵食種の一体。久方ぶりの相手か」


 アスラエルが敵と見定めたのは、かつてカイトが討伐した『破戒の魔使いフォビドゥン・テイマー』。いや、正確に言えばあれはあの時現れた個体に対する名前なので、単に同じ容姿を持つ別の個体と言って過言ではないだろう。

 さらに言えば今回はあれとは違い魔物を動員する力は無い様子で、魔物が引き寄せられている様子はなかった。が、そのかわりとでも言うべきか威圧感は桁違いに増大していた。


「ふむ……平均的な個体か。些か警戒しすぎたか」


 カイトから聞いていた話とは少し違うか。アスラエルはこれが慣れ親しんだ相手だと理解して、僅かに込めていた肩の力を抜いた。確かに、この個体の力はかつてカイトが戦った時よりも増大している。しているが、その程度でしかなかった。かつての神話では中心核として戦った彼にとって、戦い慣れた相手でしかない。


「はぁ!」


 着地と同時にアスラエルは今度は地面を蹴り、そのまま速攻を仕掛ける。とはいえ、この程度でどうにかなる相手とは彼は思っていない。

 この個体は確かにその程度と言い得る程度でしかない。神話の大戦が最も激しかった時代にはランクSの個体を複数体相手にして戦った事もあるアスラエルであるが、だがしかしそれでも楽に勝てるとは思っていない。ランクAの時点で英雄を殺せるのだ。油断すれば殺される。故に、楽々と敵はこの斬撃を回避してみせる。


「霧化能力の速度は……」


 ふむ、刹那の間で可能か。最盛期にずいぶんと近いな。アスラエルはそう理解して僅かにほくそ笑む。これなら、準備運動には十分だ。そう思った。そうして霧化して回避した敵に向けて、アスラエルは追撃として<<無塵連閃(むじんれんせん)>>を叩き込む。

 霧化して逃れようと、その存在の中心となるコアはある。素体の肉体も霧化出来る様になったとて、素体のコアだけはどうしても霧化出来ないのだ。肉体を霧化して逃れるのなら、それもお構いなしにコアを叩き潰せば良いだけと判断したのである。


「……」


 無数の斬撃により切り裂かれた敵を見ながら、アスラエルはまだ終わっていない事を理解していた。この程度でどうにかなる敵だったのなら、どれだけ楽なのだろうか。そうとさえ思えた。そうして、次の瞬間。アスラエルの背後に敵が回り込んでいた。転移術で消えたのである。


「残像だ」


 アスラエルの背後に回り込んだ敵の更に背後。そこにアスラエルが回り込んで、神剣に力を込めて斬撃を叩き込む。それに、再度敵は転移術で消え去った。


「……」


 転移術の弱点が無効なのは変わらないか。アスラエルは冷静に敵の行動をかつての神話の戦いと比べていく。転移術の弱点。それは障壁がほんの一瞬だけだが無効化されることだ。が、この邪神の力に汚染された者たちにはその弱点が無意味に変わる。

 彼らの特殊能力である霧化能力。これを使えば実体を霧に変えられる。つまり、もし万が一転移術の隙を突けてもダメージを負わずに対処出来るのだ。それどころか、一部だけを霧化してカウンターへのカウンターさえ可能だ。非常に厄介な相手と言えるだろう。


(さて……)


 数度の転移術の行使による背後の取り合いの後、アスラエルはそろそろ仕掛けるかと考える。相手に特殊能力があるというのなら、こちらは無数の戦いで培った技がある。

 何度も戦ったのだ。癖は見抜けないでも敵の出来る事、それがどの程度の範囲なのかは理解している。故に、彼は敢えて一つの撒き餌を放った。


「ふむ……」


 自分の背後を取っている筈なのに再度転移で移動した敵を真正面に捉え、アスラエルは僅かに荒々しい笑みを浮かべる。彼が何をしたのか。それは言えば非常に簡単な事だ。

 転移術の兆候だけを敢えて発生させておいて、実際には跳ばなかったのだ。そして敢えて敵を転移させておいて、自分はその場で反転したというだけである。そうして罠に掛けられて一瞬だけ呆気にとられた敵に対して、アスラエルは<<縮地(しゅくち)>>を使い問答無用で切り込んだ。


「はぁあああああ!」


 雄叫びを上げ、アスラエルが斬撃を放つ。この程度でなんとかなる相手ではないが、霧を吹き飛ばせば吹き飛ばすほど敵の体力は削れる。そして削られていけば何時かは霧化能力もできなくなる。この侵食種を相手にする場合の基本は、この霧を削っていってコアを斬り裂く事だった。

 と、そんなアスラエルの斬撃だが、敵はモヤを硬質化する事でガードする。とはいえ、やはり戦士長とも言われる彼の力だ。完全にノーダメージとはいかず、大きなひび割れを生んでいた。そしてその斬撃のカウンターとして、敵はハイキックを叩き込まんと上体を捻る。


(ふむ……反応速度、悪し)


 素体の問題か、それとも邪神の復活がまだだからか。敵のハイキックを海老反りに回避するアスラエルにはどちらかはわからないものの、少なくともかつての神話の時代より少し弱い事を実感していた。前はもっと蹴りにも打突にも鋭さがあった。

 油断出来るわけではないが、今のこの相手に負けるかもしれないと思うほどでもなかった。そうして海老反りになりながらも敵の状態を把握していた彼はそのまま後ろに倒れ込む様に足を地面から離し、敢えて敵の蹴りの風圧を利用してその場を離れる。

 離れる、と言っても一歩分だ。そうして地面に着地した彼はその勢いを利用して足に力を込め、先程より遥かに速い踏み込みで切り込んだ。


「……霧化を多用しすぎだ。あれでは阿呆でもコアがどこにあるかわかる」


 霧化で自身の攻撃から逃れようとした敵に対して、アスラエルは左手で敵のコアを鷲掴みにして思い切り引っこ抜く。何度となく霧化で自分の攻撃から逃れていたのだ。コアの場所を見抜くぐらいわけがなかった。


「今は亡き我が同胞達に誓おう。此度の戦い、負けはないと……ふんっ!」


 アスラエルは僅かな黙祷と共に、問答無用で鷲掴みにしたコアを握りつぶす。圧勝と言っても良いだろう。本来、エルネストとてこの程度の相手は一対一なら勝てた。が、半日以上もの連戦に次ぐ連戦で体力と魔力を大きく消耗した後だから負けたのである。彼よりはるかに上の戦士であるアスラエルなら、この劣化した状態の敵に圧勝出来て当然だった。


「……此度の戦。我らの勝ちだ」


 あの時以上の戦力を揃えられている。なら、負けない。アスラエルは圧勝で終わりつつあるこの戦いを見ながら、それを確信する。そうして、彼は主へと戦いの結果を報告すべく神殿都市の外壁の上まで戻る事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1417話『魔王圧勝』

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