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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第68章 四大祭・秋編

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第1415話 闇夜を前に

 ソラが賢者ブロンザイトと出会って数日。ひとまず彼の意向により、ブロンザイトの弟子であり義理の息子とも言われているトリンは冒険部預かりとなっていた。それについては問題はさほど無かった。結局、冒険部としては新たに人員が一人増えただけだし、その程度ならよくある事だ。そして手伝いと言っても特段してもらう事はない。なので結局はこの後の為に顔合わせを行った、という程度でしかなかった。


「何かが変わるわけでもなく、と……まぁ、そりゃそうか」


 結局何も変わらなかったといえば変わらなかった現状にカイトは当たり前か、と少しだけ笑みをこぼす。結局、屋台は屋台で相も変わらずの盛況ぶりだし、流石は彼の主催する四大祭と言う所で祭りは大盛況だ。それについては敢えて言えば、何時も通りといえば何時も通りと言える。三百年留守にした彼が知らないだけだ。


「ふぅ……」

「ふぅ、と呑気に緑茶でも飲んでそんな事を呑気に言っておるがのう。お主、気を抜き過ぎではないか?」

「あっははは。大丈夫だ、問題無い」


 後ろから掛けられた声に、カイトは僅かな覇気を漲らせる。色々と調整して、今日はカイトもティナも休みだ。休みだが、それは今日の夜に備えて休みとしていただけだ。


「今宵は新月……はっ。忘れる事もねぇよ」


 カイトは獰猛に笑いながら、昼日向に見える月を見る。やはり月の巡りがある以上、エネフィアにも新月はある。それは二つの月があろうと変わらない。

 と言ってもやはり月が二つある分、周期などから一月に一回あるわけではない。二つの月の周期が重なるタイミングだ。夜に二つの満月が出るよりも遥かに少ない回数だった。

 そしてその新月を、邪神の信徒達は吉日としていた。わかろうものだ。カイト達にとっての吉日は二つの月が満月となる日。それに対して敵は月と太陽を敵としている。その吉日と逆になるのは、自然な流れだった。


「今年は色々と吉凶が重なるもんだ……良いねぇ、楽しいじゃねぇか」

「珍しいのう。何時もなら凶事となれば嘆くお主が笑うとは」

「あっははは……知ってるだろう? この戦いはエネフィアだけのものじゃない。オレにとって……地球で生まれ、エネフィアで育ち、そして二つの世界を結び付けんとしたオレにとってはとてつもなく意味のある戦いになる。これは、その前哨戦だ」


 カイトは今までの月日を思い出す。何も知らずただがむしゃらに駆け抜けて、最期に後悔を得た旅路。それが終わり、友を得て愛する者を手に入れた二度目の旅。戦いを終わらせ、友と共に民の為に奔走した日々。その果てに待っていた別れ。そして、二度と帰る事のないと思っていた地球への帰還。


「……オレが地球に帰った意味は、この為にあったのかもしれない」


 目を閉じると、それだけで地球で得た友達を思い出せる。エネフィアでの奇妙な縁で出会ったアーサー王とその騎士達。軍神の名に違わぬ策略により、カイトを見出してその後ろ盾の一人となった軍神にして神々の王インドラ。自らの策略と想いにより、彼に協力する事を決めた大軍師にして道士・太公望。

 そして、誰よりも彼が信頼し尊敬するかつての恩師であり、かつての義理の父の転生・ギルガメッシュと、その友エンキドゥ。それ以外にも敵であった筈が、ティナが唯一対等と認める少女にしてかの堕天使ルシフェルの縁により遂にはカイトと友誼を結んだ四大天使達。神話に違わぬ知識欲によりカイトへの協力を自ら望んだ北欧のオーディン達。その彼らは、カイトという縁により一つになりつつある。


「……この為に、オレは今まで準備をしていたのかもしれない」


 小さく、カイトはつぶやく。今、この世界にカイトは戻ってきた。そして今ではもう、彼にとって二つの世界とは垣根のない存在に変わっていた。そんなカイトに、ティナが呆れ返った。ずっと昔、彼が言っていた事の真実を彼女は聞かされた。


「全く……お主にはほとほと驚かされる。最上位の世界間転移術……まさかその様な物とはな」

「凄いだろう?」

「チートじゃチート。余では出来んではないか」

「時乃に頼め。それで出来るぞ」


 くすくすくす、とカイトは不満げに口を尖らせるティナに笑いかける。そう、あの時何も言えなかったのは当然だった。この転移術には時乃、つまり時の大精霊の力が関わっていた。


「無理じゃ。余にも……時を歪め、二つの世界の時を同期して転移するなぞのう。お主の経過時間に合わせ、二つの世界の時を同期させる。一年という概念での世界間の同期……あの大時計を見ればこそ、そしてあの大時計に影響させられればこその……うむ。魔法ではないか。敢えて言えば転移魔法。既存の何とももはや比べ物にならんわ」


 転移術なぞという言葉では生ぬるい。ティナは言外にそう語る。そう、これは転移術ではなく、転移魔法。世界を歪める魔法の領域だった。


「だーってお前も好きだし、ルイスも好きだし、みんな大好きだ。出来るだけ寂しい想いなんてさせたくないからな」

「こーんの女誑しめが」


 嬉しいと思うのは、仕方がないのだろう。ティナはこれが心の底からのカイトの本心であり、その為にこんな魔法まで開発してみせた事を分かればこそそう思う。

 この魔法を開発する為に彼がどれだけの労力を掛けたのか。それはティナにもわからなかった。わからなかったが、少なくとも並大抵の事ではない事はわかる。相も変わらず全ては己の愛する女の為。カイトらしかった。それ故、彼女は楽しげにカイトの膝に座り、その胸に後頭部でヘットバットを仕掛けるに留める。


「ん……なんか良いな、これ」


 自らの膝に座るティナを後ろから抱きしめて、カイトは満足げに頷いた。


「……この剣……もし二つの世界を束ねる為に使えるのであれば」


 カイトが手にしたのは、とある剣。少し前に彼が振るった王の証。<<無銘(星の剣)>>。この武器は強大な力を持つ筈のカイトでさえ振るう事を躊躇うものだ。が、それでも。この戦いにおいてだけは、振るう事を躊躇わない。いや、躊躇う気持ちが生まれなかった。


「……さぁ、来いよ。お前達が相手にするのは、真の王……二つの世界を束ね、戦いに挑んでやる」


 この剣があれば、カイトは己の望みが達せられる事を理解していた。あのシャルロットの復活に際してこれを使ったのは、単に面倒だったから、威厳を示すだけではない。この武器がこの世界でもしっかり使えるか確認する為だ。そしてそれは確かに、カイトの意思を受けて絶大な力を発揮した。つまり、使える。


ヒエロス・ガモス(聖なる結婚)……なるほど。必要だ」


 カイトの主観における数年前。カイトはこの剣の担い手となった時、とある三人の女神を彼個人の守護者、個人神とした。それは地球上最も古い女神達だ。

 理由は、この剣を安易に振るわないという安全保障。カイトの事をよく知らない者たちに対して、三女神が彼が安易に振るわない事を保証したのだ。そして、地球における最古の女神が保証した、という事はエネフィアでも有効だった。どこであれ星における最古の女神が保証する、というのはそれだけである程度の保証となった。


「……行こう、ティナ。戦いだ……オレがオレだけが為せる戦いだ。そこには、お前が必要だ」

「うむ……余は魔王。この世界において魔族を統一せし魔帝……お主の側に相応しい女よ」


 カイトの言葉を合図に、二人は立ち上がる。まだ、戦いは始まらない。これは号砲、狼煙だ。まだ、戦いの本番ではない。相手を待ち構える為には、まだ戦いを始めてはならない。が、この戦いはどちらにとっても狼煙となる。そうして、二人はその狼煙を上げる為、最後の一日をスタートさせるのだった。




 さて、カイトとティナが対邪神の最後の一日をスタートさせた一方。ソラもまた今日はブロンザイトとトリンの二人と一緒だった。それは言うまでもなく、対邪神との戦いに備えたものだった。そんな三人が居たのは、カイト達に頼んで貸してもらったとある建物の屋上だ。それは神殿都市のある場所が見渡せる絶好の場所だった。


「……」

「わかるかね? 地脈の流れ。敵の思惑。敵がどんな存在であるか……そういった物を考え、敵がどう動くのかを見抜くのじゃ」


 深い。ソラはただ一言で言い表すのならそうとしか言えないブロンザイトの言葉に只々敬服していた。間違いなく、自分の思考の数歩先を行っている。いや、下手をすると数歩どころか数十歩先を行っているかもしれない。少しの話し合いでさえ、ソラはそれを思い知らされた。


「その観点で言えば、今日この時この場に来る事は明白。ほれ、あの者を見よ。一見すると観光客に見せておるが……」

「可怪しい、ですね……」


 明らかに、何かを警戒していた。顔には覚悟が滲んでいて、観光客や祭りを楽しむ者たちとはひと目で違うと理解出来た。


「うむ。こうやって、敵を観察する。そして動くのは何時か、と推測する。これは今日に相違あるまいな」

「何時もより数が多いんです。彼と彼……この数日毎日来ていた人ですが、他にも彼らと努めて視線を合わさない様に、もし出会っても妙な反応をしている人が数人……敢えて、自分達での接触を避けていると言える人物。それがおそらく仲間と見て間違いないでしょう」


 ブロンザイトの言葉を引き継いで、トリンがソラへと解説する。この数日話してみてソラもはっきりと理解した。トリンはトリンで確かにブロンザイトの弟子に相応しいだけの知性と観察眼を持ち合わせていた。


「努めて、目を合わさない様にしている。その視線は逆に言えば自然ではない。余所余所しいとでも言うべきかもしれません。敢えて接触しない様にしている事こそが何かがあるという証拠なのです」


 仕方がないだろう。ソラはトリンの言葉にそう思う。なにせ敵からすれば仲間だと悟られるわけにはいかないのだ。ならば、努めて接触しない事。それが重要だ。が、それを意識すればそれは淀みとなり、動きの違和感となる。それを、彼らは見抜いていた。


「……であれば、ここはまず狙おう。ここなら最も被害が生まれるが故な」

「……」


 こう言いながらも動きを見せないのだ。つまりは、そういうこと。ソラは言外の二人の言葉を悟る。そうして悟ったソラへとブロンザイトが頷いた。


「うむ。正しい判断じゃ。これで全てでは無いじゃろう。儂らが見た限り、さらにいくつかのポイントを彼奴らは狙っておる。敵が同時に事を起こすのであれば、こちらも同時に捕らえるしかない。決して一人も逃してはならぬ」


 ゾッとする。ソラは二人が味方であればこそ感じる安堵と共に、背筋を凍らせる。どこまで見抜いているのか。それが分からなかった。


「ここは……俺が?」

「うむ。顔は覚えたな? 見方も教えた。トリン、お主もソラを補佐してやれ」

「はい」


 やはりブロンザイトという師の下だからだろう。トリンの頷きにも迷いはなかった。ブロンザイトは全体の統率に協力している為、彼がソラの直接的なフォローをしてくれる事になっていた。


「うむ。では、一人足りとも逃すな」

「「はい」」


 出来ないとはソラは言えない。なにせ出来ると言われ、そして真実出来るだけの力がある事を教えられた。賢者の賢者たる所以。彼に更なる力を教えてくれたのだ。


「ソラさん。シャムロック様には既に支援を申し出ています。存分に、力を使って大丈夫です」

「ああ……」


 やれるな。ああ、やれる。ソラは自問自答して頷いた。この数日の付け焼き刃だが、元々言われた事と似た事は出来ていた。ならば、出来ない道理はない。そして練習では成功している。後は、本番で成功させるだけだ。


「……うし」


 やっぱり賢者は自分とは頭の出来が違う。ソラはそれを理解しながら、気合いを入れる。そうして、彼は彼で準備に勤しむのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1416話『闇を掲げて』

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