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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第68章 四大祭・秋編

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第1414話 賢者ブロンザイト

 賢者ブロンザイト。三百年前の戦いにおいて、カイトが数度協力を得た相手。ソラは自らの苦境を理解してカイトへと頼み込んでその伝手を辿る事により、彼との会合を果たす事になっていた。


「さて……それで話はカイト殿から聞いておるとも」


 椅子に腰掛けて適度な挨拶を交わした後、ブロンザイトがソラの目を見て告げる。その目は柔和で、賢者というよりも徳の高い老人に見えた。そんな目で見据えられ、ソラは得ていた緊張がほぐれる感覚を得る。


「えっと……有難うございます」

「うむうむ……さて。これについて別に儂は拒まぬし、トリンも良いと言うておる。快く受け入れよう」

「良いんですか?」

「うむ」


 ソラの再確認に対して、ブロンザイトは柔和に笑いながら頷いた。それに、ソラは今度はトリンを見る。それを受けて、彼も頷いた。


「あ、はい……僕も構いません。この三十年で誰かと一緒に居なかったわけではないですし……幸いソラさんだと話しやすいです」

「そうか……うん、ありがとう」

「いえ……」


 やはり少しおどおどしながらではあるが、トリンはソラを良い人物だと受け入れていたようだ。であればこれは彼としても師に配慮したりしたが故の決断ではないのだろう。それも無いとは言えないが、それが全てとも言い難い。


「さて。では、これからについてを話す事にしよう」

「あ、はい。収穫祭が終わったらすぐに?」

「む?」


 ソラの問いかけにブロンザイトがぱちくり、と目を瞬かせる。そうして、彼は楽しげに笑った。


「ははは……それはせぬよ。そもそも儂らがこちらに来たのは確かにカイト殿の苦境や支援の申し出があるだろうと見通しての事であったが、それ以外にも来たのであるからには色々としておきたいことやせねばならぬ事もある」

「あ……す、すいません……」


 それはそうだ、としか言い得ない事をブロンザイトより指摘されてソラは恥ずかしげに頭を下げる。カイトが支援を求めるだろう、というのはブロンザイトが見通していた通りだし、その話についてはカイトが詳しく聞いていた。そしてそれについてはなるほど、とカイトも思わされた。

 が、それだけでこちらに来たわけではない。彼にも彼の思惑があるわけだし、せっかく来たのに何もしないで移動というのも折角のこの大陸最大の領地だというのになんだろう。


「ははは……まぁ、君はまずは近視的な視点を治すべきなのかもしれんのう。どこまで出来るかはわからんが、儂の所に居る間はそこらも指摘してやろう」

「有難うございます……」


 やはり自らの不出来な点を指摘されたからだろう。ソラは非常に恥ずかしげで、顔を真っ赤にしていた。そうして和やかなムードで始まった今後の予定を話し合う場は、ようやく本題に入った。


「まず収穫祭明けから一ヶ月ほど、こちらに滞在する」

「一ヶ月……ですか?」


 意外と長いな。ソラは出立の準備を既に整えていたこともあって、そう思った様だ。カイトもそう思ったが、彼の申し出を聞いて納得していた。そしてこれは彼らが勇み足だったというだけで、別に不思議はなかった。


「うむ。まぁ、今回は少し予定外の横道じゃからのう。些か急いだ感はある」

「あはは……長ければ年単位で滞在する事もあるんです。が、今回は次の所で少し困り事が起きているとの事で、急ぎたいんです」

「良かったんですか、それなのに……」


 トリンの気軽げな言葉に対して、ソラは驚いた様に問いかける。が、これにブロンザイトもまた気軽げに頷いた。


「うむ……実は次に向かう地にて流行病が蔓延しておってのう。カイト殿に頼んで薬の用意をして貰っておるんじゃ」

「流行病といっても死人が出まくる様なものじゃない。黒死病……ペストというより、インフルエンザとかと思え。で、ここからやっぱり流行するだろう?」


 ブロンザイトの言葉を引き継いで、カイトが現在公爵家で行なっている支援の一環を述べる。ここらは、表向きブロンザイトに対する謝礼の一環と捉えれば良い。これがカイトがなるほど、と思わされた理由だった。そしてそんなカイトの問いかけに、ソラもまた頷く。


「季節が季節だもんなぁ……」

「ああ。やっぱり冬が近いとどうしてもな。例年だともう少し遅いんだが……今年はどうやら流行の兆しが少し早いらしくてな。ブロンザイト殿がそれを知り、オレが支援を頼まれたんだ。お前もうがい手洗いは欠かさずな。弟子入りしてご迷惑をお掛けしちゃ世話ないぞ」

「ミイラ取りがミイラにならない様に気をつけるよ」


 既に秋口を越えて、気温は段々と低くなってきている。それを考えれば風邪などが流行る時期は近くなりつつあった。

 ソラがこれから向かう事になるという地ではその流行病が流行の兆しが見えつつあり、大流行になる前に根を絶ってしまおうというブロンザイトの判断だった。そうして、そんな彼がそこらを詳しく教えてくれる。


「うむ。それで、衛生管理と薬学であればこのエネフィア一と言えるマクダウェル家に支援を申し出ての。もしお主が儂への弟子入りを遠慮しておるのであれば、カイト殿にきちんと礼を頂いておるよ」

「ウチとしても、道義的に見ても悪くない判断だ。なのでこの話は受けさせて頂いた。そういうわけだから、お前も存分に学ばせて貰って来い」

「すまん、感謝する」

「あはは、気にするな」


 珍しくカイトに深々と頭を下げたソラに、カイトは少し照れ臭そうに笑う。そんな一幕の後、ブロンザイトが一つ頷いた。


「とまぁ、そういうわけでのう。これから一ヶ月後、ラグナ連邦へと向かう事にしておる」

「ラグナ連邦ですか?」

「うむ。西の大国じゃ。その田舎町いくつかにて流行の兆しがあってのう。おそらく儂らが発つ一月先には、かなり拡大しておるはずじゃ」

「パンデミックを引き起こす前になんとかしたいそうだ。それを考えれば、今から準備しておけばパンデミックは防げる。今がその最後のタイミングでな。ラグナ連邦も話を聞いて、受け入れ体制を整えてくれている」


 どうやら、ソラ達が気づかないだけでカイト達は公爵としてきちんと活動しているらしい。ブロンザイトの説明を引き継いだカイトがいつの間にか用意していたラグナ連邦からの許可証等を見せてくれた。どうやら既に向こうもパンデミック阻止の為に動いていて、人員の往来を制限してくれているそうだ。

 が、まだ本格的な流行が無いため、制限も限定的らしい。ここらはどうしても文化風習、その他科学水準等の差で仕方がないそうだ。条例や法の整備が整っていないのである。そしてそこらを聞いて、ソラも一つ頷いて快諾した。


「そっか、わかった。まぁ、任せて下さいよ。これでも冒険者でランクBまでたどり着いてるんで。盾役として身体は丈夫だし、力もあります。荷運びとかなら、思いっきりこき使ってください」

「そうかそうか。では、頼りにさせてもらうとするかのう」

「はい」


 柔和に笑うブロンザイトに対して、ソラははっきりと頷いた。そうして種々の話し合いが持たれることになるわけであるが、そこでブロンザイトが一つ告げる。


「っと、そうじゃ。実は一ヶ月の期間をこちらで設けたのは薬が整うのを待つわけであるが、その間トリンにはお主に協力させたいと思っておるのじゃが……どうじゃろうか」

「「え?」」


 ブロンザイトの提案に驚いたのはソラだけでなく、その当人であるはずのトリンも一緒だった。どうやら知らされていなかったらしい。それに、ブロンザイトがため息を吐いた。


「お主、儂と違い一ヶ月暇じゃろう。これも勉強じゃ。何度か言うたが、お主には経験が足りぬ。積める所で経験を積ませて貰え」

「え、でも、あの……」


 やはり冒険者達の集団の中に飛び込んでいける様な勇気は無いらしい。トリンがどうすれば良いか分からず、困惑を露わにする。それに、ブロンザイトがどこか呆れに近い苦笑を浮かべる。


「まぁ、そうなるというのはわかっておるし、お主の心胆なぞ儂にはお見通しよ。そしてこれは相手があっての事じゃし、不足があってはならぬ。きちんと儂も補佐しよう」

「良かった……」


 ブロンザイトとしてもトリンの采配ミスで冒険部に被害が出るのはとてもではないが望んでいない。それを危惧しているトリンもまた、師の言葉に安堵を浮かべていた。とはいえ、だからといって全てをしてくれるわけでもなかった。


「が、主にはお主が動け。儂はカイト殿との間で諸々の調整が必要じゃ。何時もいつでも支援をしてやれるわけではない」

「が、頑張ります……」

「うむ」


 おっかなびっくりという具合のトリンに対して、ブロンザイトはどこか威圧的な様子で頷いた。やはりここら、身内というわけなのだろう。二人の様子は先ほどまでとは随分と異なっていた。と、そんな身内のやり取りを終わらせたブロンザイトはカイトへと頭を下げる。


「おぉ、失礼しました。この通り、まだまだ不出来な所の多い不肖の弟子ですが……教えられる事は全て教えたと自負しております。改めてお願い致す。どうか滞在の間、こき使ってくだされ」

「あはは……ええ、先に聞いております。すでにこちらでも椿に命じ、部屋と準備の手配を進めています」

「かたじけない」


 ブロンザイトはカイトの応諾を受けて再度頭を下げた。トリンはもうすでに三十年も彼に弟子入りしている。いや、確かに拾われたのが三十年程前なので正式に弟子入りしたのは二十数年前という所だろうが、それでも弟子入りして二十年以上というのは十分な時間と言えるだろう。

 そろそろ、学んだ事を活かす段階に入っていてもおかしくはない。後にソラがブロンザイトから聞いた所によると、それ故にこういう機会があればちょくちょくトリンが主体的に動ける様に手はずを整えているとの事であった。と、そんなブロンザイトの感謝に対してカイトも一つ頷いた。


「ええ……それにソラとしても今後の旅でいきなり組むより、今のうちに連携やトリン殿のやり方を把握しておくのは大切でしょう。逆にトリン殿と共に動く事もあるでしょう。こちらとしても基本、ソラと組ませて動く様にしておくつもりです」

「あ……そうか。そういう可能性もあるんだよな……」


 カイトの指摘でソラも何故この申し出を彼が受けたのかを理解する。これからソラはブロンザイトに弟子入りして動くわけであるが、そこには必然としてトリンも一緒だ。

 であれば、彼と共に動く事があるかもしれないのだ。そんな時にその時になって連携やお互いの趣向を把握するより、せっかく時間があるのだから今から慣らし運転の様に慣らしておけば良いだけの話だった。


「うむ……基本的には儂がお主の面倒を見るつもりであるが……やはり儂にも立場や名があってのう。どうしてもお偉方との会談となると、儂が矢面に立つ事になる。そんな中、やはり裏で動いたりしてもらうとなれば二人となる。そこは慣れてもらうしかない」

「わかりました」

「はい」


 やはり師の言葉となると普通に応じられるらしい。ソラに続いてトリンもまたはっきりと頷いた。そうして両者の同意を得られた事で、カイトは一つソラへと指示を出した。


「ソラ。そういうわけだから、お前が皆には紹介をしておいてくれ。オレはもうしばらくブロンザイト殿との間で相談をしておく必要があってな。部屋とかは椿に聞いてくれ。手はずを整えてくれている」

「あ……まだ色々あるのか?」

「お前な……最初から話し合いに参加してただろ。薬の状況とか色々と打ち合わせておく必要があるっての」

「あ……そか。すまん……じゃあ、トリン。こっちに一緒に来てくれ。みんなに紹介しておくよ。ホテルの部屋とかも案内しないといけないしな」

「あ……はい。お願いします」


 やはり冒険者が相手となるからだろう。トリンは一瞬だけ気合を入れる様に間を空けた後、一つ頷いた。そうして、ソラと共にトリンが去っていく。そうしてその背を見ながら、カイトは一つ頷いた。


「……さて……それで薬の状況ですが、ひとまずリーシャが調合した薬の量産体制は整いつつあります。所詮、量産品という程度の効能ですが……今回の流行病程度ならそれで十分でしょう」

「かたじけない。あの地域は例年、感染症が蔓延しやすい。早い内に食い止めておかねば、と何度も執政官殿には言っているのじゃが……」

「所詮、民主主義も貴族主義も根は人の根だ。民主主義だろうと、いや、民主主義だからこそ腐敗する事もありますからね……おそらく、どこかに企業と繋がる腐敗した官僚がいるのでしょう。ハイゼンベルグ公に頼んで裏からなんとか出来ないか試してみましょう」


 どこの世界でもどこの政治体制でも、どうしても腐敗だけは避けられない。民主主義だろうとそれは変わらない。そしてどうやら、ここらでの流行病の流行にはその腐敗が絡んでいるらしかった。二人の会話からは、それが見て取れた。


「かたじけない。これと目星は付けております。上手くやれば、来年の後半にはあの一帯を芋づる式になんとか出来るでしょう」

「……来年には、ですか」

「儂一人では、腐敗した官僚を一人駆逐するだけで手一杯という所です。隠者故の、というわけですな」

「隠者は隠者故に力を持たない、か……わかりました。後は私が引き受けましょう」

「此度の旅で得た所感などについては、お手紙にしたためておきます故……それを頼りに」


 ソラ達には語っていなかったものの、ブロンザイトはパンデミックが起こる原因を根本から無くすだけではなく、流行病が連続して起きる原因を取り除こうとしていた。

 が、それを全て取り除くにはやはり力が居る。隠者ではどうしても持ちえない権力や武力という絶対的な力。それを持つのが、カイトだった。それを借りようというのが、今回の本当の理由だった。


「わかりました。後事については、心配なさらず。全て当家が取り計らいましょう。貴殿は前のみを見て、お進みください」

「かたじけない」


 カイトの明言にブロンザイトは微笑んで頭を下げる。そうして、更に彼らはソラ達には語らなかった様々な事を語り合い、彼もまた出立に備える事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1415話『闇夜を前に』

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