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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第68章 四大祭・秋編

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第1403話 皇帝来訪

 天桜学園の屋台に興味を示した皇帝レオンハルトへの応対をする為、皇帝直属の使者と応対したり衛生管理を入念にチェックしたりと行っていたカイト達天桜学園関係者一同。朝一番にカイトが檄を飛ばして数時間後の正午の少し前には、皇城側の警備責任者や衛生面の確認の責任者が天桜学園関係者が宿泊するホテルへとやってきていた。


「お待ちしておりました。天音 カイト。学生側の代表です」

「おぉ、貴方が……」


 カイトから差し出された手に、どこか警備責任者が感動した様な様子で握手に応ずる。彼らも相手が勇者カイトその人だと聞かされていたのだろう。

 とはいえ、カイトが直々に出迎えたのは理由がある。彼自身が言った様に、彼は学生側の代表。この場では実際に屋台を動かす従業員のトップと言って良いだろう。相手を考えても彼が案内するべき場だった。


「では、桜田の所に案内します」

「有難うございます」


 歩き出したカイトの後ろを、皇都から来た職員達が続く。その道中、やはり話題になったのはこれからの事だ。


「なにかそちらに変更はありますか?」

「いえ、陛下も皆さんの所での食事は非常に楽しみになさっておいで。ですので、予定に変更はございません」

「そうですか。それは良かった。こちらもすでに仕込みなどが終わり、後は陛下の前で最後の仕上げを行うのみとなっております」

「それは良かった」

「ええ……そう言えば、陛下の会食のお時間にも変更はなく?」


 やはり実際に皇帝レオンハルトが来る直前だからだろう。カイトは再度幾つかの事に確認を行っておく。ここらは天桜学園として招く側としての責任もあるし、カイトとしてはマクダウェル公爵家として皇帝の身の安全を確保するという責任もある。どちらの意味でもしっかりと相手方の責任者から聞いておくのは必要な事だった。


「はい、そちらにも変更はなく」

「わかりました……ああ、着きました。こちらです。校長、天音です」

『ああ、うむ……良いぞ』

「はい……では、こちらへ」


 カイトは扉の先から聞こえてきた桜田校長の許可を得て、警備責任者達を学園関係者が本部として使っている部屋の先へと案内する。桜田校長はいつも着物だが、やはり今日は皇帝レオンハルトが来るからか中津国で仕立ててもらった上物の着物を着ていた。そんな彼は警備責任者達が入ってくると即座に立ち上がって頭を下げる。


「お待ちしておりました。天桜学園校長、桜田です」

「ああ、ありがとうございます。警備責任者のヘルマーです」

「衛生管理局の……」

「皇帝陛下専属調理人の……」


 桜田校長の挨拶を受けて、皇国側の職員達が挨拶を行っていく。それが一通り終わった所で、カイトが口を開いた。


「校長。自分はひとまず、これにて。まだ作業もありますので……」

「うむ。後は引き継ごう。そちらも怠りの無い様に」

「はい……では、失礼します」


 桜田校長の許可を受けて、カイトは学園関係者が本部にしている部屋を後にする。基本、ここでのカイトは学生だ。なので基本的な応対は教師達がする事になっている。

 そしてカイトには実際に皇帝レオンハルトを迎え入れる際の手はずを整えてもらう必要もある。あと幾許の猶予も無いのだから、ここで話されるより作業に戻って貰う方がどちらとしても得だった。


「さて……そろそろオレも服を着替えないとな」


 やはり皇帝レオンハルトが来るというのだ。本来の彼であればいつもの白いロングコートでも問題は無いが、今回は学生という身分で動く。礼服に着替える必要があった。

 そして身だしなみを整えるのにも時間が必要だ。そろそろ着替えねばならない時間だった。と言っても幸いにして彼は椿に用意を依頼している。なのでさほど時間は必要なかった。というわけで、部屋の外の見えない所に待機してくれていた椿へとカイトは問いかける。


「椿。礼服は?」

「はい、隣のお部屋にご用意させて頂いております」

「助かる。一応外で作業をしていた関係で、シャワーだけは浴びてくる。陛下も血統としては獣人の色が濃い。身体能力は高い。匂いには気を遣うべきだろうからな」

「そう思い、そちらもご用意させて頂いております」

「愚問だったな。助かる」


 カイトは椿の返答に頷くと、そのまま隣の部屋へと入ってシャワーを浴びる事にする。別に入念に身体を洗うわけではなく、外の様々な屋台で付着した匂いや汗を洗い落とすだけだ。なので手早くシャワーを浴びると、椿が用意してくれていた礼服に袖を通す。


「相変わらず、この貴族達の礼服には慣れんな」

「お似合いかと思いますが……」

「そういう事ではないさ。元々、礼服の着用は免除されているからな」


 皇帝の前であれ武器の帯同を許可されるカイトだ。当然だが、大半の場において礼服に袖を通す必要はなかった。というより、どちらかと言えば彼の場合は呼ばれる時は大半勇者カイトとして呼ばれている。なので礼服より冒険者や戦士としての格好の方が好まれた。

 しかも彼の場合は白をベースとした衣服だ。逆にロングコートを若干短めにして黒にして、内側を白にすればそれだけで礼服にも見える。そしてそれだけで貴族達との話題の一つに出来る。楽だし、見栄えの観点から問題視される事はまず無かった。それ故、着慣れていないのだ。


「……良し。これで良いかな」

「はい、問題ございません」

「良し」


 やはり礼服などの着こなしであれば、専門の教育を受けている椿の方がカイトより遥かに知っている。なので彼女の頷きにカイトは安堵して、改めてさっと襟を整える。整ってはいるが、気を引き締める為の儀式とでも思えば良い。


「では、行ってくる。こちらでの全体的な統括は任せる。追って、桜達も来る。彼女らの補佐をしてやってくれ」

「かしこまりました」


 椿は基本はメイドだ。なので皇帝レオンハルトの前に連れて行く事はない。一介の生徒が皇帝の前にメイドを連れて行くなぞ無礼だろう。そしてカイトは椿に後を任せると、天桜学園の経営する居酒屋の屋台へと戻る事にする。そこには着替えや警備責任者達との応対の為に一時的に離れるカイトに代わって桜達が作業を行ってくれていた。


「桜。助かった」

「あ、はい。そちらは?」

「変更は無いそうだ。先方の責任者も着た。もうしばらくすると、近衛兵も来るだろう。無関係の関係者は即座に退去する様に進めてくれ」

「わかりました。それに合わせて、私達も」

「ああ。しばらくオレは応対が取れない。その間は頼んだ」


 やはり何よりも優先されるのは皇帝レオンハルトの応対だ。が、カイト達はそれ以外にも屋台を抱えている。上層部全員がこちらに応対するわけにもいかない。

 なので男連中が皇帝レオンハルトの応対に当たる一方で、桜と瑞樹がその残りの屋台の統率を行ってくれる事になっていた。そうして退去する人員の統率を始めた桜の横で、カイトは睦月ら残って作業を行う面子と共に作業を引き続き行う事にする。


「睦月。現状は?」

「はい。煮物など下拵えが必要な物は完璧に終わっています。焼き物も肉などは冷凍していないので、問題はないです」

「野菜は?」

「全部問題無い事を確認しました」


 やはり相手は皇帝レオンハルト。それも口に入るのだ。例えばレタスであれば葉っぱ一枚一枚に至るまでしっかりと水洗いされて、今は皇都の衛生管理局の職員と公爵家の衛生管理局の職員達により検査されて特殊な魔術で清潔な状態が保たれる保管庫の中で保存されている。下拵えも終わっている料理も同様だ。

 職員達が確認したのは毒物の混入を出来なくする為だ。その保管庫は近衛兵達が守っているので、料理を行う睦月でさえ触れる事は出来なかった。と、そんな睦月の報告に頷いたカイトへと、桜が報告にやってきた。


「良し……」

「カイトくん。では、こちらはもう」

「ああ、わかった。後は任せる」

「そちらも、頑張ってください」

「オレが頑張るわけじゃないさ……じゃあ、またあとでな」

「はい」


 カイトの激励に頷くと、桜も少し駆け足でその場を後にする。やはりもう来訪が近いからだろう。周囲の屋台は開いているものの、通行はかなり制限されていた。そしてそうこうしている内に、どうやら桜田校長達の話し合いも終わった様だ。彼が皇都の職員達と共にやってきた。


「天音くん」

「ああ、校長。お話は終わった……様子ですね」

「うむ。そちらの状況はどうかね」

「こちらも、すでに。後は陛下のご来訪をお待ちするだけです」


 すでに従業員達は全員、支度を終えて所定の位置に着いている。カイトが睦月と話をしていたのは最後の確認の為だ。やはりここは居酒屋がメイン。その料理人である睦月が今回料理に携わる者たちの統率者だ。最後まで打ち合わせを、というに過ぎなかった。


「そうかね……では、そのままお待ちしなさい」

「はい」


 桜田校長の言葉にカイトはそのまま皇帝レオンハルトを待つ事にする。とはいえ、やはり彼も立場があるので密かに警備を取り仕切る者としてマクダウェル家側に通信を入れる。


「オレだ……警備に異常は?」

『は。警備に異常は無し。陛下の周囲50メートルに不審者は見当たりません』

「良し。そのまま警護を続行しろ」


 自身が密かに付けている護衛達からの返答に、カイトは小さく頷いた。関係者達が全員集まっているのだ。すでに皇帝レオンハルトも移動を開始していた。

 そして、およそ十分後。一台の馬車が屋台の前で停車した。この祭りの最中に周囲を封鎖してまで馬車を走らせる事が出来る者は、この皇国において一人だけ。皇帝レオンハルトのみだ。彼が到着したのである。


「「「いらっしゃいませ」」」

「うむ、馳走になる」


 カイト達の出迎えの言葉――カイト以外全員かなり上ずっていたのはご愛嬌だろう――に対して、皇帝レオンハルトも微笑んで頷いた。当然であるが、これはマスコミ好みの来訪だ。彼の、そしてカイト達の一挙手一投足がマスコミに見られているし、撮られている。この姿ももちろん、撮られていた。


「陛下。お待ちしておりました」

「おぉ、桜田殿。久しぶりか」

「ええ……皇都にお招き頂いた時以来でしょう」

「それぐらいになるか」


 桜田校長の挨拶に対して、皇帝レオンハルトもまた頷きを返す。そうして少しの社交辞令の後、皇帝レオンハルトは今回連れてきた妻を紹介する。


「フィオーナ。最も長く連れ添っている妻だ」

「はじめまして」


 皇帝レオンハルトから紹介を受けた女性が優雅に頭を下げる。最も長く連れ添った妻。即ち、彼の正室と捉えて良いだろう。まだ皇太子となる前、やんちゃ者時代の皇帝レオンハルトの頬に紅葉を作った猛者だった。第一子であるリオンハルトの母でもある。

 と言っても、カイトも桜田校長も彼女の事は知っている。以前内々に招かれた際に紹介は受けているからだ。が、それは正式な事ではない。なのでこの場ではそれは無かった事にされているから、というわけであった。


「お待ちしておりました、奥方……では、天音くん」

「はい。皇帝陛下、フィオーナ様。お席へご案内致します」


 桜田校長の促しを受けて、カイトが二人を席へと案内する。基本的に彼はウェイターではなく、皇帝レオンハルトの側に控えて彼からの質問に答える者だ。そうして席に案内すると、彼がメニューを夫妻へと手渡した。


「こちら、メニューになります。お決まりになりましたら、お声掛けを」

「うむ」

「ありがとう」


 カイトからメニューを受け取ると、二人はポーズとしてそれを見る事にする。一応、二人は他の客と同じ客だ。そこに貴賤はない。なので手順としては他の客と同じ様にメニューを見て決める事になっていた。もちろん、これはポーズ。予めメニューは皇国側に提出しており、何が食べたいか、どういう順番が良いか、ときちんと決めて学園側に連絡を入れてくれている。そうして彼らが一応のポーズを見せている間に、カイトはクズハへと連絡を入れていた。


『クズハ。そちらに問題は?』

『いえ、ございません。各所共に問題はなく……強いて言わせて頂ければ、叔父上が来て何時もの……いえ、叔父上がいささか過保護なぐらいです』

『そうか。彼も入られたか……近々ご挨拶に伺う、と連絡しておいてくれ』

『……行くんですか?』


 珍しく、クズハが声音に嫌そうな感じを満載させる。基本的に彼女と彼女の叔父はあまり相性が良くない。根っからのハイ・エルフとカイトに染まったクズハだ。色々と軋轢があるのだろう。

 そして実はそれだけではなく、とある理由から彼を苦手としていた理由があった。それもあって嫌そうな声音だったのである。なお、あくまでも苦手とするのは公人としての叔父であって、私人としての叔父は特に嫌いではない。


『当たり前だ……とはいえ、その程度なら問題はないな。引き続き、陛下の周辺に気を配れ』

『はい』


 カイトの指示にクズハは気を引き締めて仕事に戻る。クズハが冗談を言えるぐらいには暇だという事だ。なら、問題は起きていないと考えて良い。

 そしてその手配の終了を見て、皇帝レオンハルトが口を開いた。ここらは打ち合わせ済みの事だ。なのでカイトの手配が終わるのを待っていたのである。


「うむ……天音くん」

「はい、陛下」

「では、余は……」

「私は……」


 皇帝レオンハルトが注文を決めると、続いてフィオーナが注文を口にする。そうして、それを受けて天桜学園側の生徒達が一斉に調理に取り掛かる事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1404話『お食事』

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