第1402話 収穫祭 ――中間報告――
収穫祭が始まって数日。カイトは貴族達から寄せられる注文の矢面に立ちながら、自分でも空いた時間を使ってデートやら為政者として、主催者としてお祭りの様子を観察していた。というわけで、収穫祭が開始して数日が経過した事もあって一度マクダウェル公爵家一同で集まって今年の様子を確認しておく事になった。
「串に刺して焼くならこういう小さいのはどうか、と俺様は思うわけなんだが……中々に豪快に行けるじゃねぇか」
「豪快に行き過ぎだ、貴様は。串一つをまるごと一口とは……もはや尊敬さえ覚える」
「いや、確かにおっさんに関して言えばそりゃそうだが、オレは串から一つ一つ外すの反対だぞ」
公爵家一同が集まっているわけなのであるが、その会合の場はどういうわけか天桜学園の居酒屋だった。流れの冒険者に扮して合流していたのである。それにここなら睦月と皐月が居る。何かと口利きが可能だった。
「まぁまぁ。各自好きな食べ方で食べれば良いじゃない」
「ま、そりゃそうだ……では、各自ほうこーく」
「はーい。一番手、ユリィちゃん以下チビ軍団」
カイトの号令を受けて、ユリィが挙手する。基本彼女はクズハとアウラ、ソレイユらと共に街の子供に扮してお菓子を提供している屋台を見てくれていた。
フィーネが保護者役として居たので問題もさほど起きていない。そして小型化したこの面子だ。子供達が遊び回っている様にしか見えなかった為、誰もが英雄達だとは思わなかった。
「今年はやっぱり色々と創意工夫したお菓子が多かったかな。カイト達の来訪というか帰還というかに合わせて色々と新しい技術やら料理が開発されてるから、それを使ったものが多かったよ」
「にぃー、屋台でサイダー飲みたいから作ってー」
「ティナに頼め」
ユリィの報告の後に続けたソレイユの懇願に、カイトは軽くティナへとぶん投げる事にする。なお作って、と言ってもそれはここで作れ、という意味ではない。量産体制を作って、というわけだ。今すぐ出来るわけではない。そうして話を向けられたからか、次はティナが報告する事にしたようだ。
「今しばらく待て。炭酸飲料の量産体制の確保は意外と難しくてのう。あの阿呆共を片付け次第、そちらなどの平和的な方にも取り掛かろう……まぁ、流れで次は余かのう。クラウディアと共に女性向けの屋台に行ったわけじゃが……」
ティナはそう言うと、一つ苦笑する。クラウディアと共に出歩く事にしたは良いが、やはりクラウディアだ。各所で暴走してくれていたらしい。
「うむ。それはさておき」
「何があった……」
「気にするな……うむ。ユリィと同じ様にやはり異文化交流じみた事があったからか、女性向けの店舗はハイセンスな物が多かったのう。見栄えに凝った物も少なくない。SNSにでも投稿出来そうな領域の物も幾つかあり、行列も出来ておったな」
「なるほど。何時の世もどこの世界も女性が見栄えに拘るのは一緒か」
ティナからの報告にカイトは一つ頷いた。やはりここらは男の彼にはわかりにくい所だ。いくらアリスや冒険部女性陣から嫁に欲しい――婿ではない――と言われる彼であれど、男である。そういう所はわからなかった。
「さて……じゃあ、次はバカップル共」
「照れるなー……で、カップル向けのお店だね」
カイトの冗談に笑ってみせたルクスは一つ頷くと、ルシアと共に回っていた店舗の状況を思い出す。
「まぁ、僕らも去年までの事はクズハちゃんからの情報でしか知らないわけだけど、多分去年よりはどの店舗もカップル向けの物を提供している様な気がするかな。聞いてたより少し多いよ。いやぁ、僕ら老衰……で死んだわけだけど若返ってよかったよ。流石に老人の状態であれを飲むのとか恥ずかしかったからねー」
「あら。私はしても良かったですよ?」
「あれ……? もしかして死ぬ前でも出来たかも?」
「仲睦まじい事って」
ルシアの返答に僕も出来たんだけど、と思っていたらしいルクスが再びいちゃつき出したのを見て、カイトが肩を竦める。この二人は本当に何時までもバカップルだった。と、その一方でもうカイト以上に慣れているクズハがスルーして話を進めていた。
「去年末に少しカップル向けのドラマが流行りまして。で、そこから屋台でもそれにちなんだ物を提供していた、と聞いています。その影響でしょう」
ルクスからの情報を聞いて、クズハは去年の事を思い出す。この場で唯一――補佐のフィーネらを除けば――彼女は去年のエネフィアを知っている。なので流行り廃りも知っているわけで、今年は去年の流行りの影響で増えていたという事なのだろう。
「流行り、ねぇ……今年はどうなんだ? やっぱ旅してるとあまりわからなくてな」
「今年は逆にアウラの帰還やお兄様達のご帰還などがありますから、流行りとしては冒険物が流行っていますね。特に今は奴らの復活もありますから、尚更お兄様達の様な英雄達の物や冒険譚が流行っている様子です」
「まぁ、そうなるか」
わからないではなかった。やはり<<死魔将>>という最悪の敵の復活劇だ。公的にはカイト達の居ない今、民草の奥底には拭いきれない不安がある。それをなんとかしようとしたら、やはり重要なのはエンターテインメントだった。
となると、この状況ではやはり英雄譚や冒険活劇などが流行るのは道理だったのだろう。国側としても敢えてマスコミ各社にそういった明るい物を流す様に言っている可能性は高いし、国民達も奥底で望んでいるだろう。
「その関係かなー、やっぱり。子供向けの屋台は楽しめるものが多かったよ」
「そう言えば剣のおもちゃとか多かった」
「ふむ……」
今年はそうなるのは仕方がないか。カイトはユリィとアウラの報告に仕方がない、と納得する。なお、カイトの帰還後には今度は勇者カイトの帰還という事で彼にちなんだ物や冒険者などにちなんだ屋台が大量に増える事になった。
ということでこの流れは結局、しばらくの間は変わる事はない。が、これは今この時の彼らの与り知らぬり知らぬ事である。と、そんなカイトへとティナが先を促した。
「で、カイト。お主の方はどうじゃ。お主たしかデートの傍ら三羽烏揃い踏みとかで居酒屋巡りもしておったじゃろ」
「ああ、夜の部か」
やはりこの面子だ。居酒屋に入れる面子はさほど多くない。というわけで、カイトもまたデートの傍ら居酒屋巡りに協力していたらしい。とはいえ、これには理由がある。バランタイン達が本当に豪快ないわゆる正真正銘の居酒屋だとするのなら、カイト達は謂わばバー、おしゃれな屋台を中心としていた。
やはり若いカップル向けの大半は昼が中心だ。この祭りの性質上、夜は大人達の社交場となる。カイトもルクス達も若いカップルに偽装しているので、夜は手が空くのである。
「まぁ、こっちはオレが三百年前に見たのとさほど変わらないな。規模がでかくなってた、という程度か。奇を衒う様な物はそこまで無かったか」
「が、やはりデザインは俺達が生きていた頃よりも派手にはなっていたな」
「確かにねー。カイトの知識に合わせればネオンサインとかみたいなもの飾ってあったし……」
やはり何もかもが去年と違う、というわけではなかったらしい。夜の部については基本、大した変化は無かった様だ。それ故、天桜の屋台も売れ行きが良いのだろう。変わらない中でも特異性があるからだ。と、そんなカイト達の報告にバランタインも同意した。
「こっちも、似たり寄ったりだな。まぁ、そう言っても居酒屋なんでお前さんらの様にネオンサインが云々は無かったがな。いや、居酒屋でんな奇を衒われても困るっちゃあ困るんだがよ」
「そりゃ、確かに……にしても、おっさんマジで似合うな」
「あん? 何が」
「いや、徳利片手に酒飲む姿」
「そか?」
バランタインはやはり冒険者としても格の違う存在だからだろう。こうやってずっしりと座って飲む姿は中々に様になっていた。カイトの称賛に少しだけ彼が照れていた。
「が……あまり急いで飲むなよ。貴様は急いで飲むと吐くからな」
「わーってるって。ゆっくりちびちび飲め。飯食え。忘れてねぇよ」
「忘れてない、というのに何故いつも守らん……」
「豪快に飲む方が美味いだろうが」
ウィルの忠告にバランタインはおにぎりを頬張った。酒を飲んで悪酔いしない為には幾つか対策がある。その対策を守るべく、この場ではそれを厳守させていた。それ故、カイトも似合うと言ったのだ。
似合う姿で飲ませれば酔わないのに、豪快に一気飲みとかをするから悪酔いするのである。なお、この豪快に飲む姿も似合うといえば似合う。が、悪酔いする。なので何度注意されてもやるので、呆れ返られるというわけであった。今回は仕事なのでそこらを忘れずに、というわけだろう。
「まぁ、それはそれとして……三羽烏組は小洒落たバーに繰り出していたわけだが。飛空艇の影響かオレが思ってた以上に各地の酒も多いな。見知らぬカクテルも多かった」
「特に交流が盛んですからね、ウチは」
「善き哉善き哉、としておくか」
クズハの返答にカイトはそれを良しとしておく事にする。別に各地の酒が飲めるのはカイトとしても悪い事ではない。特に今年は皇国で大陸間会議が行われた。それの影響もあって尚更、各地の名産品が入ってきている様だった。そうして、更に幾つかの情報を交換して、カイトは一つ頷いた。
「まぁ、今回はこんな所か」
やはりまだ開始して数日だ。全ての屋台を見切れているわけではない。収穫祭は神殿都市全てを上げて行われている巨大な祭りだ。そして天桜学園の居酒屋の様に後半になってようやく提供出来る様なメニューもあるだろう。それを考えれば、一度見てそれで良し、というわけでもない。今回の報告会はこれにて終了となった。
「おーい、皐月ー!」
「何ー!?」
「揚げ出し豆腐一丁! あ、あと唐揚げ!」
「おーう! 俺にゃ枝豆たのまぁ!」
「はーい!」
報告が終われば、後は普通に飲み会だ。なのでカイトが追加注文を掛けたのに合わせて、バランタインも追加で注文する。そもそもここでしているのはまず天桜の屋台の売上に貢献する――当然だが全額カイト持ち――為だし、屋台の状況を観察する為でもある。終われば普通に晩ごはんだった。
「後はまぁ、適度に食うかね」
カイトは一つ頷くと、後は気ままに飲み食いするだけにする事とする。そうして、彼らはその後一時間ほどに渡って滞在して、日本料理に舌鼓を打つ事にするのだった。
さて、そんな飲み会もとい中間報告からホテルへと帰還したカイト。そんな彼を待っていたのは椿ではなく、皇国の使者の一人だった。何故皇国の使者かとわかったかというと、皇帝の使者のみが使える紋章を胸につけていたからだ。
「カイト殿」
「うん? 皇国の使者か。どうされた?」
「ええ……実は皇帝陛下が天桜の屋台に興味を持たれておいででして……」
「あー……」
今回の収穫祭の目玉の一つはやはりなんと言っても天桜の屋台三つだろう。街側もそれを考えて三つを別々の所に配置して、人の流れを分散させている。が、それでも混雑していたのだ。皇帝レオンハルトの食指が動いても不思議はない。
「日程などの調整を仰せつかりました。お願いできますでしょうか?」
「ああ、もちろんだろう。皇帝陛下の来訪だ。それは全てに優先される事だろう」
「ありがとうございます……それで、やはり陛下が三つの所に移動するのは流石に具合が悪い。なんとか一つに纏められないでしょうか」
カイトの明言に礼を言った使者はカイトへとそう問いかける。これに、カイトは即座に頷いた。
「ああ、可能だ。店は居酒屋の屋台で良いか?」
「ええ、可能であればそれで」
やはり元々この可能性も想定していたか。皇国の使者はカイトが即座に応じたのを見て、そう把握する。そして正解だ。カイトも皇帝レオンハルトが屋台に来る可能性が高いだろうと読んでいた。なにせ日本だ。マスコミ向けに良いだろう。それがわかっていれば、最初から対策もしておく。
そもそも居酒屋でも唐揚げは出しているので唐揚げは作れるし、ヴィクトル商会に頼んでレンタルしているコンロの一つをすぐに炭火焼きに変更出来る様にしていたのである。なので迷いが無かったわけであった。そうして、カイトはその後皇国の使者との間で皇帝レオンハルトの来訪に備えた打ち合わせを行う事にするのだった。
お読み頂きありがとうございました。
次回予告:第1403話『対応への準備』




