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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第68章 四大祭・秋編

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第1396話 太陽の神官達

 カイトが武蔵の所を立ち去って数時間。カイトは天桜学園側の状況を椿を介して確認する傍ら、各地から来る重役達との間での会談を行っていた。それはマクダウェル公爵としての皇帝レオンハルトも含まれていたし、立場の問題としてサリアらも含まれていた。そしてそれだけではなく、冒険部の長のカイトとしてもある。そんな事をしていればあっという間に三時間なぞ経過する。


「うっおー……マジで時間が無いぞー……」


 冒険部のカイトとして街の有力商家との間で懇談をしていたカイトであるが、それを終えて大慌てで着替えに入っていた。理由は言うまでもない。シャルロットが来るからだ。流石に汗を掻いた服で彼女の前に出るのは憚られた。なので軽くシャワーを浴びて着替えていたのである。


「カイトー。着替え終わったー?」

「ちょい待ちー! えっと……とりあえず基本は黒で統一。フードは何時も通り持ってるし……良し」


 やはり女神を出迎えるというのだ。しかも今年は数千年ぶりとなる女神の帰還だ。旧文明からの歴史を引き継いだ月の女神を祀る教団にとって、これほど重要な事はない。

 各地の神殿の長達が勢揃いする事になっていたし、レイナードやラカムら種族として月の女神を奉じている者たちも族長が直々に神殿に来る。なのでカイトもしっかりと身だしなみを整える必要があった。匂いを気にしていたのもそれ故と言える。正体をごまかす為の偽装の一端だった。


「……えっと……男性用の香水は……」


 やはり正式な場だからだろう。一応身だしなみの一環としてカイトは香水を付ける事にしていた。とはいえ、男性用の物なので匂いはきつくない。


「とりあえずこれで良し、と……後は一応こいつで、と……」


 カイトは自らの魂に繋がっている神器の力を借り受けて、手から漆黒のフードを生み出した。やはり正式に神使として認められたからだろう。神器がなくても出来るようになった事は多かった。これも、その一つだ。神器無しでも<<御身は闇に溶けよ(漆黒の法衣)>>を作れるようになっていた。


「……うん。これで今回の事情が周知されていなかったら確実に変質者だな」


 そもそも月の女神なのに昼に降臨するとはどうなのだろうか。カイトはそう思わなくもないが、流石に真夜中に来るわけにもいかない。いや、真夜中に降臨するのが正しいのであろうが、今回のシャルロットの来訪は正式なものだ。

 なので街としても重役達が来るし、皇帝レオンハルトも出迎える事になっている。そして今回は旧文明崩壊後初となる兄妹神揃っての降臨だ。そして同じ主神でも立場であればシャムロックが上。なので彼の方に合わせた、というわけである。


「まぁ、夜には夜で会合があるんだが……面倒だなぁ、そっちはそっちで……」


 基本、月の女神の神官は女官が多い。これは兄妹神である二人に合わせての事だ。なのでシャムロックの方の神官は男性が多い。多い、なので皆無ではない。が、月の神殿の神官長は通例女性が就いているし、今回来ている各地の神官長達の大半――およそ八割――は女性だ。

 更にはシャルロットは美の女神でもある。故にそこらを合わせて女を磨いている者達も非常に多い。神官なのに妙に色っぽい女性は非常に多いという話である。変に色目を使われても面倒は面倒だった。もちろん、神官なので性に奔放という事はない。単にカイトが神使故に、というだけだ。


「今面倒じゃないだけ、まだましか。ソラは大変だろうなぁ……」


 カイトは今の我が身より、今苦労しているであろうソラに向けて僅かに笑う。そうして、彼は気合を入れてシャルロットの降臨に立ち会うべく己の祀る神の神殿へと向かう事にするのだった。




 さて、一方その頃。カイトが見通した通りのソラ。彼は非常に珍しい事に由利とナナミの両名と共に太陽の神殿と呼ばれる神殿に立っていた。なお、珍しいのは二人と立っている事ではない。鎧姿で二人と一緒に立っている事だ。


「……」


 あー、緊張してるなー、とソラの横の由利は思う。せっかく由利だけでなくおそらく初めてとなるナナミのドレス姿だというのに、ソラはそれに一切気を回せていない。

 が、それも仕方がない。この神殿でのソラの扱いはとてもではないが少年へのそれではない。当然だ。この数百年出ていない神剣を受け継いだ者だ。神殿側からしてみればまさに英雄の卵。丁重な、という言葉が足りないぐらいの丁寧な扱いを受けていた。


「……」


 そんなソラであるが、由利の見通した通り緊張でガッチガチに固まっていた。今までソラは単に神剣を英雄達の持つ優れた武器としか思っていなかった。その宗教的な意味での重さを知らなかったのだ。

 神剣とは神器。神の道具だ。本来は名のある神殿の奥底や御神体として祀られる物だ。それを使う事を神から許された、という事の意味を彼ははっきりと理解していなかった。


(いや、英雄殿ってなんだよ! エルネストさんと比べるとかマジで勘弁してくれよ!)


 緊張で固まったソラが思うのは、そんな事だ。やはり神官達の凄い所というべきか当然だと言うべきなのかもしれないが、神官達は各地の伝説や逸話、説話を知っていた。

 なので当然ソラの持つ<<偉大なる太陽(ソル・グランデ)>>の由来やかつての持ち主の事も伝えられる限りの事は知っていた。それ故の思いだった。


(てーか、改めて聞いてマジやべぇのな! なんだよ、その地竜と天竜の群れを一人で退治した、って! 魔物の群れに襲われた街一つを一人で防衛!? 森の大火事をアーネストさんと二人で鎮火!? マジであの人らそんな事やってたのかよ!)


 出来そう、というか出来るだろう。そう思えばこそ、ソラ達は神官達が教えてくれたエルネストの戦歴に愕然としていた。今までソラが知っていたのは、エルネストの最後の戦いだけだ。が、その時には当然彼は神使だった。つまり、それ以前にも偉業は幾つもあったわけだ。

 とはいえ、それだけで愕然とするわけではない。知った上で神官達から向けられる期待を理解していたからだ。つまり、ソラはそのエルネストの後継者としてそれに見合った武勲を望まれていたのである。それは愕然ともなる。明らかにそんな事が出来るのはランクSの冒険者だからだ。


「……」


 どうすりゃ良いんだろ。ソラはそう考えながら、じっと立ち尽くす。が、出来る事は一つだけ。頑張って強くなるという事だけだ。と、そんな事を考えていたソラに、ナナミがちょんちょん、と肘で突っついた。


「ソラくん」

「へ? あ、っと……」


 ナナミに言われて、ソラもまた神殿に設置されているシャムロックの紋様が光り輝いている事に気が付いた。輝いている、と言っても目も向けられないほどではない。柔らかな光を湛えている、という程度だ。それに、ソラも背筋を正す。何が起きるか、というのは考えなくてもわかる。シャムロックが転移しようとしていたのだ。

 そうして、数秒後。シャムロックが光輝を纏って現れた。光輝を纏っているのは別に威圧したり威厳を示したりするというわけではない。単に移動の際には神という概念が必要な為、どうしてもこうなってしまうらしい。


「……ああ、問題なく転移出来たか。皆、集まってくれて感謝する」

「シャムロック様。勿体なきお言葉」


 一度周囲を確認してきちんと神殿都市に転移出来た事を理解したシャムロックの感謝に対して、このシャムロックを祀る神殿に属する大神官とでも言うべき者が頭を下げる。

 彼は神殿都市の神官ではなく、俗に太陽の神殿と呼ばれる神殿を統括する神殿の大神官らしい。別に神殿都市に全ての神殿の中枢が集約されているわけではない。神殿都市は神殿が無数に集まっているから、神殿都市と言われているだけだ。総本山は別にあった。今回シャムロックが神殿都市に姿を見せるので、彼もやってきたとのことである。


「うむ……お前も息災変わりないか?」

「はい、有難うございます」

「そうか。それは良かった。それで……」


 シャムロックと大神官との間で幾つかの言葉が交わされて、シャムロックが一つ頷いた。神と言っても所詮は人だ。別に威張り散らすわけでもないし、今回は収穫祭でありシャルロットのお披露目という事で来ているだけだ。主体的に何かをする、というわけでもなかった。


「ああ、ソラくんか。君も来てくれたのか。ありがとう」

「いえ……幸いにして神剣を授かったので……」


 やはり緊張からか、シャムロックの挨拶にソラはそんなありきたりの事しか返せなかった。まぁ、これは仕方がないだろう。神殿の者たちとしてもそこまで気の利いた挨拶を望んではいない。出来るとも思っていない。所詮ソラは英雄の卵。英雄ではないのだ。

 そして彼らとて日本人という存在を知っている。ソラが年相応でしかない事ももちろん、だ。なのでカイトのように平然とウェットの利いた挨拶を、と望んでいるわけもなかった。今後に期待していても、この場でなにかを期待しているわけではないのである。


「ふむ……横は君の恋人かね?」

「あ、はい」

「そうかそうか。君も案外やるな」

「っ」


 楽しげなシャムロックの言葉に、ソラは思わず顔を真っ赤に染める。別に隠しているではない事だし、問われたので普通に答えてはいたもののよくよく考えれば女を二人も侍らせているのだ。確かに男としてならやっかみなり羨望なり茶化すなり、なにか一つ言ってやりたい事でもあろう。

 そしてそれについては、この太陽の神殿に関わる者たちもソラの事を有望と見ていた。英雄色を好むとはよく言ったもので、やはり神官なので漁色しろとは言わないが雄として英でる事もまた英雄の条件だと考えていた。ここに来た時点で平然と美姫を二人も侍らせていたソラについては流石は英雄の卵、と神官達も称賛を密かに抱いていた。何より、エルネストが女たらしだった事もあった。そこで後継者として微笑ましくも思われたのだろう。


「うむ。義弟もそうだったが、君もその友人という事なのだろう。良いことではないか。そういう面でも、エルネストの後継者にふさわしかったのかもしれないな」

「あ、ぅぅ……」


 どうやら、シャムロックはソラをからかって遊んでいる様子である。そうしてそこそこソラをからかって遊んだシャムロックはそのまま一つ笑って、歩きだした。


「あははは。まぁ、一応神剣を授けた者として漁色はしないように注意だけはしておこう」

「は、はい」


 楽しげなシャムロックの冗談とも真面目な注意ともつかない言葉にソラは頷く。そんなソラに、今度はアスラエルが話しかけた。


「ソラ殿。久しぶりだ」

「あ、アスラエルさん。お久しぶりです」

「うむ……しばらく、我らもこの地に滞在する。何かがあれば、申されよ。神剣使いの先達として、聞きたい事もあろう」

「ありがとうございます」


 アスラエルの申し出をソラは有難く受け入れる事にした。神剣の使い方は確かにエルネストから継承されている。だが、それが全てではない。やはり数千年の眠りとすでに死んでいる、という二つの障害は大きかった。使えるようにしてくれていただけ、凄い事だったのだ。

 だからまだまだソラにも神剣についてわからない事は沢山ある。少しでも聞けるのなら、聞いておきたかった。と、頭を下げたソラにアスラエルが小声で話しかける。


「ふむ……ソラ殿。少し内密に話がある。今日で無くて良い。頃合いを見計らって我の控えの間に来てほしい」

「……はい」


 どうやら、なにか大変な事が起きようとしているらしい。アスラエルの声の僅かな硬さから、ソラはそれを把握する。そうして小声で応じたソラの返事を聞いて、アスラエルが一つ頷いてその場を離れる。


「神よ。あまり長々としていても月の女神との会合に遅れます。お急ぎになりますよう」

「ああ、そうだったな。ここら、神の不便な所だ。まぁ、義弟がこの地にあれの神殿も拵えていたので此度は問題無かったが……ふむ。何か考えるべきなのかもしれん」


 エネフィアには彼らを祀る神殿はそこそこ多いので今まで問題は感じられていなかったが、やはり敵襲に備えるとなるともう少し利便性の高い転移術を開発すべきなのかもしれない。シャムロックはアスラエルの指摘でそう考えた様だ。

 とはいえ、ここら残念な事に地球のようにエネフィアは全世界的なネットワークがあるわけではない。なので神殿で移動した方が良い場合も多かった。現に地球の日本でも同じ様なシステムは取られている。悪いだけではない事は事実だった。


「神よ」

「ああ、そうだったな。では、行こう」


 アスラエルの再度の指摘にシャムロックは頷いて気を取り直す。そうして、二人はシャルロットと合流すべく、神々の為に作られた施設へと向かう事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1397話『月の神殿』

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