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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第68章 四大祭・秋編

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第1395話 収穫祭 ――開幕――

 マクダウェル領四大祭。それは勇者カイトが主催者となり開催された春夏秋冬4つの大きなお祭りの事だ。その一つである秋の収穫祭は前夜祭を終えて、遂に本祭が始まる事になっていた。というわけで、本祭の開始に備えてカイトは一つ引き締めを行っていた。


「さて……今日から収穫祭の本番だ。客もひっきりなしに訪れるだろう。各員、きちんと休憩を取る事を忘れずに動いてくれ。わかっているとは思うが、厨房はやはりこの季節とはいえ蒸し暑い。適度に塩分補給と水分補給は忘れるな」


 カイトは収穫祭が開催されるにあたり、料理を行う事になる面子にしっかりと熱中症対策を言い含めておく。ここらは何度気を付けておいても、そして気を付けておいても起きる事だ。

 いくらエネフィアが魔術があると言っても、やはり厨房は熱気が籠もる。それだけは火を扱う以上避けられない。なのでどうしても熱中症は起きてしまう。それを予防するのはやはり、適度な水分補給と塩分補給だった。


「ウチは基本、昼のお店だ。なので割烹居酒屋以外は祭りの開幕と同時にオープンする。シフトはしっかりと覚えておいてくれ」


 収穫祭は基本として大精霊や豊饒の神に感謝をするものであるが、やはりお祭りだ。なので楽しむ事が基本となる。とはいえ、今回の天桜学園はもてなす側。そこらも兼ねてシフトは組んでいる。なお、お祭りそのものは朝の9時から夜の19時までの十時間だ。

 が、屋台の方は飲食店という事もあって営業時間は基本店側に任されている。なので天桜学園では酒を提供する居酒屋のみ昼の12時からのオープンとして、閉店を夜の10時に定めていた。と、真面目な事を語ったものの、カイトとて真面目一辺倒というわけでもなかった。


「食中毒には気をつけて、衛生管理はしっかりとする事。とまぁ、長々と語ったが。基本は祭りだ。大いに楽しんでくれ」

「「「おぉおおお!」」」


 結局はそこにたどり着く。そんなカイトの号令に合わせて、一斉に店の開店に関わる面子が動き出す。


「さてと……まぁ、少しの間は狩猟部隊は何も無しのお休みだ」

「うーい。で、カイト。聞いておきたいんだけど、シャムロックさんは何時頃来られるんだ? 正確な時間って直前までわかんないって話だったろ?」


 各地へと散っていく生徒や冒険部の冒険者達を見ながらさらに指示を飛ばしたカイトへと、ソラが問いかける。兎にも角にもソラは彼への御目通りと出迎えがある。これは筋なので通さねばならない事だろう。


「ああ、彼らなら今日の昼……大神殿が行う開会式の様なものに合わせて来られる事になった。お前はそれに合わせて動ける様に予定を調整しておけ」

「わかった……で、何処に?」

「ああ、そう言えばそこは教えてなかったか。彼の神殿には?」

「行ったけど?」

「神々は自分の神殿には転移出来る能力があってな。それでそちらに来られる」


 やはり神々だ。自分の神殿はその領地であるため、何かがあれば即座に移動できるようになっているらしい。勿論、これは平時での事だ。地脈がかき乱されたりする戦時には難しいらしい。


「わかった。じゃあ、俺は正午前にはそっちな」

「ああ。失礼の無い様にな。それとお供としてアスラエル殿も来られる。そちらにもよろしく伝えておいてくれ」

「わかった」


 カイトからの言伝をソラはしっかりと記憶しておく。カイトがこう言うのにも理由がある。彼の方はソラとは別に己の神殿でシャルロットを出迎える必要があるからだ。ここで、ユリィとも合流する予定だった。と、そんなカイトに椿が報告する。


「御主人様。武蔵様とご家族様が入られました。どうなさいますか?」

「ああ、そうか。わかった……藤堂先輩にも連絡を。オレも向かう」

「かしこまりました」


 武蔵が来たというのだ。弟子の礼節として、カイトも挨拶に出かけねばならないだろう。幸い今はまだ祭りの開催前。時間は十分とは言えないまでもある。というわけでカイトは藤堂と合流すると、そのまま和風旅館へと向かう事にする。


「先生。この度はお越しいただきましてありがとうございます」

「む? なんじゃ、藪から棒に。お主、ここ持っとったか?」

「いや、自分主催者なんですが」

「……お、おぉおぉ! そういえばそうであったな!」


 カイトの指摘に武蔵がそう言えば、と照れ臭そうに何度も頷く。と、その挨拶が終わった頃に武蔵の横の大和が頭を下げた。


「兄上。お久しぶりです」

「ほぉ……少しは腕を上げたか」

「はい……50層を十中八九で越えられる程度には」


 身に纏う気迫が違う。それを見抜いたカイトに対して、大和が再度頭を下げる。


「父上がご自分を天才などでは無い、というのがわかりました。父上の時代とは、あれほどなのですね」

「だったみたいだな」


 二人が思い出すのは、柳生石舟斎と宗矩親子だ。あの二人はやはり格が違う。戦士としては源次や僧兵もどきと同格であるが、剣士として比べれば明らかに格が違う。頭一つではない。頭二つ三つは上回っていた。そして二人の言葉に武蔵も同意した。


「あの見切りは間違いなく熟練の新陰流の使い手にしか出来まいな。顔貌ではない。かつて数度合間見えた宗矩殿の剣筋に相違あるまい。あれは偽ろうとして偽れぬ。真似も出来まい」

「あれが、父上をして剣聖と言わしめた男……何故なのでしょうね。不謹慎なのに、素直に嬉しく思います」

「かかか。儂の子故であろうな」


 大和の言葉に、武蔵が快活に笑う。本当は、あり得ないはずの出会いだ。見れないはずの太刀筋だ。それを見れている。一人の剣士としての歓喜を三人は共有していた。


「が……大和。あれはまだお主では荷が重い。特に石舟斎殿は儂が思うた以上であった。修羅場の数が後一桁足らぬ。親不孝をせんよう、逃げよ」

「……は」


 やはり大和は無念そうだ。が、勝てないのは先の一戦でよくわかった。一切掠りもしなかったのだ。少し腕を上げたとて、とてもではないが敵う相手ではなかった。


「それに、よ。宗矩殿だけはどうしても、儂が戦わねばならぬ」

「……父上。この話になると決まってそう仰られますが……一体それはどうしてですか?」

「む? そうよなぁ……」


 大和の問いかけに武蔵は僅かに目を細める。そうして僅かに恥ずかしげに、口を開いた。


「うむ。はっきりと言おう。儂はあの御仁の太刀筋に憧れた。かよう綺麗な太刀筋があるのか、と」


 武蔵が思い出したのは、はるか過去の一幕だ。お互いにこんな事になるとはつゆ知らず、ただ同じく剣士として剣の道に邁進していた者同士として得た得難き一時。

 その時、武蔵は宗矩の剣筋に思わず見惚れてしまった。憧れと言っても良いだろう。その道を十年先を行く先輩の太刀筋。しかし自分とは決して違う澄んだ太刀筋だ。


「……蒼天の煌めき。忘れもせんよ」


 武蔵は誰にも聞こえぬ様に小さく、呟く。そうして、彼は笑った。


「故に、儂は勝たねばならぬ。これは儂が宮本武蔵であり、新免武蔵であればこそよ。昔憧れた剣士が敵として、儂を主敵として見てくれておる。全身全霊を以って、あれを上まわらねばならぬ。そうでなければ儂の六百数十年は何のためにあったのか」


 こちらはこれだけの月日を歩んだのだ。ならば、十年だけしか先を行っていなかったあの男に見せつけねばならなかった。今の自分の剣を。新免武蔵が、宮本武蔵が得た剣の極みを。そうして、武蔵は堂々と明言した。


「故に……手出し無用。父としての言葉ではない。これは我が流派開祖としての言葉じゃ。儂が儂として、そして儂が儂である為に勝つ。それだけであろう」

「「「……」」」


 武蔵の語りを聞いて、大和とカイト、そして藤堂は沈黙する。そうして、深々と頭を下げた。


「「「御意」」」


 開祖が開祖の意地で戦うというのだ。それに横槍を入れるのは弟子として下の下だ。故に、三人は一切の迷いなく手出し無用を心に決める。


「うむ……っと、ああ、そういえばお主らは挨拶に来ただけであったな。もう良いぞ。下がれ。大和も少々、街を見て参れ。神社もある故な。弟の為に人混みを確認せい」

「は」

「では、失礼します」

「うむ……っと、すまぬ。変な語りを入れたが故かすっかり忘れておった。カイト、お主は残ってくれ」


 立ち上がった三人を見て武蔵は頷くも、思い出した様にカイトを呼び止める。それに、カイトは上げていた腰を下ろした。


「はぁ……どうしました?」

「うむ。ちょいと頼みたいことがあってのう。お主の店。予約は取れるか?」

「店? どれですか?」

「すまぬ。儂の言葉が足りんかった。屋台よ。漬物を出すということであろう?」

「ああ、あれですか。まぁ、先生のお望みであれば」


 本来としては混雑などを鑑みて予約を受け入れるべきではないだろうが、相手は他ならぬ武蔵だ。学園側も理解を示すだろう。それに、武蔵が一つ頭を下げた。


「うむ……まだこれといった日にちは決めておらぬが、頼むやもしれん。その際は頼む」

「わかりました。なんとかしてみましょう」


 武蔵の依頼にカイトは頭を下げて、了承を示す。と、そうして早速行動に移るべく立ち上がったカイトの背に向けて、武蔵が問いかけた。


「……何も言わんのか?」

「それを言うのは奥方のお仕事でしょう。弟子が言うべき事ではありませんね。それに、詳しい事は私にもわかりませんよ。そこらを含めればやはり、私は何も言えません」


 武蔵の問いかけにカイトは笑ってミトラへと頭を下げて、そのまま立ち去る事にする。そうして、彼が去った後。武蔵が照れくさそうに頬を掻いた。


「なんじゃ……お主何も言わんかと思えば。気付いておったのか」

「伊達に何百年も貴方の妻をやってません」


 武蔵の照れくさそうな顔に向けて、ミトラはどうだ、と言わんばかりの満面の笑顔を浮かべる。それに、カイトが出ていった先を彼女が見た。


「大和、妙な所で鈍感なのは貴方そっくり。色恋沙汰にも鈍感な所とかもそっくり」

「うるさいわい」


 拗ねるように武蔵が口を尖らせる。そうして、ミトラがはっきりと口にした。


「嘘よね? 開祖として勝たねばならない、って。ううん。嘘ではないけど……本当でもない」

「……うむ。嘘ではないが、本当ではない。その様な事ではない」


 ミトラの問いかけに対して、武蔵もまたはっきりとその言葉を認めた。実は武蔵が大和と藤堂に語った内容は半ば表向きの話だった。決してそれだけの為に戦うのではない。無論、それが無いとは言わない。言わないが、それだけでも決して無かった。


「……のう、ミトラ。儂はお主に会えてよかった」

「死ぬ様な事を言わない……貴方は、日の本一の大剣豪・宮本武蔵。エネフィアの勇者のお師匠様。勝てるんでしょう?」

「うむ。勝てるとも。いや、負けるはずがない。かつての儂がかつて但馬守に勝てぬように、今の宗矩殿では儂には勝てぬ。それを、見せねばならぬ」


 武蔵は絶対の自信を以って、己の妻へと断言する。相手が柳生宗矩だろうと、決して勝てないとは思っていない。それどころか、今なら勝てるとさえ思っていた。


「さて……宗矩殿。来ておるんじゃろう? 少々、かつてのように一献傾けようではないか」


 武蔵はこの街のどこかに潜り込んだであろう宗矩へと、そう告げる。別に宗矩の目撃証言があったわけではない。が、宗矩とは知らぬ仲ではない。彼が意外とやんちゃ者である事を知っている武蔵だ。この祭りにはとある理由で来るだろう、と読んでいた。そしてであれば、場を設けるべきだと思ったのだ。


「すまぬな、ミトラ。この様な男で」

「もう……何を今更。馬鹿だし馬鹿な事をわかって結婚したの。好きに生きて。そして……私の所に帰ってきてね」

「うむ、必ず帰ろう」


 武蔵はミトラの願いにはっきりと頷き、改めて生還の覚悟を決める。そうして、武蔵は宗矩との再会までのしばらくを家族と共に過ごす事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1396話『太陽の神官達』

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