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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第68章 四大祭・秋編

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第1392話 前夜祭 ――その裏で――

 マクダウェル領秋の大祭。通称は収穫祭。それは秋の月の一ヶ月を丸々使って行われる大規模なお祭りだ。正確に何時開始するか、というのはその年の初めに大神官達が発表するので決まってはいないが、一ヶ月という期間は決まっている。

 そして通例としてその前日の夜には、参加者の中でも関係者側を集めた前夜祭が行われる事になっていた。まぁ、言ってしまえば明日からの本番に備えた練習を兼ねて一つ気を引き締めよう、という所だろう。


「……皆さん、お久しぶりです。クズハ・マクダウェルです」

「アウローラ・フロイライン。お久しぶり」


 前夜祭の開幕を告げるのは基本的にクズハとアウラの二人だ。明日からの本祭は大神官達の持ち回りで行われる事になっている。なお、もしカイトが復帰していた場合、どちらもカイトが行う事になっている。そんなカイトはというと、何時もとは違う面子を集めて月見をしていた。


「さて……特等席で姉と妹の仕事を見ているわけですが」

「……」

「……」


 何時もと違う面子。それはあえて言えば、皇国上層部の面々だ。やはりこの祭りは国内最大級の祭りだ。そして大精霊の恩恵を一番受けている国でもある。各公爵揃い踏みでも不思議はない。ないのだが、そこには別途参加者が居た。


「ぷへぇ……で、なーんでこっちこんなに縮こまられんだ?」

「知らん。後、ウコンは飲んだな? 飲んでないなら近づくな」

「あ、それならさっき僕が飲ませておいたよ」

「へ? 何時だよ」

「食事にカプセル混ぜておいたんだ」


 バランタインの疑問にルクスが笑いながら明言する。なお、あえて言っておく。常人の数倍程度は入れたらしい。これなら幾らバランタインでも効くだろう、という事なのだが結構酷かった。


「お、じゃあ何時もより飲んでも」

「「「それは止めろ」」」


 上機嫌のバランタインに対して、カイト以下三人が一斉に制止する。これだけやっても、あまつさえ上物の酒を飲ませても悪酔いするのがこの男だ。ある意味すごいとさえ思えた。


「へいへい。気を付けりゃぁ良いんでしょ」

「そうしろ。貴様の酒癖の悪さは筋金入りだ……で、カイト。俺にもそれを一つ寄越せ」

「あいよ」


 ウィルの求めを受けて、カイトはねぎまの焼き鳥を一本手渡した。まぁ、別途参加者とは彼らだった。四大祭ぐらいは集まるか、と呼んだのである。それは各公爵達も黙るだろう。が、それはこの男を除いては、だった。


「殿下。あまりそうがっつかれますと、行儀が悪く見えますぞ」

「ハイゼンベルグ公よ。そう言ってもな。これはこう食べるのが一番美味いのだ」

「そうそう。適当に貪り食うのが一番美味い」


 ウィルの横でカイトが鶏皮を頬張る。焼き鳥のお上品な食べ方は、と言われるとおそらく串から外して食べるのがお上品なのだろうが、それはやはり何かが違う気がするらしい。

 日本酒片手に賢帝以下勇者、聖騎士、武神が焼き鳥を頬張っているという、見る者が見れば卒倒する光景がそこにはあった。


「ほっほっ……まぁ、ジェイク。殿下とて時には市井の者と同じように食べるのも良かろう。すでに死んだ我ら故、このようになりふり構わぬのも良い」

「貴殿は何時も何時も陛下と一緒に食い歩いていただろう!」


 参加者追加組のヘルメス翁の言葉に対して、ハイゼンベルグ公ジェイクは思わず声を荒げる。その荒げようは無意識的に若返る程だった。


「「「……」」」

「……こほん。失礼しました。少々、血が昂ぶった模様」

「ああ、やっぱ若返れるのね……で、爺。あ、ハイゼンベルグ公じゃなくてウチの爺」

「なんじゃ?」


 若返ったものの即座に何時もの姿に戻ったハイゼンベルグ公ジェイクをスルーして、カイトはヘルメス翁へと向き直る。


「あんたの論文、ティナに見つかった。話聞かせろってよ」

「おぉ……流石はというべきか。もう読み解かれたか」


 カイトからの報告に、ヘルメス翁は感心したように頷いた。ティナが見付けた論文は彼が記した時に関する論文だ。かつて道化師が言っていたが、『もう一人のカイト』が巻き込まれたという時空流異門。その研究を彼はしていたのである。

 と、そんなある意味では和気あいあいとした雰囲気のカイト一派の所に、ようやく彼が口を開いた。彼でさえ、何がなんだかわかっていなかったらしい。


「……マクダウェル公とハイゼンベルグ公よ。これは一体何がどうなっているのだ?」

「? 不思議な事をおっしゃいますね、陛下も」

「ええ……見ればわかるでしょう」


 カイトとハイゼンベルグ公ジェイクは皇帝レオンハルトの指摘に二人揃って首をかしげる。現状なぞ見ればわかる。集合まで時間があったので、宴会をしていただけだ。

 そもそも一応公爵達が勢揃いしているが、何かをするではない。なのでカイトは酒精を纏う程度、無礼にならない程度に飲んでいた。これは祭り。祭りで酒を呑まないのはそれはそれで興が削がれる。

 この面子が揃ったのとて単に前夜祭の開幕に際して揃っているというだけだ。開会式なのだからお偉いさんは全員揃うだろう。そして今年は皇帝レオンハルトが初日から参加する事になっている。それを考えた結果、皇帝より遅れるのはまずいだろうと各貴族達が考えてこの大所帯となったというだけだ。


「いや、公よ。確かに言っている事は正しい。そして俺や他の公爵と大公達も公の所が良いだろうと判断して、公の所で集合とさせて貰った……が、来てこれでは呆けるなと言う方が無理ではないか?」

「ふむ……」


 まぁ、言わんとする事はカイトにも理解出来る。順序としてはカイト組――加えてハイゼンベルグ公――が先に居て、皇帝レオンハルト達が後で来た様な形だ。来るまで暇なのでこっちで時間でも潰すか、と揃っただけだ。ハイゼンベルグ公ジェイクがこちらに居たのは、クズハ達の仕事という事で後見人の立場から見守る為だ。

 とはいえ、それ以外が開会初っ端から全員が勢揃いというのは流石に他の貴族達に訝しむ要因となる。なのでそれ以外の面子が後から来たとて不思議な事はない。が、そこで入ってみれば英雄達が揃い踏みでは呆気にとられるのも無理はなかった。

 なお、正確には公爵達が揃って呆けているのを見て皇帝レオンハルトが中を覗いて、揃って呆ける事になったという所である。


「まぁ、それはそうですか。全員、一旦撤収ってか」

「わかっている。アウラから聞いていたからな……では、失礼する」

「は、はぁ……」


 現皇帝が来た事で自分達は去るか、と立ち上がったウィルに皇帝レオンハルトが生返事でうなずいた。と、そうしてぞろぞろと去っていく英雄達を見ながら、ハイゼンベルグ公ジェイクがため息を吐いた。


「あの老いぼれが何かしでかさぬか心配でたまらぬ」

「老いぼれが老いぼれ言うかよ」

「ははは。まぁのう。今は儂も老いぼれか」


 カイトのツッコミにハイゼンベルグ公ジェイクが声を上げて笑う。あの若い姿は当時の仲間達の前での姿だ。皇帝レオンハルトがいる以上はこの姿であるべきだと判断していた。

 と、そうして英傑達が去った後、カイトが一つ頭を下げた。彼らが集まっていた理由は時間があったからだ。揃った以上は、というわけであった。


「陛下。我が同輩達が失礼致しました」

「い、いや……はぁ。公と居ると常識が素足で逃げていくな」

「よく言われます」


 皇帝レオンハルトの心底実感の篭った一言に、カイトは笑って頷くしかない。そしてそれで正しい。


「それで、マクダウェル公よ。早速と言ってはなんであるが、神王殿はなんと?」

「は……邪神復活の日は近い、と」


 皇帝レオンハルトの問いかけにカイトははっきりと明言する。ここで集まった理由はもちろん、ある。一週間ほど前に起きたあの邪神の眷属の活動だ。あれは弱かったものの、以前よりはるかに強かった。

 そこからもう幾ばくの猶予も無いとシャムロック達も理解して、各国に改めて注意を喚起していた。それを受けて皇国でも全員が一度集まろう、という事だったのである。そこらを考えた結果、状況や偽装等を考えて今日が一番良いと判断されたのである。


「ふむ……猶予はもう幾ばくもないか。であれば、ブランシェット公よ。各地への注意は?」

「マクダウェル公より依頼を受けて既に行なっている。軍に問題は無い。それはトラン大公も承知しているはずだ」

「近衛、陸海空三軍。いつでも陛下の御命令一つで戦闘可能だ。高位高官達には既に邪神復活が近いことも告げている。覚悟も出来ているし、それに合わせた訓練もさせている」


 各貴族が各々の領分での戦いに向けた進捗を語り合う。その最中、やはり中核となるのはカイトだった。というわけでアベルからカイトへと問いかけが飛んだ。


「マクダウェル公。そちらに秘策あり、と伺ったが?」

「ああ……邪神エンデ・ニル。奴の正体は掴んだ。伊達に勇者として、地球の裏でも派手にやってたわけじゃない。かの邪神に縁ある英雄とオレは懇意にさせて頂いている。彼に、協力を頼んだ」

「地球から英雄を?」


 カイトの秘策にアベルが驚きを露わにする。これは勿論、皇帝レオンハルトとも相談の上だ。が、今までは情報封鎖の観点とまだ成功するかわからなかったので各領主には黙っていたが、もう猶予もわずかとなって明かすことにしたのである。そうして、皇帝レオンハルトが口を開く。


「うむ。公といくつかの話をしている中で、彼奴(死魔将)等も控えている中被害をなるべく減らす為にはこれが最良と判断した。邪神程度に戦力を減らされるわけにはいかん。故に神々は各地に散り、一分一秒でも早急にマクダウェル公に連絡を入れて貰う体制を整えている」

「なるほど……」


 おそらく、この戦闘が激戦になる事は明白だ。そして向こうも総力戦を狙うとて、いくつかに戦力を分散させるだろうと各国は見ていた。

 それに好き勝手に暴れられてはせっかくこちらが被害を減らすべく動いているのに、全てが無為になる。当然の判断だった。


「公よ。一度彼とも顔を合わせておくのが最良だろう。現在、向こうとは繋げるか?」

「やってみましょう」


 皇帝レオンハルトの申し出を受けて、カイトは世界を越える特殊な魔術を起動させる。向こうとの距離と時間が調整可能な程度であれば、会話ができる。


「……なんとかなりそう……ですね。先生。聞こえますか?」

「お久しぶりです、ギルガメッシュ殿」

『……ああ。レオンハルト殿か。であれば……ふむ。大凡は理解した』


 カイトの呼び出しに応じたギルガメッシュは居並んだ顔ぶれから大凡を理解する。なお、皇帝レオンハルトが敬語なのはギルガメッシュが王としては先輩に当たるからだ。王と王であれば着任したのが先の方が優先される。それはどこの世界でも一緒だろう。というわけで、そんなギルガメッシュが口を開いた。


『お初、お目にかかる。我が名はギルガメッシュ。おそらく貴公らはオレの神話は把握しているのだろう。なので詳しくは省くが、地球における最古の英雄と言われている』

「地球文明の中でも最古の文明の最古の王だ。間違いなく、遜色なく地球で最も優れた王でもある」


 ギルガメッシュの名乗りに対して、カイトがその言葉を保証する。ギルガメッシュ以上の男は知らないと断ずる彼だ。一切の掛け値無しだった。そうして一通りの紹介が終わった所で、皇帝レオンハルトは改めて明言した。


「彼に助力を依頼している。ギルガメッシュ殿。相違はありませんな?」

『ああ……奴がおそらくああなったのは、おそらくオレにも責任の一端がある。そのために地球では五千年も奴に備えた。洗脳するという権能も何に起因するか、と大凡は把握している。それに何より……』


 ギルガメッシュは一度言葉を区切り、それからはっきりと明言した。


『奴が神代の神としてまた現れるというのであれば。オレはまた奴の前に新たなる時代の兆しとして立とう。一度は敗北したが……次は負けん』

「敗北? であれば、その自信の根拠は?」

『最もな言葉だ』


 アベルの問いかけにギルガメッシュははっきりと頷いた。一度は破れた、と彼自身が明言しているのだ。ならば勝てる根拠は、と問いかけるのは道理だろう。とはいえ、それを己で語っては単なる傲慢の可能性もある。だから、彼は一番彼の敗北が有り得ないと確信している者へと言葉を任せる。


『……カイト』

「はい……それについては、オレが保証しよう。今の彼……ギルガメッシュ王には神話では失われた友が居る。その友と組んだ彼は、オレを一度下している。もちろん、殺し合いではない。単なるお遊びの試合だ。だが、共に戦った彼らはかなり本気のオレを下せる。いや、もし全力であれど、相当な激戦になると断じれるだろう。オレが公に出れぬのなら、彼こそが切り札となり得る事はオレが明言しよう」

「「「なっ……」」」


 一度聞かされている皇帝レオンハルトを除いて、全貴族の長達が絶句する。それこそ、ハイゼンベルグ公ジェイクでさえ絶句していた。

 勇者カイトを下した。その言葉の意味はあまりにも大きい。もちろん、それがたとえ全身全霊の殺し合いでなかろうとも、だ。そんな彼らへとカイトははっきりと明言した。


「敢えて、明言しておこう。もし彼が友と共にこの世界に来ていれば、間違いなくティステニアの暴走は有り得なかっただろう。彼らの五千年にはそれだけの重みがあり、それに見合う強さがある。単純な武力ではない。歴史が培ったありとあらゆる経験が、彼らの力となっている。地球最古の英雄の名は伊達ではない」


 カイトの言葉には掛け値なしの信頼と尊敬があった。その言葉に滲む感情は貴族だからこそ、はっきりと理解できた。であれば、これは真実。勇者カイトその人がこの世界を絶望に叩き落とした魔王さえ、彼らなら勝てると言わしめるのだ。


「だから、言わせて貰おう。彼らがエンデ・ニルに負ける事は有り得ない。その露払いをオレがして、彼らが奴を倒す。負ける道理はどこに?」


 この世で最強と言われる男が、露払い。その言外の意味は貴族なればこそ、理解出来る。カイトは心の底から二人の勝利を確信している。だから、預けたのだ。

 この男にそうまで言わしめるのであれば、勝利は確定として良いだろう。各貴族達でさえ、そう考えるしかなかった。そうして、カイトの太鼓判を得た話し合いはその後、様々な面での対処を話し合う事になり続いていく事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1393話『前夜祭』

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