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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第68章 四大祭・秋編

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第1390話 意外な繋がり

 アイナディスとの再会と彼女を含めた昼休憩の後。カイトはひとまず彼女によって気絶させられたサボりの者たちをフロドの横に一緒に括り付けて晒し者にしておくと、再び作業に入る事にしていた。が、そこには一人協力者が参加してくれていた。


「別に気にする事はないんだが……」

「いえ、現実としてこの馬鹿がご迷惑をおかけした上、サボっていたのは事実なので……その責はやはり私が」


 その協力者とは言うまでもなく、アイナディスだ。フロドとその他サボり魔達を気絶させたは良いが、このサボり魔達はカイトの部下。サボっていたのを引き渡したは良いものの、流石に今日一日は目覚めない様子だ。その削った分の手伝いぐらいは自分で、というわけであった。


「ねぇね、本当に真面目だよねー」

「貴方が不真面目なだけです……で? 貴方は何をしているのですか?」

「おんぶ」

「見ればわかります! 何故何もしないのですか、と言っているのです!」


 カイトの背中におぶさったソレイユの言葉に、アイナディスが声を荒げる。が、これにはカイトが仲裁に入った。


「いや、流石にそれは……一応これは天桜の動きだ。別に強いて手伝いが欲しいわけでもないしな。だから、お前も手伝う必要はないんだが……」

「一応、これでも伝令とかでお手伝いはしてるよー? にぃと一緒なのもにぃが一番伝令が欲しいからー」

「……まぁ、そういう事なら」


 ソレイユの言葉とカイトの宥めを受けて、アイナディスもそれなら、と良しとしておく。今回の出店は天桜学園としての動きだ。なので主体となっているのは冒険部というよりも天桜学園側の学生達だ。

 冒険部も手伝ってはいるものの、それは大半が食材の調達や資材の搬送など。料理を作ったりレシピを考えたり、というメインは天桜学園で行われていた。そこを考えれば、やはりソレイユが主体的に行動するのはやはり違うだろう。


「とはいえ、やはり馬鹿の醜態は償う必要があるので私は手伝います」

「はぁ……まぁ、これでこそアイナか。わかった。そう言うのなら手伝ってもらおう。と言っても資材の搬送は出来てるし、食材はこの通りこっちの管轄外だし……」


 アイナディスの申し出にカイトはどうするか、と悩む。忙しく動いている事は動いているが、それでも外部からの協力で出来る事は限られる。そしてカイトがやっている各所との調整にしてもこれを手伝わせるのは色々と無理があるだろう。


「はぁ……しょうがない。とりあえずオレの仕事の手伝いで頼む。何か出れば、その都度頼む事にしよう」

「わかりました」


 とりあえずカイトが考えついたのは、やはり自分の手伝いだった。そもそもアイナディスを知っているのはこの場ではカイト一人だ。上層部の面々とて彼女の事は知らないし、その上層部の面々も各々散って各所で連携を取ってくれている。来ている事さえまだ誰も知らなかった。というわけで書類仕事を手伝って貰う事にしたカイトであるが、そのためにも色々と用意する必要があった。


「さて……そうなるとひとまずは椅子を用意するか」

「いっそにぃの膝に座ればー? にぃの膝がねぇねの指定席だよねー」

「っ!?」

「お前ならともかく、アイナだとオレが仕事出来ねぇって」


 ソレイユの茶化す様な一言に顔を一瞬で真っ赤にするアイナディスに対して、カイトは笑いながら魔力で椅子を編み出して即席のアイナディスの席を拵える。と、そんな顔を真っ赤にしたアイナディスにカイトが気が付いた。


「うん? どした?」

「……だけです」

「はい?」

「思い出しただけです……」


 顔を真っ赤にしたアイナディスはカイトの問いかけに小さくそう答える。思い出した。つまり、彼女はカイトの膝の上に座った事があるのであった。三百年前でもこの見た目の彼女だ。羞恥心も当然、備わっていた。その彼女がカイトの膝の上に座るのだから、事情がしっかりとあるのであった。


「思い出したって……あー。そう言えばお前何回かオレの膝の上に座らされてたっけ」

「……思い出させないで……」


 アイナディスは真っ赤になりながら小声で小さく頷いた。それに、ソレイユが一気に畳み掛ける。


「あの時のねぇね可愛かったなー。顔を真っ赤にしちゃってさー。もじもじ、って本当に女の子だったねー」

「うぅ……」


 ソレイユの言葉にアイナディスはただ顔を真っ赤にするしかない。というのも、当然だが好き好んで彼女がカイトの膝の上に座るわけがない。座らざるを得ない状況に追い込まれたから、座ったのである。つまり、彼女にはどうしても言い返せない理由があったのだ。と、そんな一方的に言われるがままのアイナディスに、ソレイユが提案する。


「そうだ! ねぇね、せっかくにぃ帰ってきたし、今度からまたねぇねの罰はにぃのお膝ね」

「え!?」

「あっははは。それはオレにとってはご褒美だな。アイナは軽いし、良い匂いだからな」


 慌てふためくアイナディスに対して、ある意味では慣れているカイトは楽しげだ。まぁ、こういうことらしい。アイナディスがある時何かの失態を犯してしまったのであるが、そこは生真面目な彼女の事。信賞必罰と自分で自分に罰を与える事にしたらしい。

 と言ってもこの失態はそんなギルドに影響の出る様な事でもなく、誰かに多大な迷惑をかけたものでもない。罰を与えなくても良い程度のものだった。ものだったのだが真面目な彼女は、というわけである。

 とはいえ、自分で罰を与えるのは駄目だろう、とも考えた彼女がフロドとソレイユに頼んだ結果、出たのがこの膝に座るという罰だったわけであった。なお、本当はカイトでなくても良かったのだが、色々とあってアイナディス自身がカイトを選んでいた。


「うぅ……」


 当然といえば当然なのかもしれないが。アイナディスの唯一と言って良い弱点は生真面目すぎる所だ。それ故、彼女は性的な事に関してもかなり羞恥心が強い。その彼女が異性の膝の上に座るのである。罰としては十分だった。そうして、そんな彼女と共にカイトはその日一日仕事を行う事にするのだった。




 さて、アイナディスを増援に加えて仕事を開始しておよそ半日。その日の業務を終えたカイトはホテルに戻ると、上層部の為に用意していた部屋に入って全員に一度アイナディスを紹介する事にしていた。やはりギルドとしては格上のお偉いさんだ。来ているのだし、紹介は必要だろう。とはいえ、それ以外にも理由があった。


「というわけで、彼女が八大ギルドの一つ<<森の小人フォレスト・スピリット>>の長のアイナディスだ」

「はじめまして。長いのでファミリーネームは省略して、アイナディス・エルアラン。クズハミサ・エルアラン様の又従姉妹になります」

「「「はぁ……」」」


 というわけでアイナディスを紹介された冒険部上層部一同なのであるが、紹介されたとてだからどうしたのだ、としか言い様がない。敢えて言えば綺麗な女の子だな、としか言い様がないのだ。と、そんな一同に対してアイナディスは首をかしげる。


「……いまいち反応が薄いですね」

「あはは……まぁ、仕方がない。クズハミサ・エルアランはクズハだ。クズハの又従姉妹だよ」

「「「あ、あー!」」」


 カイトからの指摘でようやく全員がクズハの又従姉妹だと理解する。年齢こそアイナディスの方が遥かに年上であるが、エルフなのでそういう事はよくあることだ。とはいえ、今はもう見た目としてもさほど差はなくなっているので、一同にしてもすんなりと受け入れられていた。


「よく見れば……似てますね」

「そう言えば目元のあたりなんか……」


 桜と瑞樹の二人はようやくカイトがここで紹介した理由を悟り、合点がいったとしきりに頷く。この場は敢えて言えば身内の集まりに近い。何故ここで紹介されるのだろうか、と疑問だったのだ。彼女もカイトの身内だったのである。


「というわけで全員見知っておいて貰えると助かる。基本はエルフ達の異空間の中にある<<森の小人フォレスト・スピリット>>のギルドホームに滞在しているが、クズハがどうしても冒険者に重要な仕事を依頼する、となった場合に公的に依頼する相手は彼女になるんだ。今の所オレが居るしこちらにソレイユ達も来ているから問題はないが、せっかく来たんだからな」

「それで……今まで見なかったんですね」

「ああ。必要がなかった、というわけだな」


 桜の指摘にカイトも頷いた。つまり、そういうことなのだ。必要がないので見知る事はなかったが、今後も必要がないとは限らない。なのでこの場を借りて、というわけであった。というわけで身内と分かれば一同としても関わりやすい。早速、瑞樹が問いかけた。


「<<森の小人フォレスト・スピリット>>の本拠地って向こうの王都にあるんですの?」

「いえ、向こうの王都から少し離れた……そうですね。皆さんのマクダウェル領のある出入り口から少し西に移動した所に拠点があります」

「それで……」


 アイナディスの返答を聞いて、桜は以前エリナの護衛で王都に入った時に会わなかった理由を理解した。向かう方角とは別の方向だったのだ。

 というより、気付くべきではあった。王都だけがあの異空間にある街ではなかった。他にも沢山の街があったのである。と、そんな桜の一方で瑞樹は別の事に気が付いていた。


「あら? ということはもしかして……クオンさんの所を除けば一番近い八大は……」

「そうだよー。実は私達が一番にぃ達に近いの。クオン達は通常、移動してるからねー」

「そんな事言い始めたらお前らの拠点の場合、どこにでも繋がっているから大抵の所じゃ一番近い八大ギルドになるだろ」


 ソレイユの答えに対して、カイトは笑いながらツッコミを入れる。そもそも異空間にあるギルドで、そこからどこにでも行けるギルドだ。一番活動範囲が広いのは規模が最大の<<暁>>か特殊な場所に拠点を構える<<森の小人フォレスト・スピリット>>である事は間違いないだろう。


「そう言っても兄ぃとかみたいに特例が無いと自由に入れないから結局、僕らも遠い事は遠いかな。それにそういう事だから僕らも外に拠点は幾つかあるし。拠点無いと外で活動するの面倒だしねー」

「まぁ、そうだわな。ほら、前にラエリア行った面子には教えただろ? ラエリアにでかい拠点がある、って。それが、その一つ」

「僕らはそこから一度エルフ達の里に行って、ハイ・エルフの異空間に入ってこっちに来たわけ。だから徒歩で十分だったんだよ。ちょうど僕らの本拠地がここから西。ラエリアのある場所は更に西。一度拠点に立ち寄って姉ぇの手紙を受け取った、っていうわけ」


 カイトの補足に更にフロドが補足を入れた。ラエリアからマクダウェルに向かうちょうど進路上に、この<<森の小人フォレスト・スピリット>>の本拠地がある街があるらしい。距離としては僅かにマクダウェル側に近いそうで、それ故に二人が子供達が遊んでいる時間帯に来れたというわけだったのだろう。


「ということは……一日で来れるわけ?」

「うん。馬を使えば普通に一日で」

「はー……」


 それでカイトが何度も何度もフロドに泣きつかれた、というわけか。魅衣はフロドの返答から彼らにとって大陸間の移動は特に難しくもないという事を理解する。そしてその理解を見て、カイトが少し苦笑気味に明言した。


「まぁ……だから三百年前の緒戦でエルフ達の国が狙われてな。完全孤立状態に陥るのにさほど時間は掛からなかった」

「あの時は大変でした。最後の最後は上手い具合に私が外に出ているタイミングを狙われましたし……あれは痛かった」

「あ、そっか……そんな空間だったら、移動に便利だもんな」


 そりゃそうだ。俺だって狙うよな。思い出したのか心底苦味を湛えた顔を浮かべたアイナディスを見て、ソラも戦略的に当然の判断である事を理解していた。ここを使われれば当然、各国は簡単に戦力を融通出来る。連携も容易だろう。だからカイト達も助力したのだ。そしてそれ故にこそまずいの一番に狙われたらしい。

 が、そこは流石はこのエネフィアでも有数の高位の種族であるハイ・エルフの底力というべきだろう。最後には敗北するものの、かなり長い期間――九十年以上――持ちこたえる事に成功していた。そしてその敗北とて理由ありきだ。


「そういうことだ。実際、ハイ・エルフの力も相まって即座に陥落とはならなかった。クズハが生まれているんだからな。ヴァルタードは当時無かったが……皇国は当然のこと、ラグナ連邦や当時のラエリア王国が陥落寸前までなって、あそこに戦力の集中が出来て遂に落ちた感じだ。一番最後まで持ちこたえた国と言っても過言ではなかったろうな」

「事実、伯父様も強かった。最後こそ軍団長二人に攻められて負けましたが……それでも生き延びているのだから、本当にお強い方でした」

「ぐ、軍団長二人がかり……」


 カイトの敵の中でも有数に厄介と言われる最高幹部達二人が戦ってようやく勝てたハイ・エルフの国の元近衛団長に、ソラも周囲も思わず頬を引き攣らせる。とはいえ、それ以上に強い人物がエルフには居た。


「あはは。でもねぇねの方が強いよねー」

「そうそう。姉ぇが居たら国は落ちなかった、って言われたほどの猛者だし」

「<<雷鳴の姫騎士(らいめいのひめきし)>>……それが、彼女の名だ」

「まぁ……それ故に行く先々で妨害を受けたわけですけどね」


 三者三様の称賛にアイナディスが照れくさそうに僅かに頬を染める。そんな彼女の言葉に、カイトは少し懐かしげに思い出した。


「そう言えば……ソレイユを送り届けて顔見知りになって、エルアラン(エルフ達の国)奪還作戦以来の付き合いか。思えば長いもんだ」

「そういえば……そうですね。思えばバルフレア殿達との伝手も私が行ったのでしたか」


 懐かしげなカイトに対して、アイナディスもまた懐かしげだ。彼女はあの当時からギルドマスターで、さらに言えば代替わりが何度か起きている八大の中であの当時も八大だった。故にバルフレアの先代達に渡りをつけてくれたのが、彼女だったのである。


「思えば……ずいぶんと大きくなったものですね」

「そうかぁ? オレはそんな気はしないんだが……」


 マジマジとカイトを見るアイナディスに、カイトは自分の身体を見ながら首を傾げる。が、これには灯里が同意した。


「いやぁ……おっきくなりすぎでしょ。具体的には身長とナニが」

「それはおっきくなっても……いや、良かったのか」

「でしょー?」

「そういうことではありません!」


 楽しげな灯里に対して、アイナディスが声を荒げる。そして一度脱線すれば、後は脱線を続けるだけだ。こうして、収穫祭前の最後の夜は更けていく事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1391話『収穫祭前日』

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