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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第68章 四大祭・秋編

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第1385話 収穫祭の参加者達

 神殿都市の中心にある大精霊達を祀る八個の大神殿。その神官達のある意味でのヤバさをカイトの語りから理解したソラ達は少し逃げるようにしてその近くに設置されていた街の役所へと入っていた。

 そこでするのは当然だが、各種の申請だ。およそ一月もの期間ここに滞在するわけだし、学園を上げて収穫祭に参加する。なので役所への申請がどうしても必要となったのだ。

 が、やはりそう言っても桜田校長が直々に申請する必要はない。なので代理人として冒険部の長であるカイトがソラと瞬の二人を連れて来た、というわけである。二人なのは瞬は<<暁>>への挨拶に、ソラはカイト達と別れて一ヶ月の間お世話になる旅館との打ち合わせだ。いや、ソラは正確には先に入っている桜達の補佐という所だろう。祭りが本格化してきたので、上層部の人員を増員する、というわけだ。


「はい、では確かにお預かり致します。もう少々お待ち下さい」

「わかりました」


 持ち込んだ申請書類一式を役所のカウンターに提出したカイトはその指示に素直に従って、ソラと瞬が座るソファへと腰掛ける。基本的に書類は椿が体裁を整えてくれているし、書式そのものはマクダウェル領なので何かが変わる事はない。カイトとしては慣れたものだ。

 そしてカイト達の身許は他ならぬマクダウェル家が保証している。なので冒険者ではあるが、申請についてはさほど手間がかからない。武器の持ち込みなどで些か一般市民達よりも手が掛かる、という程度だろう。というわけで、基本的に役所での申請は待ち時間が増えるのは地球もエネフィアも変わらない姿だった。


「待ち時間が長い……そう言えばカイト。こっから俺は桜ちゃんと合流すりゃ良いんだよな?」

「ああ。とりあえず旅館の手配を頼む。後は可能ならヴィクトル商会の支店に行って、食材の搬入なども確認しておいてくれ。あ、燃料も忘れずにな」

「わかった。じゃあ、とりあえず桜ちゃん達と分業して、そこら進めとく」

「頼んだ。その間にこっちは<<暁>>の支部に行って、挨拶だけは済ませておく。そうしないと問題が起きた時に何かと対応が難しいからな」


 ソラが進める手配の確認の傍ら、カイトは己がまず成すべき事を見直しておく。飛空艇の中でも言っていたが、まず何より重要なのはこの街の冒険者達への挨拶を怠らない事だ。

 縄張りが存在してしまう以上、どうしてもそれだけは必須だった。筋を通す事が重要。冒険者としてやっていくなかでバランタインが何度も言っていた事だった。と、そんな予定の見直しを行っていくと、なんだかんだと時間が経過する。というわけで気付けば申請も全部終わってしまっていた。


「はい、ではこれで手続きは完了です。では、収穫祭をお楽しみください」

「ありがとう。ふぅ……なんというか、変な話なもんだ……」


 手続きが終わり役所の職員に頭を下げられたカイトは、なんだかんだ長かった申請を思い出してため息を吐いた。何が変な話なのかというと、やはり冒険者の宿命というかどうしても避けられない話として武器の封印やチェックが入った事だ。

 が、そもそもカイトがこの地を治めている領主である。その領主が武器のチェックを受けるのに時間が掛かった、というのは本末転倒といえば本末転倒だろう。武器のチェックやボディチェックはすべて本来彼を守る為の物だ。その領主を守る為の物で領主が時間を食われていては世話がなかった。


「まぁ……それはどうでもよいか。とりあえずソラ。後は任せる。メモは落っことしてないな?」

「ああ。とりま、これに従って動けば良いんだな?」

「ああ。後はそちらで適時判断してくれ」


 カイトはソラの持つメモをチェックして頷いて、後の事は彼に任せておく事にする。ソラの内政や各種組織との折衝に関する性能は彼も信頼している。ここら、やはり父譲りの何かがあったのだろう。真剣に戦略や策略を学んでいる事で、ここらの内政面に関しても底上げがなされていた。

 彼自身としても色々な出会いなどから人望も悪くない。瞬と同じく、後には良い指導者となってくれる事だろう。もちろん、それまではカイトが守り、導く必要があるがそこの点は疑いが無かった。というわけでソラと役所前で別れたカイトはそのまま、瞬とともにソラとは別に火の大精霊の大神殿がある方向へと歩いていく。


「支部はこちらなのか」

「ああ。基本彼らはやはり開祖がおっさんだからな。サラ……火の大精霊の影響を強く受ける。そしてそれはこの街……いや、皇国なら誰もが知っている事だ。なので、火の大神殿の近くに支部を設置する事になってるんだ。まぁ、近くに孤児院もあるからな。わかりやすいといえば、わかりやすい」


 道中、二人はこれから向かう<<暁>>の支部についてを話しながら歩いていく。バランタインで最も有名な武芸は何か、と言われればやはり彼の特質に起因して出来る<<炎武(えんぶ)>>だろう。

 これを欠いて彼を語る事は出来ない。そしてそれは何が影響しているかというとやはり、火の大精霊ことサラマンドラだ。そしてここは神殿都市。他の大神殿にしても火の属性に関わりの深い<<暁>>が近くにあるのはあまりよく思われない。どこにとっても最善の判断だった。と、そんな解説を受けながら歩いていると、やはりギルドの拠点に近づいているからか多くの冒険者達が見受けられるようになってきた。


「ここらまで来るとやはり冒険者が多いな……」

「<<暁>>の支部があるからな。基本、ここらが冒険者達がよく来る一角となるんだろう。おそらく武器屋なんかも近くにあるはずだ」

「そうか……後で地図を確認しておくか」

「そうだな。そうしておこう」


 領土の地図とは違い、街の地図は望めば普通に手に入れられる。そこまで高価なものではないし、隠しているものでもない。というわけでこれについては後で手に入れる事に決定して、二人は歩いていく。と、そうして歩いているとどうやら瞬の顔見知りが居たらしい。


「ん? おお、瞬か。って、そうか。お前確かこっちから留学してた、って話だったか」

「カジム?……どうしたんだ?」

「親父がちょいとこっちに行ってピュリの姉御の手伝いしてやれ、ってな。今年は神王様やら皇帝陛下も来られる。で、ウチにも来賓が多いだろうから、って話だそうだ。幹部連も何人か先入りしてるぜ」


 カジムという男は驚いた様子の瞬の問いかけに若干肩を竦めながら瞬に今回の来意を述べる。やはりカイトが来るという事でお目付け役が必要だと思われたのだろう。仕方がないとはいえ、厚遇といえば厚遇だった。と、そんな話を聞いて、瞬が首を傾げた。


「先入り?」

「ああ。って、お前もしかしてリジェの奴から聞いてないのか?」

「何をかは知らんが……多分、そうだと思う」


 一ヶ月ほど前にまたウルカへと向かったリジェからの手紙を思い出して、瞬は何か特筆するべき事も無かった事を確認する。向こうは相変わらず豪快だ、とかバーンタインが<<炎武(えんぶ)>>の完成――単独ではやはりまだ使えると見做せるほどではないらしい――に少し手こずっている、とかその程度しか書かれていなかった。


「あいつ……どこか抜けてんだよな、あいつ」

「あははは……で、なんなんだ?」

「ああ。親父ってか幹部連も揃ってウチはほら、火の大精霊様信仰してるだろ? だからこの収穫祭の本祭には欠かさずお参りしてるんだよ。冒険者はなんだかんだ験を担ぐ。特に今年は親父も<<炎武(えんぶ)>>の最終段階に到達する、って気合入れてるからな。験担ぎってか願掛け、ってわけだ。今年は前夜祭後夜祭全部に参加するし、ウチからの寄進も今年は少し色を付けてるそうだぜ?」

「そ、そうだったのか……」


 軽い見送りは冒険者の常だと思っていた瞬だが、どうやら瞬に対して軽い見送りはそれだけではなかったらしい。やはり冒険者の中にも信心の厚い者は少なくない。というより、一般市民より遥かに大精霊に対する信心は厚いと言っても良い。

 瞬は切り札を使うには加護の存在が欠かせないし、彼以外にも冒険者であれば加護があったおかげで助かった、と言える事は数限りないのだ。大精霊から力を借り受けている者は必ず一度はお参りしたいとされている聖地の一つだ。バーンタインが来るというのも不思議はなかった。


「後は……そうだな。学芸会の風紀委員長殿も来るって話……いや、こっちも例年来てるよな」

「学芸会の風紀委員長殿?」

「ソレイユ達のボスだ。ハイ・エルフの女性で、八大の長の一人だな」

「来るのか?」


 カイトからの補足に、瞬が思わず目を見開いた。が、こちらが来ないわけがない。そもそもソレイユと共に魔族領の雪山に行った時に年末年始には必ず挨拶に来る、という様な事を言っていたのだ。その彼女がこんな宗教色満載なお祭りに参加しないわけがない。と、そんなわけで瞬の問いかけにカイトがはっきりと断言した。


「来るに決まってるだろ。後は……鍛冶屋の長も予定が空いてりゃ来るかな。あそこは通例代理を出すか、長が直々に来ているという事だそうだ」

「大陸間会議並に勢揃いしてるな」

「下手すりゃ、それ以上に勢揃いするぞ。今年は特に剣姫の所も参加するだろうしな」


 瞬の言葉に対して、カジムはため息を吐く。大陸間会議の時とは違い、こちらはやはり何か政治的な話があるわけではない。なので来るという相手に対してはよほどの事情が無ければ拒絶は出来ないのだ。

 というわけで、時には八大ギルドの長が勢揃いする様な事もあるらしい。カイトが初開催した時には全員揃っていたそうだ。今年は流石にそういう事はない――現にバルフレアは根回しに忙しく使者を立てる事にしている――そうだが、それでも時期がズレて長の多くが来る可能性はあった。


「ふむ……確かにクオンさんとかも今年は参加する、と言っていたか」

「ああ、じゃあ参加するのか……っと、そういや姉御に用事だろ?」

「ああ。挨拶にな」

「なら、行って来いよ。今丁度客が出てった後だから、空いてるだろうぜ」

「助かった……じゃあな」

「ああ」


 瞬と手を振って、カジムが背を向けて<<暁>>の支部とはまた別の方向へと歩いていく。あちらに何があるかはわからないが、そちらに用事があるという事なのだろう。というわけで再度歩き出した瞬が呟いた。


「やはりあっちも気合入れてるのか」

「そりゃな。特にあの家系は火の大精霊と繋がりが強い。やはりどうしても、というわけなんだろう。おっさんもこの祭りにだけは、欠かさず参加してたしな」

「……何故そんな面白そうなんだ?」

「ちょっと、な」


 瞬の問いかけに対して、カイトは少しだけ楽しげな笑みを浮かべていた。実のところ、バランタインが祝勝会など以外で参加したお祭りというのはこの収穫祭が初めてだった。

 というより、誰でも参加出来るように、とこのお祭りを収穫祭としたのだ。収穫祭は収穫を感謝する為のお祭り。生きとし生けるもの全てへ感謝していれば誰もが参加出来る。生者も死者も関係無い。

 が、やはりこの収穫祭は宗教色が強いお祭りだ。なので彼が慣れないお祈りのポーズや沈黙を保つ事に四苦八苦していたのを思い出したのである。そしてそんな事を思い出したから、だろう。ふと、この言葉が口をついて出た。


「ん……なんだろな。やっぱり、オレはこの街も好きだな」


 この街にも色々な思い出があり、思い入れがある。宗教色の強い街でなおかつ彼自身も一時祀られそうになった事もあるが、それでもカイトはこの街を嫌いにはなれなかった。


「……お前、時々領主としての顔を出すな」

「領主だからな。この土地全て、オレは大好きだ。見たこともない街も、見たこともない村もあるだろう。だがそれでも、この地の全てオレの土地だ……嫌いなわけがないさ。なにせオレが好きになるように作ったし、作ってくれている。嫌いになれるわけがないだろう?」


 当たり前といえば、当たり前だ。彼はこの地全てを好きにできる権限がある。それこそ彼が望めば、酒池肉林だって作る事が出来た。そんな中で彼が選んだやり方に従って作られている街だ。嫌いになれるわけがなかった。嫌いになれば作り変えれば良いだけだからだ。


「だから……まぁ、このお祭りを楽しんでくれれば幸いだ。このお祭りの主催者はこのオレだ。大いに、楽しんでくれ」

「……そうか。そうさせてもらおう」


 どこか照れくさそうなカイトの言葉に、瞬は少し笑って有難くそうさせて貰う事にする。そうしてそんな会話が行われたとほぼ同時に、二人は<<暁>>の神殿都市支部に到着していた。


「この旗は<<暁>>のものだな。じゃあ、ここが……」


 二人が見上げたのは、やはり町並みに合わせて白系統で統一された大きな建物だ。建物の大きさとしてはやはり外聞もあって大神殿よりも大きくはないが、やはりこちらもこちらでウルカと同じく規模から幾つかの建物を領有している様子だった。

 とはいえ、やはり<<暁>>の支部だからか太陽の紋様がでかでかと刻印されていたし、屋根も赤系統だ。火の大精霊を敬っている、という所なのだろう。そうして、二人はそんな白い<<暁>>の建物へと入っていくのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1386話『挨拶を』

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