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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第68章 四大祭・秋編

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第1384話 神殿都市

 神殿都市こと『白亜の城』。その純白の城壁を見ながら益体もない事を喋っていたカイト達であったが、そんな会話からおよそ20分ほどで飛空艇は神殿都市の側にある空港に着陸していた。中ではないのは神殿都市の中には決められただけのスペースしかなく、空港の様な大規模設備を整える事が出来なかったからだ。というわけで、彼らを出迎えたのはそんな神殿都市の象徴たる純白の城壁だった。


「……うっはー……近くで見ると無茶苦茶綺麗だなー……」


 真っ白な城壁を見ながら、ソラが思わずそんな間抜けな感想を零す。純白の城壁には一切の染みはなく、三百年の月日を感じさせない様子でさえあった。


「そりゃな。毎日毎日掃除屋が掃除してるからな」

「あれは……マジで? これを全部手作業でやってんのか……?」


 カイトの指さした方向に居た小さな人影に気が付いて、ソラが思わず呆気にとられる。人影の手には何らかの掃除道具があり、敢えて言えば城壁を磨いている様な感じだった。


「この白亜の城塞はこの神殿都市の誇りそのもの。そして……この城壁には特殊な魔術が刻まれていてな。その調整だのなんだのはどうしてもゴーレムや魔道具では出来ん。だから、あの掃除屋達は手作業でその調整をやってる専門職だ。所属は各大精霊の神殿。神職者と言っても間違いじゃあないだろう」

「うへー……」


 直系数キロはあろうかという神殿都市の全周を取り囲む超巨大な白亜の城壁を磨き上げる掃除屋達に、ソラは思わず言葉を失う。城壁の高さは30メートルほど厚さは15メートル程度と、巨大な魔物も居るこの世界で考えれば決して高くはない。

 が、それでもそれが街すべてを覆い尽くすのだ。その表面積はというと、莫大な規模になる事は想像に難くない。おそらく一周終わってもその頃には終わらせた部分に汚れが浮かんで、と延々同じ作業の繰り返しになるだろう。それを毎日毎日繰り返すのだ。信仰や誇りが無ければ出来ない作業だった。


「気の遠くなる様な作業だな……」

「まぁな……この城壁は街の誇りだ。だから、彼らは見方によっては街の誇りを磨いているとも言える。誰も手を抜かない。この街で掃除屋は決して誰でも出来る仕事じゃない。厚い信仰と、確かな技術。この城壁の掃除を任されるという事は間違いなく、この街でも選りすぐりの技術を持つ技術者だと言える」


 純白の城壁を三百年も一切の汚れも許さずに守り通しているのだ。それ故か代々引き継がれてきた技術を尽くして城壁を磨くその姿は信仰を捧げる祈りにも似ていて、非常に真摯で丁寧なものだった。


「そしてだからこそ、この街の掃除屋は世界中からお声が掛かる。是非ともウチの教会や宝を磨いてくれってな」

「それだけ、技術が確かという事か」

「そうだ。ま、それにこの街の掃除屋は腕っぷしも強い。強い信仰心があるから、というべきなのかもしれんが……何人かは飛空術を使いこなせる」

「「え゛」」


 まさかの情報にソラと瞬は思わず下げていた視線を上に戻す。そんな二人の視線に気付いたか気付いていないか、掃除屋達はこちらを気にもせず掃除に集中している。特に今は収穫祭前だからか、非常にその姿は熱心だった。


「あんな高所での作業だ。命綱もあるが、やはり万が一が起きれば生命は無い。飛空術を習得した、という掃除屋は少なくないそうだ。もちろん、それでも本職の戦闘員じゃないから冒険者で言えばランクCとかD程度。それに特化した、という所で間違いはない」

「そ、それでも飛空術を習得するのか……」


 飛空術。それは天才と言われたアルでさえ習得に数ヶ月を要した非常に高度な魔術だ。彼より先に使いこなしていたルーファウスもみっちり特訓して、それぐらいは必要になったらしい。少なくとも、瞬もソラも今の所習得出来る見込みは無い。瞬の呆気にとられた顔がその凄さを物語っていた。

 カイトでさえ大戦期にはティナの教示を受けるまで上手く使いこなせず、武器を振るう反動で空中に浮かぶというある意味の絶技を習得していたほどだ。それを、単なる掃除屋達が習得する。彼らにはそれほどの専門性と技術があるというわけなのだろう。


「というか、ランクCだとウチの平均値あるだろ」

「まぁな。だから喧嘩は売るなよ。この街の掃除屋達は基本神職者に近いから温厚だが、魔物が近づいても自分達で大半処理するとかいうおっかない人達だ……ああ、ほら。今も……」


 カイトは少し離れた所から飛来する鳥型の魔物を指さした。そうして三人の見守る前で掃除屋の一人がどこからともなく弓を取り出すと、城壁に背を向けて狙い定める。そして狙い定めて放たれた一矢は城壁に吊るされている様な格好の掃除屋達を獲物に狙い定めたらしい鳥型の魔物を消し飛ばした。


「……一撃かよ……あれ、確かランクCの魔物だよな……」

「冒険者並の戦闘力はある、という所か……」

「聖職者だから、意識を集中させる弓との相性は良い。彼はおそらく神殿に属する掃除夫だな」


 唖然となるソラと冷静にその戦闘力を判断する瞬に対して、カイトはおおよその出自を推測していた。基本、武器を見ればこの街の掃除屋の所属がわかるとは彼の言葉だ。

 弓を使うのは基本聖職者らしい。他に多いのは魔術師で、魔術師だと街が雇った掃除屋になるそうだ。各々専門が違う為、同じ掃除屋でも得意とする事は違うらしい。近接が少ないのはやはり場所柄という所だろう。


「ま、あんな感じで強い。というわけで、この街で揉め事は起こすなよ。この街は住人も強いぞ」

「「よくわかった」」


 少し楽しげなカイトに対して、答える瞬とソラの顔は真顔だ。おそらく掃除屋達は見えているだけではない。彼らは集団で動いているが、おそらくその集団は所属する組織ごとの集団だろう。

 あまり近すぎても作業効率が悪い。見えない反対側にも同じ様に何個も集団があるはずだ。そしてその大半が今の様な戦闘力を持っているのだとすると、非常に多くの者たちが高い戦闘力を有していると察するのは簡単だった。


「さて。じゃあ、それがわかった所で。街に入るか」

「お、おう……」


 歩き出したカイトに従って歩き始めるソラであるが、やはり掃除屋というには強すぎる掃除屋達にどうしても気が行くらしい。歩きながらもちょくちょく彼らの方を見ていた。そんな感じで神殿都市の入り口を潜ると、そこにあったのはまさにファンタジー世界の宗教都市とでも言うべき世界だった。


「すっげ……道路も地面も白いレンガかよ……」

「街灯もあるな……木々も等間隔に植えられている……」


 完全に区画整理され統率されている様子の神殿都市の内容にもまた、ソラと瞬が驚きを露わにする。マクスウェルがある意味活気に溢れた雑多な様子のファンタジー世界の都市だとするのなら、この街はしっかりと計算された上で構築された宗教的なファンタジー世界の都市だ。マクスウェルを拠点とする二人には尚更こんな街は物珍しかったのだろう。


「このまままーっすぐ行けば、神殿都市の中心に辿り着ける。神殿都市の中央広場だな。まぁ、今は流石に人混みで先はあまり見えんが……」

「ってことは、この大きな道路をまっすぐ行けば迷いそうにはないな」

「そうだな。この街では基本、迷う事はない。真っ直ぐ行けば大広場。それを目印に歩けば良いだけだ。ここは今は南門。目印もある。東西南北に出入り口があって、ドーナッツ状に大きな道路が幾つかある。その間に建物が、という所だな」


 やはり神殿都市はマクダウェル領第二の都市だ。それ故か大きな街であったのだが、逆にここは最初から町並みも考慮して設計されている。それ故、一見似たような町並みでも迷いにくい様になっているとのことである。ということで、迷子を危惧したソラであるがその心配が無いと安心する。


「よっしゃ。じゃあ、まずは役所か」

「ああ……まぁ、役所もこの道なりに真っ直ぐ進むだけだ。だからのんびり観光でもしながら歩けば良い」

「そうする」


 ソラはカイトのアドバイスに従って、祭り前という事で多い人混みに気を付けながら歩いていく。そうして見えたのは、やはりこれまた白系統で統一された町並みだ。上から見ても凄かったが、やはり実際に立ってみると尚更その威容が理解出来た。


「うっはぁ……真っ白。目が痛くなりそう。真夏とか日の照り返し凄そう」

「もしかして……街も軒並み磨かれているのか……?」


 真っ白の町並みに目を瞬かせるソラに対して、瞬も流石にここまでになると呆れ返るしかなかったらしい。そうしてそんな純白の町並みを一時間ほど歩くと、街の中心までたどり着いた。


「……街の中心にたどり着くのに一時間歩くっておかしくね?」

「でかい街だからな」

「でかすぎんだろ……まぁ、それ以外にも混んでるってのもあるけどさ……」


 一時間歩き通したソラがため息を吐く。ここまで一時間掛かったわけであるが、やはりどこもかしこも人、人、人だった。やはり祭り当日になると混み合う事が想像されるし、貴族達の来訪も多くなる。

 特に大精霊信仰の強い皇国では皇国貴族たらばこの期間に一度は自らお参りすべし、とさえ暗に言われるほどだ。もちろん、他国からも信心の厚い貴族は大挙してこの時期に押し寄せる。そうなると街への入場も簡単ではなく、そこでの混雑を避ける為に一般民衆は早めに入っておくのが常だった。


「さて……で、これが八個の大精霊の大神殿。この神殿都市の中心だ」

「「……」」


 まるで誇るように両手を広げるカイトに対して、ソラと瞬は逆に呆気にとられていた。確かにこの大広場は非常に大きいと聞いていた。それに合わせて大神殿も非常に大きいとも、だ。が、それにしたって大きすぎた。


「一つ一つがパルテノン神殿の倍は……あるか? それが八個も……」

「この間のシャムロックさんの大神殿並になくね……? てーか、何あれ……でかすぎね?」


 呆れれば良いのか驚けば良いのかわからない瞬に対して、ただただソラは呆気にとられていた。確かにこの大神殿を建てる為にこの街はそもそも存在していたという。なのでこの大神殿が最も威容のある建物だというのは二人にも理解出来る。

 が、それにしたってすごすぎた。各大神殿のてっぺんには各属性の大きな魔石があり、それだけでその神殿がなんの大精霊を祀っているかわかる装いだ。その大きな魔石というのが、これまた大きい。一つにつきおよそ20メートル。天井に半分程度埋まっているので実際に見えているのは半分程度だ。

 間違いなく魔導炉のコアとしても使われないような大きさで、これだけの大きさの物をどこから見つけてきたのだ、と言いたくなるほどだった。もちろん、この街で最も重要な建物だ。純白の壁は掃除屋達の中でも特に腕利き達が日頃磨いているのか、染みどころか汚れ一つ見当たらない。


「……まぁ、そう言ってくれるな。これでも小さめにはなった。うん、した」

「「……へー……」」


 当時の大精霊信仰はおそらく、今よりも遥かに凄かったのだろう。なにせ史上唯一となるカイトが居たのだ。それ故にか、これでも小さくなった方らしい。それが真実である事は、カイトの顔に浮かぶ呆れっぷりから二人にもよくわかった。


「はぁ……大きさを決めるのに一ヶ月掛かったとか馬鹿な話だ。黄金比を守りつつどうすれば一つ一つに差が生まれず、各大神殿の特色が出せるのか。模様一つに至るまで、それどころか後世に自分達が居なくなってからも絶対にこれが失われないように保存の方法やら改良の方法やらの指南まで遺してるぞ、これを建築した馬鹿どもは……」

「……すげぇ分厚いんだろうなー……」

「分厚いぞ、マジで。オレも見たがな……あそこまで行くともう……そのね? ぶっちゃけるといくらなんでもやり過ぎとしか思えん。設計図やらなんやらの図面には模様の一つ一つの意味までぜんっぶ遺してるからな……」


 行き過ぎた信仰にはカイトもただただ呆れるしかなかったようだ。まぁ、自分が関わらないが故にか、この街については彼はただただ呆れるだけであった。呆れるしか出来ない、というわけでもある。


「ま、そりゃ良いわ。行くぞ行くぞ。大神官にでも見つかれば厄介だ」

「お前、正体知られてるのか?」

「知ってるし、逆にお前らの事も向こうは知ってるぞ」

「へ? なんで?」


 どこか逃げるように踵を返したカイトの返答に、ソラが首を傾げて問いかける。確かに会いたいと向こうが言っている事は知っている。知っているが、遠目に見てもわかるほどだとは思ってもいない。


「はぁ……あちらさんにとってみれば大精霊達と頻繁に会う様な奴らだ。特に先輩なぞサラに頼み込んで加護を貰ったっていう稀有な存在だ。向こうが知らないわけがない。あっちは大精霊の専門家。ガチのファンと言っても過言じゃない。大精霊が起こしたとされる大半の奇跡は知ってると思えよ」

「もしかして……ウェッジさんみたいなのが沢山居ると思えば良いわけ?」

「というより、あれに輪をかけて信仰心が厚いのが、この大神殿に務める聖職者だな。風の大神殿のエルフ達なぞ、シルフィの叱責でも称賛でも声を聞いただけで卒倒するぞ。いや、普通のエルフも卒倒しかねんか」


 あ、これは確実にヤバイ人達なんだ。ソラはあのウェッジよりも遥かにヤバイ、という印象だけで大精霊達について語る時は口調を心がける事にしようと決める。そうして、そんな三人は連れ立って神殿から逃げるようにして、その円周の少し外にある役所へと入っていく事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1385話『収穫祭の参加者達』

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