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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第67章 神話の終わりと始まり編

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第1379話 邪神の策略

 シャムロックの神使の一人であり、同時に神界の神使達の統率役でもあるアスラエル。彼の望みを受けて彼と戦っていたソラは戦闘後、大の字になって休んでいた。それを見ているカイトの所へとアスラエルはやってきていた。


「どうだった?」

「筋は悪くはない。が、やはりまだ遠い」

「そりゃ、遠いだろう。相手は掛け値なしの英雄だ。それと小僧を比べて小僧が勝つなぞ、よほどの理由が無ければありえんさ」


 アスラエルの断言にカイトは笑う。そもそもカイトがおかしいというのは横においておいても、ソラがエルネストに比する男であるのはまず有り得ない。

 ソラはやはりなんだかんだ言っても十数歳の少年だ。こちらでの経験があり青年に近い状態には差し掛かっているものの、まだギリギリ少年と言う方が正しいだろう。それが英雄と同格である筈がなかった。


「で? どう見られた?」

「二十年……その程度で良き戦士に育とう。ゆくは間違いなく英雄となる」

「まぁ、その程度か」


 アスラエルの総評に対して、カイトも納得して頷いた。


「二十年……貴方にとっては瞬く間だろう」

「成長が楽しみだ」


 カイトの言葉に、アスラエルは楽しそうに笑う。言外の同意だった。不器用と自負する彼であるが、こうして普通に笑うのでとっつきにくい人物ではなかった。


「そりゃ、結構……にしても往年の力が戻ったのは神々だけでは無かったか」

「我らもまた、休眠していた故」

「だが……」

「うむ。三百年。ゆるりと休んだ……もはや、負ける事能わず」


 アスラエルはカイトの言葉に応じて、覇気を漲らせる。彼は武人だ。来るべき戦いに向けての心構えは出来ていた。今度は、勝つ。その気迫があった。そうして去っていった彼を背に、一方のカイトは大の字のソラの所へと歩いていく。


「よう。どうだった?」

「つ、つぇー……マジなんなんだ、あの人……打ち込んだの数発だぞ……」


 大の字のソラだが、だいぶんと呼吸は元に戻っていた。そんな彼はただただ、神界の戦士長の力に恐れ慄いていた。たった数発しか攻撃を受けていない。にも関わらず、魔力はすっからかんだった。


「全部全力で受けないとヤバかった。マジ、なんつー攻撃力だよ……」

「あっははは。あの人は不器用だからな。手加減って言っても全力を出させるか否か、程度しか出来ん……いや、出来ないってかしてくれないんだが」


 自分の時もそうだったな。カイトは三百年前を思い出して笑う。不器用を自負するアスラエルは真実、不器用だった。


「まぁ、それでも。神界最強はあの人じゃない。あの人も確かに上から数えた方が早いが……」

「まだ上居んのかよ……」

「軍神の下にな。シャムロック殿の下には総合力に優れた神使が集っている。それに対して、あいつの所には勇猛果敢な戦士が揃っている。戦う力だけなら、あちらの方が強い」


 やはり太陽神と軍神だ。司る権能が違う。それ故にその神使の質も異なっていた。カイトの様に神の権能に関係なく神使となっている者が珍しいだけだった。


「ま、そこらで神界最強は軍神と言う奴も居る。実際に集団戦、軍事に掛けてはウチよりあっちだ」

「そう……なのか?」

「おいおい……たった二人で軍も何も無いだろう」


 カイトの所は神使と神を含めてたった二人だけだ。それで軍も何も無い。が、これはここが珍しいというか異端なのであって、他にはもっと多くの神使や眷属が居る。それこそ一つの神が村や町を収めている事だってザラだった。そして何より、ソラは一つ思い違いをしていた。


「それに、だ。今はこっちに拠点を置いているが、それは邪神の復活が近いからってだけだ。彼らの神界には軍勢が控えている神様だって多い。軍も神使もおらず、というシャルだって補佐の文官は居るしな」

「マジで!?」

「おいおい……冥界は未だ健在だぞ。大精霊信仰の強い皇国だが、神話体系としてはシャムロック殿の神話体系を信仰しているに近い。死者を統括するのはウチだぜ?」


 死神の領土は死者の国。あまりに当たり前の話であるが、そこを実際に統治しているのはシャルロットの眷属達だ。流石に数千年も他の神々の代行をしながら冥界を治めるなぞいくら神でも出来るわけがない。

 そして重要度であればこちらが優先される。現世が滅びればあの世も滅びる。それ故に彼女は眷属に冥界を預け、自分が世界を放浪したのである。当然の話であった。


「まぁ、そういう感じでウチは軍は持ってない」

「持ってなくても十分っぽいっていうか……そもそも……」


 カイトは軍を持っている。それも神話の軍勢と比べても遜色ないどころか、上回るかもしれない軍勢だ。ソラには無くても十分に思えた。


「にしても……あんな人が全力で戦って。それでも勝てなかったのか」

「そりゃ、しゃーない。なにせ前回は相手の不意打ち。というか、半ば自分達で自滅してるんだが」

「ま、まぁそうっちゃそうだけどさ……にしても、数千年前から鍛え続けてるんだろ? 全力ってもっとヤベェんだろうな」


 神々が眠っていたことをソラは聞いている。それ故に、彼のこの問いかけだった。と、そんなソラの問いかけにカイトが思わず呆けることとなる。どうやら勘違いが生じていたらしい。


「ん? ああ、いや。彼も数千年の眠りは共にしてるよ」

「へ? どして」

「まぁ、これはメリットというべきかデメリットというべきか判断の分かれる所だが……」


 カイトはどう語ったものか、と一度言葉を区切る。そして一度自分の頭で噛み砕いて、口を開いた。


「神様が消耗して休眠する場合、神使も一緒に休眠する場合があるそうなんだ。これはあくまでも、消耗して休眠する場合に限るけどな」

「消耗して……」


 数千年前の戦いは間違いなくそれに合致するだろう。ソラは考えるまでもなく、そう察していた。


「神様の休眠期間は基本、その神様の状態に左右される。だから、シャルの休眠期間は三百年で良かった。彼女の場合、戦争で生まれた死者の増大に伴って高まっていた力に順応するためだ。だから、三百年」

「それに対してシャムロックさんは、か」


 シャルロットが休眠したのは言うまでもなく、カイトを殺しかねなかったからだ。そしてその原因は、というとこれだった。己の力のコントロールができなくなっていたことである。元来死神が死の誘惑に負ける事なぞ有り得ない。が、それはどうしても概念を司る神だからこそ、という所だ。

 それに対してシャムロックはシャルロットとの会話でもあったが、邪神との相討ちだ。どれほど疲弊していたかは察するに余りある。


「ま、そういう事でな。あまりに疲弊が激しいと、神使達の力を逆に使って回復を早めることにするんだ。ほら、疑問に思わないか?」

「何に?」

「邪神はどうして三百年も遅れているのかって」

「そういえば……そうだよな」


 カイトの指摘を聞いて、ソラもふと疑問を得た。今回シャムロックが述べていたが、シャルロットをもって彼の神群は勢揃いした。それもその彼女も最後に眠ったわけだ。なのに、敵はまだ目覚めていない。些か不思議がある事だろう。そしてこれはシャムロックの策の結果だった。


「シャムロック殿……いや、彼をトップとした神々はもし万が一相打ちになった場合には神使達の力を借りて復活を早める事にしていたんだ。そこらも加味して、シャルが生き残ったわけだがな」


 どうにせよ、誰か一人は生き残る必要はあった。シャムロック達がそうであった様に、邪神とて倒された後も眷属やその影響を受けた者は生き残る。最終決戦に勝てばそれで終わりではない。

 だから、神使を持たなかったシャルロットが残る事になったのだ。彼女では復活が遅くなる可能性は非常に高かった。しかも、邪神が狙うレガドもある。ここの隠蔽を考えた時、彼女だけはどうしても生き延びねばならなかったのであった。


「で、こっちは三百年先に目覚めたってわけか」

「ああ。数百年程度の先行だろう、とは元々の予想だった。そしてこのおかげで、復活に際しても先手を打つ事が出来た」

「すっげー……なんってか……もう人智の及ばない領域の戦略だな……」

「あはははは。いや、全くだ」


 神様だからこそ選べる選択というべきか、神様だから成し得る事だというべきか。そんな数千年先を見込んでの戦略なぞまず間違いなく人間には立てられるものではない。

 その彼らとしても誤算だったのは、その復活時に全世界を巻き込んだ世界大戦が起きているとは、という所だろう。こればかりは彼らも想定外で、その結果邪神の信者もかなり増えてしまっていたらしい。政府が力を失えば地下組織が興隆するのは必然だった。


「にしても……向こうに神使はいなかったのか?」

「いや、居た……らしいな。だが、考えても見ろ。こんな戦略を取るんだ。必然、シャムロック殿達も相手に神使が居た場合も考えていた」

「あー……そりゃそうか」

「だから、最終決戦の時には相打ち覚悟でオーリンが数十人単位で神使諸共に相打ち。他の神々は寝返った神々とかとほとんど相打ち状態。満足に生き残ってたのはシャルぐらい、って所だな」

「……おい、ちょいまち」


 カイトが平然と流した言葉を聞いて、ソラが思わず頭を抱えて制止を掛ける。明らかに見過ごせないセリフがあったのだ。


「神々が寝返った?」

「おう。何か不思議な事でも言ったか?」

「……マジで?」

「おう」


 何を当たり前な。カイトは別に不思議でもなんでもない事だったので特に驚きも隠した様子も一切無かった。というわけで、カイトは物の道理を告げる。


「そりゃ、誰だって死にたくないだろ。神々だって一緒だ。だから、邪神エンデ・ニルに寝返った奴も居る。もちろん、そういった奴らも神使諸共倒してるらしいけどな。ま、だからの相打ちだ」

「……えっと、つまりなんか? 今度復活するのは邪神単独じゃなくて……そいつが率いてたってか、そいつとそいつに寝返った神々も全部?」

「ああ。当たり前だろ? この邪神は馬鹿じゃない。狂っていた、と言われるがオレはそれがどこまで正しいか、と思うね。狂っていたとて、確実に知性は持ち合わせていた」

「どうしてそう思うんだよ?」


 ソラの疑問は最もだ。神話では狂っていたと言われる神だ。そして人類を滅ぼそうとしていたという。が、これにはもちろん、カイトなりの理由があった。


「洗脳してるからだ……人類に利用価値があるとはっきりと奴は理解していた。そして、人類側の通信網を利用する事もしている。こんな戦略的な行動が狂っていて出来る事か? 神々だけでなく、各国の上層部もそう判断して動いてる。無論、完璧に正常かと言われるとオレも微妙だと思うがな」

「あ……」


 明らかに、戦略的な視点に立っての行動。カイトから指摘されて、ソラもはっとなった。通信網を逆用するという発想はどう考えても知性が無いと出来る事ではない。

 そしてだからこそ、旧文明もそこを逆手に取られて壊滅した。異世界転移の衝撃で狂っていると完全に油断していた事だろう。狂っているのなら理性的な行動は出来ない。そう考えていた。

 だが、通信網を逆手に取るなぞ狂っていて出来る事ではない。少なくとも知性的な行動だ。下手をすると狂っているという事そのものが演技の可能性さえあった。だから、カイトは敵が取るだろう戦略を見通していた。


「多分、あっちはこっちが待ち構えている事を地脈を通じて……いや、信者達が地脈から送ってくる情報で知ってるだろう。本当ならあっちは今すぐにでも蘇る事が出来るはずだ。確実に、全員が復活出来るタイミングで一斉に蘇る。どういう原理かは知らん。が、今は虎視眈々とその時を待っているんだ」


 カイトは邪神の策略を見通して、獰猛に牙を剥く。来るなら来い。そんな気迫さえ滲んでいた。と、そんなカイトにソラが問いかける。


「なんか策あんのか?」

「もちろん。なんの意味もなく神々が世界各地に散っていたと思うか?」

「……そっか。各個撃破の可能性もあるもんな」

「そうだ。まぁ、今は表向きの邪神復活の兆候を調べる為、って所もあるけどな。一瞬でも、少しでも早く気付ければそれだけ被害は減らせる。前の二の舞いには成りたくないからな」


 前の二の舞い。それは言うまでもなく文明の崩壊だ。それぞれ別個の理由があったものの、三個の先史文明は同時期に滅びている。が、それらはすべて決して無関係ではない。

 例えば双子大陸にあった旧文明。それが滅びた理由は『守護者(ガーディアン)』を呼び出してしまったからだが、それを呼び出そうとした理由はこの邪神の案件があちらにまで波及したからだ。通信網を寸断されては彼らも万全の態勢では望めない。異世界の神と知って『守護者(ガーディアン)』を呼び出して救ってもらおうとしたのである。

 そしてシャムロック達が居た旧文明が邪神を呼び出そうとした理由は、最後の3つ目の文明との競争というか戦争、小競り合いだ。この二つは理由は定かではなかったものの、競い合っていたらしい。ある小競り合いで起きた戦いに切り札として異世界の存在を召喚しようとして、その結果がこれだった。


「ま、それでももう一個……切り札がある」

「なんだよ?」

「オレに決まってるだろ? 世界最強……久方ぶりの現役復帰だ」

「……そ、そりゃそうだわな……」


 思い直せば、カイトは神々が束になっても勝てない様な化物だ。ソラもそれを思い出して、カイトの言葉をすんなりと受け入れる。もし邪神とその神軍が蘇ったとて、カイトなら勝ってしまえるだろう。というわけで、ソラもそのカイトが今回切る切り札を理解する事もなく、そのまま立ち上がって再び神使の為の部屋へと戻る事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1380話『閑話』

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