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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第67章 神話の終わりと始まり編

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第1373話 勇者の戦い

 さて、月の女神シャルロットが上空で戦いを繰り広げていた頃。その足元ではカイトとユリィが戦いを開始しようとしていた。眼の前には、十数体のソラ達が戦ったランクA個体の完全体だ。が、それに対してカイトは一切の気負いがない。それどころか、何かをしたいのかユリィに頼んで一体一体相手にする準備さえ整えていた。


「はーい、お客さーん! こっちに順番に並んでくださーい!」


 ユリィは魔糸を器用に操って敵を拘束して黒いモヤが噴出する噴出孔に叩き落とす。今回、カイトの望みは一体一体戦う事。そしてその思惑は聞いている。なら、それに協力するだけだ。


「さて……かつてエルネスト殿はこれに殺されたわけですが」


 カイトはユリィによって一匹だけ残されている個体を見ながら、そう呟いた。敢えて言うまでもないが、エルネストは決して弱くはなかった。それどころか今のソラ達にアル達公爵家の軍人を加えたとて、束になって勝てない相手と断じて良いだろう。

 なにせ今のソラでさえ三割程度しか扱えない神剣を完璧に使いこなしていたのだ。その力量は察するに余りある。そして英雄に信仰心云々は関係ない。彼はあの神話の時代こそが最盛期だった。


「まぁ、わかりきった話で神とその眷属の力量はその神の信仰心がどれだけ集まっているかに左右される。分厚い信仰心と数多くの信者が居る神はものすごい力を持ち、誰にも知られずそんな信仰されていない神の力は神と言えどたかが知れている」


 カイトは改めて、神族の特徴を口にする。その認識で言えば、この敵は最盛期よりはるかに力を落としていると断言してよい。この個体はエルネストとは違い、邪神の力を受けて生み出されている。

 謂わば眷属だ。素体がどうあれ、眷属として看做されるのであればその力量は信仰に左右されてしまう。もちろん、それに加えて素体の強さも加味される事になるので均一の力というわけではない。が、複数体と戦えば平均値は取れる。


「と言っても、そもそも神々という時点で力は非常に高い。神の因子。それはある種の世界側から力を融通される権限だ。それを持つ者は人に比べて遥かに世界から魔力を取り込める……まぁ、神の因子をこの身に宿すオレも人のことを言えた義理ではないがな」


 おそらく全盛期の七割から八割。カイトは肌で感じる敵の威圧感と垣間見たエルネストの実力から、この個体のおおよその力量をそう推測する。

 エネフィア全体の想定より遥かに高い状態だ。彼らの想定では復活時でおよそ4割。倍以上も高い。カイトの見立てでは、おそらく邪神の復活時には全盛期の九割という所に落ち着く事になるだろう。が、これにカイトは想定通りという所だった。


「やはりな。地球の側からも信仰による加算が加えられている。地球の人口は紀元前二十世紀から比べておよそ六百倍。当時貴様らの神を信仰していたよりも遥かに多い。もちろん、純度は落ちるだろうがな」


 神となるとどうしても、人は敬ってしまう。純粋な信仰とは違う畏怖と言って良い。神に感じる当然の感情だ。実は一般には知られていないが、信仰以外にも知名度による補正が神には入る。これは神に対して人がどうしても抱くこの畏怖があるから、だった。

 信仰されずとも知られていればその分、強化されるのである。特に邪神であればその権能として、恐怖や畏怖される事も信仰の一端と捉えられる。恐怖される時点で強くなるのである。

 であれば、二つの世界に跨って活動した実績のある邪神はどうか。しかもエネフィアでは主神の主敵として描かれる。必然、知名度だけで言えばとてつもない高さと断じて良いだろう。そしてその実績故、今では純粋な信者も居る。そして文明を破壊し尽くしたという実績から高い畏怖も受けている。全盛期に近い状態で復活するのは、当然だった。


「邪神エンデ・ニル……またの名を乱神シュトゥ。荒れ狂う嵐を意味する神。シャギアという名は後世の信者達が邪悪を意味した古代語にこの名を混ぜて呼んだというだけ……だったな」


 カイトはユリィの論文だったらしい論文の結論を思い出す。あの真面目な論文を相棒が記したというのは驚きだったが、そこに書かれていた内容は非常に正確性のあるものだった。


「終焉をもたらせし虚無。ドイツ語で考えれば意味はそんな所か……くっくくく……」


 あぁ、楽しい。邪神の名としては最適な名だ。これが、自分の敵。だが、それが面白いわけではない。


「あぁ、ここに先生が居れば貴様らしい名だ、と言ったのだろう。由来が非常にわかりやすい名だ。貴様は何度も人類を根絶しようとしたのだったな。まさかドイツ語で終焉がエンデ、虚無がニルなのは貴様の影響なのか? 有り得そうだな」


 カイトはここには居ない休眠する邪神に問いかける。この邪神の正体をカイトはもう知っている。地球でなんと呼ばれていたのかも、だ。だから、楽しくて仕方がない。


「おそらく、貴様の事を地球で知っているのは一億程度。名前だけ、という所だろうが。いや、もう少し知っていても不思議はないな。メソポタミアの事なぞオレは知らんしな。最大でインドラのおっさん程度かな。まぁ、十分か。それに加えて、エネフィアでの知名度。これを合算すると、最盛期の九割は何ら不思議のない」


 カイトは敵は一切恐れるに足らず、と内心で断ずる。最盛期の九割だから何なのだ。負ける道理はどこにもない。だから、遊んでやる。この程度は雑魚だと言い切るのが、彼だ。


「さて……どの程度だ? 強いんだろう? オレにその実力を見せろよ」


 カイトは推測と考察を終えると、今度は確認に入る事にする。ここまで言いながら、内心で負けないと断じながら、彼は一切手を抜くつもりはなかった。

 故の、この考察と推察。彼が本気で戦う時に心がけるのは、敵を知り己を知れば百戦殆うからず。敵を観察し言葉から敵の主義趣向を理解しや行動から戦闘方法を理解し、己の持つ中から最適な武芸を使う。それをしていた。そうして、敵の行動を待つカイトへと漆黒の巨体が一瞬で肉薄する。


「ふむ……音速は超えた踏み込みだな。英雄であれど勝てるだけの、神話の敵の実力としては十分か」


 全盛期の七割程度で音速を超えた踏み込みだ。間違いなく英雄達とて本気でやらねばならない相手だろう。なので彼は踏み込んできた敵の殴りを普通に防いでみる事にする。


「……大体魔結晶(オリハルコン)程度なら普通に打ち砕けそうだな。最盛期なら魔鉱石(アダマンタイト)でも打ち砕けそうか。流石に魔鋼鉄(アダマンチウム)になると無理かな」


 つばぜり合いを行いながら、カイトはおおよその実力を把握する。彼の使う武器は緋緋色金(ヒヒイロカネ)。問題はない。この程度なら英雄達も普通にやってくるが、逆説的に言えば英雄達と遜色ない実力という事でもある。


「まー、並の英雄なら苦戦するんだろうが。さて、さて……この程度で、今回は勝てると思って貰ってもな。とはいえ、だ。やっぱり来賓を招く以上は主催者としてきちんと場を整えねばならないわけで。じゃあ、次は防御力を試させて貰いましょうかね」


 カイトは軽い感じで敵を蹴っ飛ばして、距離を取る。特に苦戦する理由はない。なら、後は何時も通り得られるだけの情報を得るだけだ。が、今回は少しだけ、調査内容が異なっていた。


「さぁ、これなるはかの騎士王が使った選定の剣。銘は<<選定の剣(カリバーン)>>。地球で最も有名な魔法の剣の一本だ」


 カイトが取り出したのは<<湖の聖剣(エクスカリバー)>>の鞘に収められた<<選定の剣(カリバーン)>>。それに宿すのは、『円卓の騎士ナイツ・オブ・ラウンド』の力。


「<<選定の剣(カリバーン)>>よ! 騎士王が選びし番外の騎士の求めに応ぜよ!」


 かつて騎士の王を選定した剣が、カイトの呼びかけに呼応して聖剣とはまた少し違う輝きを放つ。が、それは絶大な力には相違がない。故にカイトは一切の容赦なく地面に着地したばかりの敵に向けて振るった。


「……まずは、一匹」


 一撃で消し飛んだ敵を見る事もなく、カイトは<<選定の剣(カリバーン)>>を異空間へと収納する。地球の力でもどうやら十分に消し飛ばせるらしい。それを今、確かめた。であれば次は色々と試すだけだ。


「ユリィー。次ー」

「はーい。はーい、お次の方どうぞー」


 ユリィはカイトの求めに応ずると、噴出孔に押し戻していた一体を引き上げてカイトの前へと移送する。それに、カイトはもう準備を終えていた。


「さてと……じゃあ、次は。こんなのどうでしょ」


 どすん、という音と共に地面に落下した個体を見ながら、カイトは魔力を編んでその周囲に無数の奇妙な文字を生み出していく。もしここに瞬が居れば、その幾つかに見覚えがあっただろう。それらはすべて、ルーン文字と言われる古代地球の文字。文字を使った魔術系統だった。

 しかも今に伝えられるルーン文字ではなく、カイトが使うのはスカサハという女王が彼に伝授した古代の文字。最も力を持つ原初のルーン文字だった。


「まぁ、ざっと二百文字程度だが……更にそこに晴明仕込みの魔術の再構築による立体化などを加えて強化してみました。では、ご賞味あれ」


  カイトが恭しく一礼するとほぼ同時。文字の幾つかが起動して爆炎が上がり、稲妻が迸る。それらは更に外側に展開された竜巻によって内側へと強引に引き戻され、更にはトドメと言わんばかりに上空から氷塊が降り注ぎ左右の地面が起立して敵を挟み込む。


「……うん、悪くない」


 悪くないどころかランクSの魔術師だってここまでの大魔術の連続は出来ないだろうに。もしここにイングヴェイが居たならそう言っただろうほどの魔術の連続。それでも、カイトからすれば手加減と言える。

 ただ莫大な魔力を背景としただけではなく、これだけの魔術を使いこなすだけの知性とこれだけの魔術の並列処理が可能なだけの技術が必要だった。


「さ、お次……あ、次二体よろー」

「はーい」


 また一体敵を地獄へと送ったカイトはユリィに次の敵を要請する。そうして今度は二体同時に地面へと放り投げられる。些かユリィも乱暴になっているが、どうせ藁人形程度の役目しかならないのだ。手傷を負っていようが問題はない。


「さて……さぁ、目覚めろよ」


 どこからともなく取り出した二冊の魔導書を手に、カイトは獰猛に笑みを浮かべる。


「お前ら程度に振るうには勿体無い二冊だが……まぁ、良いだろう。お試しだ。魔導書『キタブ=アル・アジフ』及び憑依魔導書『ナコト写本』起動……さぁ、地球人類が生誕する以前に記された原初の魔導書だ。存分に味わって、逝ってくれ」


 カイトは両手に持った二冊の魔導書へと魔力を注ぎ込んでいく。注ぎ込まれる魔力は間違いなく、勇者の本気に相応しい莫大な量だ。並の道具なら決して耐えられる規模ではない。並の魔導書なら、逆に注ぎ込まれる魔力が多すぎて内包する魔術が暴走して自壊しかねないほどだ。

 が、そんなカイトの莫大な魔力に対して、二冊の魔導書は逆にその恐ろしさと神々しさを増していくばかりだ。故に、カイトの意思を受けて最適な魔術を検索すべく猛スピードで二冊の魔導書のページがめくれ上がる。


『「………………」』


 カイトが何かを口にする。が、それはもはや現代に通用する言語ではなく、どんな存在にも、それこそ神の眷属達にとて奇妙な音の羅列としてしか認識出来ない。とはいえ、それをもし理解出来たのなら、誰もがこう言うだろう。詠唱と。が、そんな詠唱も数秒続いた所で、カイトが飽きた。


「……面倒なので以下、詠唱破棄!」

『……今まで何故詠唱していた』

『気分……だと思う』

「正解」


 ナコト写本に宿る付喪神の言葉に、カイトは笑って指を回す。我が意を得たり、という事なのだろう。


「さぁ……どこの魔術かはオレにもわからんが。一発……いや、二発行くぞ? 耐えきれるとは思わんし、耐えきれんだろうが……ま、冥土の土産には良いだろう。持っていけ」


 何が起きるのかは、カイトにもわからない。なにせ術式の検索は魔導書に任せた。意思を持つ魔導書の便利な所は所有者の意思に合わせて自動的に最適な魔術を選んでくれる事だ。

 が、少なくともこの状況で最適と考えられる魔術を選んでくれたのだと思われる。そして、その通りだ。二冊の魔導書はカイトの意思を汲んで、破壊を巻き起こした。


「うおっ!」


 思わずカイトが衝撃で身を固くする。起きたのは、一言で言えば大破壊で良い。魔術が終わった後に敵は跡形もなく消し飛んでいた。が、破壊が起きたのは一発だけだ。なのに、二体とも消滅していた。もちろん、魔術も二つ起動している。故に訝しんだカイトが二冊へと問いかける。


「……何したんだ? アル・アジフは大体想像出来るけど、ナコトは想像も出来ん」

『ちょっと破壊という概念を引き起こしてみた。些か加減に失敗したのは許せ』

『ちょっと消滅させてみた』


 『キタブ=アル・アジフ』に宿る付喪神の言葉に続けて、『ナコト写本』に宿る付喪神が己の選んだ魔術が引き起こした結果を語る。間違いなくどちらもちょっと、と言って良い領域ではない。魔法スレスレだろう。と、そんな呑気な三人というか一人と二冊の所にユリィが問いかける。


「カイトー。残りどうするー?」

「あ、おーう。とりま全部いっぺんに出しといてー。そろそろ上のシャルも良い頃合いだし全部消し飛ばすわ」

「はいよー」


 カイトの要請を受けて、ユリィは今まで押し留めていた残りを全部噴出孔から外へと放り出す。それに、カイトは二冊の魔導書を実体化させながら一振りの剣を取り出した。それはいつぞやにおいて、海棠翁を正気に取り戻させた一振り。<<エアの剣>>とも言われる最強の一振りだった。


「さぁ……これは狼煙だ。神話の戦いが始まる号砲。今なお残る神代の残滓を終わらせる天の理。森羅万象を司る世界の法。我ら二界の軍勢の象徴……未だ眠る貴様らの主に、我が一撃と共に我が意を送り届けよ」


 カイトの魔力を受けて、<<無銘(星の剣)>>が神々しくも恐ろしいほどに強大な力を放つ。そうしてカイトは厳かに、そして一方的に告げる。それは神の如くの威厳があった。


「これが何か……貴様の主は知ろう。これはかつて、我が后が一人が使った剣。それを今、真の主たる我が使おう」


 世界を創生した神の如く。カイトはただ一振りの剣を天へと向ける。それはまるで世界の理を示すかの様に、世界から魔力を収束させていく。その威力は、絶大なぞと言う陳腐な言葉では決して足りない。人類には想像出来ぬ力を持っていた。


「世界が定めた天の理。人が定めた人の理……それら一切を糺す(まこと)の王の剣。これを抜いた時点で、貴様らの敗北は定められたものだ……では、王の裁決を下す。滅せよ、下郎」


 ゆっくりと、カイトが<<無銘(星の剣)>>を振り下ろす。それはまるで神が理を示すかの如く、厳かなものだった。それだけで、漆黒の巨体が消し飛んだ。これは、世界の法則をも書き換える絶対の武器。いや、本来は武器なぞという分類にも当てはめられない。

 これは、王の証。王の象徴として、剣の形をしているというだけだ。真の王と成り得る資格を持つ者のみが使える絶対の道具だった。そうして来るべき戦いへの号砲を鳴り響かせたカイトは再び異空間へと厳重に<<無銘(星の剣)>>を封印して、その場を後にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1374話『神話の序曲』

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[気になる点] アル・アジフとナコトは魔導書なんですか?
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