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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第67章 神話の終わりと始まり編

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第1363話 捕縛作戦 ――開始直前――

 カイト達が『猟師達の戦場ハンターズ・フィールド』と共に狩りを開始しておよそ五日。ついに『猟師達の戦場ハンターズ・フィールド』の目的であった『ロック鳥』の亜種の亜種である『ダイヤモンド・ロック鳥』の雛を見つける事に成功する。

 が、その日は親鳥の多さ故にひとまずの準備を終わらせて野営地へと帰還した彼らであるが、そんな彼らを待っていたのはクオン達この山に出るという魔物の捜索に向かった面子だった。


「にぃー、おかえりー」

「おーう、ただいまー」


 何時も通りといえば何時も通り自分の背に張り付いて出迎えてくれたソレイユに、カイトもまた言葉を返す。


「にぃー、ちょっとご報告ですー」

「はいはい……さて、聞こうか」


 ソレイユの言葉にカイトはとりあえずテントの中にある自分の椅子に腰掛けて、先を促す。かれこれ一週間近くも捜索に出ているのだ。そろそろ結果が出ても良い頃だった。が、そこで出た返答は、彼のそんな予想を裏切るものだった。


「……見付からない?」

「そうなのよ。何故か、見付からないの」

「ふむ……」


 クオンからの再度の報告にカイトはわずかに困った顔をする。それに対する報告の三人も困った顔だ。この三人が揃って見付けられない。それは些か信じ難いものがあった。が、それがわかるのはカイトとティナ、ユリィの三人ぐらいなものだろう。故にソラが問いかける。


「なんか厄介な魔物なのか?」

「ああ、そういう事じゃないの。というより、それでも私達なら問題は無いわね」

「この三人の探知能力は間違いなくオレを上回る。クオンはまだしも、ソレイユとフロドの二人は確実にオレより数段上と断言しても良いだろうな」

「……まぁ、そうなんだろうな」


 カイトの言葉にソラは由利を思い出して、頷いた。ソラと由利であればソラの方が単純な戦闘能力はかなり高い。が、もしそれを例えば索敵能力などの総合的な能力も含めたのであれば、話は別だ。総合的な能力はソラと由利の間に大差はない。それと一緒だった。


「俺と由利だってそもそも単純な戦闘力だと俺のが強いだろうけど、遠くまで見たり周囲の敵影探したりする能力なら俺の方が下だし」

「そうだねー……他にも私の方が多分、敵の動きを予測する能力は高いだろうしー……」

「そういう事だね。僕らと兄ぃなら、まず僕らの方が敵の動きを予想する能力は遥かに高い。もちろん、周囲を見通す為の<<千里眼(せんりがん)>>や<<遠見の魔眼(とおみのまがん)>>なんかの能力も非常に高い……その僕らの警戒網に引っかからないんだ。僕が言うのもなんだけど、これはちょっと不思議な話でね」


 ソラと由利の言葉に同意するフロドの顔もまた、やはり困った顔だった。彼とて職業柄自分の目に関する能力は高いと自負している。

 それはクオンだって認めるし、弓に関するあれこれであれば二人は十分に最強たる<<熾天の剣(してんのつるぎ)>>に属していても不思議はないとさえ断言する。それこそ、彼女も一度は<<八天将(はちてんしょう)>>に加えても良いと考えたほどだ。


「そうなんだよ。間違いなく、この二人の目から逃れられる魔物なんて居るわけがない。オレだって普通に逃げてれば逃げられん。そこに、気配を読む事に長けたクオンまで居るんだ。並の逃げ方じゃなくても普通には逃げられん」

「おまけにそこに上空からは日向とミツキ、匂いの追跡が出来る伊勢まで居る。それで見付からない、っていうのは逆に存在を疑え、っていう話になってくるんだよねー……」


 カイトと同じ様にどう考えるべきなのだろうか、と頭を悩ませるユリィは不思議そうな顔だった。自分達がエネフィアでも最上位に位置している冒険者達だ、というのは彼女とて自覚している。その面子をして、見付けられないのだ。相手は魔物だというのに、おかしいという話では済まない。


「ふむ……とはいえ、そうなると当然、という話で?」

「うん。行ってきた」

『乗せてきました』


 ソレイユの明言に伊勢が頷いた。どうやらここ数日掛けても見付からない正体不明の影に彼女らも本腰を入れる事にしていたらしい。昨日からクオンがミツキの上に、ソレイユが伊勢の上に、フロドが日向の上に乗ってここら一帯の捜索をしていたとの事だった。

 それでも見付からなかった。確かに、こうなると存在を疑うべきだろう。というわけで、ここからは仕事の話とソレイユが真剣な口調になった。


「流石に私の名前を出したら向こうも普通に教えてくれたね。一応、裏取りに調査に参加したギルドにも確認に向かったよ」

「結果は?」

「見間違いか、もしくはダイヤ・ロックの噂が回り回って何かの魔物の噂になったんじゃないか。そう結論づけてた。裏取りでも同じ結論。流石に八大の私に睨まれて嘘は言わないでしょ」

「ふむ……それが一番ありえる可能性かね……ティナ。どう思う?」


 ソレイユ達でも見付けられないのだ。であれば、存在そのものを疑うべき。そういう前提を立てていたカイトはしかし、それで即座に結論付ける事なくティナへと問いかける。まだ確定ではない。この世の中にはカイト達でさえ想像も出来ない様な出来事が満ち溢れている。

 たまさか数日探して見付からないから、と居ないと判断するのは早計だった。だからこそ、カイトは自分の知恵袋であるティナを頼る事にしていた。


「ふむ……そうじゃのう。こういう場合考えられるのはまず、居ないという事。これが可能性としては一番あり得るのう。余としてもこの三人の探索能力を上回る隠遁能力は信じたくない。が、それでもあるとするのであれば……」


 ティナは一度己の脳内で幾つか浮かぶ選択肢をしっかりと考察し、その上で答えを出した。


「一つ目。誰かが何らかの意図で隠した」

「ふむ……敵対者の存在か」

「敵対者とは言い切れぬ。が、あまり良くない事を考えておる事は確かじゃな」

「なるほど……確かにな。次は?」


 やはりカイトの脳裏には常に<<死魔将(しましょう)>>達の存在があるからだろう。どうしても敵の存在がちらつくが故にか、暗躍と聞くと己に敵対するという事が頭に浮かんでしまっていた様だ。そしてそんなカイトの促しを受けて、ティナが次を告げる。


「二つ目。噂が出て今までの間に魔物同士での生存競争に敗北した」

「なるほど。確かに更に奥地にはもっと大きな個体も居る。そいつらは強い。それに負けたという可能性は無くはないな」

「うむ。まぁ、この場合は結論としては存在せぬ、という話で間違いない。少し前には居たが、今はおらぬというわけであるからのう」

「確かにな。それなら、見付けられないという話にも筋が通る」


 ティナの推論は間違っているものではない。もちろん、これらはあくまでも推測だ。正解ではない可能性もある。そうしてそこらに納得したカイトは更に先を促した。


「他にはあるか?」

「まぁ、後はあまりあり得るとは思えぬが……時限制や特定状況下で現れる魔物じゃのう」

「あー……それは確かにあり得るわね」


 ティナの言葉に同意したのはクオンだ。彼女の鋭敏な感覚には確かにこの場に漂う『何か』の残滓を感じ取っていた。故に五日目に入っても調査を続けていたのだ。

 が、それは残滓。故に彼女はティナの提示した第二案に内心で賛同していたが、この第三の推論もあり得ると考えたのだ。と、そんな風に納得していたカイト達に対して、ソラが疑問を呈する。


「時限制の魔物?」

「ん? ああ、いわゆる夜限定で出て来る魔物とかだ。オレ達も夜には寝てるだろう?」

「あー……そういう。亜種とかなら夜にだけ変異する奴とかって居るもんな……」

「そういうこったな。だから普段は普通の魔物に見えるけど、夜とか特定の時間帯や特定の状況では変異して違う魔物に見えてしまう、ってわけだ」


 納得したソラに向けて、カイトは改めて自分達が何を想定していたかを語る。やはりこうなるとその特定の状況を構築しないとどうしようもない。そしてそれを語られて、ソラも納得出来た。


「そっか。もし雨とかだとこの面子でもどうしようもないのか。ここしばらく雨降ってないし」

「そういうことだな。一応、お前が居た間に雨は?」

「何日かあった。最近だと、お前に二度目の連絡を入れた次の日だ……でも流石に雨の中で狩りには出ないから、何も報告は入ってないなー……」

「そうか。いや、それが正しい判断だから、お前が気にする事ではないぞ」


 自分の記憶を探りながら何か思い当たる節がないか考えるソラに、カイトは笑って手でそのへんでやめておけ、と制止をかけておく。そうして、彼らは幾つかの想定に当たりをつけて、その日の会議を終わらせて明日に備える事にするのだった。




 さて、明けて翌日。イングヴェイ達は夜が明ける前に行動を開始していた。とはいえ、そのためにもまずは連携や連絡の態勢を整える事を行っていた。


『という感じでさぁ。色々とあっちもあっちでそこそこの腕前のギルドな様子で。どうにも役所からの書類を待つ面子と野営地などの設営を行う面子を分けて、すでに先発隊を出していた様子でさぁ』

「ちっ……ということは昨日から感じてた複数の気配はそれか」


 イングヴェイは『エンテシア砦』に残していたギルドメンバーの定時報告に舌打ちしつつも、やはり嗅ぎつけるのだから相手も相当な腕利きだな、と称賛を送っておく事にする。それでも、ギリギリ間に合ったのだ。焦る必要はない、と内心でしっかりと自分を律する事にしておいた。


「リディ。悪いがお前はこっちに残留で、移送の手配を整えておいてくれ。もしあちらが挨拶……どの意味でも挨拶に来た場合でもお前が応対してくれ。が、小僧共の側にはカイトに頼んで応対しない様に頼んでおく」

「わかった。移送は何時行う?」

「……可能なら、今日の夜。不可能なら明日の朝一番。撤収の用意は相手には見せるな」


 リディックの問いかけに対して、イングヴェイは今までに構築していた幾つかのプランの内、現状で使うべき物を考え始める。そうして、数分。答えが出たらしい。


「おそらく、数時間後……いや、下手をするともう野営地は設営出来ているはずだ。相手とて出遅れている事は理解してる。おそらく残っているのは足の速い連中だ。役所の開始と同時に書類を持って行動を開始すると見て良い」

「……夜明けからの数時間が勝負か」

「ああ。流石に夜明け前には動くべきじゃないな。相手にこちらが見付けたとバレる。そうなれば、巣で競争だ。それは避けたい」


 厄介な。二人は内心でそう思いながらもまだ大きなアドバンテージを得ている事に焦りは禁物と戒める。こちらはすでに雛の場所を見付けたし、その動向は残しているギルドメンバーが常に見張っている。

 もし動けば即座に報告が入るはずだ。それが無いのだから、雛は大きな動きを見せていないという事だ。競争相手が来ていようと、焦る必要はないのだ。


「……フィックス。おそらくこちらの居場所は見付けられてると見て良い。時間をずらした上、陽動を掛ける」

「はい。じゃあ、捕縛の装備を持った奴数人を連れて居ないと判明してる巣へ向かいます」

「ああ、そうしてくれ。ミクリヤ、お前も頼む」

「わかった。私は探索用の軽装で向かうわ」


 イングヴェイは矢継ぎ早に競争相手への偽装工作を指示していく。ここらはやはり経験こそが物を言う。イングヴェイもいくら実力が高いとわかっていてもカイトらに依頼するつもりはなかった。

 まだカイト達上層部はともかく、彼としてはあまり下部層を信用してはいない。どこかでボロを出すと思っていたし、相手も腕利きだ。もし捕らえられればこちらの動きを喋る可能性があった。自分の信頼の出来る腹心に任せる事にしたのは、そういう理由だった。


「……リディ。準備は?」

「出来ている、兄者」

「よし……ここからは連携が重要だ。幸い手札は揃ってる。負ける道理はない」


 矢継ぎ早に指示を出した後。イングヴェイは一つ頷いて現状で問題がない事を自分で確認する。今回は幾つもの幸運に恵まれている。まず第一はカイト達の事だ。彼らのおかげで想定以上に早く動けている。競争相手が居ない内にここまで進めているのは彼でも想定外だった。

 第二は、天候に恵まれた事だ。彼らが来てからは一度も雨が降っていない。変わりやすい山の天気だ。たった数日といえ雨が降らなかったのは幸運だった。

 最後はクオン達だ。彼女らのおかげで事前段階で要警戒としていた何らかの魔物への警戒の手を薄める事が出来た。想定より多くの人手を調査に割けた。地の利以外全てに恵まれていると言っても良い。なら、このまま進むべき。彼はそう断ずる。


「さて……小僧共を起こして、行動開始だ」


 イングヴェイは己の率いるギルド全体に細やかな指示を出し終えると、立ち上がって行動を開始すべくカイト達を起こす事にする。カイト達には夜明け前に出発だと言っていたが、すでに競争相手が来ている以上計画は変更だ。そこらを含めて伝達する必要があった。そうして、彼らは予定より少し遅れて夜明けと共に行動を開始する事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1364話『捕縛作戦』

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