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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第67章 神話の終わりと始まり編

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第1362話 ロック鳥の巣

 イングヴェイ達へ協力し、『ロック鳥』の巣がある山の奥地を目指して進んでいたカイト達。彼らは時にイングヴェイ達が持ち込んだ魔道具で交戦を避け、時に洞窟に身を潜めながらゆっくりと進行していた。

 そんな彼らであるが、出発からおよそ三時間程で幾つかある『ロック鳥』の巣の一つに到着していた。そんな巣を見ながら、ソラは驚きを隠せないでいた。


「やっぱ、向こうよりデカイ個体が多いな……」

「だろう。ここらは敢えて冒険者のランクで表せばランクBの上位だ。これ以上になると流石にデカすぎてここらに巣は作らねぇ。もっと奥。ここらの川沿いじゃなく、切り立った山の上とかに作る」

「なんでだ?」

「縄張り争いが起きちまうんだよ。あそこに居る奴らにゃまだまだ天敵が多い。だから群れる。が、成長すると敵が少なくなっちまって」

「今度はお互いに争うわけか」

「そういうこった」


 ソラの結論にイングヴェイは同意しながらも、観察の手を止めない。ここに『ダイヤモンド・ロック鳥』の雛が居るとは限らない。冒険部が狩りに出かけている様にここ以外にも巣はいくつかあり、そちらの可能性もある。総当たりで探すしかなかった。

 勿論、ここで見つかれば巣の『ロック鳥』から総攻撃を受ける事になる。それを避ける為にもテントは必須だ。隠れながら無数に居る『ロック鳥』の中から当たりを探し出すのは簡単な作業ではなかった。


「……カイト。お前さんの方はどうだ?」

「今、見ている」


 イングヴェイの問いかけに答えたカイトであるが、こちらは再び眼帯姿だ。イングヴェイの要請を受けて上空から見る為に魔眼を起動していたのである。


「当たるも八卦当たらぬも八卦……外れかのう」

「さて……占いで決めたわけでもないが。ハズレの可能性は高そうだな」


 こちらも魔眼を起動させ金色の瞳になるティナに対して、カイトもまた同意する。群れを刺激するつもりはないので魔眼を使っているが、やはり同じ理由から高度な魔眼を使えないという制約上時間が掛かりそうだった。


「クーを飛ばせれば早いんだろうがなぁ」

「飛ばせば見つかるのう」

「だわなー……」


 二人は魔眼で周囲の探索を行いながら、そう愚痴る。上から魔眼で見ているがそれはやはり魔眼、それも低度の魔眼だ。もっと高度な魔眼を使うなり使い魔を飛ばしたりした方が遥かに早い。が、前者はそもそもカイトが使えて可怪しいし、後者は見つかるのでそれは出来ないのだった。そしてそれはイングヴェイもわかっている。


「わかってるから、こうやって地道に探してるんだろうが。わかってると思うが、使い魔なぞ出すなよ」

「わかってるよ……駄目だな。輝く影一つ無い」

「ハズレか。まぁ、初日から当たり引くなんて幸運は無いか」


 イングヴェイはカイトからの報告とティナの無言での首振りにここはハズレと結論を出す。今回探しているのは雛だ。それ故、巣から飛び立つとしてもそこまで遠くまでは行かないらしい。

 いや、正確には行かないのではなく行けない、だ。幾ら魔物と言っても生まれてすぐには飛び立てないからだ。であれば、ここでしばらく見張って見つからなければここにはいないと断言しても良かった。


「……おい、撤収だ。ここはハズレ。地図にバツ付けとけ。他は撤収の準備だ」

「はい……大丈夫です」

「よし……リディ、俺だ。これから撤収する。そっちも戻り次第、狩りの部隊から目撃情報が無いか確認しておいてくれ」


 地図を持つギルドメンバーの一人からの報告に頷いたイングヴェイは己も撤収の用意――魔眼の封印など――を行う傍ら、別部隊を率いているリディックへの連絡と指示を行っておく。

 先に遠くまで行かない、とは言ったもののそれだって絶対ではない。目撃情報がある可能性はある。せっかく人手は多いのだ。そして時間もあまりない。少しでも情報がある可能性に賭けるのは当然だった。


「よし……じゃあ、帰るぞ」


 イングヴェイの号令と共に、カイト達もその場から静かに撤収していく。そうして、この日から数日の間、カイト達はろくな手がかりも得られぬまま、幾つかの巣を探索していく事になるのだった。




 カイト達冒険部がイングヴェイ率いる『猟師達の戦場ハンターズ・フィールド』と共同で作業を開始してから数日。カイト達の『ロック鳥』の狩猟目標数も大半が稼げた頃だ。その頃には流石に周囲も若干慌ただしく成り始めていた。


「……そうか。そのままそちらは残って情報の収集を頼む」

『うっす』


 イングヴェイはこの日もこの日で『エンテシア砦』に残してきたギルドメンバーの一人からの報告を聞いていた。マクダウェル領よりも近いあそこであれば、普通に手持ち式の通信機でもほぼ常時で連絡を取り合える。なので彼らはギルドメンバーの数人を残してきていて、自分達の様にこの山に『ダイヤモンド・ロック鳥』の雛が居る事を嗅ぎ付けたギルドが居ないか偵察をしてくれていたのである。


「どうだった?」

「……やっぱ流石に同業者達は耳が早い。二つ、もう嗅ぎ付けたそうだ。ほぼ同時に向こうに到着した、だそうだ」

「むぅ……」


 イングヴェイは策士として知られていて、更にはユニオンとしてもそこそこ高い地位に居る。それ故に数日のアドバンテージを得られていたわけであるが、流石にそれも数日だけだ。その数日で勝負を決めたい所だったが、流石にそれももう限界だったようだ。兄弟の顔には苦いものが浮かんでいた。


「今日……明日が限度か。流石に『エンテシア砦』は皇都を守る最重要拠点の一つ。審査は本来、一日で終わる筈がない」

「……どうする?」

「やめとけ。下手に妨害工作に入るとあっちにも迷惑が掛かる。あちらさんは風評を気にする立場だ。何より、この協定は八大の二つが見てる前でやったもんだ。流石に下手打つと八大から睨まれちまう」


 リディックの問いかけにイングヴェイはため息混じりに首を振る。手が足りている以上、これがまだクオンらの関わらない所であるのならギルドの連中を駆り出して後追いの面子を妨害しても良いが、逆にこの場でそれをするとクオンらのウケが悪い。それは得策とは言えなかった。


「わかった。ではこちらは少々、範囲を広げさせよう」

「そうしてくれ。出来れば奥地との境界線ぐらいまでは進めろ。目撃証言があれば儲けものだ」


 出るとは思わないけどな。リディックの提案に頷いたイングヴェイはそう言うと立ち上がる。が、本当にもし万が一の可能性はあるのだ。手に入れば儲けものである。そうして、彼らは今日も今日とて獲物を探しに狩りに出るのであった。




 さて、更に明けて翌日。この日もこの日でカイト達はイングヴェイ達と共に狩りに出かけていた。


「ふぁー……」

「すまねぇな、お前さんも」


 やることもなく手持ち無沙汰なソラに対して、イングヴェイは少し呆れながらも謝罪する。ソラの役目は戦闘。その戦闘が起きる事は本当に少ない。そもそもイングヴェイ達は熟練のハンターだ。よほど運が悪いという様な状況を除けば見つかるという事はなく、戦闘は日に一度か二度あるかないか程度だった。


「っと、悪い。気は抜かないよ」

「はは。お前さん、若いがちゃんと冒険者だ」


 イングヴェイはそう笑いながらも監視の手を休める事はない。とはいえ、ソラの言葉の中に若干の焦れが見え隠れしているのもまた、見えていた。


「にしても……ここで四個目だよな? その情報筋ってのは確かなのか?」

「ああ。『エンテシア砦』の確かな筋からの情報だ」


 ソラの呈した疑問に対して、イングヴェイははっきりと頷いた。やはりここまで見付からないのだ。ソラだけでなく冒険部側――と言ってもカイトとティナ以外だが――にもイングヴェイ達は騙されたのでは、という疑念は出始めていた。


「……『ハンター協会』ってのは流石にお前も知ってるな?」

「ああ。狩人達のやってるギルドだろ? ユニオンの亜種ってか、狩人達のユニオン」

「ああ。そこの伝手だ。そこからここの支部にその噂がある、って話が流れてきた」

「フカシって可能性は?」

「そっちは無いな。ありえるのは……これが勘違いや見間違いって可能性なんだが」


 その可能性だけはどうしてもありえる。流石にここまで見付からないとイングヴェイの脳裏にもその可能性が浮かぶ事だけは、避けられなかった。


「あちらさんは狩りの専門家。俺達みたいな戦闘の専門家じゃない。どうしても遠目に確認した、ってだけだ。今回はそれでも複数個の目撃証言だから確定か、と踏んだんだがな……」


 苦い顔でイングヴェイはそう愚痴る。情報が偽物という可能性が無いのは、その協会の幹部と取引したからだ。相手とてこちらが冒険者である事はわかっているはずだし、それ故にこそ取引に嘘は無しだ。

 特に冒険者相手であればそれは鉄則とさえ言える。相手は腕力に物を言わせて従わせる事だって出来るのだ。そして嘘を掴まされた冒険者がどういう手段に出るのか、というのは幹部ほどの立場であれば理解しているはずだ。組織全体の問題に発展させない為にも、取引での嘘は厳禁だった。


「……いーや、どうやらその幹部の情報とやらは正しかった様子じゃのう」

「何!?」


 唐突なティナの言葉に、イングヴェイがわずかに色めきだつ。やはりここ数日手がかり一つ無かったのだ。彼とて焦れていたのは事実だった。それに対して、ティナは密かにダブルチェックを行わせていたカイトへと問いかける。


「カイト、そちらからはどうじゃ?」

「ビンゴ……ドンピシャだ。あの光り輝く羽根は間違いなく金剛石……ダイヤモンドに間違いない。凄いな。オレも雛は初めて見た」

「どこだ?」


 わずかに慌て気味にイングヴェイがカイトへと問いかける。その際若干押しのける様な様子さえあったし、かなりの興奮が見て取れた。が、これは彼だけでなく、彼率いるギルドメンバーの各員に同じ事が言えた。


「巣の中腹……崖の真ん中からわずかに右上。そこに他の雛に混じって一匹だけ、茶色に輝く雛が居る。雛がこんな色をしてるなんて、どんな研究資料にも乗ってないぞ……」

「……居た。こいつだ……マジで居たよ……」


 僅かな興奮を隠せないカイトの告げた場所を魔眼で見て、イングヴェイは思わず呆気にとられる。彼とて内心で半信半疑だった趣きが無いわけではなかった。

 なにせ山程珍しい物を見てきただろうカイトでさえ見たことがないというレアな魔物だ。彼も見たことはなかったし、この依頼の金額を考えても相当な困難が予想された依頼だった。

 そして間違いなく、困難な依頼だった。イングヴェイ達は言わなかったが、彼らだけでも一年近くの期間――困難さから他の依頼との掛け持ちであるが――を掛けて探し回っていたそうだ。それでも、今の今まで見付かっていないのだから困難さは群を抜いていたと断じて良いだろう。


「頭。どうしやすか?」

「……地図に丸は?」

「しっかり付けてますよ」

「アンカーは?」

「予備含めて3つ、すでに設置済みでさぁ」


 内心の興奮をわずかに抑えきれないイングヴェイであるが、やはりそこは高位の冒険者にして策士と知られている人物だろう。抑えきれない興奮を抑制しながらも同じ様に興奮を抑えられないギルドメンバー達に指示を出していく。


「よし。ソラ、悪いが今日は撤収だ。拍子抜けになって悪いな」

「え? 良いのか?」

「ああ。狩りは明日の朝一番。夜明けと共に開始だ。親鳥達が朝飯を取りに巣を離れたタイミング。それが、狩りの開始だ」


 ソラの問いかけにイングヴェイはわずかに鼻息荒く、はっきりと頷いた。彼とて可能ならこのまま狩りに出たい。が、今は巣の周辺には親鳥達が飛び回り、無数としか言いようのない『ロック鳥』やその亜種がいる。この中に突入して標的を無傷で捕縛するのははっきりと言えば無理だし、自殺行為と断ずるしかない。というわけで、カイトもそれに同意した。


「ソラ、素直に従っておけ。狩りは彼らの専門分野。オレ達の専門は遺跡調査だ。餅は餅屋」

「……そだな。何か手伝う事は?」

「お前さんには無い。明日に備えて英気を養ってくれ。明日は本番だ。おそらく、今まで以上のものすごい数の敵と戦う事になるぞ」

「おう」


 おそらく、今ここで言っているのは冗談ではない。ソラはそれを理解して、今まで抜けていた力をしっかりと身に宿す。明日は本番。それも巣に突入して獲物を捕らえるのだ。間違いなく、簡単な話ではないと彼にも理解出来た。


「よし……後は……持ってきてるな?」

「うっす。じゃあ、ちょっと行ってきやす」

「頼んだ」


 イングヴェイは自分の所のギルドメンバーの言葉に一つ頷くと、その頷きを受けたギルドメンバーが特殊な外套を身に纏いテントから出ていく。それを見て、ソラがイングヴェイへと問いかける。


「何やるんだ?」

「転移……いや、この場合は置換魔術の魔導具を設置しに行く。俺達のギルドの野営地には実はあれのマーカーがあってな。お前、親鳥達に追われながら野営地まで逃げられるか?」

「……無理」


 ソラは今上空を飛び回る『ロック鳥』の姿と速度を見ながら、自分はまず逃げ切れないと判断する。そしてそれは彼らも同じだ。捉えた『ダイヤモンド・ロック鳥』の雛を抱えたまま逃げ切れるのはまず無理だ。そのためには脱出経路を用意する必要があったのである。その準備に出たのであった。そうして、カイト達はその準備が完了するのを待って、その日は巣を後にする事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1363話『捕縛作戦』

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