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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第67章 神話の終わりと始まり編

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第1358話 交渉と取引

 道具使い(アイテムマスター)にして『猟師達の戦場ハンターズ・フィールド』のギルドマスター・イングヴェイ。彼との戦いを終えてテントに通されたカイトとソラはというと、そこで改めて幹部の紹介を受けていた。


「まぁ、まずはお互いに自己紹介から始めておこう。俺は『猟師達の戦場ハンターズ・フィールド』ギルドマスターのイングヴェイ。こっちは俺の弟でサブマスターのリディックだ」

「先程はあの様な対応をして申し訳なかった。兄の指示とギルドの為と理解してくれ」

「あ、はい……あ、えっと、一応改めて……ソラ・天城です」


 先程――ソラへの『挨拶』の時――とは打って変わって質実剛健な挨拶と手を差し出したリディックに、ソラは若干呆気にとられながらもその手を握る。やはりその手には若干の警戒があったが、リディックはそれを指摘する事はなかった。


「カイト・天音。武器使い(ウェポン・マスター)だ。冒険部のギルドマスターだ」

「さて……改めて挨拶を交わした所で。まぁ、流石にお前さんほどの戦略眼があれば、裏も理解出来るんだろうが」

「おおよそは」


 イングヴェイの指摘に対してカイトもまた、頷いた。このイングヴェイという男は無闇矢鱈に喧嘩を売る男ではない。きちんと利益を把握した上で喧嘩を売るタイプだ。カイトは今までのイングヴェイの性質や噂として聞こえてきた彼の方針などから、それを理解していた。であれば、わかる事もあった。


「オレ達が知らない間に懸賞金が掛かったか」

「残念だが、外れだ。まぁ、似たとこではあるけどな」

「うん……? あんたほどの実力かつ、このギルドの総力を考えれば今皇都の調査員が調査している魔物でも狩れると思ったんだが……」


 楽しげながらも外れを明言したイングヴェイに対して、カイトはわずかに首を傾げる。強力な魔物はなるべく早く討伐しておきたい。それは統治者であれば当然の考えだ。

 とはいえ、いくら強いとはいえ単なる一個体に軍を動かすとそちらの方が費用が嵩む。なので通例として、そんな魔物には懸賞金を掛けて冒険者達に討伐を促すのが普通だ。

 カイトも自領地では普通にしているし、緊急性が高ければ高い懸賞金を掛けてでも討伐を促す。万が一の場合には彼自身がユリィ、ティナら腕利きと共に出る事も少なくない。そんなどこにでもある話だ。

 だが、もちろん討伐対象は一匹か一組だけ。懸賞金を受け取れるのは同盟でも結ばねば一つの所だけだ。なのでイングヴェイ達の様に同業他社とは競争になるし、追い落とそう、狩場から追い出そうとするのはごく自然な事であった。そしてカイトもそう読んだというわけである。


「ダイヤ・ロックって知ってるか?」

「?」

「あれが居るのか!?」


 イングヴェイの問いかけに一人わからず怪訝な顔をしたソラに対して、カイトはやはり知っていたらしい。が、知っていればこそ驚きにあふれていた。そしてカイトが知っていた事にイングヴェイもリディックも驚いていたほどだった。


「ほぅ……」

「こりゃ、凄いな。大抵の魔物図鑑にも載ってないほどの魔物なんだがな。まぁ、載ってないと言うより載せてない、って話だが」

「兄者。この若さで知っているのなら……」

「ああ」


 リディックとイングヴェイはこれなら話は通じるだろう、と頷きあう。そしてイングヴェイがはっきりと頷いた。認めねば話は進まないからだ。


「ああ。とある確かな筋からの情報だが……この山に奴の雛が居るとタレコミがあった」

「雛が……」

「正しい反応だ」


 もはや絶句にも近い様子を見せたカイトの反応に、リディックがそうだろうと頷いた。が、ここらで流石に一人会話に置いてきぼりにされたソラが口を挟む。


「……なぁ、なんなんだ、そのダイヤ・ロックって」

「あ、ああ。悪い……語って良いか?」

「良いぜ」


 どうやらイングヴェイはカイトの事を取引相手として認めたらしい。であれば、今後を考えてもソラに対して情報共有をしておいてもらうのは彼らにとっても損なことではない。そしてソラの性質を理解しているのはカイトの方だ。彼に説明して貰った方がやりやすい。


「『ロック鳥』がこの山に居る事はお前も知っているな?」

「そりゃ、知ってるよ。だからここに居るんだからな」

「だな。なら、亜種とも何度か戦っただろう?」

「そりゃ、まぁ……戦ったのはファイア・ロックとウィンド・ロック、アース・ロックだけだけど、調べた限りじゃアイス・ロックやマグマ・ロックなんて色々と居るんだろ? だがダイヤ・ロックなんて見たことも聞いた事もないぞ?」


 カイトの問いかけに頷いたソラは自分で調べられる限りで調べた内容を口にする。彼とて部隊を率いているのだ。魔物の名前や性質、亜種の有無などをしっかり調べて来ていた。

 が、ここでも名前が上がらない時点で、イングヴェイ達が言っていた『図鑑にも乗っていない』という言葉が正しい事がわかるだろう。


「ダイヤ・ロックはその亜種の一体……正確には亜種の亜種か。アース・ロックの亜種だ。他にもDロックとかと呼ばれたりする。正式名称は『ダイヤモンド・ロック鳥』。そんな高位の魔物だ」

「そんなのが居るのか……」


 名前を聞く限りでは相当に固いのだろうな。ソラはカイトの解説を聞きながら、おおよそを推測する。そしてこれは事実であるのだが、同時にいくつかの重要な事がまだ語られていなかった。それはソラも理解した。なので彼はそのまま問いかける。


「名前から相当に硬そうってのはわかったけど、他に何か特徴はあるのか?」

「ああ……まずレアリティはものすごい高い。亜種数万匹に一匹。間違いなく彼らがここを占領してでも帳尻が合うほどの魔物と言っても過言じゃない」

「どして?」

「そいつの羽根は本物のダイヤモンドなんだよ。その羽根の傷一つ無い物はオークションで一つ大ミスリル一枚……日本円で百万円で取引されるほどだ。オレも滅多に見ないがな」

「見なくて当然だ。この間のオークションじゃあれの成体の羽根が出されて、そのオークション最大の目玉になったほどだ。勿論、傷一つ無い美品だ。落札価格はなんと大ミスリル三十枚。おたくらの言い方から判断すりゃ、日本円でざっと三千万円って所だろうな」


 疑問を呈したソラの問いかけに答えたカイトの言葉を引き継いで、イングヴェイが知り得る情報を口にする。羽根一枚でこれだ。ここに居るのが雛だという事だが、それでも捕らえられれば最低でも日本円にして億単位は行けるだろう。もちろん全ての羽根が使えるわけではないだろうが、それでも億は固い。冒険部と揉めても間違いなくお釣りが来る。


「そうだな……最低でも億単位の依頼を受けたというわけか」

「んー……まぁ、そこらは黙秘権の行使という事で。流石に依頼人を語る事はできんし、報奨金を語る道理はないな。が、依頼内容は語れる」

「奴の雛を捕らえて欲しい。そういう依頼が我々……いや、この情報に触れられる様なギルドにあってな」

「なるほど……」


 イングヴェイの言葉を引き継いだリディックの言葉で、カイトはそれは是が非でも、それこそ他と揉めて追い出してでもここを占有したいわけだ、と納得が出来た。

 今ここでカイトに話せたのは、カイトなら話が通じるからと彼らが判断したからだ。下手に足元を見られても困るが、同時に何も知らないでは彼らの側にある重要度の高さが理解出来ず話が拗れる。捕らえろ、だ。相当な報奨金が出ると予想された。そしてであれば、依頼人も限られる。


「どこかの貴族の依頼か。少なくとも公爵家の分家以上だな。良い道楽だこって」

「否定はしない。その御子息の誕生日の祝いに是非とも、とな」

「ごふっ……正気か?」


 軽口を叩いた己に同意する様に少しばかりの情報を与えてくれたイングヴェイに対して、カイトは思わず咳き込んだ。これを息子の誕生日祝いにする、というのは些か危険度が高いからだ。


「そこまで目をかけてる、ってわけなんだろ。知らねぇよ、お貴族様の考えてる事なんぞ。まぁ、噂によれば? どうやら若くして腕の立つお坊ちゃんだそうで。坊っちゃんが若い内かつ雛の時から飼い馴らせば騎乗出来るって踏んだんだろ。運よけりゃ、曲がりなりにも『ロック鳥』。成長の過程でグリフォンに進化して幻想種にたどり着く可能性もあるしな」


 正気を疑うカイトの言葉に同意するイングヴェイもまた、ほとほと辟易した様な感じだ。椅子に思いっきりもたれ掛かって呆れた顔だった。

 幻想種というのはいわゆるグリフォンや竜種などの人が飼い馴らす事が出来る魔物の中でも人との対話や仲間意識を持つ事が可能になった穏やかな魔物の事だ。その中でも特に高度な、それこそ人以上の知性を持つに至った者の事を幻想種、幻獣と言う事が多かった。


「まぁ、成体ともなるとランクSの領域の魔物か。ありえなくもないし、きちんとした扱いさえすれば可能性は決して低くはないか。下手をすると一族の守り神にさえなってくれるかもしれないか」

「そーいう事なんだろ。詳しい考えなんて知るかよ。ま、俺たちゃ金払ってくれればそれで良い」


 今まで思いっきりのけぞる様に椅子にもたれ掛かっていたイングヴェイであるが、やはりここからは仕事が絡むからか姿勢を元にもどしてカイトへと視線を向ける。


「で、だ。まぁ、そういう事なわけだ」

「なるほど、と理解を示そう。最低でも大ミスリル百枚。それだけの依頼か」


 じゅ、十億円っすか。カイトの述べた相場を横で聞いて、ソラが思わず頬を引きつらせる。雛を捕らえてこい。それは相手が雛である事を考えれば簡単だが、まず魔物そのものが珍しくその中から雛を見つけるという事は非常に難しい。そのレアリティの高さと周囲に居るだろう『ロック鳥』の群れを考えた際、この相場は非常に妥当なものだった。


「依頼人と報酬は明かさないって言ったろ? 足元見られたくないしな」

「そうだったな……さて、じゃあここまで明かしてくれたということは取引してくれる、という事で良いのか?」

「ああ、そうしよう」


 カイトの述べた言葉にイングヴェイもまた笑みを浮かべて同意する。ここまで語ってはじめて、交渉が出来る。が、これにカイトはもう答えは決めていた。


「ダイヤ・ロックについてはそちらが全部取ってくれて構わない。ウチが受けた依頼じゃないし、こちらが主体として関われる事はないだろうしな。が、その代り『ロック鳥』については取り分はこちらが八だ」

「うん? いや、そうか……くっ」


 カイトの思惑とそこに至るまでの思考を読んで、イングヴェイは思わず吹き出した。実はこれはイングヴェイが最終的な結論として提示しようとしていた答えと一緒だった。つまり、両者が出せる妥協案だったのだ。そして、カイトが笑って問いかけた。


「どうせそっちもかったるい話は面倒だろ?」

「良いね。お前さんは冒険者の性質ってのをよくわかってる……良いだろ。それで決定だ」

「……いや、すまん。詳しく教えてくれ」

「わり、何がどうなってんだ?」


 トップ同士で即座に妥結を行ったイングヴェイとカイトの二人に対して、各々のサブマスターは流れが理解出来ずに問いかける。それに、カイトが結論を纏めて教えてくれた。


「簡単だ。ウチはダイヤ・ロックについては関与しない代わりに、あっちは『ロック鳥』の取れ高の八割をウチに譲る。もちろん、狩場は共有だ」

「当然、狩りも共同で行う。どっちかが勝手な事をしても困るし、ウチにとっちゃ間違ってダイヤ・ロックを傷付けられちゃたまんねぇからな……リディ。プランはCで移動準備させろ。あちらさんと合流だ」

「わかった」


 カイトの言葉を引き継いだイングヴェイの指示を受けて、リディックが早速行動に入る。やはりこの言葉を見ても、彼らはそもそもカイト達に詫びを入れるパターンでも計画が出来ていたのだろう。ソラとしてもイングヴェイは格が違うと思い知らされた。


「そっちもこっちの受け入れ準備頼む。後……ずっと見張ってる怖い方々にも詫びと協力も頼めれば幸いだ」

「オーライ。やっておこう」


 イングヴェイの申し出をカイトは受け入れると、今まで座っていた椅子から立ち上がる。これで交渉は成立だ。そして結果としても悪くない。十分に納得の出来る取引と言えるだろう。そうして、カイトとソラはその場から立ち上がり、フロド達を率いて冒険部の野営地に戻る事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1359話『狩りの再開』

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