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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第67章 神話の終わりと始まり編

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第1355話 冒険者の挨拶 ――冒険部ver――

 カイト達が冒険部の野営地を後にしていた一方その頃。冒険部に対して『挨拶』を行った相手ギルドはというと、自分達の陣営に帰還して今の冒険部の動きを論評していた。


「動きますかね?」

「……微妙な所だろう」


 ソラに『挨拶』を行った相手ギルドのギルドマスターを名乗った男はソラに対して行った応対に対して、ソラの事を冷静に判断していた。

 そこで見た結果は確率は若干半分を下回る。彼の言葉に滲んでいた苦味はそういう理由だった。彼が得た情報から判断したプロファイルからソラは若干ズレていたのである。


「あの少年……確かに腹に据えかねるものはあっただろうが、それを必死で抑えていた。予想外ではあったな。あの少年……ソラだったか? もう少し乗せられやすいと思ったんだが」


 幹部の問いかけに対して、ギルドマスターは少し苦い顔でそう呟いた。冒険部の野営地の見張りからの連絡によれば、まだ冒険部には大きな動きは無い――ティナが結界を展開した為――らしい。

 敢えてこちらに攻め込めやすい状況をいくつも構築してやっているのに、まだ抑えが効いている。ソラの年齢や冒険部の平均年齢を考えれば間違いなく十分な腕前と認めるべきだった。


「もう一度やっとくか? 流石にあの年齢で血気盛んな小僧共だ。もう一回『挨拶』しておいてやりゃ、乗ってくれるぜ」

「……」


 また別の幹部の提案にギルドマスターは少しだけ悩みを見せる。これもまた手といえば手だ。彼らの思惑としては利益を最大に得る為に冒険部には立ち退いてもらいたい所だ。更には居て貰って困る理由もあった。

 今のまま何もこちらがアクションを起こさねば、下手をするとソラがギルドの締め上げに成功してしまう可能性はあった。それはあまり有り難くない。

 とはいえ、動くにしてもタイミングを見計らう必要はあるし、流石にまだ早すぎる。今行けば誰でも挑発している、とわかって冷静になるだろう。挑発を多用すると逆効果になる可能性は高かった。


「……まぁ、今日一日は待つべきだろう。もしかしたら陣地が寝静まった頃に誰かが堪えきれなくなって動く可能性もある。野営地の隠蔽の結界は一段階落としておけ。敢えて誘い込んでやれ」

()って良いか?」

「やめておけ。見せしめは生きて語って貰う必要がある」


 ギルドマスターは先の二人とはまた別の幹部の少し楽しげな問いかけに対して、そうはっきりと明言する。別に彼とて殺す必要がなければ殺すつもりもない。

 来るなら殺すが、それでも単なる小競り合いで相手を皆殺しにしてはユニオンから監査が来る可能性は高い。特に相手は<<(あかつき)>>が目をかけているという噂だ。無茶は出来ない。

 そうして、彼らはソラがアクションを起こすのを待つべく、その日一日は警戒態勢を維持しながら待機する事にするのだった。




 その一方。ソラの策略により冒険部の為に『挨拶』に出向く事になったカイト。そんな彼はソラと共に山を迂回して移動していた。


「で、ちょっと思ったんだよ。これもまた冒険者としての挨拶だってんなら、こっちも冒険者としての挨拶するのは良いかな、って」

「正解だな。この世界はどうしても侮られたら負けの部分が無くはない。今後を考えても侮られない様に威圧するのは十分に大切な事だ」


 道中、カイトはソラの考えに同意して頷いた。力こそが物を言う世界において、やはり侮られるというのは仕事にも差し障る。なにより武力を売り物の一つにしている冒険者という職業だ。風評は重要だ。弱いと思われる、というのはそれだけでも十分に仕事に差し障るのである。

 だから、カイトも冒険部の為に敵陣に乗り込むつもりだった。ソラの為、というのは所詮は彼の私人としての理由だ。ギルドマスターとして乗り込むのであれば、公人としての理由は必要だった。


「にしても……そうか。彼の馬鹿げた行動もこんな所で役に立ったか」

「あっははは。いや、やっぱ大ギルドの長ってすげぇんだな、って今更思い知らされたよ」

「だろうな。おそらくギルドマスターとしての格だけなら、バーンタインという男は間違いなくバランのおっさんを上回っている。戦士としてのバーンタインを一条先輩が見習っているといのなら、お前はギルドマスターとしてのバーンタインを見習え。彼は統治者……いや、長というのが相応しいか。長として見れば彼は素晴らしい才能を有している」


 こんな所でバーンタインに対して尊敬を深める事になるとは、と意外そうにしながらも彼への尊敬を明らかにするソラに対して、カイトもまた彼の素晴らしさを説く。彼は豪快で大味な人物であるが、同時にギルドマスターとしては間違いなく八大ギルドの中でも有数の人物だ。

 基本統率なぞ考えないクオンや八大に数えられても実際は一つのギルドと言い難い<<土小人の大槌(ドヴェルグのおおづち)>>のギルドマスターらとは違い、バルフレアと同じく実際に統率している。しかも彼の場合は傘下を含めれば万単位にも登る大所帯だ。それを纏めきれているのだから、その才能は確かだった。


「だからこそ彼は『挨拶』の有用性と必要性を理解していた。基本的に同盟相手でもなければ他のギルドは半分敵も同然だ。もちろん、半分味方も同然だから何時でも威圧的に行く必要はない。己の目的や敵の様子などを考えて、行動に出るべきだ」

「TPOを弁えて、ってわけか」

「そうだ。時と状況と場所。その3つを弁えた上で、だ。相手はその点、今回はきちんとそれを弁えていた。相手の思惑を最初から理解出来る状況でありながら、下手に出たお前の失態は失態だ。その点は言い繕う事はできん」

「わかってるよ」


 カイトの指摘にソラはわずかに不貞腐れる。そもそもあの場でソラが毅然とした対応が出来れば、こんな事にはなっていない。

 まぁ、ナナミも指摘していたがソラ達に実力が無かったというのが問題だが、そこはブラフを混じえて応酬すれば良い。敢えて強気に出て相手にこちらに腕利きが居るかも、と思わせるだけで十分に威圧効果にはなる。とはいえ、今回はその後のリカバリは十分だ。なのでその点はカイトからしても褒められた。


「まぁ、そう言っても、だ。リカバリは完璧だった。それは褒めておこう」

「おう」

「というわけで……あれが拠点だ」

「うわっ……マジであるよ」


 カイトから指摘された場所を見て、ソラが相手の拠点がいつの間にか設営されている事に気が付いた。その拠点もしっかりとした拠点で、冒険部の様な狩猟の為の野営地というよりもどこかとの戦闘を考えたしっかりとした野営地だ。もしソラ達が勢い余って攻め込んだとて、即座には攻め落とせないだろう。

 しかも今はソラ達が攻めてくる事を想定しているからか、しっかりと警戒も整えている。確実にギルドとして、組織として冒険部より一つ二つは格上。それを如実に理解させていた。


「ほう……悪くはない腕だな。間違いなくお前より相手は格上だ」

「あー……うん。これ見りゃ俺もそう思う」


 ギルド全体にまず油断が無い。ソラ達を挑発して暴走を誘っているのに、そこまでこちらを馬鹿にしている様子が無いのだ。もちろん、末端には慣れなどから来る油断は見え隠れしている。

 だが、慣れた熟練達は決して油断していない。相手が格下と油断して、逆に痛い目を見る事を知っている。相手とて曲がりなりにも壁を超えている事をしっかりと認識している者、熟練の動きだった。

 間違いなく腕利き、もしくはこういう行動に手慣れた所と言い切れた。とはいえ、これはカイトにとってすれば良い話でもあった。


「まぁ、だからこそこっちの行動は有益だな」

「どういうことだ?」

「逆説的に言えば、こいつらは決して相手を侮らない。挑発も侮りもすべてがポーズ。こちらの実力を認めさせれば良い取引相手になる」

「そう……なのか?」

「油断ならない、と判断すれば相手も譲歩する。相手は熟練。利益を見据えた上で行動している。今回、冒険部を追い出した方が利益になると判断したが故にこの動きに出たが、逆に協調した方が利益になると踏ませれば相手は譲歩してくる。そういう相手だ。わかるだろう? 相手は馬鹿じゃない」


 カイトは見え隠れする相手ギルド上層部の動きをソラに示しながら、しっかりと相手を認める。この相手は間違いなく熟練だ。ここに功名心だけで来たわけではない。きちんと勝てると踏んだ上で来ている。それが理解出来た。


「……確かに、な」


 今まではやられたからやり返す、というだけで判断していたソラであるが、カイトの言う通り決して相手が馬鹿でない事に言われて気が付いた。

 もちろん、相手とて自分が馬鹿と判断される可能性も考慮済みだろう。彼もソラ同様にいくつものパターンに分けてこちらの反応を予想していた事が推測された。そしてそれ故、ソラはカイトへと問いかける。


「……やめておいた方が良いか?」

「いや、やれ。逆にそれ故にこそ、やれ」

「? どして」

「言っただろう? こっちが油断出来ないと向こうに思わせる事。そのためには向こうがこっちへの『挨拶』で最大の効果を得た様に、こっちも最大の効果を得る必要がある。その後の事はオレに任せておけ」

「おし……じゃあ、改めて頼む」


 カイトの言葉を受けて覚悟を決めたソラは、改めてカイトへと決行を依頼する。元々カイトとてそのつもりだ。なので彼は一つ頷くと、今まで自分とソラに展開していた隠形を解除する。


「「「!」」」


 唐突に現れた人影に、相手ギルドの野営地が一斉にこちらに注目する。が、まだ攻撃は出来ない。こちらが殺気立っているのならまだしも、こちらの数は二人だけで至って泰然としている。

 武装こそしているもののそれは冒険者であれば不思議もないし、こんな場所でそれに文句は言えない。相手とて『挨拶』の時には武装して冒険部の野営地に乗り込んでいる。返礼であっても、何も言えない。もちろん、カイト達は武器を抜く様子も見せていない。


「さて……ソラ、行くぞ」

「おう」


 こちらに相手が気付いた――敢えて気付かせた――事を受けて、カイトとソラは崖を飛び降りて相手の野営地の前へと降下する。


「ギルド冒険部ギルドマスターのカイト・天音だ。サブマスターから話は聞いたのでな。返礼に参らせてもらった」


 流石に相手ギルドも自分達に気付けぬ間に陣地前まで来られているのは想定外だったらしい。完全に警戒は最大で、こちらの出方を伺っている様子だった。

 もちろん、それに合わせてもし万が一に備えてカイトが少しでも迂闊な行動をすれば攻撃出来る準備も万端だ。それ故、かなり殺気立っている様子だった。

 その殺気たるや、ソラでさえ思わず足が竦むほどの領域だ。こちらが後手に回った様に相手も後手に回った事で本気になっているのである。


「……入れ」


 完全に警戒している相手ギルドの幹部と思われる一人が、カイトを警戒しながら陣地の結界を一部解除してカイトとソラを招き入れる。

 そもそも相手からしてみればカイトがもう入っているというのは想定外の状況だ。一切の油断が出来る状況ではない。こちらもまた油断出来ない相手かもしれない。そう相手ギルド全体が考えていた。


「失礼する」


 そんな殺気立つ相手に対して、カイトは一切ひるむ事なく歩いていく。その様たるやあまりに堂々としていて、彼がソラとは格が違う事を知らしめていた。と、そんな所に唐突に相手ギルドの何人かが膝を屈する。


「あ、おい!」

「何しやがった! ぐっ!?」

「あ……」

「弱い奴は下がれ! こいつは明らかに格が違う! 倒れた奴はテントに運べ!」

「ああ、失礼。何分そちらが殺気立っている様子なのでこちらも殺気を出してしまった。先に聞いた様子からこの程度の挨拶で怯むとは思わなかったのだが……」


 カイトは慌ただしく幹部の指示に従い始めた相手ギルドに対して敢えて殺気を抑える事はせず、相手にこちらが格上と叩き込んだまま口を開いた。格下と侮られたのなら、格上と叩き込む必要があったのだ。故に彼は気迫だけで雑魚を相手にならない、と言ってみせたのである。

 それにどうせこの程度で気を失う様な雑魚に用事はないし、もし万が一に荒事になっても数が居ては手間だ。それに備えていくつもの手は打っているが、ソラも居る以上なるべく数は減らしておきたかった。


「さて……それでそちらのギルドマスターは?」

「俺がそうだ」


 カイトの問いかけを受けて、一人の男が慌ただしい野営地の真ん中にあるテントから現れる。そうして、カイトは相手ギルドのギルドマスターとの『挨拶』を開始する事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1355話『威圧と取引と』

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