第1352話 支援隊・出発
ソラの要請を受けてギルド同士の抗争を未然に防ぐべく遠征隊に合流する事にしたカイトは、ソラからの定時連絡を受けた翌日には出立の用意を整えていた。
「というわけで、急遽ソラの支援に向かう事になった。一応、通信機は飛空艇に乗っけてあるから問題は無いとは思うが……それに万が一に備えて何時も通り一葉達を密かに待機させている。万が一の場合にはそちらから連絡をしてくれ」
カイトはソラ達の支援の間残留する事になった桜らへ向けて向かう場所と状況、万が一の対処などを告げておく。ここらについてはよくあることだし、必要な事でもある。なので誰も疑問もなく受け入れていた。というわけで、桜は何時ものことなので必要な事を聞いておく。
「帰還はどれぐらいになりそうですか?」
「そうだな……一応、揉め事を回避するだけだから、回避出来ればオレは戻るつもりだ。飛空艇もあるしな。遠征隊とは違って別行動せざるを得ん」
「では、遅くとも週末には帰れそうですね」
「そうだな。そうなるだろう。悪いがその間の対処は任せる」
桜の推測にカイトもまた同意して、その間については桜へと一任しておく。どちらにせよ今回は学校として動いている事も大きいし、それ故に桜の立場である生徒会長という立場が有効だ。
なので彼女にはその立場を活用してもらった方が良い。というわけでそこらを言い含めたカイトは更に必要な事を伝えておく事にした。
「で……まぁ、ルーファウス達にも何か適時仕事は割り振ってやってくれ。今回は天桜学園という事で動いているが、基本冒険部としても協力はしている。が、やはり彼らは冒険部ではなく出向だからな。大手を振って関われるわけでもない……が、何もしないというのもそれはそれで色々と憚られるし、何より居心地が悪いだろう」
「わかりました。では、しばらくは今までと同じく調理班に協力してもらいつつ、何か必要があれば手を借りる形で」
「頼む」
桜の返答にカイトは一つ頷くと、これで良いかと一度頭で見直してみる。そして大丈夫そうだったので、深く椅子に腰掛けた。
「ふぅ……これで一通りは大丈夫かな」
「お疲れ様です」
疲れた様にため息を吐いたカイトに、桜がねぎらいの言葉を送る。やはり一番せわしなく動いていたのはカイトだろう。他人に投げられる仕事は他人に投げているが、やはり彼しか出来なかったり彼がやるべき仕事は多かった。なので仕方がない事といえば仕方がない事でもあった。とはいえ、カイトはそんなねぎらいに一つ笑みを浮かべた。それはどこか、自嘲気味な様子が混じっていた。
「ああ……とはいえ、今回は少しオレ独自の思惑、いや、想いとかそんなのか。それも絡んでいるからな。忙しいのは承知の上だ」
「想い?」
「……色々と、ある。ま、もうすぐ終わらせるからそこはそことして覚えておいてくれれば良いよ」
首を傾げる桜に、カイトはそう微笑んだ。当たり前だが、シャルと彼女らは引き合わせるつもりだ。というより、引き合わせねばならないだろう。それについては全員が理解している。
「……まぁ、恥ずかしい話なんだが。やっぱり自分の女には良い所を見せたいんだよ。桜に言う必要は、無いだろうけどな」
「……ですね」
「……ありがと」
カイトらしいと言えば、カイトらしい。それ故の桜の言葉にカイトもまた頷いて、礼を述べる。彼女ももう女神の復活が近い事は理解している。こうやって女の子達の為に必死で頑張るからこそカイトだ。嫉妬もある。が、同時にこれだからカイトだとも思えた。
「近い……というよりもう一週間ぐらいしかないんですね」
「……ああ。収穫祭までには、確実に」
桜の問いかけにカイトは一つ頷いた。ずっと前から語られていたのだ。桜達とて覚悟なぞはるか昔から出来ている。そもそも元々語られていた相手だし、復活させるとカイトが何度も語っていた。そしてその想いの深さは彼女らにも邪魔は出来ない。今更といえば今更だ。覚悟は出来ていて当然だった。
「……待ってます」
「……ああ」
桜の言葉にカイトは小さく頷いた。桜の内心がどうなっているのかは、カイトにはわからない。が、受け入れてくれるというのであれば、それをありがたく受け入れるだけだ。そうして、カイトはその翌日。いくつもの思惑と想いを抱えたまま、マクスウェルの街を後にする事にするのだった。
ソラの要請を受けた翌々日。カイトは桜や瑞樹らに後を任せると、そのまま一路飛空艇を操って『エンテシア砦』を目指して進んでいた。が、その道中は女三人寄れば姦しいとばかりに騒々しいものだった。
「……これ!」
「む」
「やった! セット出来上がりー」
まぁ、何をしていたかというと全員――カイトを除く――揃ってババ抜きである。基本的にポーカーなどのいわゆる賭け事に使われる様な遊びを好むのはカイトだ。それ故、カイトが入っていなければ普通にババ抜きや神経衰弱も行われるのであった。
「うん。オレ達何しに行くんだっけ……」
カイトは後ろで姦しいソレイユ達の声を聞きながら、げんなりとため息を吐いた。もちろん、カイトの心情などを察しろというわけにもいかない。
そもそもこれはカイトの勝手な考えだ。なので他人を巻き込むつもりは皆無だった。だったが、ここまでピクニック気分では本当に何をしているのだ、と言いたくもなろう。
「まぁ、良いか。で、そろそろ全員『エンテシア砦』に到着するぞー。降りる準備しろー」
「「「はーい」」」
カイトの指示に従って、少女らが声を上げる。というわけでしばらく続いていた楽しげな声が終わり、山に向かう為の準備を始める。
「日向ー。あれどこだっけー」
『あれ?』
「日向のお着替えー」
『……知らない。ごしゅじんさまが持ってない?』
クオンの問いかけに日向はカイトを見る。が、そもそもカイトもなんのことだかさっぱりだった。
「何だ、そりゃ?」
「似合いそうだからミツキとおそろいの買ったの! 持ってきたと思ってたんだけどなー」
「……まぁ、そりゃどうも」
一応、日向と伊勢はカイトのペット扱いだ。というわけで知らぬ間に衣服を買ってもらっていたのであれば礼の一つも言うべきか、と思ってカイトは一応礼を言っておく。と、そんな事をしているとあっという間に飛空艇は『エンテシア砦』へと到着して、飛空艇の発着場へと着陸した。
「おーし。では点呼の確認じゃー。番号!」
「いち!」
「に!」
「さん!」
『し』
『えっと……五』
『六……で良いのでしょうか』
ティナの号令に合わせて、ソレイユ以下全員が番号を述べ上げる。なお、順番としてはソレイユ、クオン、ユリィ、日向、伊勢、ミツキ――今回も今回でクオンに拉致られた――だ。一葉達も居る事には居るが、ホタルと共に飛空艇で万が一に備えて待機する事になっていた。
と、降りた面子を見てカイトはただただため息を吐いた。これでも全員この世界でも有数の戦闘力を持つ猛者達である。が、その姿はどう見ても遊びに行く少女らの姿でしかなかった。いや、圧倒的な強者故に、なのかもしれない。この程度の相手では一切の痛痒にはならないからだ。
「さて……マジでどんな面子で何をしに行くのだろうか、という話なんですが」
全員が飛空艇を降りて一応の点呼を取った後。改めて面子を確認してカイトは呆れ返る。一人でも国を滅ぼせるのが三人。それでいてパーティのバランスは非常に良い。前衛にカイトとクオン。後衛にティナとソレイユ。遊撃に伊勢と日向、ミツキだ。支援にユリィ。冒険者として見ても非常にバランスが良いパーティだった。冒険者が組むパーティのお手本、と言っても過言ではない。
これが普通の戦闘ありきの仕事ならかなり本気だな、と言われる組み合わせだが、念の為に言えばこれでしようとしているのは戦闘ではなく単なる会談である。カイトをして、意味がわからない。
「とりあえずこっからはバイクを出す事にするんだが……ティナー。準備どうよ?」
「うむ。二台目も準備おっけーじゃ」
「おし……で、絶対にその馬鹿には触らせるなよ」
「えー! なんでよ!」
ティナの返答に頷いたカイトはそのまま、クオンを見る。彼女だけは乗り物の操縦させてはならない。エネフィアでも彼女に近い存在なら誰もが知っている事だった。
「……前、飛空挺で無茶やらなかったっけ?」
「……」
唐突に真面目な口調になったソレイユに、クオンが沈黙する。その一方、ソレイユが珍しく追撃を叩き込んだ。
「あれ、にぃが運良く狙撃したから良かったけど、無かったら多分墜落してたよね?」
「え、えーっと……あ、あれはそもそも鹵獲した時点で片肺だったし……それに墜落しないようにきちんとやってたわよ? ちょっと出力が思うより上がらなかっただけで……」
「その片肺の飛空艇でこっち行けそう、とか言って切り立った山脈で超高速ドリフトをやったの誰だっけ?」
「ごめんなさい……」
百年に一度あるかないかより少ないだろう程に滅多にないソレイユからのマジの指摘に、クオンがしゅーん、と落ち込んだ。なお、彼女がここまで本気なのは、これに常に巻き込まれていたからだ。それは本気にもなろう。
「……まぁ、そこらは良いから。取り敢えず行くぞ」
何があったのか聞きたくはないが、どうやらいつも通りといえばいつも通りだったことをカイトは理解する。というわけで、聞きたくない彼はスルーする事を決め込んでバイクに跨った。
「……」
拗ねた様子のクオンがカイトの後ろに無言で跨って、カイトに手を回す。その一方、ソレイユは大人状態のティナの操るバイクのサイドカーに乗り込んだ。
「よし……ティナ。通信機の同期は?」
『大丈夫……じゃな。ヘルメットの調子は?』
『問題ないよー』
『同じくー』
『無いわよー』
いつも通りの調子に戻ったソレイユとユリィ、不貞腐れるクオンの三人が与えられたヘルメットに内蔵されている通信機の調子を確認して答えた。今回のヘルメットもまたティナ謹製で、このバイクの為に作ったものだった。速度などをヘルメットでも確認出来るらしい。
万が一には遠隔で操作出来るようにもするつもりで、その為にも速度計などが正常に働くか確認するべく持ってきたとの事であった。
「さて……」
カイトはゆっくりと始動していく飛空艇の超小型魔導炉の状況を見ながらハンドルを握りしめる。そんなカイトに、ティナが告げた。
『街中で使うのは初じゃが、今回は皇都の上層部も許可済み。街の警吏達も理解しておる。が、絶対は無い。注意はしておれ』
「あいよ」
カイトはティナからの注意喚起に頷くと、ゆっくりとアクセルを踏み込んだ。敢えて言う事はないが、街中でカイト達がバイクに乗るのは初だ。
が、ティナの搭載した各種安全装置が万全に働くか確認する為には、どうしても街中での試験だけは避けては通れない。なので今回人員に腕利きが揃っている事もあって一緒にやってしまおうという判断だった。
「うーん……取り敢えず馬車専用道路を通らせてもらっているが……」
『うむ。感覚としては日本での徐行運転と同じじゃな』
カイトの使用感覚を聞いて、ティナが満足げだ。日本の徐行運転と感覚が変わらない、ということは狙い通りでもある。が、勿論差もある。
『ゴーグルの表示はどうじゃ?』
「問題は無い。地図の表示もほぼほぼ完璧だ。が、ARについてはもう少し調整した方が良いな。情報が多い」
『というより、人が多いが故じゃのう。うむ。毎度の事じゃが、此度ももう少し情報の取捨選択を行える様に改良しておこう』
ティナは魔術で同期しておいたウェアラブルデバイスのメモ帳に改良点を書き込んでおく。まず違うかったのはAR、拡張現実を搭載した事だ。
ここらは魔術を使えばどうにでもなる。幻術系を改良してやれば良いだけだからだ。なのでカイトのゴーグルには地図や速度計などが表示されていて、もし地球で走らせる場合には法定速度を超過しそうな場合に警告が出る設定にも出来る。普及という今後も考えての設計だった。
「それ以外は……何か特に問題は無いな。注目の的になっている以外は」
『それは仕方があるまい。ある意味正式には初のお目見えに近いからのう。が、少しでも慣れてもらえれば良い』
かつてとはまた違う耳目の集まりを感じながら、カイトはため息を吐いた。まぁ、その為にバイクには公爵家の紋章を入れてある。いつも何か変わった物を開発しているマクダウェル家の新開発だと考えてくれている様子だが、それ故に注目の的だった。そうして、カイト達はそんな注目を一身に受けながら、役所を目指して進んでいくのだった。
お読み頂きありがとうございました。
次回予告:第1353話『ロック鳥の巣』




