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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第67章 神話の終わりと始まり編

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第1351話 支援要請

 試食会の匂いに釣られてやってきたクオンと共に今度の収穫祭で出す料理の試食を行ったカイト。そんな彼は夕食を食べるとそのまま執務室に戻っていた。ソラ達遠征隊からの報告を聞く為に数日に一度通信を使って夕食後に定例報告会を行う事にしていて、丁度この日がその日になっていたからだ。


「そろそろ、時間だと思うんだが……」


 カイトは執務室の己の机に設置された小型の置き時計を見ながら、そう呟いた。数日に一度なのはもちろん、理由がある。それは距離の関係だ。

 今回、冒険部で動いている。なので通信機も何時ものカイト達が使う様な超高性能な軍用品ではない。というより、あれでも大半は中継局が無ければ遠距離まで通信を飛ばす事は出来ない。そして中継局を確保する為、カイト達も人工衛星を打ち上げたのだ。それとてまだ試作段階で、一般化はしていない。

 なので今回の遠征隊が持っていった通信機は数日魔力を溜めて僅かな時間マクスウェルとの通信を確保する物で、何時も何時でも通信が出来るわけではなかったのである。


「ふーん……何時も思うけど結構良い仕立てよね」

「……オレの背後に平然と立つなよ……」


 己の背後に立って普通に呟いたクオンに対して、カイトはため息を吐く。これでも仕事という事で周囲の気配には気を配っていたわけであるが、その警戒網を抜いてきたのだ。クオンの技量がわかる一幕だろう。


「まぁ、そりゃ良いんだけど。何か用事か?」

「今暇なの。で、ちょっとお邪魔しようかなー、って。というか、ソレイユもフロドも居ないし」

「そりゃ、この時間だと暇だわな……」


 カイトは時計を指さしながらそれはそうだろう、と納得する。現在時刻はおよそ20時少し前。まだ飲食店は開いているだろうが、冒険部のギルドホームの食堂でご飯を食べた彼女には関係がない。というわけで、顔見知りが来そうなこちらに来たというわけだった。


「まぁ、良いか。とりあえずこっち仕事だからソレイユとかが来たなら好きにしてくれ……ただし、騒がない様にな」

「はーい……んー! これ美味しー! あの女の子、お菓子作りの腕も中々よねー!」


 カイトの言葉に頷いたクオンは食堂で貰ってきたらしい洋菓子をつまみながら、顔見知りが来るのを待つ事にしたようだ。なお、クオンもやはり睦月の事を女の子と勘違いしている様子だった。

 まぁ、あそこまでエプロンが似合うのも珍しい。というより、エプロンをして嬉々として料理をする姿はどこからどう見ても女の子である。勘違いも仕方がない。なお、これが戦闘時ならクオンは逆に身のこなしなどから男と勘付くが、料理の動きは専門外なので見切れなかった様子である。


「はぁ……」


 これはソレイユも来るだろうな、と思いながらカイトはソラからの通信を待つ。なお、睦月の性別については指摘しない事にしたらしい。すでに時間はわずかにオーバーしており、脱線するとこちらに影響が出かねないと判断したのである。というわけで、その数分後。机に設置された通信機にコールサインが入った。


「来たか……こちらカイト」

『おーう。カイト。ソラだ』

「ああ、少し遅かったな」

『悪い。どうにもチャージにちょっと時間掛かってたらしくてさ。ちょっと待ってた』

「魔力の蓄積はどうしても周囲の環境に左右されるからな。十分程度の遅れなら十分に誤差の範疇だろう」


 遅れた理由についてソラから聞いて、カイトは納得と理解を示す。彼自身も言っていたが、魔力の蓄積には周囲の環境からの影響が大きい。大規模な魔術を使った後などでは特に周囲の魔素(マナ)濃度の変動――濃淡どちらに傾くかは魔術次第――が出やすい。

 もしかしたら周辺でまた別の冒険者が大規模な魔術を行使した可能性が考えられた。別に冒険部で山を占拠しているわけではないのだから、別に不思議でもなんでもない事だろう。

 それにもし拙ければ別途で魔素(マナ)タンクや魔素(マナ)バッテリーと呼ばれる魔力を溜めた電池の様な物を持っていってもいる。緊急事態になったとしても連絡の確保は可能だった。


『だろうな、と思ってバッテリーは使わなかったんだけど……まずかったか?』

「いや、あれは非常用だ。たった十分程度の時間を間に合わせる為に使うべきじゃないな。正しい判断だ」

『サンキュ……で、まずは報告だな』


 カイトの頷きに一安心したソラは改めて気を取り直して報告を行う事にする。そうしてまず報告すべきなのは、狩りの進捗だろう。


『まず『ロック鳥』の狩猟状況だけど、なんとか次かその次、遅くとも三回以内の時には必要数が確保できそうかな』

「ふむ……ペースがそこそこ上がったな。慣れてきたか?」

『おう。もう俺ならカウンターで確実に仕留められる』

「そうか。なら、安心だ。他は?」

『弓兵と盾の組み合わせで確定で仕留められそうかな。一応、敵を散らす為に囮の支援は必要だけどさ』


 カイトからの確認にソラはもう自分が居ないでも大丈夫だろう、と太鼓判を押す。幸いソラ達が向かった遠征地以上に数が取れる所が無いので遠征隊はマクダウェル領を離れているが、少数で良いのなら領内でも確保可能だ。ソラ達がもし別の用事で動いていても安心だろう。


「それで済むのなら十分だ。なら、後は数を確保してくれ。で、帰還で良い」

『おう……と、そんなわけでそうしたいのは山々なんだけどさ』

「うん? 何かあったか?」


 一度は己の言葉に応じたソラであったが、一転して少しだけ苦味を滲ませた表情を顔に浮かべる。それに、カイトも何かトラブルが起きたのだと察した。


『まだはっきりと問題が起きてるわけじゃないんだけどさ……どうにも近くにまた別のギルドが拠点を設置したっぽいんだよ』

「ふむ……」


 『ロック鳥』の素材は金になる。肉と卵は高級食材だし、羽は良質な装飾品として取引されている。なのでカイトとしてもトラブルを避ける為に山を占拠する事だけはしない様にしっかりと言い含めたし、ソラもそれを守っていると思われる。

 ギルドで同盟を組む際にも言われていたが、金銭関連でのトラブルは冒険者では一番面倒になりやすい。最悪はギルド同士の『戦争』にも発展する。避けられるリスクなら避けるべき、として避ける為の方法はソラにも伝授していた筈だった。


「挨拶には来たんだろ?」

『いや、そうじゃなくてさ……少し前に『エンテシア砦』が雇った調査員の人が来て、そんな話をしてくれたんだよ。で、一昨日ぐらいからウチの奴らも知らない奴をちらほらと見た、って話しててさ』

「面倒だな……」


 ソラからの報告を聞いてカイトの顔に浮かんだのは、わずかに嫌そうな表情だ。やはりどこのギルドでも筋を通してくれるわけではない。先に冒険部が居たから、と筋を通して挨拶に来てくれる様なギルドばかりではないのだ。で、そういう所ほどよく揉め事を起こす。


『まぁ、まだしっかりと来たって把握してるわけじゃないけどさ。もし来てるなら厄介そうな所だなー、って思っててどうするべきかちょっと意見聞きたくて』

「正しい判断だ。これは流石にお前一人で判断すべきじゃないな」


 ソラからの要請にカイトはどうするかを考え始める。ソラはサブマスターとして登録されているので他のギルドとの折衝も可能な立場だが、揉め事が起きる可能性が高くなっている状況でしかもギルドマスターとの連絡が取れるのならきちんと確認はしておくべきだろう。彼はまだ折衝面での経験は浅い。カイトの指示を仰ごう、というのは正しい判断だった。


「ふむ……」

「カイトが行くべきじゃない? そういう所なら色々と難癖付けてサブマスターじゃ話にならん、とか言いそうだし。アルフォンスくんも一緒だろうけど……ギルドだと横槍はすんな、とか言われたら終わりだし」

「かねぇ……面倒っちゃ面倒なんだが……」


 今からソラ達の所に合流するとなると、流石に明日の朝一番で出発したとしても到着するのはどうしても明後日になる。流石にあのバイクで山越えは出来ないので飛空艇を出すべきだし、飛空艇となると他領、しかも天領に入る以上はカイトと言えども正式な申請は必要だ。

 すでに夜になっている以上、緊急事態でもないのに今から申請なぞ出来るわけがない。カイトの申請なので通常の申請でも即座に受理されて処理されるだろうが、それでも処理に掛かる時間や移動時間を鑑みれば『エンテシア砦』では一泊する必要があるだろう。というわけで、クオンの提案を受ける形ではあったが、結論を出した。


「……わかった。オレが行こう。どうせ、近くの山に用事もあったしな」

『? また何か調理班から何か手に入れてくれ、って話来てんのか?』

「いや、そういうわけじゃない……」


 結局はこうなるのか。カイトはそう内心でわずかに諦めを滲ませる。が、その顔には僅かな喜色が滲んでいた。というわけで、カイトはソラの問いかけをはぐらかしつつ今出来る指示を下す事にする。


「ソラ。明日の狩猟は一度停止して、状況の確認と統率を取っておいてくれ。相手の出方次第じゃ不満が溜まる。名目は長い狩猟だから一度大休止を、で良いだろう」

『そっちはもう準備整えてるよ』

「そうか……なら、悪いが竜騎士数名には地竜に乗って別行動を頼んでくれ」


 ソラの手配に頷きつつ、カイトは更に指示を与える事にする。これに、ソラはカイトの意図を推測して口にした。


『向こうのギルドを探すのか?』

「いや、迂闊な事はまだしない方が良い。向かって欲しいのはそこから北西。そこにまた小さな山があってな」

『山……? えっと、地図地図……』


 カイトの言葉にソラは役所で貰った地図を確認する。そうして確認した地図には確かに、自分達が居る『ロック鳥』の巣がある山脈の北西に小さな山が描かれていた。旅人達の目印の一つらしく、この地図にも記載されていた様だ。


『この『月下山(げっかさん)』って奴か?』

「ああ。竜騎士達には少し迂回する様にしてそこに向かう様に指示してくれ。で、山に近づいたらそこでウチのギルドのマークを打ち上げろ」

『そりゃ、速度の速い地竜なら一時間で往復出来るから良いけど……なんでそんな所でそんな事を?』


 カイトの指示を受け入れたソラであるが、やはり何故そんな事をカイトが命じたのかはわからない。なのでの問いかけに、カイトは隠す事なく理由を明かしてくれた。


「そこに今、フロドが居てな。流石にどんなギルドだろうとあいつの名は鑑みる。なにせ八大の一つの看板を背負ってるからな。どれだけ喧嘩っ早い奴だろうとゲスな野郎だろうと、流石にフロドが居て馬鹿な事はしないだろう」

『彼があそこに……? なんでさ?』

「ちょっと仕事だよ。でもその仕事ももう一段落しそうな段階でな。そっちに合流しても大丈夫だろう。一応、ソレイユにも明日の朝一番に矢文を出して貰うから、印を上げればそれで伝わるはずだ」

『仕事? まぁ、一応こっちに出向してる形だから何かあるか……』


 そもそも相手は八大ギルド。自分達より遥かに上位に位置するギルドだ。ラエリアの戦いの隠蔽の為にこちらに来ているが、その指揮権は冒険部にはない。そして当人はあんなナリであんな性格でも、あの三百年前の大戦のエースの一人だ。別行動しても不思議はない、とソラは思った様だ。


「そんな所だ。で、終わりそうだ、と報告が入っててな。なら少し力を借りるべきだろう」

『わかった。じゃあ、明日の朝一番で伝令を送るよ』

「ああ。オレもなるべく早めには出るが、どれだけ早くても出発は明後日の朝だ。到着はその翌日の昼。まぁ、十分フロドだけでも抑えられるだろうが……なるべく早めに行ける様にしておく」

『頼んだ』


 実際にはフロドだけでも問題解決が出来る可能性はあるが、悪知恵の回る奴だとそれでも火種を作ってくれる可能性はあった。変に揉めたくない以上、カイトも行かねばならない事には変わりがない。というわけでその支度に早速取り掛かったソラとの通信を終えて、カイトは支援の為の準備に取り掛かる事にした。


「さて……そうなると飛空艇を出す必要があるか。椿、飛空艇の出発の申請書を整えておいてくれ。なるべく早く出発する」

「かしこまりました。人選については?」

「今から考える」


 もともとギルド全体として動く以上、どこかで揉め事が起きる事は勘案していた。なのでカイトもすぐに動ける様にはしていたので、予定については問題がない。が、誰を連れて行くか、という所はこれから考える事にしていた。


「にぃー! 私も行くー!」

「あ、じゃあ私もー」

「……マジで?」


 いつの間にかやってきていたらしいソレイユとクオンの申し出に、カイトは若干嫌そうな顔ではありつつも、有り難い感じが半分という感じで問いかける。

 確かにこの二人が来てくれればこれほど良い仲裁者は居ないだろう。まずクオンが出た時点でどこのギルドだろうと黙る。なにせ力こそすべてという者の多い冒険者の中でも最強の一角と言われる冒険者だ。その名はあまりにも大きかった。

 が、同時に別の問題を起こしかねないのがこの二人だ。厄介は厄介ではある。が、ここではありがたく受け入れておく事にしておいた。と、いうわけでカイトはもうこれで良いかな、と考え出した。


「こうなるともう誰かが必要となるわけじゃないんだがなー……」

「ふむ……では、余も加わるとしようかのう」

「うん? お前、話聞いてたのか?」

「はんっ、その通信機を整えたのは余じゃ。ログがこちらにも送られる様にはなっておるわ」

「知ってる、というかそんな事だろうとは理解してる」


 唐突に転移術で現れた上に口を挟んだティナに対して、カイトは特に驚きは得なかった。彼の言う通り、そのぐらい彼女ならやるだろうと知っているからだ。


「まぁ……良いか。ティナ同行、と。うん、後は適当に考えるか」


 というわけでティナの申し出を受け入れたカイトは、後の人選は適当に放り投げる事にしておく。なにせ今回はこの上にユリィも加えるつもりだ。前のタバコ密造の案件よりもやばい布陣が出来上がっていた。何があっても問題はないだろう。というわけで、カイトは椿に申請の書類を整えてもらいながら、自身も出立の用意を整える事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1352話『支援隊・出発』

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