第1348話 太陽の果実
マクダウェル領神殿都市で行われる秋の収穫祭への参加を決めていたカイト達冒険部一同と天桜学園の者達は、およそ半月後に迫っていた収穫祭に向けて大慌てで準備を行っていた。
そんな中でルーファウスの提案を受けて目玉の一つとして食材として使える魔物の部位を手に入れるべく冒険部は各地へと散る事になっていた。
その中でも大規模なキャラバンをソラに預けたカイトはティナ、ユリィの両名と共にバイクを駆って所狭しと駆け回っていた。そんな彼らは一品目となる『暴れ牛』という牛型の魔物の狩猟に成功すると、更に追加で出た調理班からの要請を受けてデザートとなり得る魔物の狩猟を行うべくレーメス伯爵領へとやってきていた。
「というわけで、どうするかね」
レーメス伯爵に仕える執事長キーエスを介してのやり取りの後。受け取った資料を見ながらカイトは少しどうするか考え始める。元々レーメス伯爵家からの支援は一切考えていなかった。なのでこれ、と見繕った魔物を狩りにきたわけであるが、せっかく伯爵が好意で彼の領内で食べられる魔物の情報を纏めた資料をくれたのだ。使わないのも勿体無い。
「目的は『木苺の魔樹』だったんだが……ふむ。ここからなら『太陽の果実』も行けそうか」
「ほう。『太陽の果実』か。そう言えばあれの果実はかなり大きめじゃな。あれの皮を使って器を作るのも面白くはあるまいか?」
「ふむ……確かにそれにシャーベットを入れるのは、面白そうだな。果実は果実で別に提供して、とすれば皮に不足も生じにくい……」
ティナの提案にカイトはそれはそれで面白そうだ、と数度頷いた。敢えていうまでもない事であるが、魔物の食材を料理するというのは冒険部でもあまり行われていない。
というより、基本的に食料はきちんと確保して旅に出させているので敢えて魔物を狩って食べるという冒険者でもあまりされない事をする事はない。やるのは普通の食材より美味を知るカイトやカナン――今回はそれもあって彼女も調理班に協力している――ら一部の熟練と言われる冒険者ぐらいだった。
「ふむ……お試しという事で『木苺の魔樹』を選んでいたんだが……ふむ。『太陽の果実』が居るのならそっちでも面白いかもしれないな……」
「あっち、癖ないんだっけ?」
「ああ。マクダウェルでも一応生息してるし、候補には入れていたが……伯爵が協力してくれるのならこっちをメインにさせてもらうのはありかもしれないな」
「悩みどころだねー」
カイトの言葉にユリィもどうするか考え始める。元々カイトが『木苺の魔樹』を考えていたのは、この魔物がランクD程度と軽く討伐出来るからだ。冒険部としての狩猟はかなり容易と考えて良い。そしてティナが述べていた様に、一匹につきそこそこの木の実が取れる。それ故に一個一個の味としてはそこまで大ぶりではなく、味の調整も容易い。お試しとしては確かに丁度良かった。
なお、カイト達がわざわざ他の領地に来た理由はマクダウェル領での『木苺の魔樹』の群生地が少し離れた所にあって、昼からならこちらの方が良いと判断したのである。今回はお試しだし、いくつも考えている。なので早めに取れる物を先に、というわけであった。
「『太陽の果実』は肉質としてはドラゴンフルーツに近いんだっけ?」
「ああ。昔の話だが南国系の果物の代わりとして、北部じゃ時々使われてたな。まぁ、今でも時々代用されるらしいが……」
「昔は飛空艇なんてなかったもんね。何度か皇都の方の家でも出てたなー」
「そういや、オレが一番初めに食べたのもこいつだった様な……」
「そだっけ?」
「聞いたのがこいつだったっけ?」
「忘れたー」
カイトは懐かしげにユリィと話し合う。あの当時だ。当然だが食料とて潤沢にあったわけではない。というわけで、食べられる魔物については頻繁に食卓に提供されていたのであった。
まぁ、そう言っても実際には今の貴族達の食卓にも魔物の肉は提供されている。頻度の問題という所だろう。今で言えば好事家達が居る事もあるし、生育されている肉牛や鶏達とは一味違う味を好むものは昔からある程度は存在している。
希少価値の高い魔物の食材で言えば貴族達が高値で買い取ってくれたりもするし、冒険者達に貴族がわざわざ狩猟を依頼する事も多かった。わかりやすく言えば珍味というわけだ。と、そんな二人にティナが制止を掛けた。
「ずれとるぞー……まぁ、思い出話はそれで良かろう。これについては貴族達の食卓に上がっても不思議はあるまいしな」
「それもそうだな。ウチじゃ今は滅多に提供されんが……ふむ。そこらを考えればこいつは良いかもな」
カイトは色々と鑑みた結果、当初の目的であった『木苺の魔樹』ではなく『太陽の果実』を標的とする事を決める。この理由は彼が述べた通りだ。
まずこの『太陽の果実』の生息地はマクスウェルと神殿都市からは遠いのでこの二つの住人達の口に入る事はあまりない。そして次に、こいつを使って作るのはデザートだ。ゆえにもし日本料理が口に合わなくても、このデザートは食べられるだろう。
なにせシャーベットだのアイスクリームだのは西洋料理、こちらにも似通った料理だ。それが受け入れられないとは思い難い。無難な選択といえば無難な選択だった。
「となると、明日からは進路を変えるか」
「ふむ……流石に他領土となると余も把握しとらんな。どこじゃ?」
「ここから若干北東だな。この草原に生息しているらしい」
「ふむ……若干戻る感じになるかのう」
「じゃあ、帰り道はここをこう……森を迂回した方が早くない?」
三人は伯爵家が提供してくれた資料と地図を見ながら、明日の予定についてを考える。当初の目的と違う行動をする以上、ここからは急いで色々と考える必要があった。そうして、三人はそれを考えてから床に就く事にするのだった。
というわけで、明けて翌日。カイト達は当初の目的とは違い若干北東を目指してバイクを走らせていた。
「『太陽の果実』となると、流石に余の出番は無いかのう」
「まぁ、保存にゃお前の力を借りるがな」
「その必要も無いといえば無い様な気もせんでもない」
「それは言わないお約束」
それはそうだと言えば、それはそうだとしか言えない。なにせ冷凍する程度の魔術はこの場の三人の誰もが使える。なので冷凍保存の事を考えてもティナの力が必要とはなり得ない。
が、そんな事を言ってしまえばそもそも狩りをするのにこの三人が出る必要があるのか、というとその時点で不必要だ。というわけで、カイトは笑ってそれを流す。
と、そんな馬鹿な話をしながらおよそ数十分。数度立ち止まって地図を確認していたので街から数十キロという所だ。元々草原を走っていたカイト達であったが、気付けばかなり深い草が生い茂る一帯に入り込んでいた。
「ふむ……カイト。ちょいと止めよ」
「あんで?」
「フロート型に変更して、タイヤに草が絡まらない様にしておくべきじゃろう。手入れが面倒じゃし、魔物が触手を張っている可能性もある。踏んづけて勘付かれても面倒じゃ。あまり草原を荒らしたくもないしのう」
「たしかにな。わかった。じゃあ、一旦どこかで……」
「カイト、2キロぐらい先にちょっと草の背が低い所があるよ」
「お、あそこなら良いか」
ユリィの促し――魔術で周囲の警戒をしていた――を受けたカイトは彼女の指し示した草木のあまり生い茂っていない場所を見繕うと、そこへ向けてバイクを減速させる。そうして止まった所で一度三人はバイクを降りて、ティナが早速と作業に取り掛かった。
「ふむ……うむ。ここをこうして、こうして……」
「なるほど。そこが取れる様になってんのか……中のベッドルームとかはどうなるんだ?」
「それは保管される。敢えて言えばここは外壁じゃ。ゆえにフロートの翼の部分とは関係がない」
「サイドカー用、って所か」
「そんな所じゃのう」
作業をしながらなのでティナはこちらを向かないものの、カイトの指摘に頷いた。どうやら作業そのものはそこまで時間が必要なわけではないらしい。二十分程でフロート型へと早変わりしていた。なお、この形になると乗れる人数は二人になる。無理をしても三人だ。
といってもこのバイクは元々カイトが使う事を考えているので、それで問題がない。ベッドルームの三人目は往々にしてユリィだからだ。そして彼女はカイトのフードの中でも問題がないし、肩の上も可能だ。別にシートは必要がなかった。と、そんな彼女であるが、ティナの作業中は上空へ飛んで周囲を観察してくれていた。
「カイトー。南西三キロの所に花畑があるよー」
「ってことは、そこが群生地か」
「というかみっけた。十匹ぐらいは居そうかな」
「十分か」
まぁ、『太陽の果実』というぐらいなのだ。その見た目はかなり大きいだろうという事が予想された。そして事実、大きかった。
「良し。ティナ、作業は?」
「うむ。丁度終わった所じゃ。行けるぞ」
「おっしゃ……じゃあ、行くか」
カイトはユリィを肩に、ティナに後ろに乗る様に促すと二人が乗ったのを確認して再びバイクを走らせる。が、そうして走らせるとどこかカイトが物寂しげだった。
「……振動、あんまないな。元々静かなのは静かだったが」
「フロートじゃからな」
「うーん……ちょっと物足りない。が、これはこれで楽しいから良いか」
結局走れれば良いらしい。カイトは楽しげだった。というわけでそんな彼が走らせるフロート型のバイクが走ること、数分。ユリィが発見した花畑が見えてきた。
「あっちに居たよー」
「ああ、見えてる……擬態はしてるんだが、所詮ランクはDか」
カイトは見えてきた『太陽の果実』を見ながら、僅かに牙を剥く。『太陽の果実』の見た目は大雑把にはヒマワリと似ていた。
背丈としてはヒマワリ程で、ただヒマワリの様に花の中に無数の種は無い。中にあるのは今回のカイト達のお目当てである『太陽の果実』の黄色い果実だ。更には花びらとしても黄色くなく、複数枚の大きめの赤い花びらだった。
「どうする?」
「ティナ。バイクの運転は任せた」
「む? 何をするかわからんが、まぁ、良かろう」
カイトの要請を受けたティナが大人の姿に戻る。流石にこの大型と中型の丁度中間程度の大きさのバイクをあの体躯で操るのは無理がある。というわけでそれを背中で感じた――主に胸で――カイトは操縦桿から手を離すと、そのままバイクから飛び降りた。
すると、どうなるか。当然だが物理現象に支配されている彼の身体は慣性の法則に従って物凄い勢いで飛ばされていく事になるだろう。
(群れがあそこだから……大体、あの辺りで大丈夫かな)
慣性の法則でそのまま吹き飛ばされるカイトは空中で器用に姿勢を制御すると、加速した思考で自分が着地すべき場所を見定めて、そこに居た一体を切り飛ばす。が、彼はそこから動こうとはしなかった。
「……」
来るか。カイトは僅かな笑みを見せる。そして、彼の思惑通り周囲の『太陽の果実』達が一斉に蔦の様な触手を飛ばしてきた。一斉に締め上げるつもりなのだろう。
カイトが着地したのは、『太陽の果実』の群れのど真ん中。すべての『太陽の果実』が己へと蔦を伸ばせるだろう場所だった。そうして猛スピードで飛来した蔦によって、カイトが雁字搦めに拘束される。が、それがカイトの目論見だった。
「はい、終わり」
雁字搦めに拘束された筈のカイトであるが、その次の瞬間には『太陽の果実』の蔦の拘束から解放される。それに、ティナが感心した様に頷いた。
「なるほど。考えおったな……植物の導管を通る内部の水分を凍らせたか。中学理科の範疇じゃが……こちらの冒険者達では思いつくまいな。いや、昔の余でも思いつかんかったかもしれん」
「導管?」
「うむ。植物が根っこから吸い上げた水を運ぶ為の管という所じゃな。そして栄養を運ぶ管を師管という。植物系の魔物も基本は根から栄養や水分を吸収する。そこは変わらぬ。であれば、この二つも必然として存在しておろう。カイトは拘束されたと同時に導管に向けて氷属性の魔術を展開。すべての『太陽の果実』を内部から凍りつかせたというわけじゃ」
やはりエネフィアに居たからか中学理科の範疇でさえわからなかったらしいユリィに向けて、ティナがカイトがした事を説明する。やはりどうしても広範囲に攻撃しようとすると周囲の自然環境にも影響が出る。それを考えた場合、こうするのが一番周囲への被害を抑えられるらしい。こうして、カイト達は軽く『太陽の果実』を中から凍りつかせて、果実の収穫を行う事にするのだった。
お読み頂きありがとうございました。
次回予告:第1349話『試食会』




