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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第67章 神話の終わりと始まり編

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第1347話 次の食材を探して

 ソラ達が『エンテシア砦』にたどり着いたその翌日。カイトは昼を過ぎた頃から再び行動を開始していた。今度ももちろん、ティナとユリィが一緒だった。


「ということで、次はデザートが欲しい、だそうだ」

「デザート……完全に忘れておったのう」

「いやまったく」


 ティナのなるほど、という言葉を聞いてカイトも笑って頷いた。その笑いにどこか苦笑が滲んでいたのは、やはりど忘れしていたからだろう。今までメインとなる食材や調理を考えていたわけであるが、これは敢えて言えばメインディッシュ。確かに最も重要な事だ。

 そしてその他の前菜やお通しなどについては特に問題にはならない。メインで奇を衒った以上はここで奇を衒う必要はないからだ。なのでここに悩みを見せる必要はなかった。

 そこまでは良い。が、最後のデザートを考えていなかったわけであった。そこに気付いた睦月がカイトへと頼んで、というわけで昼からの出立となったわけであった。


「まぁ、ここまで奇を衒った以上なにか奇を衒う必要もないが……コース料理というわけでもないからな。デザートにもいくつかの種類が欲しいらしい」

「それはそうじゃのう……ふむ。で、こっちにも一品魔物の料理が欲しいと」

「言い方言い方……というわけで、昨日の今日で魔物の果物を取りに行ってみようってわけだ」


 カイトはバイクのハンドルを握りながら、今回の目的地を告げる。というわけで、カイトの目的は植物系の魔物の果実。それを使ったシャーベットやジェラートを作ってみようというわけだ。果物の形状と収穫数次第ではそれをそのまま容器として使う事も考えに入れていた。

 なお、当然だがこちらもやはり滅多な事で人を襲わない魔物を選んでいる。その調査をしたりしているとかなり時間が必要だったので、今回は緊急事態という事でユニオンから情報を買った。


「で、此度のターゲットはどやつじゃ」

「今回は通称、『木苺の木(ベリー・トレント)』だ」

「ふむ……まぁ、手始めとしては良い所じゃな。果実一つひとつは小ぶりじゃが、一匹からそこそこの量が取れる。若干の酸味が特徴的な果実じゃのう」

「というわけ。とりあえず一つ手頃なのを手に入れて、というわけだな」


 バイクを走らせるカイトはティナの言葉に同意すると、一気に加速させる。今度も目指すところは草原だが、先とは違いもっと草深い地帯だ。方角としては西北西。マクダウェル領のお隣、レーメス伯爵領だった。土地柄としてそちらの方が近かったらしい。そしてカイトからの申し出だ。伯爵側も即座に許可を出してくれた。


「さてと……そういえば、ティナ」

「なんじゃ」

「このバイクの限界高度はどんなもんだ?」

「森越えか?」

「さすが魔王様だな」


 自らの思考の先読みを行ったティナにカイトが賞賛を述べる。やはりバイクでは森は難所となる。飛び越えられるのなら一気に飛び越えてしまおうという判断だ。


「さすがにそれは無理じゃ。費用対効果が見合わんし、十分な加速と傾斜が必要。詳しい理論は省いたが、このバイクのフロートは大地との斥力を利用しておる」

「飛翔機じゃなかったのか?」

「厳密には、違う。が、結果が同じであれば一般には同じと断じて良かろう。勿論、この場合には結果も厳密には違うがの」


 斥力。それはどんな物にもある反発する力だ。物理学で厳密に物を見れば、どんな物も斥力で反発し合っている。なのですごく厳密には、誰も何も触れられない。触れている感覚というのは斥力の反発を感じている、というところだ。

 とはいえ、普通に考えて分かるように人は物を持つ事ができる。他人に触れられる。斥力なぞ有っても無いが如くだ。ティナはそれを意図的に増幅する事でこのバイクを浮かせていたのであった。


「斥力、ねぇ……靴に付けて大ジャンプとか出来ないのか?」

「バネよりは現実的じゃのう」

「いや、どっちもどっちだろ。斥力を操るのは完全にSFの領域だ」

「それでも、反発力での大跳躍よりはまだ現実的よ。魔術込み込みを現実的というのはどうか、と余も思うがのう」


 カイトの指摘にティナが大いに楽しげに笑う。と、そんな会話の最中にも件の森は近付いていた。


「カイト、森見えたよ。そろそろ速度落とさないと」

「っと……だな」


 ユリィの助言に森が近い事に気付いたカイトは踏み込んでいたアクセルを緩める。実際にはまだ数キロ先だが、時速数百キロで移動している。一分で十分だろう。


「さてと……少しゆっくり行くか」


 さすがに障害物だらけの森で加速するのはカイトとて避ける。そうして、徐行運転程度の速度まで速度を落とした一同はのんびりと移動をして行く事にするのだった。




 さて、そんな森を抜けてしばらく。再度加速したカイト達はそこそこ大きめの街に到着していた。今回は目的が目的だ。わざわざ『レーメス』まで行く必要は無かった。


「へー……随分と活気が戻っているな」

「ふむ……悪くない品揃えじゃ。数ヶ月前には見えんかったのう」


 周囲を見回して町の活気を観察するカイトに対して、ティナは店の品揃えを観察していた。平均的な品揃えはその町がどれだけ他の領地から物資を輸入出来るかに左右される。盗賊や魔物が多く道中が危険なら品揃えは悪くなるのは、道理だろう。品物が多いというのはそれだけ街道が安全だという事であった。


「治安改善はかなり進んだっぽいねー。前にはちらほら居たゴロツキ共が殆ど居ない」

「街の統治機構も大幅に変更された、と見て良いだろうな。よくやったもんだ」


 レーメス伯爵がどれだけ苦労しているのかは、カイトも為政者だからこそよくわかった。勿論、それは彼の失態が原因だ。それについては反論は出来ない。それでも、彼の努力については認めるべきだろう。失態を取り戻そうとしている者を悪し様に言う者は居まい。


「さて……どうするかね」

「取り敢えずユニオンに顔を出して、情報買う?」

「それが基本か」


 カイトはユリィの提案に頷くと、街の案内板を見ながらどこを目指すかべきか把握する事にする。別に情報屋だけが情報を売買していない。魔物の生息地の情報ならユニオンの方が詳しい事も多かった。と、そんな彼らに声が掛けられた。


「カイト殿」

「これは……確か伯爵閣下の所の執事長殿? 確かお名前は……キーエス殿でしたか」

「お久しぶりでございます」


 カイトの確認にキーエスが腰を折る。まぁ、ここはそこそこ大規模な都市で、この様子であれば彼ら伯爵家の従者や高位軍人達もせわしなく動いている事だろう。ここに彼が居ても不思議はなかった。が、そういうわけではなかったらしい。


「お仕事ですか?」

「伯爵閣下より出迎えを命ぜられ、こちらに」

「ふむ? なにかご用事でも?」


 出迎え。そしてここに居るのは自分。声を掛けたタイミングや、ここに居て疑問に思っている様子の無い態度。であれば、自ずと誰の出迎えかは理解出来る。それ故のカイトの問いかけに、キーエスは場所を移す事を進言する。


「そうとも言えますし、そうとも言えません……ここは些か耳目に溢れますし、人通りも多い。邪魔になりますので、場所を変えさせて頂けますか?」

「構いません。どうせ今日はこちらで一泊する予定でしたので……」

「ありがとうございます」


 この状況で偽られている可能性は見受けられなかった為、カイトはキーエスの申し出に応ずる事にする。何よりユリィもティナも彼が嘘を言っている様子が無い事を確認していた。それなら、下手に拒絶するより受け入れておいた方が後々に得だと判断したのであった。そうして、カイト達は街の高級料亭の一つに通された。そうして軽い飲み物を飲んだ後、カイトは早速と切り出した。


「それで……どうされました?」

「はい……伯爵様より公爵閣下のお手伝いをするように命ぜられまして。僭越ながら、情報をお持ちさせていただきました」

「ほぅ……」


 カイトはキーエスが己の正体を見抜いていた事を受けて、僅かに眉を上げる。彼の言葉には一切の迷いがなく、はっきりと断言していた。であればつまり、レーメス伯爵はカイトがマクダウェル公カイトであると把握していたという事だ。


「どうやって気づきました?」

「伯爵様が閣下とお会いになられた際、そうだろうと」

「……あなた達の我々への気遣いに、感謝を。伯爵殿にも感謝するとお伝え下さい」


 カイトはキーエスに対して頭を下げる。今の今まで、カイトは伯爵が正体に勘付いた事を知らなかった。それはつまり、正体を知っているのが本当にごく限られた者達だけに限られるという事だ。そしてそのごく限られた者達でさえ、つぶやく事さえしなかったということでもある。

 そして真実、たとえ悪党であった頃でも皇国への忠誠心は失っていなかったレーメス伯爵だ。貴族として目覚めた以上、カイトの正体を知ったとて皇国に不利益と判断して腹心達にしか詳細を明かしていなかったのだと思われる。ゆえのカイトの感謝だった。


「いえ……勿体無いお言葉。それで閣下。これが閣下にとって必要と思われる情報です。また、閣下の申請については最優先で処理するよう、伯爵様より仰せつかっております」

「かたじけない。何分今回は我々として……いえ、私が突発で思いついて、周囲を巻き込んでの事。冒険部の少年少女らや天桜の者達にも無理をさせている。少しでも良い思い出になる様、なるべく手を尽くしてやりたいのです」

「貴きお言葉。閣下の正体を知れる事は無いでしょうが、後に聞けばその思慮深さと慈悲は理解出来るでしょう」

「ありがとう」


 カイトの言葉にキーエスが称賛を述べる。それにカイトが礼を述べて、しばらくの間はそこらの打ち合わせが行われる。周囲にはかつてレーメス伯爵が迷惑を掛けた相手に詫びをしているということで通せるだろうし、カイトの側も何度かキーエスには会っている。

 そこを考えれば、ここで会っていたとて誰も不思議には思わないだろう。そうしてしばらくの会談の後、カイトはせっかく助言したという事もあってその後の進捗を問いかける事にしてみた。


「そう言えば……治安の改善はどうでしょう。この様子では見違える程に治安が改善されたと思われるのですが……実際、私としても見れているのは表の部分だけだ。隣家ですし、時のレーメス伯とは随分と懇意にさせて頂いた。過日の恩を返す意味でも、なにかお手伝い出来る事があればおっしゃってください」

「勿体無いお言葉……そうですね。治安の改善については、閣下の残された資料は非常に役に立ってくださいました。良い事ではないかもしれませんが、兵士達も報奨が出ると知るとやる気を見せ裏道への見回りも盛んに行われる様になりました」


 キーエスはカイトの申し出をありがたく受け入れると、割れ窓理論を用いたカイトの助言のその後を報告する。と、そんな彼の表情というか言葉に僅かな苦味があったことにカイトは気付いた。そしてこの苦味には二つの原因があった事にも、だ。


「そうですか……まぁ、重要なのは習慣づける事。金銭目的であっても、まずは治安改善が優先です。そして治安が改善されれば、出費としても一気に減る。そして治安が改善すれば窓ガラスが割れるのも防げる。遠からず、費用は抑えられるでしょう。そして治安が改善されれば兵士の性根も変わる。良き兵士が生まれ、と好循環が始まる。その後、無駄と論じて報奨を終わらせるのが良いでしょう。後は時が経過するのを待つだけかと」

「慧眼、御見逸れしました」


 何に苦慮しているかを見抜いた上でのカイトのアドバイスに、キーエスは若干の苦笑混じりに頭を下げる。聞きたい事を把握した上で、その答えまで述べたのだ。魔王と賢帝から教えを受けた勇者というのは伊達ではなかった、と知るには十分だった。


「いえ、こんなものは彼女や友が教えてくれた事です。それに目に見えて治安が改善している。今季……遅くとも来季の税収は随分と改善される事になるでしょう。それで少しは帳尻を合わせる事が出来るでしょうし、当家からも陛下へ若干の税の猶予を申し出てみましょう」

「ありがとうございます」


 カイトの申し出にキーエスは深々と頭を下げる。ここら、当然だがカイトとしても善意だけで申し出ているわけではない。隣家が治安が悪ければ当然カイトの所にも影響が出る。

 であれば当然、ここも治安が良い方が非常に良い。更にはここが治安が改善され経済的に豊かになれば、それはつまりマクダウェル領との交流が盛んとなってお金が回る。お金が回れば税が増えて、と統治者からすれば良いことしかないのだ。なら、一旦税の取り立てを猶予して貰って力を蓄えて貰うというのはカイト達からしても有益な判断なのであった。


「では、閣下。ご助言ありがとうございました」

「いえ……レーメス殿にも感謝していたとお伝え下さい」

「はい……では、本日はごゆっくりおやすみください」

「ありがとうございます」


 キーエスの言葉にカイトは頭を下げる。そうして、カイト達はレーメス伯爵家が用意してくれた高級ホテルの一室にて明日からの活動に備えてゆっくりと英気を養う事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1348話『太陽の果実』

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