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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第66章 エンテシアの遺産

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第1342話 裏の裏でうごめく者達

 強制的に世界の壁を越えさせられたことによって異世界の魔族達との交戦に及ぶことになっていたカイト達一同。そんな彼らの敵であった魔族達は、世界が元のあるべき姿に戻ろうとする力により強制的に元いた世界へと飛ばされることになった。


「おや……これが限度でしたか。やはり試作品は試作品。まだ完成には程遠いですか」


 そんな光景を見ながら、<<道化の死魔将(どうけのしましょう)>>は少し困ったような顔だった。元々どうなるかはわからない、未試験の代物ではあった。ゆえにこうなることもあるだろう、とは思っていたがそうなるとまたそれに対する対処も必要だろうと考えられたのである。


「はて、さて……どうしますかね。世界の修正力を甘く見ていたわけではないですが……あ、そういうわけですから、私どもはセレスティア王女殿下の件には関わりありませんよ」

「おっと……やっぱりここまで近づくと気がつくか」


 そんな道化師の背後には、カイトが立っていた。ティナはあの世界側からの呼び戻しの時点で気が付いた様子だが、カイトの方はセレーネ達が異世界の魔族だと気付いた時点でそこに道化師の介在を理解していた。


「まぁ、それはどうでも良いか。で、お前が今回使ったのは大方簡易で異世界から何かを召喚する為のもの……であれば、これを儀式としてやればなんとかなるんじゃないか? なにせオレを召喚したのだからな」

「まぁ、否定はしませんよ。なにせ貴方を呼び出そうとさえした我々だ。その程度は可能です」


 道化師はカイトの問いかけに敢えて否定はしないでおいた。セレスティア達の転移に彼らが関わっているかというのは、結局の所彼らにしかわからない。なのでカイトとしても聞いてみただけ、という趣が非常に強い。


「さて……それで?」

「ふむ?」

「おいおい……オレとお前は敵同士。それがこんな所で仲良しこよしのお話をしているんだ。そして策略であれば四人の内最高と言われるお前が、ティナとバカ皇子の二人をして同格と言われるお前が、オレののぞみを把握していないとは思わないな」


 僅かに片眉を上げた道化師に対して、カイトは笑いながら問いかける。先にカイトは背後から忍び寄って倒そうとしていたような発言であったが、実はそれは真っ赤なウソだ。

 敢えてわかる様にやっていた。カイトは道化師のやっていた暗躍を把握していたのである。だから、敢えてわかる様にしていたのであった。

 まぁ、あり大抵な言い方をすれば取引を持ちかけた、という所だろう。というわけで、カイトの言う通りその程度の話なぞ見通していた道化師は笑みを見せて問いかける。


「おや、貴方にとってはそちらの方が都合が良いのでは?」

「まぁ、悪い話じゃない……じゃないが、流石にまだ早い。今、あの陣営が帰還して表に出れば、些か有難くない話になる……それに、そうなれば否が応でもティナの身分が公表されねばならなくなる。それはひいてはオレの存在の露呈とも言える。なにせ婚約者だ。色々と付きまとう面倒事に対処する為にも、公表はしなければならないだろうさ」


 カイトは道化師の問いかけに対して、己の都合が悪い部分を並べ立てる。何より彼が危惧していたのは、己の存在を公表しなければならないことだ。

 まだ、早い。今はまだ冒険部が己の手から離れるには早すぎる。特に久秀らの中にカイトでさえ正体の読みきれない一人が居て、それが冒険部全員に狙いを定めている。この一人は明らかに冒険部の手に負える存在ではない。いくら瞬が過去世の力を手に入れ、ソラが神剣を手にしても源氏だけは強すぎるのだ。


「……良いでしょう。貴方は約束を守るお方だ。一つ、取引を交わしましょう」

「オーライ……こっちはお前を見逃す」

「こちらは、あの遺跡の中にある情報を貴方にお教えしましょう」


 カイトの望みを道化師が述べる。カイトが何を一番危惧していたかというと、ティナの記憶が目覚めることだ。しかもそれに触発されて地球でも幾つもの事態が動きかねない。

 それを避ける為にも、ティナの記憶に関係がある内容があるかどうかを知っておく必要があった。だが流石にあの遺跡の中を手探りで目的の情報だけを探し当てるのは無理がある。取引で聞いておくのは、十分に選択肢に入れられた。


「成立だ……さて、じゃあ、教えてくれ」

「ええ……答えは、黒。どうやらユスティーツィア殿の代まではきちんと生きていた様子ですよ」

「やはりか」


 カイトは道化師の言葉が嘘ではないだろう、と信じることにした。そもそも彼らとしてもティナの記憶の封印が解けることは避けたい出来事だ。であれば、カイトに協力した所で不思議はない。


「と言っても、どうやらそのユスティーツィア殿が出奔した折り、完全に封鎖した様です。が……そうですね。封印の中は確認されましたか?」

「いや、まだだ。が……その様子だとお前らは中を見たことがあるらしいな」

「なにせマルス帝国時代にはすでに生きていましたので。ユスティーナ殿も研究の対象でしたよ」


 特に隠す意味も無いのか、道化師はあっけらかんと自分がマルス帝国時代から暗躍していたことを明かす。とはいえ、これに不思議はない。そもそもソラ達の遠征の際に久秀が来た時、マルス帝国時代より更に前。先史文明時代の遺産を持っていたのだ。そしてあの保存状態だ。確実にマルス帝国の時代には回収されていた筈だろうし、であればマルス帝国時代にも生きていて何らかの目的の為に回収したのだと考えた方が早かった。


「さよか……で? 封印の先に何がある」

「いえ、別に。特に我々に重要な事はありませんよ。敢えて言えばマルス帝国の歴代帝王の功罪、内乱の事等が記されている歴史的な価値が高い資料程度です。おそらくユスティーナ殿であれば、おおよその中身の推測は立てているのでは?」

「ああ。それはあいつも推測していた。だがそれ以外にもあるから、お前はここに居るんだろう?」

「ええ……そうですね。さて、ではあまりのんびりとお話するのもおかしな話だ。単刀直入に言いましょう。ユスティーツィア殿の手記もあそこに残されています」

「手記が? だが、それがどうしたってんだ」


 特に不思議なことはないだろう。エンテシア家の歴代トップがあそこに資料を残していたのだ。そして手記とて十分に歴史的な価値のある資料と言える。史家としてそこに残していても不思議はない。なのでここで疑問だったのは、ここでその話を出す理由だ。


「イクスフォス殿との出会いの時点までは、手記に書かれている筈です」

「何故そんなことまで知ってるんだ」

「いえ、普通にマルス帝国の上層部に潜伏してましたので」

「何してたんだよ……」


 やっているだろうな、とは思いつつもやっていた道化師にカイトはため息を吐く。相変わらず何が思惑で動いているかわからない奴だった。


「何時も通り暗躍ですよ」

「わーっとるわ……で? その手記がどうした?」

「はい……これはその当時風のうわさで聞いた話なのですが、どうやらユスティーツィア殿はかねてより子供の名前をユスティーナとすることを決めていたそうです。少々、それをお調べすべく暗躍していた次第ですよ」

「ふむ……」


 カイトはイクスフォスより聞いていたユスティーツィアの性格から、それがあり得ると理解する。というのも、娘を見ればわかろうものだ。ティナがどこかロマンチストである様に、母のユスティーツィアもまたどこかロマンチストだったらしい。

 例えばティナに関係ある話だと、子供の名前等を考える際にイクスフォスよりはるかに意見を言ったのは彼女だったそうだ。まぁ、そういうわけなので本名はユスティーツィアが、幼名の名付け親をイクスフォスが決めることで決着したらしい。これをカイトはイクスフォスよりのろけ話として聞いていた。


「ティナの名は一族の名前の法則に則った上、という所か」

「はい。おそらくそこらは考えていると思われます……であれば、わかりますね?」


 カイトに対して、道化師は第一の指針を示す。ティナは自身も言っていたが、名前は親から与えられた唯一のものだと考えている。そこから、自身がエンテシアの一族であることを把握する可能性は高かった。この回収が第一目標だろう。

 しかもこれが調査隊に見つかればティナが調査隊にイクスフォスの子であるとバレる可能性がある。それは皇帝レオンハルトとしても困るだろう。早急かつ、密かに回収はせねばならなかった。


「さて……そうなると気になるのはもう一つか」

「ユスティーツィア殿が戦後にここに来なかったか、ですか?」

「それだ」

「はっきりとした所は何も。私がエンテシア皇国に潜り込めたのは、当時の英雄達が引退した頃です。なので詳しいことは知りませんが……ですが、少なくともエンテシア家が無くなろうと彼女は学者としての本質は失われていないことはわかります。ゆえにライン帝の所までしっかりと書き記したことでしょう……そしておそらく、ユスティーナ殿のことまで」

「……」


 だろうな。カイトは伝え聞く限りでのユスティーツィアの性質から、彼女がこの遺跡に密かに――イクスフォスの手を借りてだろうが――入っていただろうことは想像に難くない。改修などはしなかったが、使った事は目に見えていた。


「……探すべきは手記と彼女が記しただろう歴史書の内、マルス帝国崩壊後からか」

「おそらく。まず間違いなく手記は探し出すべきでしょう……ああ、そうだ。確か……」


 カイトの総括に道化師もまた頷くと、何かを探す様に異空間の中に手を突っ込んだ。そうしてしばらく何かを探す素振りを見せると、一つのタグを取り出した。


「あった。ユスティーツィア殿がまだ帝都……旧帝都の中央研究所に勤めていた時代の研究者としての認識票です。これを媒体にして探せば良いでしょう」

「……お前ら、本当になんでも持ってるな……」


 こんなものまで持っているのか。カイトは思わず呆れ返るしかなかった。とはいえ、それなら有難く使わせて貰うだけだ。


「いえ、これは貴方達に元々差し上げるつもりでしたよ。旧帝都にある中央研究所。そこに行く際、何か小道具は必要でしょう?」

「……まだ有効なのか?」

「有効なままにしましたので。いえ、正確には有効にした、という所ですかね」

「……」


 どうやら、マルス帝国の崩壊時にも何かを考えて暗躍していたのだろう。よく考えればイクスフォスが捉えられてアクアとスカーレットの二体を強奪した際、イクスフォスは昏睡状態にあった筈なのに何故か目覚めている。彼は友人達がどうにかしてくれたのだと語っていたが、もしかしたら道化師がその手引きをした可能性は十分に有りえた。


「……良いだろう。貰っておいてやる」

「ありがとうございます」


 どうにせよここで探す為にも、そして教国にある中央研究所で調査する為にも何かの手がかりは欲しかった所だ。この意図が何かはわからないが、少なくとも不利益にはならない。もちろん、ここで渡すということは裏返せば、道化師達にとってもカイトの行動が不利益にならない、ということなのだろうが。


「では、私はこれにて……まさか後ろからバッサリ、なんて言わないですよね?」

「おいおい……話の途中で入れ替わったお前が良く言うぜ」


 カイトは道化師の問いかけに敢えておどけてみせる。道化師が段階を踏んで話をしていたのには、わけがある。彼は情報を小出しにすることでまだ先があることを匂わせて、カイトから確実に逃げていたのである。カイトとて全てを聞くまでは道化師を殺せない。それに取引をフイにして困るのは彼も一緒だ。なのでこの認識票は敢えて言えば、最後までおとなしく聞いていたカイトへのご褒美とも見做せた。


「ははははは。では、これにて失礼」


 道化師は恭しく一礼すると、そのまま消えていった。と、そのタイミングで、今までずっと潜んでいたユリィがカイトのロングコートのフードから顔を出した。


「良かったの?」

「しゃーない。ティナの記憶の封印が解けると、イクス達が来る。伝わるからな。今このタイミングで彼らに要らない気を使わせたくない」


 カイトは少し苦い顔で、ユリィの問いかけに答えた。これは少し前にイクスフォスその人からもたらされた情報だったのだが、どうやら彼らの活動が遂に実を結ぶ日が近いそうだ。

 今はその為に最後の調整を行っている最中で、非常に繊細な作業になっているらしい。彼曰くエネフィアで一年以内には終わるだろう、ということだ。

 が、それ故にこそカイトとしてはイクスフォス達にはこちらのことを気にせずに活動して貰いたかった。後一歩で終わるのだ。なら、完璧に終わらせてから協力が欲しい所だった。後味が悪いからだ。


「出来るのかな?」

「出来た、んだろう。そして理論的にも間違ってはいない」


 カイトは『もう一人のカイト』が蓄えた情報を閲覧しながら、それが可能だろうと推測していた。が、それ故に困難だとはわかっている。それ故の判断だった。


「……ユリィ。そこから密かにダウジングを頼む。封印の中には入れないが……どこにあるかが分かれば、先んじて回収も出来る。皇帝陛下にはこちらから報告しておく」

「あいさー」


 カイトはフードの中へとユスティーツィアの認識票を入れてユリィに補佐を頼むことにする。カイトがこれを使ってダウジングを行えば確実にティナが興味を持つ。そうしない為にも、ユリィに頼んで結果を後ろから聞く方が良かった。

 そうしてカイト達はこの数日後。ユスティエルの率いる調査隊に混じって封印の開封に立ち会って、ティナに隠れてユスティーツィアの残した手記とティナに関する情報を回収することに成功するのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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