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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第66章 エンテシアの遺産

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第1338話 古い魔族の在り方

 空震を偽って赤い宝玉で魔物の群れを生み出した<<道化の死魔将(どうけのしましょう)>>。彼は交戦を開始したカイト達を見ながら、自分の研究所から持ってきていた二つの宝玉の内、残る青い宝玉を弄んでいた。


「さてさて。準備運動はそろそろ良いでしょうか」


 戦闘の開始からおよそ5分程度。軽い準備運動としては十分な領域だろう。それ故、道化師は楽しげに弄んでいた青い宝玉にゆっくりと魔力を蓄積させていく。あまり急に魔力を蓄積させても今度はカイト達に自分の介在がバレかねない。

 これは一応、あの遺跡にティナに関する何かが無いかを確認する為の行動だ。間違っても宝玉の性能を試す為の物ではない。そもそも赤い宝玉での襲撃を空震に偽装したのだってそれが理由だ。それなのに自分の介在がバレては元も子もない。


「ふむ……そう言えばこれで呼び出すとしても、どうしますかね。いえ、というよりどうなりますかね。下手に地面付近で使ってドカン、では困りますし……さて、さて……」


 青の宝玉を弄びながら、道化師はどうするか考える。どうやらこれも何かを呼び寄せる為の物らしい。とはいえ、だからといって使わない道理はない。別に赤い宝玉だけでも十分に陽動効果を得られているが、どうせなら最大の結果を得ておきたいのが人としての考え方だろう。というわけで、彼はこうすることに決めた。


「では、こうしましょう」


 道化師は大きく上を見上げて、遠投の様に大きく上へと青の宝玉を打ち上げる。そうして彼は一度、結果を見守ることにするのだった。




 さて、その一方。カイト達はというと、無数の魔物の群れとの交戦の真っ最中だった。が、やはり軍は居るわけだし、その軍は飛空艇の艦隊だ。しかも飛空艇の性能では世界最高と言われるマクダウェル家の艦隊で、しかもその中でもティナが直々に設計した特別な艦隊だ。魔物の群れだろうと平然と討伐を進めていた。


「うむ。さすがは余が開発した飛空艇の艦隊じゃ」

「対空防御は十分そうだな」


 カイトとティナは背中を合わせて、飛空艇の対空砲火を見て満足げに頷いた。飛空艇の最大の敵は飛行型の魔物だ。そして飛行型の魔物となるとやはり速度と回避力が非常に厄介だ。

 それはたとえ地球のミサイルよりも非常に強力な追尾機能がある魔弾でも変わらない。なので必然としてガトリング砲の様に低威力でも弾幕を張ることが重要になる。弾幕を張れるというのはエネフィアでも何気に重要なのであった。


「そうは言うてもよ。やはり色々と考えねばならぬ事は多い」

「そうか? あれなら十分だと思うが」

「弾幕はまぁよいじゃろ。が、やはり追尾性の面がのう」

「高望みって言っちまえばそれまでなんだろうが……いや、高望みじゃねぇか?」


 ティナの言葉にカイトは敢えてはっきりと明言しておく。望み始めれば人の欲なぞきりが無い。何処かで目処は立てるべきだろう。


「それはわかっとるよ。やはり無駄弾を撃てばその分、後に響く。確かに地球のガトリングなぞよりも遥かに排熱は考えんで良い。が、それにも限度がある。ずっとは撃てん」


 カイトの言う事も道理であったが、ティナの言う事もまた道理だった。地球のガトリング砲が連続して銃弾を発射出来るのは実はたった数秒だ。それ以上長く続けていると排熱が追いつかなくなり、砲身が焼け付いてしまう。ゲームの様に何十秒も撃てるわけではないのだ。

 それに対してエネフィアの魔導砲を活用したガトリング砲だと、連続して発射出来る速度は確かに地球のガトリング砲の半分程度となってしまうが、ミサイル並の追尾性と破壊力を持ちながら数分の連続射撃が可能となる。総合的な性能としては遥かに高いのであった。


「ま、そりゃな。が、それも費用対効果ってものがあるだろうさ。これでも魔物相手なら十分といえば十分だろう」

「ま、そりゃそうじゃがのう」


 ティナはカイトの指摘に僅かな苦笑を浮かべる。これもまた事実といえば事実だし、別にこれ以上連射力を高める必要もほとんどない。後は製作者の意地という所に過ぎないのだ。と、そんな二人の見ている前で、飛空艇に対して明らかに魔物の物とは違う攻撃が迸った。


「「何!?」」


 唐突な攻撃に二人が思わず目を見開いた。幸いなことにこの不意打ちは咄嗟に防御に出た二葉によって防がれていたが、もし万が一直撃していればティナの作った飛空艇だろうと一撃で轟沈していた可能性がある一撃だった。相当な実力者の一撃。それを察するには十分だった。そしてその襲撃者は特に隠れるでもなく、魔物の群れの中に平然と浮かんでいた。


「ふむ……中々にやるか。飛空艇の艦隊なぞ見るのは初めてだが……シンフォニアの軍か? 練度が高いな……」


 浮かんでいたのは、敢えて言えば魔族としか言い得ない男性だ。物語に語られる悪魔に似た羽根に、人間とは少し違う浅黒い肌。所々に生えた角。肌に刻まれた奇妙な紋章。魔族の魔族としての本来の姿を晒した状態だった。それでカイト達にも種族はわからないものの、魔族であることはわかった。


「魔族……? 何故、魔族が公爵軍に攻撃する!」


 そんな魔族の男に、ティナが声を荒げる。ここはマクダウェル領。そしてここから北には魔族領がある。確かにここに魔族が居ても不思議はない。が、そこを治める者は言うまでもなく彼女の四天王たるクラウディアだ。まかり間違っても攻撃されることはない。

 そして彼女の統治より魔族の大半が平和を好む様になっている。この様に無闇矢鱈に攻撃を仕掛けるような者なぞ、敢えて言えば<<死魔将(しましょう)>>達に属する者達しか居なかった。


「うん?……貴様は……」


 そんなティナに対して、魔族の男が気が付いて僅かに目を細める。そうして、彼は一瞬でティナの前に躍り出た。


「貴様……」

「っ!」


 転移術。それを以って彼はティナの前に移動して、彼女の姿をじっくりと観察する。そうして、彼ははっきりと明言した。


「貴様、魔女か。魔族が何故このような場で人間と仲良しこよしをしている」

「っ……おいおい、問答無用かよ」


 ティナが魔族であることを見抜くと同時。魔族の男は問答無用でその背を守る様に戦っていたカイトへと剣を抜き放って攻撃を仕掛ける。が、この程度の不意打ちでどうにかなるカイトではなかった。

 そうして一撃を切り払われた魔族の男は距離を取ると同時に更にティナを観察して、彼女の首に隷属の魔術が仕掛けられていることに気が付いた。やはり相当な実力者らしい。


「……ふむ。貴様……隷属されているのか」

「む……ま、まぁの。恥ずかしい話じゃが、ちょいと……って、それはどうでも良い。何故魔族が我らに攻撃を仕掛ける」


 一瞬気勢を削がれたティナであるが、重ねて攻撃の意図を問う。何故攻撃されているのか彼女には全くわからない。それどころか、カイトにも誰にもわからないのだ。しかも相手は魔族。いくらカイト達と言えど、事情もわからずに殺したくはなかった。特にカイトはティナの手前うかつに殺す事は出来ない。


「何故……? 何故とはおかしなことを問う。これは魔王様の命。我ら魔族は全ての人を殺す。ただ、それだけだ」


 ティナの問いかけに対して魔族の男は彼にとってそれが当たり前だからこそ、当たり前の様にはっきりと明言する。が、それにティナは一気に激怒した。


「……お主。今の言葉冗談なら、そう言え。今ならば赦そう」

「む?」


 ティナから発せられる圧力の変化に、魔族の男が思わず目を見開いた。圧倒的。そう言えるだけの力が迸っていたのだ。それに対して、ティナははっきりと明言する。


「言うに事欠いて魔王の命じゃと? 余の前でのその言葉……万死に値する」


 他ならぬ自分の最も信頼する部下が攻撃を命じた。それが決してあり得ないことはティナが誰よりも知っていた。だからこそ、その名を騙ったことが彼女には許せることではなかった。


「何を言っている。魔王様の命は人類の根絶。それが我ら」


 もはや聞く必要もない。相変わらずの戯言を抜かした魔族の男に対して、ティナは怒髪天を衝く様子で問答無用で攻撃を仕掛けた。どうやら、クラウディアが侮辱されたことで若干正常な判断が出来なくなっていたらしい。珍しい姿ではあった。


「ぐぅ!」

「塵一つ残しはせん。余の愛する者の名を騙ったこと……それが余の前であったことが不運であっただけじゃ」


 吹き飛ばされていく魔族の男に対して、ティナは上空に浮かび上がって無数の魔術を展開する。本来の姿に戻る事さえ忘れるほどに激怒していた。

 が、それに魔族の男もどうやらティナが怒ったらしいことはわかったようだ。そして彼からしてみれば人類と共闘している裏切り者でもある。なので一度敵と見定めると、容赦はしなかった。


「貴様が何を言っているかはわからん。わからんが……特に気にすることもあるまいよ」

「うむ。気にすることではない。ただ、お主は余の逆鱗に触れた。それで十分じゃ」

「っ!」


 魔族の男が背後から響いた声に目を見開く。転移術でティナの背後を取った筈なのに、ティナはその更に背後を取っていたのである。

 確かにこの魔族の男の実力は非常に高かった。それは認められる。おそらく冒険部が束になった所で敵わない程の実力だろう。が、それだからなんなのだ。ティナはそれを遥かに上回る。特に激怒している今の彼女ならば、こうなっても当然だった。


「やれやれ……隠蔽が大変なんだがね」


 そんなティナを見ながら、カイトはただ肩を竦める。当たり前だが転移術だ。ルーファウスやその他ティナの正体を知らない者達に見られれば大問題である。なので珍しく彼がティナのフォローに回るということが起きていた。


「まぁ、仕方がないか。まったく……だからお前は慕われるんだよ」


 とはいえ、そんなカイトは少し楽しげではあった。これは、仕方がないことだったのだろう。あの大陸間会議でティナは自らの義弟がこのエネフィアの歴史上最大の汚名を着せられたことを知った。

 それ故、今の彼女にはクラウディア達への汚名となり得る侮辱は逆鱗にも等しくなってしまっていたのである。我を忘れても仕方がなかった。と、そんなティナの隠蔽を行いながら、カイトは背後に潜むもう一人の男へと問いかける。


「さて……それで? あんたはオレとやるのかい?」

「何時、気付いた?」

「ずっとさ。最初からオレを見ている影があった……お前、あいつ以上だな」


 男の問いかけに、カイトは笑いながらはっきりと明言する。ティナと戦う魔族の男が直情型だとするのなら、この魔族の男は非常に冷静かつ冷酷だった。

 ティナに対して同朋が勝てないことを悟ると、即座に彼を囮にしてカイトを狙うことにしたのである。しかもカイトを狙った理由も非常に簡単だ。彼がティナ以上であり、真っ向勝負では喩え逆立ちしても勝てないと本能的に理解したからだ。練度が段違いだった。


「魔王軍第3方面軍師団長ワグナス……ここがどこかもわからぬが、魔王様の命により人への敵対行動を開始する」

「そうか……はっはははははは!」


 ワグナス。そう名乗った魔族の男に対して、カイトはただ大きく笑い声を上げる。もうこれで十分、彼は敵の正体を理解出来た。


「舐められたもんだなぁ、おい。師団長程度が、このオレに戦いを挑むとはな」

「……」


 真っ向勝負ならカイトには勝てない。それはワグナスもわかっている。だから、この男もこの言葉には一切の激高はしない。道理であり当然だからだ。

 とはいえ、覇気を漲らせたカイトはそのまま戦いに入ることはしなかった。何故か。役者が違うからだ。残念ながら、この敵はカイトが戦うべき相手では無い様子だった。


「が……残念ながら、オレがお前の相手ではないようだな。ご指名だぜ?」

「……この気配。覚えがある。確か、名は……イミナか」

「……ワグナス。貴様まで……」


 ワグナスの更に背後には、今まで見たこともない程の闘気を纏うイミナの姿があった。更にその背後にはリオが大鎧を脱いだ状態で立っていて、その後ろには彼女らが語った二本の旗が立っている。そうしてカイトが己を攻撃しないのを理解したワグナスはイミナへと振り向いた。


「消えた、と言われていた貴様らが何故ここに」

「……貴様のことだ。おおよそ、何が起きているかはわかっているんだろう?」

「……やはり、か。空気が違う」


 イミナの問いにワグナスは何かを理解した様に呟いた。それで、カイトもはっきりとした確信を得た。


「なるほどなるほど……そういうことね」


 カイトは楽しげに、やはりと頷いた。元々わかっていたことではある。が、そうなることは想定していなかったし、何故こんなことが起きたのかと気にもなっている。が、事実と現実はしっかりと見ておくべきだった。


「さて……一応、聞いておこう。お前らは別世界の住人だな?」

「「!?」」

「……イミナ……貴方まで驚くことですか……」


 カイトの問いかけに驚いた様子のワグナスとイミナに、リオが呆れ返る。ワグナスはまぁ、仕方がない。今来たばかりだ。が、イミナはカイトの頭脳はよく知っているはずだ。

 であれば、ここまであからさまなヒントがあれば答えにたどり着けるだろうというのはわかった話だった。それに、カイトははっきりと明言する。


「だーろうね。この世界の魔族は温厚で、まず公爵軍に攻撃なんてしない。それが初手で問答無用ならそれはこの世界を混沌に叩き込むあいつらの手はずか……それこそ別世界の住人だけだ。そしてここはマクダウェル領。魔王クラウディアが何があっても手出しは厳禁としていて、こことの国境は彼女の直属の部下が見張っている。まず間違いなく、古来の魔族が密かに来て攻撃なんぞ出来るはずもない」

「「「……」」」


 ワグナスを含め、異世界の住人達はカイトの見立てに対して無言を貫く。そしてこれが、正解だった。あまりにあり得ない。であれば、前提を消せば良い。

 そしてそれが可能なだけのヒントはリオとイミナがそもそもで与えてくれていた。アルの過去世。あれはこの世界の住人ではないのだ。それを知っていることこそが、何よりも彼女らが異世界の住人であることへの答えだった。


「他所様の喧嘩に首を突っ込みたくはないんだが……いや、オレが出る幕でも無いか」


 カイトは頭を掻いて、身を翻す。戦う必要があるのなら戦うが、イミナに因縁があるのなら譲るべきだろう。


「まぁ、頑張れや。師団長……今のがどれほどかは知らんが、イミナさんなら勝てない程度でもないだろ」


 自分ほどこの魔族達を知る奴は居ない。そう思えばこそ、そしてその経歴があればこそ、カイトにとってみれば師団長がどの程度かは戦わなくても理解出来た。今の自分にとってさえ雑魚に過ぎない、と。なら、見たい。それだけだ。


「さて……見せてもらおうか。オレ達の親父の血筋の今を」


 カイトは背を向けながら、小さく誰にも聞こえない様にそう呟いた。そしてそれと同時に、イミナとワグナスの戦いは始まったのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1339話『第三の異世界』

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