第1333話 エンテシアの遺産2
ひょんな事から見つかったマクダウェル領内の遺跡。それはなんと、エンテシア皇国の前身でもあるマルス帝国の名家エンテシアが保有する遺跡だった。
ホタルの情報からそれを知った三ギルドの連合部隊はあまりの事の重大さに騒然となるも、遺跡が敵対行動を取らなかった事もありまずはリオ達も含めて全員で帰還する事にしていた。
「これは……どうすれば良いの?」
「とりあえずはクズハ様に連絡を取って、皇帝陛下に奏上してもらう必要があるだろう」
『それが妥当だろう』
エルーシャの問いかけにカイトが意見を述べると、それにリオも同意する様に頷いた。やはり皇室に連なる遺跡だ。これを放置は出来ないし、発見したのなら皇国の民として報告の義務があった。と、そんなカイトに対して、エルーシャが申し出た。
「それについてはそっちに頼んで良い? 流石にクズハ様に報告を、と言ってもこっちには伝手無いし」
「ああ。それが良いだろう」
今回、カイトはこの部隊の総指揮を任されている。更には立場としても良家の子女であるエルーシャよりも遥かにクズハに近い位置だ。報告する立場としては十分に可能だろうし、クズハも今回カイトが遺跡の調査に来ている事は知っているという事にされている。なので十分、内密な話を通せるだろう。
「じゃあ、オレは即座にクズハ様に連絡を入れてくる」
「遺跡はどうする?」
「今日はおそらく結論は出ないだろうし、何が向こうから言われるかわからん。とりあえずは遺跡保全を最優先に、なるべく立ち入らない様にしておこう」
「わかった。じゃあ、こっちで封鎖の手はずを整えておくわね。幸い依頼で遺跡調査はしているわけだし、そうなると封鎖の理由としては十分だし」
「ああ、頼む。大鎧殿もそちらの支援を頼む。こちらは連絡を取る事にする」
『承った』
カイトの依頼を受けて、リオがエルーシャの支援に入る。そうして彼女らに後の事を頼んだカイトは即座に飛空艇に戻って、公爵家へと連絡を入れた。と、いうわけで事情の説明を受けたクズハは盛大にため息を吐いた。
『……相変わらずと言いますか、もうさすがお兄様ですとしか……』
「あっははははは……もうまじで何がなんだかさっぱりだ。悪いがユスティエルさんにも連絡を入れてくれ……あの人はエンテシア家だ。確証が取れるだろう」
乾いた笑いを上げたカイトは即座にユスティエルへと連絡を入れる様に頼んでおく。ユスティエルはユスティーツィアの妹。つまりは同じエンテシア家だ。自分の家の家紋を知らないはずがなかった。
その彼女も流石にマルス帝国の貴族の家紋を使うわけには、と今では公的も私的にも一度もエンテシア家の家紋を掲げた事はない。故に皇国でもほとんど知られていない、というわけだ。
『かしこまりました。とりあえずではこちらに一旦お戻りで?』
「ああ。レオンハルト陛下にはオレから連絡を入れる必要があるだろう」
直接の血のつながりこそないが、エンテシア皇族の祖先の遺跡を見付けたのだ。これはリルのとは別に慶事と言える。そしてリルとは違い隠す必要もない。
大々的にこの事を民衆に報告して、事と次第に応じては皇帝レオンハルトが直々に遺跡の保全作業の視察に来る事にもなるだろう。であれば、筋としてカイトが報告する必要があった。
『はぁ……最近、皇帝陛下が我が領に来る回数が多すぎでは?』
「知らん。オレとて意図してるわけでもないし、そもそも奴らだってこんなどうでも良い事まで意図してる事でも無いだろ」
『それはそうでしょうが……とりあえず、準備は整えておきます。お着替えは?』
「流石に、しないとだめだろうな。シャワーも浴びておく。なにせ戦闘後だ。少し汚れている。支度だけは頼む」
『かしこまりました』
流石に戦闘後の姿で皇帝の前に出るのは礼儀として駄目だろう。なのでカイトはきちんと身だしなみを整えておこうと思ったのは、不思議でもなんでもないだろう。そして何より、ユスティエルもこの話には参加してもらわねばならない。そこらの支度を考えた時、十分に一時間程度は必要だった。そうして、カイトは転移術を行使して自分の家に帰還する事にするのだった。
というわけで、それからおよそ一時間後。カイトは皇帝レオンハルトへと連絡を入れていた。基本的に皇帝の側も五公爵二大公からの連絡であれば他国の使者や重要な会議でなければ取り次ぐ様にされている。なのでほとんど待たされる事もなく、皇帝レオンハルトへと繋がっていた。
「陛下。お久しぶりでございます」
『うむ。ここ最近、緊急の連絡と言えば公の様な気がしているな』
「気の所為でございます」
『ははは……まぁ、冗談はさておこう。おはよう、という時間には些か遅いが……確か公は新たに見つかったというマルス帝国の遺跡に入っていたのではなかったか』
「はい……その件について、是が非でも陛下にご報告せねばならない事態となりましたのでご報告を、と」
皇帝レオンハルトの問いかけにカイトははっきりと頷いて明言する。そうして、彼はエルーシャ達が見付けた遺跡がマルス帝国中期の物であり、さらにそれがエンテシア家の保有していた物であった事を明言する。そうして報告された内容には、思わず皇帝レオンハルトも声を荒げた。
『なんと!? エンテシア家の遺跡が見つかった!?』
「はい……おそらくユスティーツィア様とユスティエル殿が出奔なさった折り、情報がそこで途絶えたのだと。ティナの推測によれば現状では中期までは確定。最下層はまだ不明と。最上部の構造はユスティーツィア様の先代か先々代の年代に合致する可能性が非常に高い、との事です」
『ふむ……公よ。魔女族族長のユスティエル殿はなんと?』
「まだ、連絡は取れておりません。が、こちらの会合に合わせられる様にして頂いている最中です」
どうするべきか。見つかった遺跡の重要性を考えながら対処を考える皇帝レオンハルトの問いかけに、カイトはまだユスティエルが来ていない事を明言する。と、それとほぼ同時だ。通信に割り込みが入った。
「……ああ、わかった。陛下。ユスティエル殿との連絡が繋がったとの事です」
『つないでくれ』
「はっ」
カイトは通信のシステムを操る従者達に向けて一つ頷いて、リル達との通信を開く様に命ずる。そしてそれからすぐに、ユスティエルの姿がモニターに映し出された。とはいえ、その姿は何時もの老婆の姿ではなく、本来の若い姿だ。ティナは現在遺跡の保全作業を行っている為、ここには居ない。なので相手と老婆時の性格を鑑みてもこちらが良いだろう、という判断だった。
『陛下。お久しぶりでございます』
『ユスティエル殿、此度はかたじけない。少々、貴殿の知恵を借りたい』
『いえ……それで、カイト殿。エンテシア家の遺跡が見つかった、というのは?』
「はい……これが魔導炉のコンソールに表示されていました」
カイトはユスティエルに向けて、魔導炉の有った部屋で見た紋様を浮かべる。それに、ユスティエルが僅かな懐かしさを浮かべた。
『それは……確かに、我がエンテシア家の紋章です。と言っても、もうマルス帝国崩壊時から使っていない物ではありますが……その遺跡にそれがあったというのであれば、それは確かに我がエンテシアの遺跡なのでしょう』
「何かご両親からお聞きには?」
『……エンテシア家は幾つかの研究所を保有していると聞いた事があります。そして私も何度かは、かつての帝都付近にあった研究所に入った事はあります。が、ここらの詳しい事は次期当主として姉上が聞いていた事なので私も詳しい所は何も……が、一度だけ今のマクダウェル領にも秘密の施設がある、と姉が言っていた事が。時の帝王より秘密裏に作業をせよ、と言われたとの事で……』
カイトの問いかけにユスティエルは若干申し訳なさそうに首を振る。やはりここらは次期当主とそうでない者の差という所だろう。彼女が全てを知らないでも無理はない。
そしてこの様子なら、エルーシャ達が見付けた遺跡はその知らない所に該当するという所なのだろう。というわけで、そこらを理解した皇帝レオンハルトがカイトへと問いかけた。
『ふむ……公よ。その遺跡でその家紋が使われているだけという可能性は?』
「あり得ない、と。遺跡のメインシステムはティナの魔力波形を計測して、彼女がエンテシアの一族であると認証しました。当家の保有するゴーレム……ホタルもまた、ティナが本来の主として認識されている事を明言しております。おそらく、今は遺跡は彼女の管理下にある事でしょう」
皇帝レオンハルトの問いかけにカイトはティナは知り得ず自分達のみが知っている内容を語る。相変わらずこれはティナには隠されたままだ。故にティナも唐突な遺跡の戦闘行動の停止には訝しでいるものの、何が起きるかわからない事もあって遺跡には入っておらず原因の究明は出来ていない。
『ふむ……であれば、やはりエンテシア家の遺跡の可能性は非常に高いか。公よ。どの程度の状況だ?』
「遺跡の保全状況は非常に高い、と。さすがはかの名家エンテシアの遺跡としか言い得ません」
『ふむ……であれば、公よ。やはり安易に人の手が入らぬよう、十全に保存しておきたい。そしてこの事は民達に公表すべきだろう。前者の手はずについては公に任せるが、どうか』
「かしこまりました。が、当家のみならず当時を知るハイゼンベルグ家や皇都の中央研究所の研究者達からなる専門の調査団の派遣を依頼したく」
『当然だ。それについては早速こちらで取り掛からせよう』
カイトの依頼に皇帝レオンハルトは即座の行動を了承する。当たり前だがこれは確定ではない。確率は高いが、まだ確定ではないのだ。であれば確定はさせるべきだ。とはいえ、その為にも、民達に公表して軍がここらに来る事を通達する必要があった。
「では、私はこれより公爵軍に命じて周囲の封鎖の手はずを整えます。申し訳ありませんが、ユスティエル殿にはその調査隊に加わって頂きたい」
『受けましょう。調査団についてはクズハと共に組織すれば?』
「お願いします。人選についてはそちらに一任します。当家から必要と思われる人材を全て活用してください」
『ユスティエル殿。こちらも同様にお願いしたい。エンテシア家の遺跡であれば、誰よりも把握しているのはそちらだろう。後にリストは送らせる故、なるべく最善を尽くして頂きたい』
『かしこまりました』
皇帝レオンハルトの依頼にユスティエルが頭を下げる。そしてそうなれば、と皇帝レオンハルトはカイトへと更に追加の指示を出した。
『公よ。おそらくそこの遺跡に最も適性があるのはそなただろう。苦労を掛けるが、調査団が来て即座に調査に取り掛かれる様に遺跡の最深部にまで事前調査をして欲しい』
「かしこまりました。では依頼を公爵家よりの依頼から、皇国からの依頼としたいのですが」
『当然の判断だろう。こちらですぐにマクダウェル家とマクスウェル支部へ伝令を送り、依頼書の更新を行わせよう』
カイトの申し出に皇帝レオンハルトは一つ頷くと、そちらも即座に手はずを整える様に指示を送る。依頼内容の更新は冒険者ではよくあることだ。なので変に横槍が入れられない様に――入るとは思えないが万が一の為――依頼人を更に上の皇国そのものとしておこう、という判断だった。
依頼人がマクダウェル家ではなく皇国となると、流石にどの貴族だろうとギルドであろうとカイト達が調査をする事に口出しが出来ない。皇国となるとそれは即ち、この決定が皇帝レオンハルトの物であるという事だからだ。流石にこの大陸最大の国家の皇帝に喧嘩を売れる者は早々居ないだろう。
「は……では、私は本件をギルドに持ち帰り、即座に支援の体制を整える事にします」
『うむ……調査団はおそらく数日中には派遣出来るだろう。それまでで良い』
「かしこまりました」
皇帝レオンハルトの指示にカイトは頭を下げる。こうして、カイト達は単なる遺跡の事前調査から皇国の依頼による本格的な調査へと切り替える事になるのだった。
お読み頂きありがとうございました。
次回予告:第1334話『エンテシアの遺産を求めて』




