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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第66章 エンテシアの遺産

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第1332話 エンテシアの遺産

 ここで一つだけ、話が変わる。カイト達が地球から飛ばされた異世界エネフィア。その大国の一つであるエンテシア皇国。この名前は言うまでもなくエンテシア家という皇家の名だ。それそのものに不思議はない。が、一つ疑問が出るだろう。そのエンテシアという名はどこから来たのか、という所だ。

 そしてこれはもちろん、初代皇王イクスフォスの家名ではない。これはエンテシア皇国に住まう者なら常識として誰でも知っている事だ。彼は異世界人。それ故か彼の家名はどうやらこの世界では発音出来ない言語らしく、使えないのだ。

 では、誰の家名か。それは必然として第一皇妃ユスティーツィアの家名だった。ユスティーツィア・エンテシア。それが彼女のフルネームだ。それ故、彼女との結婚後イクスフォスもイクスフォス・エンテシアと名乗る事にしたのである。それ故、この国の名はエンテシア皇国というわけであった。


「ふーん……これが、そのエンテシア家の家紋ねぇ……」


 300年前の事。カイトはイクスフォスよりそのエンテシア家の家紋を見せてもらった事がある。それは必然ではあったが、エンテシア皇国の皇族達が使う紅い龍の意匠の物とは違う物だった。まず歴史を知っていてもこの両者に関わりがあるとはわからない、全く別物の家紋だった。


「そ。これがユスティの家の家紋……なんだっけ。確かエンテシア家って確か最初期からある幾つかの名家の一つらしい」

「ってことはもしかして」

「って言う話は聞いた事があった……と思う」


 カイトが想像するに至ったある事に対して、イクスフォスははっきりと明言する。と、それにグライアがため息を吐いた。


「あった、ではない。あるに決まっているだろう。そもそもエンテシア家というのはマルス帝国でも有数の名家。何故ジェイク達もユスティーツィアとの結婚が第一で良いと決めたと思っている」

「……なんかあったっけ?」

「……ジェイク……泣いて良いぞ」


 グライアは完全に忘却の彼方に消し飛んでいる様子のイクスフォスを見て、遠く青空を眺める様に呟いた。どうやら、ここらはしっかりと語られていたらしい。そうして、呆れながらグライアは大昔にした話をカイトとイクスフォスへと行う事にした。


「ユスティーツィアのエンテシア家はマルス帝国最初期の名家。これはイクスフォスが語った通りだ。そしてそれ故、エンテシア家は何人も中央研究所の所長として排出しているし、数人は帝室へと入っている。つまり、間違いなく帝室に連なる一族だ。そもそもユスティーツィアとて貴様が連れ出すまでは帝王との婚姻さえ囁かれていた女だぞ。そしてあれだけの美貌。よくお手付きにもならず済んだものだ」

「……あ、そう言えばそんな話されたっけ」


 ぽむ、とイクスフォスが手を叩く。どうやら話されて思い出したらしい。まぁ、革命家というか現ハイゼンベルグ公ジェイクの思惑としては敢えてユスティーツィアとの婚姻を大々的にする事により、マルス帝国の旧臣達を投降しやすくしたのである。

 そしてこれは正しかったらしい。マルス帝国でも名家であるエンテシア家の者が皇妃だ。自分達に恨みのある多くの国の中でもまだ、エンテシア皇国が一番自分達に対してよく扱ってくれるだろうと考えても不思議はなかった。

 他方、他の革命軍にとってもこの婚姻が革命成功の一番の立役者たるイクスフォスの意思である事は重々承知だ。政略結婚や政治的な判断で無い事は明白だ。しかも何より、両者が革命軍の最初期から支え合っている事は誰もが知っている。

 故に相手がマルス帝国の名家エンテシアの女であっても文句は言えない。内心苦々しく思っても、エンテシア皇国の勢力が大きくなるのに文句は言えなかったのである。


「そうだ……貴様、本当に覚えていなかったな」

「うん……だってあの当時ってユスティと結婚出来るってだけしか頭になかったし」

「……そうはっきりと言える貴様が余はある意味で恐ろしい」


 あはははは、と笑いながら惚気るイクスフォスに、グライアがただただ呆れた様にため息を吐いた。とはいえ、そう呆れてばかりもいられない。なので彼女は気を取り直した。


「まぁ、そういうわけで、だ。これが本来ティナが使うもうひとつの紋章。エンテシア家の紋章だ」


 グライアは再度エンテシア皇国ではなく、さりとてエンテシア皇家でもないまた別のエンテシア家の家紋をカイトへと提示する。それはウィルさえも知らない家紋だった。なのでティナの事もあるのでイクスフォスとグライアの二人が、というわけであった。


「ふーん……」


 カイトは話半分にエンテシア家の家紋を記憶に留めておく。とはいえ、知っていたから何なのだ、としかカイトは言えない。話されたのも単に話の流れという向きが強い。そうして、この知識はこの後十数年に渡って彼の記憶の奥底に留め置かれる事になった上、その間ずっと役に立つ事も無かったのだった。




 というわけで、それからエネフィアで300年。カイトとティナの主観的な時間経過としては十数年後の事だ。カイトは自分の領内に新たに見つかった遺跡に居た。そんな彼がしていたのは、動力炉の復旧作業だ。


「……良し。動力炉のセルフチェック完了。助かったな」

『うむ。やはりこれほどの技術を持つ者達が作った遺跡よ。魔導炉にも自己診断機能を搭載しておると思っておった』


 カイトの言葉にティナも喜色を浮かべて同意する。どうやらこの遺跡を作った者達はかなり有能だったらしい。万が一この遺跡が何らかの事情で放棄された場合に備えて、幾つもの対策を残してくれていたのである。遺跡の機構が比較的無事だったのも、そこらがあると見て良いだろう。


『では、カイト。取説通り、小型の魔導炉を繋げ』

「おう……じゃあ、これを接続して、と……」


 カイトは外から鹵獲してきたゴーレムの一体の小型魔導炉を遺跡に残されていた指示通りに接続する。残されていた情報の中にあったこの施設の魔導炉の復旧方法によると、どうやらここのゴーレムの魔導炉を利用して再起動が出来る様になっていたらしい。

 この魔導炉は長時間放置された場合は自動で停止してシステムを保全する様になっていた。どうやら、カイト達が見た湖底の遺跡。あれの機構を参考にしていたらしい。が、やはり完璧ではなく、再始動にはスターターの様な物が必要となってしまったらしく、それにこの遺跡のゴーレム達の小型魔導炉を利用する事にした、というわけなのだろう。もしここを復旧させようとしているのがこの遺跡の関係者なら、ここのゴーレム達は危険にならない。復旧は容易だというわけである。


「おし……起動確認。ゆっくりとだが再起動を始めた」


 カイトは緩やかな光と共に再起動を始めた魔導炉を見て一つ頷いた。これで、後は起動を待つだけだろう。と、そんなカイトに魔導炉の暴走を警戒していたエルーシャが僅かに気を緩める。


「ふぅ……もう問題なさそう?」

「そうだな。この時点で暴走していなければ問題は無いだろう……無いよな?」

『うむ。無いじゃろう。すでに安定の領域まで到達しておる。実に見事なスタートじゃ。この魔導炉を作った者の腕が察せられるのう』


 ティナは静かに、かつ莫大なエネルギーを生み出す魔導炉をカイトから送られてくる映像を見ながら感心する。どうやらこの魔導炉はかなり良い出来栄えらしい。そして彼女が絶賛する程である為か、特になんの問題も無く魔導炉は完璧に数百年前と同じ様に動き出した。


「……良し。出力も安定した……コンソール、全部起動。すごいな。まるでこの遺跡が失われてすぐに来た様な感じだ」


 映し出される幾つもの映像を見ながら、カイトは感心する様に頷いた。この遺跡は遺跡にしてはかなり良い状態が保たれていて、普通ならあるコンソールのエラー表示がほとんど見受けられなかったのだ。

 もちろん、流石に数百年も昔に放棄された遺跡なのでエラーは多い。が、それでも幾つもの遺跡に入ったカイトでさえほとんど見たことがない程の良い状態が保たれていた。


「おい、ティナ。聞いてるか?」

『……うむ、聞いとるよ』

「なんだ、来たくなったか?」

『うむ。ものすっごいそっちに直に見に行きたい』


 どうやらあまりの保存状態の良さにティナも興味津々らしい。思わず知的探究心がうずいている様子だった。と、そんな彼らなのであるが、その後色々とあった所為で一つ忘れていた事があった。

 それはこの遺跡のメインシステムが生きていて、そしてこれほどの対処をする者達が動力炉の復旧に合わせてメインシステムも自動で復旧する様にしていない筈が無かったということだ。


『……メインシステム復旧。正規の手段による復旧を確認……中断中の魔力波形照合を再開……』

「っ! まずった! 忘れてた!」


 遺跡のどこかにあるだろうスピーカーから流れるアナウンスを聞きながら、カイトは即座に立ち上がる。


「急いで撤退の用意を整えろ! オレは魔導炉を再度停止状態に持っていく! それが終わり次第、即座に撤収だ! 調査はこれで終わりで良い! 十分、目的は果たされたと見て良いだろう!」

「撤収の準備急げ! 5分以内に撤収出来る様にするわよ!」


 カイトの指示に合わせて、エルーシャが全体へと檄を飛ばす。このまま待っていればおそらく数分後、長くとも五分以内には検査が終わり、自分達は敵として判断される。そうなると帰り道は相当な妨害に合うだろうというのは、誰もが想定出来た事だった。そうして、全員が大慌てで再度撤収の用意を整え始める傍ら、ティナが即座に支援を命ずる。


『一階に留まっておる支援隊は即座に出発せよ! 道中での交戦が想定される! 油断するでないぞ! 合わせて大鎧はそこから帰還ポイントへの退路の確保に入れ! 合わせて、瞬とルーファウスの両名も所定の行動に入れ!』

『任されよう。ルーファウス殿、急げ』

『すでに準備は万端だ。何時でも行けるぞ』

『わかった。では行こう』


 ティナの指示にリオが即座に行動に入る。そしてそれに合わせて、瞬とルーファウスの二人が率いる救援部隊がそれぞれの目的地へと移動を開始した。瞬は地下への支援。ルーファウスは軽症故撤退する程ではないが、同時に怪我の治療の為に臨時の拠点に残っていた者達を守って先に外に逃がす役目である。

 それをヘッドセットを介して聞きながら、カイトは大急ぎでコンソールを叩いていた。が、その顔は苦々しい様子だった。


「っ……安全に停止させるのに十分は要るか……ホタル! 可能な限り遺跡の検査を遅らせろ! 敵と判断されるまでの時間を可能な限り伸ばせ!」

「すでに実行中です」

「おし……」


 ホタルの返答にカイトは僅かな希望を得て、再度コンソールを叩き始める。ここら悲しい所でこの作業速度について来れるのはティナやマクダウェル家の面々ぐらいだ。エルーシャ達が居る関係でユリィは大型化出来ず、故に彼とホタルの二人で停止させねばならなかった。


「マスター。本機から魔導炉の停止へ向けた安全チェックを幾つか飛ばせますが、いかがしますか?」

「やってくれ」

「了解。安全チェックを無効化します」

「良し。これで数分は早められる」


 やはりこの遺跡は安全かつなるべく現状を保つ様にされていたからだろう。幾つものチェック項目があり、それが確認出来ないと魔導炉の停止が出来ないらしい。ボタン一つで停止、というわけにはいかない様子だった。が、下手に急いで暴走すればその時こそ被害が洒落にならない。急がば回れ。どれだけ苦々しかろうとも、ゆっくりとやっていくしかなかった。

 と、それから数分。ホタルの妨害によって遺跡の検査は長引いたが、やはりそれも何時までもとはいかない。故に、遂に終わりが訪れた。


『……照合終了。対象の魔力波形確認……妨害機体に通告。敵対行動を停止されたし。本施設に敵対の意思無し』

「「「……はい?」」」


 遺跡のアナウンスから流れた反応に、全員が思わず目を瞬かせる。そんな彼らと同じくコンソールを叩く手が止まったカイトがホタルを確認すると、彼女も僅かな驚きを露わにしながらもカイトへと許可を求めた。


「マスター……この遺跡の警備システムの反応が正常に戻っています。本機らへの敵対の可能性……ほぼ皆無かと。魔導炉の停止、及び妨害行動の停止を進言します」

「何……? 何故だ?」

「……不明。提出された検査結果によれば、照合の結果、この魔力波形の持ち主は本遺跡の持ち主である可能性が高い、と」

「……はぁ?」


 ホタルからの返答にカイトは思わず顔をしかめる。もちろんだが、カイトはこの遺跡の事を知らない。そしてもちろん、ティナとて知らないだろう。彼女とて調子に乗っている以外で自分の技術を自慢する事はない。絶賛なぞまずないと断じて良いだろう。と、そんな彼の前にあったモニターにこの遺跡を統括していた者の紋章が浮かび上がっている事にアルが気づいた。


「あ、カイト。モニターにどこかの家紋が浮かび上がってるよ」

「あ、ああ……っ! これは!」


 表示された家紋を見て、カイトが目を見開いた。そしてその家紋は、マルス帝国の技術の総決算たるホタルもまた知っていた。


「……検索終了。紋章はエンテシア家の物と合致」

「エンテシア家? これは違うよ」

「いいえ。これはエンテシア皇国のエンテシア家の物ではなく、マルス帝国の名家エンテシアの物です」


 アルの否定にホタルが否定を重ねる。それに、アルや皇国出身の者達が全員理解した。


「ってことはここは……」

「まさか……」

「皇室のご先祖様の遺跡……?」

「「「えぇえええええ!」」」


 遺跡の中に絶叫が響き渡る。こうして、およそ一千年ぶりにエンテシア皇国の前身であるエンテシア家の遺跡が、日の目を見る事となるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1333話『エンテシアの遺産2』

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