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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第66章 エンテシアの遺産

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第1330話 彼らの願い

 今日は少し短めです。

 アルの中に眠る『誰か』の目覚め。それを受けた後、場はしばらくの沈黙に包まれていた。誰もが今の光景がアルの前世に関わるものなのだと直感で理解したからだ。それ故に最初に口を開いたのは、ある意味ではその雰囲気を創り出す原因となったアルその人だった。


「あれ……なんだろ。今の言葉で僕の中の何かが消えた……」

「……多分、前世の誰かだったんだと思うよ」

「今のが……?」


 やはりアルは当人だったからだろう。呆気に取られたとも言える周囲に対して、彼本人としてはよくわからないらしい。ユリィの解説にそうなんだ、と不思議な様子で驚きを露わにしていただけであった。そうしてそんなアルに、気を取り直した瞬が問いかけた。


「え、えっと……お前はどんなのだったんだ?」

「どんなの……わからない。けど、誰かを待っていた気がする」

「……勇者カイトを、です。おそらくもう一人の……」


 アルの言葉に、リオが推測の体を取りつつもそう告げる。


「……そう……なのかな。不思議な気がするけど……瞬の場合はどうだったの?」

「そんな感じだった……と思う。唐突に見知らぬ光景が出てきて……こう、なんというかよくわからない感覚があった」

「あ、僕もそんな感じかなぁ……唐突によくわからない感情に襲われて……」


 瞬の言葉にアルもまた同意する。ここらはやはりその人それぞれというべき所で、一概に同じ感覚を得るという事はないらしい。と、そうして敢えて場の雰囲気を変える為だろう。エルーシャもまた、その会話に口を挟んだ。


「へー……やっぱり英雄ルクスの子孫だとそこまで至るんだ……」

「エルちゃんはまだ?」

「え、あ、うん。私はまだ見た事ない」


 アルの問いかけにエルーシャが頷く。その一方、リオとイミナはというと先程の事を特殊な魔術を使って隠れて話し合っていた。


「……彼は……」

「この縁は……偶然なのでしょうか」

「……どう……なのでしょう。私達がここで彼らの誰かの生まれ変わりに出会った。今、この時に……」


 イミナの言葉にリオは神妙な面持ちで一度言葉を区切る。そうして、彼女は一つの推測を口にする。


「彼が誰かはわかりません……ですが彼は確かに、こう言いました。皆で、と……魂は引かれ合う。彼と共に居れば必然、まだ多くの英傑達が集結するかもしれません」

「……その中には……?」

「もしやすると、彼らもまた」


 リオは僅かな期待と僅かな無念さを滲ませる。助力を得ねばならないだろうという理性が出す結論と、その助力を借りねばならないかもしれないという恥ずかしさ。その二つが、彼女にはあった。そんな彼女に、イミナが問いかける。


「姫様がここに来たのは、もしやすると英傑達を集めろという天のお達しなのでしょうか」

「……あの大剣を媒体にして探せ、と?」

「わかりません……ですが、この出会いに意味がないとは思えません」

「……」


 イミナの言葉に、リオは沈黙を保つ。というより、何も答えかねた。意味がないわけがないとは、彼女も思う。だがそれがあり得るのか、とも思った。そして、もう一つ。思う事があった。


「……もし集めたとして……彼らは戦ってくれるのでしょうね……」

「……っ」


 リオの言葉にイミナは僅かな情けなさを滲ませる。リオの言葉には、僅かな悲しみが乗っていた。しかしそんなイミナは、強い決意を滲ませる。


「……それでも、私達は帰らねばなりません。たとえ恥を晒そうと、たとえそれがありえぬ出会いを頼みにしても……」

「……はい」


 リオの強い言葉にイミナもしっかりと同意する。そうして、彼女らは彼女らで話し合いを行っていく事にするのだった。




 その一方。ティナはというとしきりに訝しんでいた。というのも、やはり彼女だ。リオ達が不可思議な魔術を展開したのを見て即座に解析を行い、それ故にこそ違和感を得たのだ。


「……なんじゃ、この魔術は」

「どうしたの?」

「……う、うむ……今リオ達が魔術を展開したのでな。解析の為に密かにアクセスしてみたんじゃが……この魔術式の構造。エネフィアのどれとも、そして地球のどれとも合致せん」

「何か拙いの?」


 ティナの得た疑問に、ユリィは首を傾げながら問いかける。それに、ティナが首を横に振った。


「まずくはない。まずくはないが……うむ。はっきりと言おう。この魔術はこの世界の物ではない。もちろん、地球の物でもない。どちらにも属さぬ未知の魔術と言ってもよかろう」

「……つまり二人は……ううん。彼女達は異世界の存在ってわけ?」

「そう……言ってもよかろうな。もちろん、これが余も知らぬだけという可能性はあり得よう。そしてその可能性は十二分以上にあり得る」


 ティナはもちろん、と明言しておく。これはあくまでも可能性の一つだ。一つだが、その可能性があるのと無いのとでは話が大きく違ってくる。これがまだよしんば知らないだけなら、問題はない。が、もし異世界の魔術であれば、何故こんな所にという疑問が出る。


「……当分、調査を怠るべきではなかろうな。目を離さぬ方が良い」

「ん」


 ティナの助言にユリィは小さく頷いておく。少なくとも、警戒には値するだけの情報だ。敵意は無いだろうが、目的がわからない。事情ももちろん、だ。そうして、彼女らは彼女らでまた幾つもの謎を得てリオ達へ警戒を行う事にするのだった。




 アルの前世の発露から、明けて翌日。カイト達は再び調査に乗り出していた。如何にリオ達が怪しかろうと、如何にアルの前世の発露があろうと、為すべきことは変わらない。明日を生きる為には仕事をする必要があるし、見つかった遺跡をそのままにはしておけない。なのでこれは自然な事だった。


「さてと……そういうわけで今日は動力炉の復旧のわけだが」


 崖下の遺跡の第三層にたどり着いたカイトは、暗闇の中で小さくため息を吐いた。その原因は彼の肩の上にあった。


「ユリィ。どうした?」

「……聞いてるでしょ?」

「ああ、聞いてる」


 ユリィの視線の先にはイミナが立っている。リオの命令により、今日の動力炉の復旧に際してこちらに手を貸す様に言われて来たのである。だが、カイトは一切警戒していなかった。


「……ま、問題は無いさ。彼女らがどこから来たのか、というのはオレはわかったからな」

「え?」

「あはははは……そうさ。彼女は、安心だ」


 驚きを露わにしたユリィに対して、カイトは笑う。今のカイトにはリオ以上にイミナを信用出来た。それはそうだ。だから、彼はある種の歓喜を伴いながら誰かへと問いかけた。


「いつだって、そうさ。あの人の背を見てオレ達は歩いてきた……だろう? 忘れちゃいねぇさ。死んでも、忘れない」


 カイトは遠く、はるか彼方に消えた一人の男を思い出す。彼の背を見て生きてきた。そして彼が居なくなった後は、彼の様な英雄になれる様に必死で戦い抜いた。昨日の一幕で、彼女らはその遺志を受け継いでくれていたと理解出来た。


「貴方は……」

「……」


 ユリィの問いかけに、カイトは僅かに微笑んで彼女を見る。その目には、真紅の炎が宿っていた。


「大丈夫さ。あの一族は……いや、あの一族に連なる者たちにはいつだって馬鹿しか生まれない。血がつながろうと、繋がるまいと変わらない。あの人の背を見て育ったオレ達の姿を代々受け継いでいる」


 カイトの右目に宿る真紅の炎を見て、ユリィは今のカイトが誰として話しているのかを理解した。イミナが己の家名を話せなかった理由。それをリオが止めた理由。彼女らが自分達の正体を明かせなかった理由。それら全てを、カイトは理解していた。


「彼女らが何時の時代の奴か、なんてわからない。わからないが血が……いや、魂がわかっている。イミナの家名……それは、イミナ・マクダウェル。マクダウェル家の騎士だ」


 カイトははっきりとそう断言する。頭ではない。心が理解していた。彼女達は自分達の誇りを受け継いだ者達だったのだ、と。そしてそう思えばこそ、彼は一人の男を思い出した。


「縁、なんだろうなぁ……」

『兄さん』


 声が、聞こえた。海瑠とは違う、また別の弟の声。血の繋がらない弟。もう一人の弟。生まれた時から知っている家族。自分の背を見て歩いてきた一人の男。その声へと、カイトは頷いた。声は言っていた。忘れていないよね、と。それに答える答えは一つだけだ。


「ああ、わかっているさ。情けない姿は見せられないよな。だってオレは……一族の誇りを、お前の憧れを背負っているんだから」


 待っていてくれた(仲間)が居る。遠い未来に憧れてくれた者達(子孫)が居る。なら、迷いなぞなかった。


「今一時だけは、オレが出る。いや、オレでなければダメなんだ」


 わからないだろう。見えないだろう。カイトは周囲を満たす暗闇を今ばかりはありがたく思う。今はまだ、名乗り出るつもりはない。まだその時ではない。だが、それでも。少しばかりは彼らの心意気に応じたかった。


「力は落ちた。あの頃の様な殺戮者には戻れない……だが、それでも」


 培った技は失われず、宿った魂は砕けていない。負けなぞあり得ない。だから、カイトは小さく己であり己ではない自分の相棒へと頭を下げる。


「ユリィ……お前の相棒ではないオレだが」

「なーに言ってんの。相棒、だよ。喩え私が貴方と会ったことがなくても。喩え私が貴方の側に居れなくても……私達は相棒。今更だよ」


 どこかの申し訳無さがあるカイトに対して、ユリィはその言葉を遮って笑って明言する。それが、彼女の、否、『彼女ら(ユリシア)』の願いなのだ。カイトが相棒として来てくれと言ってくれる事程、嬉しいことはなかった。それに、カイトも気付いた。だから、返すべきは礼ではないと理解した。


「ああ、そうだったな。忘れてたよ。悪い」

「ボケ始まった?」

「人類最高齢だ。敬え」


 返すべきは、当たり前の事を問うた事への詫び。そして当たり前を当たり前という為の冗談。そして、カイトの風格が変わる。より洗練され、より勇ましく、より強い物へと。


「さぁ……オレの帰還だ。雑魚共……覚悟は出来てるな? 出来てなかろうと、知らねぇが。魔王を二度ぶっ殺したオレの強さを見せてやる」


 カイトはそういうと、一歩前に足を踏み出す。負けなぞあるわけがない。だから、言うべきはあの伝説。リオ達が語らなかった、『もう一人のカイト』の伝説の本当の凄い所だった。


「絶対勝利にして不死(死なせず)のオレが……あの頃は手に入れられなかったもの(相棒)まである……誰一人として死なせない。『オレ』が公爵、貴族なら。オレはバカのまま成長したんだ……英雄(ガキ)舐めんじゃねぇぞ」

「英雄で良いの?」

「間違えた。勇者だ」


 楽しげに、カイトはユリィと笑い合う。そうして、歴史に消えたはずの一人の男が、待ち人達の願いに応ずるように密かな降臨を果たしたのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1331話『もう一人の伝説の勇者』

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