表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第66章 エンテシアの遺産

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1346/3929

第1328話 火を囲み

 マルス帝国時代中期の遺跡へと調査にやってきていたカイト達冒険部一同。動力炉の確認の為、第三層へ向かう為に第二階層の調査を開始したカイト達は道中で戦闘中だった瞬達の支援を行うと、再度暗闇の中を調査していた。


「なかなか見つからないもんだな」

『うむ……どうやらそこの構造壁。マッピングを妨害する様な特殊な素材で出来ておる様じゃ。壁の先まで見通せぬ所為で若干調査が難航しておるのう』


 ぼやいたカイトに対して、ティナがため息を吐いた。ここら術式を見てもわからない所だ。なのでティナも来た時には分からなかったのだろう。


「一階はどうだったんだ?」

『一階も若干その傾向はあった。が、二階は特に顕著じゃ。劣化したのか素材が違うのかは分からんがのう』

「そこも要調査、か」

『うむ』


 カイトの言葉にティナもまた同意する。そうして彼女は一つ疑問を呈した。


『じゃが、こう……なんか妙な違和感があるのう』

「うん? どうした?」

『いや、なんつーか、のう……うむ。敢えて確証も無しに見たままを言えば、様式が少し違う気がせんか?』

「様式? なんのだ?」


 カイトはティナの言葉に首を傾げる。ここで単純にこの建物の見た目を問わないあたり、カイトの常識はこちら側にあるのだろう。そしてここでは正解だった。


『うむ。ホタルを介してそこらの構造の詳細は送られておるわけじゃが……むぅ。なんというか、一層と二層で刻印の様式が若干違う。いや、流れは同じじゃが……やはり色々と違う』

「別人というわけか?」

『それは確実じゃ。第一層と第二層を作った者は別人じゃ。ただし、お主の言い方なら流派が一緒というべきじゃろうな。より、洗練されておる。珍しい構造じゃ。下に行けば行くほど新しい。魔術があればこそ可能な構造じゃが……それでも非常に珍しい構造じゃのう』


 カイトの問い掛けにティナははっきりと認めて、頷いた。それは確実らしい。となると、それはそれで疑問が出る。


「合作というわけでもないんだよな?」

『うむ。はっきりと言おう。継ぎ足しじゃな。下へ下へと構造を継ぎ足しておる。まだ推測じゃが、おそらく階層毎に時代が違う。第三層はおそらく、より新しい様式になっておろう』

「でもそれを確認するには」

『下に行くしか無いのう』


 結局はそこにたどり着くらしい。まだ一階降りただけだ。次もそうとは限らない。それを確認する為には、やはり下に行くしかなかった。


「しゃーない。次を目指しますかね……」


 カイトは諦めと共に再び行動を開始する。そうして、そんな彼が地下三階への道を見付けるのは、それから一時間後のことだった。




 というわけで、一時間後。カイト達は再び集合して第三層目に乗り込んでいた。が、ここで動く前に、一時停止していた。


「ふむ……どうなんだ?」

「現在調査中……結果を送信します」

『来た来た……うむ。ビンゴじゃ。やはりここはさらに年代が新しい』


 ホタルからの検査結果を見ながら、ティナが喜色を浮かべる。どうやら彼女の推測通り、下に行けば行くほど年代が新しくなっているらしい。


『第一層の物に比べ、こちらは明白に異なった技術が使われておる。年代にしておよそ二百年の誤差が出ておる。おそらく、一番下では末期も末期に到達しよう』

「一層毎に百年というところか」

『うむ。今の所わかる範囲で見受けられる最下層で五百年経過したと見てよかろう。相当な古い遺跡じゃぞ。この様な遺跡、余も知らぬ』


 やはり未知の遺跡かつ類を見ない遺跡だからだろう。ティナが――珍しくもないが――興奮を滲ませていた。


『これは色々な意味で歴史的大発見かもしれん』

「オレ達の活動には?」

『大した意味も無いが、ここはそういうことではあるまい。エネフィアという文明の歴史において、ここは非常に意味がある。マルス帝国時代の技術の変遷が一目瞭然じゃ』


 カイトの問いかけに対して、ティナは若干早口にまくし立てる。どうやら、それほど珍しい遺跡らしい。それに、カイトがため息を吐いた。


「わーった。わーったから……で? 次はどうする? 最初の予定通りに進むか?」

『ふむ……いや、良い。目的地はわかっておるし、方角もわかる。今日は引き上げで良い』

「良いのか?」

『というよりもここから先に進む際、さらなる戦闘も見込まれよう。もちろん、動力炉の普及に際してメインシステムの起動、ゴーレム達の襲撃も考えられる。必然として帰還にも時間が掛かる可能性はあるし、突破が困難になる可能性もある。更には動力炉となれば必然、守りも固めていよう。しっかりと班分けを行うべきじゃろう。突入部隊、救援部隊、後詰めの第二陣というようにのう』

「ふむ……それは確かにそうか」


 ティナの指摘にカイトは一つ頷いた。向かうべきは中央部。それはわかっている。そしてこの規模の遺跡の動力炉となると、かなりの大きさだろう事が推測される。それ相応に防備も整えられている事だろう。なら、次に向かう為にも色々と支度を整えるべきだろう。


「わかった。これから帰還する」


 カイトはティナの助言を受け入れると、この日の探索は切り上げる事にする。そうして、カイト達は一階の中継地点を守るリオと合流して、この日の作業は切り上げる事にするのだった。




 その日の夜。探索を終えたカイト達はというと、やはりこの日からは実際の戦いがあったからか疲れている者は即座に眠り、逆に体力的に余裕がある者はあまりない他のギルドの者達との語らいを、と焚き火や食卓を囲んで交流に勤しんでいた。

 そんな中、カイトもまた交流を行っていた。彼の場合はギルドマスターという立場もある。故に交流を得ていた相手はリオとエルーシャというある意味当然といえば当然の相手だった。


「そっか……結局、まだお兄さんは見つかってないんだ」

「ええ……元々一年待っても帰ってこなかったので他大陸に居る可能性もあるかも、と思っている所です」

「そうだ。前には言いそびれたが、何なら情報屋の上の方にアポイントを取ろうか?」


 僅かな心配を滲ませるリオの言葉に、カイトが一つ申し出を行う。ここはもちろん一義的には人道の面からの申し出だが、もう一つはここで情報屋に依頼させる事で彼女の正体に迫れるという公爵としての思惑もある。と、そんなカイトの申し出に興味を持ったのは、エルーシャだ。


「上……伝手あるの?」

「クズハ様の紹介だ。流石に公爵家の伝手ともなると、上の方にアクセス出来るからな。大陸間会議の折りに紹介してもらったんだ」


 カイトはエルーシャの問いかけにあたかも有り得そうな事を言っておく。あの時、カイト達が大国の策略に巻き込まれたのは冒険者達の間では非常に有名な話だ。それに偽装しておけば、あり得る話と考えられた。そして情報屋の公式発表としてもそれにしている。そしてそんなカイトに、リオが申し出た。


「お願いできますか?」

「ああ、やってみよう」


 これで少しでもリオの正体に近づければ。カイトはそんな思惑を胸に秘めながらも頷いた。そうしてそこらの話が一段落したら、後は他と変わらない他愛ない会話となった。そうして話題を提起したのは、エルーシャだ。


「そう言えば……せっかくこんな各地の人が集まったんだから、何か変わった話ってないの?」

「変わった、ねぇ……」

「変わった……じゃあ、勇者カイトの話、等ではどうですか?」

「あ、それちょっとおもしろいかも」


 リオの提起にエルーシャが少しだけ興味を覗かせる。その視線の先にはアルが居て、やはり英雄の子孫としての興味があった様子だった。そしてそれはわかった話だったし、アルとしても慣れたものだ。なので彼は若干苦笑気味に笑うだけだ。


「……何も無いよ? 僕は確かにルクス様の子孫だけど、それだけだし。変わった話は聞いた事があるかもしれないけど、敢えて言えば子孫に伝わるだけだし……そんな事言ったら、多分カイトの方が詳しいんじゃないかな?」

「なんでオレだ」


 アルの指摘はわからないではない。カイトは勇者カイトその人だ。故に指摘としては正しいが、それとは別にもう一つあった。


「だってカイト、確か勇者様の手記の写し持ってるでしょ?」

「持ってるの!?」

「ああ、持ってるな。これまたクズハ様からのご厚意だが」


 驚きを隠せなかったエルーシャに対して、カイトは別に隠す程でもないと頷いた。エルーシャが驚いたのはやはり、これが学術的にも歴史的にも価値のある物だからだろう。

 そして個人の手記という事であまりコピーは取られていない。そこらを複合的に考えた時、一介の冒険者が持っているのはかなり珍しいといえば珍しいと言えた。


「へー……どんな事が書いてあったの?」

「どんな事……? いや、普通の手記だが。日記帳でも無いしな。敢えて言えば忘れない様に名前とか書き記していた備忘録に近いぞ」


 そもそもカイトは自分の手帳で、なおかつ今も手帳は持っている。なのでどんな事が書いてあるのか、というのは彼が一番よくわかっていた。なので思い出すまでもない事だった。というわけで、エルーシャの問いかけにカイトは即座に答える事が出来た。


「好きな人とか書いてないの?」

「無いな、残念ながら」


 カイトは当時の好きな人の名なぞ手記に残す事はなかった。と言っても実は、好きな人の名前はしっかり書かれている。言うまでもなくシャルロットの名がそこにあるのだ。他にも何人かの愛した女性の名は記されている。

 が、それが恋人の名だとわかっているのはカイト本人だからこそ、だ。というわけで、そこらに突っ込まれると面倒なのでカイトは話題を少しだけ逸らす事にする。


「オレとしてはそういう話じゃなくて、手記に記されない内容の方に興味があるけどな」

「手記に無い内容?」

「ああ……勇者カイトの伝説、というのは各地で異なっているって知っているか?」

「偉業が多すぎて、だね」


 カイトの言葉にアルがそう答えを述べる。これは前々から言われていた事だ。そもそもカイトがどんな武器を使ったのか、さえ今では散逸してしまっている内容だ。これは時間が経過した事と、カイトその人が無数の武器を扱った事からだろう。

 とはいえ、これを敢えて口にした理由はもちろんあった。再度になるが、カイトは勇者カイト。故に己がどこで何をしたかぐらいはわかる。つまり、リオの知る彼の伝説からおおよその彼女の出身地を割り出す事が出来るのである。

 と、そんな話題だが即座にリオが口にするわけではなく、最初に口にしたのはエルーシャだった。こちらはお師匠様がアイゼンという事がある。知っていても不思議はない。


「うーん……そうなると私がお師匠様から聞いた事がある内容は……あ、拳はそんな得意じゃなかった、って」

「拳? 格闘術の事か?」


 エルーシャの言葉に瞬が記憶を手繰りながら問いかける。そうしてふと気付いたが、カイトが徒手空拳で戦っている所はあまり見たことがなかったということだ。

 徒手空拳を使わなかったわけではないが、大抵は相手の武器を奪取する事が目的だったりしている。純粋に空手等の格闘術というよりも、新陰流の無刀取りに近いだろう。


「そう。お師匠様、何度か素手で手合わせしてるらしいんだけど……本人が拳は苦手だ、って明言してたって」

「そう……なのですか?」

「あっはははは。驚きよね。なんでも使いこなした、って言われてるらしいけど……何も使わない事は苦手だったらしいの」


 驚きを露わにしたリオに向けて、エルーシャが同意する様に笑って頷いた。やはりここらはカイトもあまり言っていない事だし、そもそも手記にも彼は残していない。残す意味が無いからだ。口伝や当時を知り、なおかつカイトを知る者だからこそ知り得る事だろう。


「と言っても、それでも問題は無かったんじゃないか、っていうのがお師匠様の言葉」

「どうしてですか?」

「どうにも彼、武器を作れる才能があったらしいの。カイトと同じ……あの数百万人に一人の才能。魔力でどんな武器だろうと編めてしまう才能」

「マルチウェポンですか?」

「そうとも言われてるあれね」


 ここらカイト達としては常識であるが、逆に知らない者からすれば驚きの内容という所だろう。なのでリオ達も驚きながら聞いていた。と、そこらの話が終わった後、今度はリオの番となった。


「それで、リオの所はどんなのが伝わってるの?」

「私の所……私達の所では大剣と刀……の様な物凄い長い太刀を使うという所です」

「ああ、一番多い内容ね」


 エルーシャはリオの言葉に一番有名な奴だ、と頷いた。多くの武器を使ったカイトであるが、やはり根本は剣士だ。故に双剣士としての伝説が一番多かった。が、それ故にカイトとしては若干の落胆があった。情報は無いに等しいからだ。と、そんなカイトの内心は知らないが、瞬が口を挟む。


「……武器以外に何か伝説は無いのか?」

「はい?」

「いや、勇者カイトというと多くの武器を使ったわけだが……各地で伝説的な偉業を為しているんだろう? 何か無いのか、とな」


 瞬はやはりカイトが多くの武器を使う事を知っているからだろう。武器の事よりも伝説そのものの方に興味があったらしい。そうして、話題は奇しくもカイトの伝説に関する内容へと移っていく事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1329話『二つの旗』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ