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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第66章 エンテシアの遺産

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第1325話 中期の遺跡

 敢えて言う必要も無いことなのかもしれないが、それでも敢えて言うと歴史が長い文明では時折連続性のある文明でも自分達の過去の事が分からない事がある。理由の多くは内乱で資料が散逸して、と言うのが大半だ。いくら同一の王朝や国家だろうと常に平和というのは無いのだから、自然な事だろう。現に日本だって数百年も昔の事はわからない事も多い。


『ふむ……マルス帝国中期の遺跡か。いや、実に興味深いのう。ホタル。壁の風化具合は調べられるか?』

「現在計測中……出ました。結果を送ります」

『おぉ、さすがホタルじゃのう』


 ティナはホクホク笑顔でホタルから送られてきた検査結果の精査を始める。


『ふむ……やはりこれは末期の物ではなさそうか。更に前。千年はあろう。たった七百年で掠れる刻印では無いのう……にしても、これは見事なもんじゃ』

「どうした?」


 感嘆を滲ませるティナの声を聞いて、調査班の点呼と最終調整を行なっていたカイトが問いかける。それに、ティナが教えてくれた。


『うむ。これはおそらく魔女族の手によるものじゃと推測される。それもかなりの技量の持ち主じゃ』

「そうか……どんな感じだ?」

『お主が警戒しておるのは分かっておるよ。が、これは敢えて言えば内部の物を保管しておいたりする為の物と言える。攻撃的では無いのう』

「エル達が見つけたのは、風化により一部が劣化。戦闘の衝撃でついに崩壊という所か」


 カイトはティナの解説を聞いて、大凡の所を把握する。そして実際にそんな所らしい。


『うむ。実に見事な刻印で、おそらく数百年は大気中の魔素のみで動いておった筈じゃ。が、流石に時の流れには逆らえぬ。劣化もしよう。いくらどんな優れた魔術だろうと刻印じゃろうと調整もなければ半永久的に動くわけではないのじゃから、当然ではある』


 送られてきた検査結果を見ながら、ティナは一つ頷いた。そうしている間に、カイトの方の準備が整ったらしい。瞬が報告にやってきていた。


「カイト。全員の準備が整った」

「そうか……良し。じゃあ、全員出発だ。ランタンは持ってるな? 逸れた場合はヘッドセットで報告を入れろ」


 カイトは最後に念押しをしておくと、リオと共に歩き出す。幸いというべきか、雪崩れ込んだ土砂のおかげで通路は片側が通れなくなっている。そちらは公爵家の調査隊が入る際に撤去して、調べる予定だった。


「……動きは鈍いな。ゴーレム達とセンサー類とのリンクが死んでいそうか」

『そうなのだろう。この領域の遺跡ならば、全域に張り巡らされたセンサーが無いとは思えん。動力の復旧には細心の注意を払うべきだ』

「だな……」


 カイトとリオは周囲の気配を探りながら、通路の先の状態を見極める。と、そんな彼らの感覚に一つの影が引っかかった。どうやら、敵が居たらしい。


「ゴーレムじゃ……ないな。こっちでやろう」

『任せよう』


 小型のナイフを十数本魔力で編んだカイトをみて、先頭を行くリオが場を譲る。どちらでも倒せるが、敢えて姿を晒す意味も無い。先手必勝で倒せるのなら、それで良いのだ。そしてそういうことなら、カイトの方に分があった。


「行け」


 カイトは闇の中へと小型にナイフを投じる。それは音もなく一直線に突き進み、曲がり角を曲がって消えていった。そして、次の瞬間。どさっという様な音とガラガラガラ、という音が聞こえてきた。


「スニーク・キル、ってな……行けるぞ」

『見事だ……では、進む』


 カイトがなにかの魔物を倒したのを気配で把握していたリオが、再度カイトに先んじて歩き始める。そうしてそんな事を繰り返す事、およそ5回程。一同は大広間の様な少し大きめの場所の前にたどり着いた。


『どうする』

「これをスニーク・キルは流石に無理だわ」


 リオの問いかけにカイトが笑う。が、その笑みは所謂乾いた笑みだった。


「『石巨人(ストーン・マン)』……ここで出るか?」

『一撃で倒すのは危険だ。この遺跡が崩落する可能性がある』

「だわな……さて。そうなると……アル、ルーファウス」

「わかった」

「了解した」


 カイトの言葉の先を聞くまでもなく、二人が了承を示した。カイトが何を言いたかったのかと言うと、盾役だ。たしかに広い場所に出たわけであるが、それでも室内だ。幸い広間が崩壊しているという事は無いが、思いっきり走れるわけではない。回避主体とするより、最初から防御させた方が良いという判断だった。


「良し……一条先輩。聞こえるか?」

『ああ、なんだ?』

「貫通力の高い一撃で胴体のコアを」

『わかった。そっちに向かう』


 ヘッドセットを介してカイトの指示を受け取った瞬が移動を開始する。大人数で戦う必要もない。ここからどれだけの戦いがあるかもわからないのだ。最低限の人員で片付けるつもりだった。


「エル」

「わかってる。ヒビ入れるだけで大丈夫?」

「ああ、十分だ。それと、そちらとの連携はまだ取れていない。数名、そちらからも支援を選んでくれ」

「りょーかい」

『こちらは残存の人員の統率を行おう』


 カイトとエルーシャの会話を聞いていたリオが後ろへと下がる。この戦闘で他の魔物や警備用のゴーレムが来ないとも限らない。そちらの警戒に当たるわけだ。


「さて……じゃあ、戦闘開始だ」


 カイトは必要な人員と頷きあうと、ゆっくりと大広間へと足を踏み入れる。とはいえ、ゆっくりだったからか『石巨人(ストーン・マン)』はまだ気付いた様子はなかった。頭をかばうようにして蹲ったままだ。これが、この相手の基本的な待機姿勢だった。


「……」


 カイトはジェスチャーでアルへと『石巨人(ストーン・マン)』の背後に回り込む様に指示を出す。起こすのはこちらが準備を整えてからで良い。

 そうして、アルとエルーシャ、他数人の囮役――エルーシャが選んだ万が一の人員――が『石巨人(ストーン・マン)』の背後に回り込んだのを見て、カイトはルーファウスと頷きあう。


「良し……ユリィ。準備は」

「いつでもどうぞー」

「おし……お目覚めにキツイ一発打ち込むか」


 カイトはユリィと頷きあって、グッと拳を握りしめる。そうして、遂に力強く一歩を踏み出した。


「おはようございまーす。ただ今、朝の10時頃となっておりまーす。ねぼすけさんに寝起きドッキリ!」

「お前、いつもオレにそんな感じでやってんのか……」

「ああ、カイトの場合朝7時頃だからねぼすけさん抜いてるよ。あれ、起床何気に6時とかだから辛くてさー。準備次第だと朝5時起きだよ?」

「おい……無駄なやる気ごくろーさん……」


 ユリィのいつも通りと言えばいつも通りの言葉にカイトは思わずタタラを踏みそうになる。が、それに負けずにしっかりと踏み込んだ。


「まぁ、とりあえず……はい、どかーん!」


 カイトの掛け声に合わせて、轟音が鳴り響く。人間で言えば丁度頭頂部の部分を殴りつけたのだ。そうして、身動きをしていなかった『石巨人(ストーン・マン)』が思いっきり吹き飛ばされて行く。とはいえ、その先にはエルーシャが居た。こちらもこちらで準備は万端だ。


「こぉー……ふんっ」


 エルーシャはしっかりと腰を落とした正拳突きを放つ。それは『石巨人(ストーン・マン)』の背後を打ち、その巨体を強引に空中にに縫い止める。そうして、彼女はそのままジャンプで飛び上がった。


「こんにち……はっ!」


 背後からの攻撃に気付いて振り向いた『石巨人(ストーン・マン)』に向けて、真正面からエルーシャが拳を叩き込む。そうして吹き飛ばされそうになる『石巨人(ストーン・マン)』に向けて、ルーファウスが後ろから突っ込んだ。


「倒れるには、まだ早いぞ!」


 ルーファウスのタックルによって強引に立たされた『石巨人(ストーン・マン)』は、思いっきりその巨腕を振り上げる。どうやら怒っているらしい。が、問題はない。その着地地点には既にアルが居た。


「よいしょっと! 行って!」

「ごめんね! ダイエットはしてるわ!」

「レディに重いなんて思わないよ!」


 アルの促しを受けたエルーシャがアルの食い止めた腕の上に乗って、その胴体を駆け上がる。そうして一直線に胴体へと強烈な一撃を打ち込んだ。


「はぁ!」


 轟音とともに、『石巨人(ストーン・マン)』の胴体にひび割れが生じる。掌底の要領で面の打撃にしたのである。そしてその一撃で生ずる反動をエルーシャは敢えて消さず、そのまま後ろに飛び出した。


「良し! 行けっ!」


 エルーシャが射出されると同時。その瞬間を狙い定めた瞬が槍を投げる。といっても、これは全力ではない。胴体に深々と突き刺されば良いという程度。故に彼の槍は胴体のひび割れを拡大させて、胴体の真ん中にあるコアを串刺しにしただけだ。


「良し……はぁ!」


 瞬が裂帛の気合とともに、コアを串刺しにした槍へと魔力を注ぎ込む。そしてその次の瞬間、ひび割れの内側から強烈な光がこぼれた。


「トドメだ」


 強烈な閃光を下に、カイトが『石巨人(ストーン・マン)』の頭上で巨大なスレッジハンマーを振り上げる。そうして、彼は問答無用に巨大なハンマーを振り下ろした。

 その一撃で、人で言えば脳髄の部分に収められていたらしいもう一つのコアが露出する。そして、カイトの肩の上からユリィがコアの真横へと舞い降りた。


「まぁ、やるの私なんだけどね」


 とん、と軽い具合でユリィは露出したコアを叩く。そして一度感触を確かめてから、かなり軽い感じで正拳突きを放った。


「ほいさっ!」


 軽い感じの掛け声に反して、その威力は十分に敵のコアを破壊するに足るものだった。それ故、その一撃はもう一つのコアを完全に破壊して、敵を討伐しきる。


「「「……」」」


 討伐チームは崩れていく『石巨人(ストーン・マン)』の姿を見ながら、僅かに警戒感を滲ませる。魔物だ。何が起きても不思議ではない。もしかしたらコアは二つではないかもしれないのだ。が、杞憂だったらしく身じろぎ一つする事なくそのままだった。


「終わったか」

「まぁ、奇襲したからね」


 警戒を解いたカイトと同時に、エルーシャもまた警戒を解く。これで戦いは終わりだ。作戦通りに仕留められた。問題はない。そうして『石巨人(ストーン・マン)』の素材を回収している間に、カイトはティナへと連絡を入れた。


「ふむ……ティナ」

『うむ……ふむ。今はまだ少々暗いのが難点であるが、そこは一時的な拠点として使えそうじゃのう。残念ながらゴーレムには結界が効かぬという難点があるにはあるが、それでも魔物は防げよう。有効に活用すべきじゃろう』

「か……わかった。全員、ここを中心として陣地を構築する。準備に入ってくれ」


 カイトはティナとの相談でここを拠点とする事を決めると、即座に行動に入る。ここまではほぼほぼ一直線で、更には広さもそこそこある。確かに戦闘には足りないが、休憩する分には十分だ。というわけで、更に素材集めと並行して拠点の設営が開始される。と、それを横目に瞬が問いかけた。


「結界はゴーレムには通用しない、という話だが……そう言えばゴーレムに通用する結界という物は無いのか?」

「ん? ああ、結界の話か」

「ああ、ずっと疑問ではあった。魔物は対処出来るのにゴーレムは対処出来ないのか、とな」


 カイトの確認に瞬ははっきりと頷いた。先にティナとも話し合っていたし、現に以前魔導学園の生徒達の救援の時にもわかった話であるが、ゴーレム達に結界は通用しない。

 もちろんそれは隠れるという意味での結界が無意味というだけで敵の侵入を防ぐ、防御的な結界であれば有効だ。が、魔物達の様に安全に休めるというわけではない分、十分に違うと言える。


「そうだな……うん。これについてはある種道理だ。魔物は生き物。ゴーレムは生き物ではない……そこでどうしても対処が出来ないんだ」

「どういうわけだ?」

「そうだな……結界は見えなくしているわけではない、という所か。大抵オレ達が使う様な結界は位相をずらしているわけじゃない。そこに実体として存在はしているわけだ。ただ、相手から認識出来なくしているだけだ。敢えて言えば認識阻害を行っているというわけだな」


 瞬の問いかけにカイトは冒険者達が一般的に使う結界の原理を解説する。ここらはもちろん、瞬も理解して使っている。そこらは彼も冒険者だから、当然の事だ。そしてだからこそ、とカイトが続けた。


「だから、ゴーレムには通用しない。あれは認識しているわけじゃない。映像を見て機械的な処理を行っているだけだ。認識しない相手に認識を阻害した所で意味がない」

「そうか……では、見えなくすれば良いんじゃないか?」

「そこらが、難しい所でな。見えなくしてもそこに実体はあるわけだ。故に普通に通れる様になってしまう。認識を阻害すれば、そこに実体があるにも関わらず相手が勝手に避けてしまう。故に衝突の危険はない」

「なるほど……」


 カイトの説明は確かに道理だった。それ故、瞬は納得して頷くしか無い。そうして、そんな会話をしている彼らも一通りの準備を整えると、臨時の拠点の設営と並列して次の手はずを決めるべく会議を行う事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1326話『動力炉を目指して』

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