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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第66章 エンテシアの遺産

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第1321話 準備中

 リオ達の来歴を洗った中で得られた、彼女らの持つ矛盾する幾つもの事実。それを得て情報屋ギルドが出した答えは、わからないというなんとも彼らにとっては苦い答えとなっていた。

 それをサリアから教えられたカイトは密かにでは打つ手なしと判断すると、立場を活かして真っ向から聞いてみる事にして準備を進めていた。と言っても、流石に別れたその日の内に聞きに行くのは些か可怪しい。というわけで、その後数日はエルーシャ達との共同で行う事になっていた遺跡の調査任務の為の準備に勤しんでいた。なので今日はソラを伴って第二執務室――上層部用とは別のマネージャー用の執務室――へやってきて、残留組との間で調整を行っていた。


「良し。これで全部だな」


 カイトはチェック・リストに目を通して、人員や用意すべき物の一覧が整っている事をしっかりと確認して頷いた。今回は遺跡の規模等が不明だし、ホタルを手に入れた遺跡の二の舞にはなりたくない。

 なので幾つかの状況にも備えて、向かう事になる上層部の装備もしっかりと整えさせていた。そしてその一方、残留の面子にはしっかりと言い含める事を言い含めておく。


「ソラ、残留組は任せる」

「おーう……遺跡、ちょい興味あったんだけどなー……」

「どして」

「魔銃とかゴーレムとかあったら欲しい」


 カイトの問いかけを受けたソラはどこか無念そうにそう答えた。まぁ、敢えて言う必要もない事なのであるが、彼は武器として現在予備の物を使っている。そして当たり前だが特急でやれば一ヶ月と言っても専用の調整や素材集め等を考えれば神剣の調整が終わっているはずもない。

 試運転でも可能になるのはどれだけ早くともこの遺跡の調査任務以降だそうだ。その間、彼は先にオーアから貰った予備の武器を使う事になっている。何が起きるかわからない遺跡探索に同行出来るわけがなかった。


「お土産、期待してろ」

「良いのあってもお前かティナちゃんが手に入れんだろ」

「そりゃ、当然な……まぁ、魔銃なら別にお土産でも良いが?」

「あ、そういやそうなのか……じゃ、そっち期待しとく」


 ソラはカイトが使う魔銃がティナの作った魔銃である事を思い出して、それならそれと言っておく。なお、もちろん単なる冗談である。そうしてある意味では単なる馬鹿な会話を繰り広げた後、ソラは本題に入った。


「で、今回はそんな時間掛かりそうじゃない感じ?」

「さぁな。と言っても、今回は詳細の調査じゃないからな。時間は掛けないつもりだ。遺跡がどの時代の物か調べて、更に危険度がどの程度か判断。魔導炉の起動などは可能か。更に可能なら万が一にも崩れたりしない様に幾つかの対策を打つって所」


 カイトはソラの言葉に首を振ると、そのまま今回の依頼内容の詳細を口にする。これは自分で確認する意味もあった。なお、今回詳細な調査をするつもりがないのは事実だ。ホタルも連れて行くが、その機能とて絶対ではないかもしれないからだ。

 特に彼女は試作機だ。開発の用途等から高位の権限を持っているが、それは最高位の権限ではないだろうし、当人もそう語っていた。なら一度どの程度か調査した上で、改めて専門家達と共に来た方が良いだろうと判断したのである。と、そこらの依頼内容を聞いて、ソラが改めて己の見立てを語った。


「なら、長くても一週間ってとこか」

「だろうな。実際、オレとしても最長でそのぐらいを見込んでいる」

「まぁ、流石によほどの事態が無いと一週間じゃあ何か起きるとも思えないか」

「それは知らん。明日何が起きるか、なんて分かるのは神様ぐらいだ」

「それ言い始めたら何でも通じんだろ」

「そりゃな」


 己の冗談にため息を吐いて呆れを露わにするソラに向けて、カイトも同意する様に笑う。とはいえ、絶対は無いのだ。注意だけは促しておいた。


「だが、わかってんだろうが奴らも動いている。特にお前はこの間でわかっただろう?」

「わかってるって。流石に俺もこの間ので良くわかった」


 カイトの確認にソラは深い溜息を吐いた上で首を振るしかなかった。この間、というのは言うまでもなく松永久秀の事だ。気付けば彼にすんなりと陣地の奥深くまで入り込まれていたのだ。警戒を怠らない、という事は身に沁みて理解していた。


「ま、それならこの間に出発の準備を整えておけ。聞いたら、先方も近くまで来てくれているらしい。どれだけ遅くとも再来月には来られるそうだ。で、秋の大祭に出て再び旅を、って所だ」

「マジ? 頼んだのこの前だぞ?」

「あの時点で、皇国に来ていたらしい。いや、流石に来てたのは偶然、だと思うがな」

「顔は逆言ってんぞ」


どこか牙を剥いた様なカイトの言葉に、ソラが僅かに口角を上げて問いかける。それに、カイトも頷いた。


「だろうさ……そこが、賢者達の賢者達たる所以だ。奴らは普通は予見出来ない事を予見する」

「ってことは、最初からこうなった可能性を見通してたって事か?」

「さて……どうなんだろうな。オレも分からん。が、その可能性は非常に高いと見てる」

「どして」

「向こうの反応が早いからだ。最初から見通してたとしか思えん」


 カイトは呆れる様な、それでいて僅かな畏怖を滲ませる。だから、彼らは油断出来ない。それは彼こそが、賢帝と呼ばれた男を親友とする者だからこそ誰よりも理解していた。なにせ彼はカイトの安住の地を皇国に作る為だけに、数百年先にだって通用する策を練った。そして、見事成し遂げさせた。

 数百年先の無数の状況を想定し、対策を示す。そんなものは普通というか英雄達にだって無理だ。だが、それが出来るからこその知に優れた英雄であり、賢者だった。


「まぁ、ティナかあの馬鹿が居れば思惑の一つでも講釈してくれたんだろうが……居ないもんは仕方がない」

「お前でも無理なのか?」

「ああ、無理無理」

「っていうか、やりたくないだけでしょ」


 肩を竦めたカイトの肩に、どこからともなくやってきたユリィが腰掛ける。そうして、彼女が呆れ気味に事情を告げる。


「そもそもカイトも中々に脳筋だからね」

「脳筋ってか……そもそもオレの本職はアタッカー……ガチガチ脳筋職だぞ」

「今のお前からは想像できねーよ」


 カイトの苦言にソラが苦言を返す。ここらは成長したから、の一言で良いのであるが、そもそもカイトはユリィとのふたり旅でおよそ二年を過ごしている。その間も一時の同行者こそ居るわけであるが、基本はこの二人である。そしてこの二人の当時の年齢は今のソラ達よりはるかに幼い。賢いわけがなかった。

 そしてそれはもちろん、ソラもわかっている。わかっているが、という所だろう。とはいえ、そんな簡単に根っこが変わるかというと、そんなわけがない。


「実際、今も考えるより殴った方が早いとは思う」

「あー……そりゃ、わかるわ……って、あれ? お前昔から今の戦い方なんだよな?」

「昔からってか……まぁ、そこそこ後だけどな」


 ソラの問いかけにカイトは詳細をぼかしながら頷いた。実際、がむしゃらに戦うしかなかったのが彼の幼少期だ。あの時代は誰もが自分の事だけで必死だった。それでも助けてくれた奴らが居た。だから、生き延びられただけだ。それでも学べた事は少ない。生き様は学べても、戦い方は学べなかった。


「結局、全部独学だったり死んだ奴の事を思い出して戦ってたってだけだ。そしたら自然、死者の想念を読み解ける様になった」

「ってことは別に何か考えてたわけじゃないのな」

「んー……なんだろ。オレはまるでそいつらが今は自分が出る、って言ってる感じだと思ってる。最近は無いからな」

「どういうことだ?」

「んー……なんってのかな……」


 要領を得ない己の言葉に疑問を呈したソラに対して、カイトは少しだけ考える。ここら、どうしても感覚的な話になる。本来彼は説明するのが得意ではない。そして彼の特異性を考えても出来る事も多くない。


「ほら、今オレ、強いだろ?」

「強すぎ」

「あはは……まぁ、そういうわけなのかね。今はまだお前だけで十分だろ、って言われてる感じがしてるんだよな」


 カイトは己の背後で眠る無数の武器に思い馳せる。そうして、少しだけ薄く隠蔽の為の魔術を展開した。誰かが来て聞かれても面倒だ、という所だろう。


「大昔……まだオレが弱かった頃だ。その頃は武器が勝手に出て来たんだ」

「勝手に出て来た?」

「ああ……ここで自分を使ってくれ、って言ってる様にな。もちろん、そんな事はあり得ない。おそらくオレの本能が自動的に答えを導き出しただけだと思う……だが、それにしちゃぁ、妙にベストタイミングだったりオレ自身が理解していない答えを導き出していたりする。だから、オレはそう思ってんのさ」

「ふーん……俺ももし誰かが使ってた武器を手にできたら、そんな風になる時があんのかな」


 ソラは己の手を見ながら、カイトへとそう問いかける様に口にする。やはり彼も託された物があるからだろう。カイトと同じ様に、エルネストが守ってくれる事を考えても不思議はなかった。そんな彼に、カイトは窓の外の青空を見ながら、曖昧に返すだけだった。


「さてなぁ……この世には誰しもが理解し得ない事や想像し得ない事が山程ある。オレだって全部をわかってるわけじゃない。それこそ、この世界そのものだってわかりっこない事は山程ある。あり得ない事なんて無い。オレが死者を呼び出せる様に。死者達もまた、道理を覆してでも守ってくれる事があるかもしれないな」

「……」


 そうだと良いな。ソラはカイトの語りに無言で同意する。と、そんな会話をしていると、マネージャーの一人が二人に話しかけた。


「天音ー。書類、次の出来たぞー」

「あ、ああ。悪いな」

「いや、良いって。これが仕事だしな」


 カイトはマネージャーから差し出された書類を手にすると、即座に精査に入る。ここに居る理由はもちろん、ソラとしゃべる為ではない。準備の為だ。偶然書類が無かったので暇つぶしをしていたというだけである。そして今回は急遽決定した内容だし、規模も規模だ。確かに湖底の遺跡の時よりも遥かに規模は小さいが、それでも大規模である事には変わりがない。こちらの支援も借りていたわけである。


「ん……これは問題ないな。今回は幸い地中に埋まっている遺跡だから水抜きの作業が必要無いのが有り難い」

「あれはあれできつかったな」

「本来、人魚族の支援が欲しいんだがな……ここら内陸部だからウチにも居ないしな……」


 思い出したのか疲れた様子を見せるソラに、カイトは僅かな嘆きを滲ませる。ここら、公爵としてのカイトなら海軍も居るわけでどうにでもなるわけだが、冒険部には獣人は居ても人魚はいない。

 というより、今はまだ魔族も龍族も居ない。強力な種族や一部の環境に特化した異族の支援もあれば、と思うが無い物ねだりという所だろう。


「はぁ……いや、無い物ねだりは止めだ。とりあえず今は先に……って、そう言えば」

「何?」


 書類書類、と気を取り直そうとしたカイトであるが、唐突にユリィの方を向いた。何かを思い出したらしい。


「そう言えばお前、自分の所は?」

「問題ないよー……っていうより、アルミナさんが来たからこっち優先に切り替えた」

「マジでか」


 ユリィからの情報にカイトは思わず目を丸くする。と、そうして唐突に出た名前にソラが首を傾げた。


「アルミナ? 金属のあれか?」

「ああ、違う違う。ダークエルフの女性だよ……オレにスカウトの基本を教えてくれた人だ」

「言っとくけど、スカウトって言っても人材の方じゃないよ?」

「わかってるよ」


 一瞬勘違いしかかったソラはユリィの問いかけに慌てて否定を入れる。それはまぁ、カイトもユリィも見抜いていたが、ここで時間を潰すより良いと判断してツッコミは入れなかった。


「で、そんな人がどうしたんだ?」

「彼女が来たの。一応注意しておけ、って。で、私が急いで終わらせてこっちに来たって事」

「ヤバそうなのか?」


 ユリィが警戒に加わったのを見て、ソラは僅かな警戒心を滲ませる。と、そんな彼にユリィが慌てて否定した。


「ああ、そうじゃないよ。単にちょっと彼女らの情報が掴めなかったり色々とあったから、ちょっと警戒はしておきなさい、ってだけ。普通といえば普通だよ。でも私の立場上、即座に動くとか出来ないからね。前もって教えてくれてたってわけ」

「来てるなら一言くれれば良いのに」

「どーせ、影の者が表の住人に安易に接触すべきではない、って思ってるんでしょ」


 カイトの苦言にユリィがアルミナの思惑を推測する。実際、そんな所だった。それに、カイトがため息を吐いた。


「はぁ……一応、あの人もウチの身内なんだがね」

「そうなのか?」

「ああ……アルテシアさんのお姉さんだよ」

「アルテシア、って……あの?」

「そう、あの」


 カイトは驚いた様子のソラの問いかけに頷いた。あのアルテシアとは言うまでもなくカイトを守って散った彼の仲間の一人、大剣使いのアルテシアの事だ。そしてそれ故、アルミナもカイトの事を気にしていたというわけだった。


「ま、凄腕の暗殺者だ。注意しろよ。うっかり背後に立たれると、気付くより前に首が落ちるぞ」

「やべぇな、おい!」


 カイトの冗談めかした言葉に、ソラが声を荒げる。会いたくはなかった。と、そんな話をしながらもカイト達は準備を進めていき、この数日後、実際に出発する事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1322話『ギルド連合部隊』

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