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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第66章 エンテシアの遺産

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第1319話 お誘い

 エルーシャの来訪により行われる事になったマルス帝国時代の遺跡の調査任務。これそのものについては、特に問題もなく実施されることになった。そもそも領主であるカイトが下した結論だったし、そこにはしっかりとした筋も通っている。なので問題は無い。

 というわけで、幸いエルーシャ達が滞在中だった事もあって早速と相談を持ちかける事にした。場所は彼女のギルドが一時的に宿泊している旅館だ。カイト達に一言言っておいたので、ここらの依頼を受けてみているらしい。と言っても長居するつもりはないので、一日二日で終わるものを、という所だ。


「じゃあ、基本は冒険部中心で?」

「いや、合同さ。そもそもこっちはそこらの地理に明るくないし、そっちは一度立ち入ってもいる。が、そちらには遺跡探索の経験と実績がない」


 カイトは改めてのエルーシャの問いかけに明言を行う。やはりここはエルーシャ達の顔を立てる必要もあった。なので決定としてはカイトを調査チームの総責任者として、エルーシャを実働チームの総責任者として配置すると言う折衷案だった。そして勿論、これは理に適った決定でもある。


「で、ウチは数度の遺跡探索の実績があるし、保全作業についてもきちんと行なっている。これはすでに実績として証明されている。だから公爵家としては総指揮をオレが、実働部隊を率いるのをエルに任せたいって話だ」

「ちょっと待った。そんな事言われても私、そんな数十人規模の部隊を率いた経験なんて無いわよ?」

「だーろうよ」


 慌てて制止をかけたエルーシャに対して、カイトはそれを道理と頷いた。そもそもエルーシャのギルドの総人数は十数人。中堅や小規模ギルドとしては極めて妥当なところだ。冒険部の様に常時数十人規模での運用も視野に入れられるのが珍しい。とは言え、ならば対処を考えていないはずがなかった。


「リオに支援を頼もうと思うが、どう思う?」

「リオに?」

「ああ……彼女は言外に自分がどこかの貴族の令嬢だと言っていた。そしてその所作を鑑みても妥当だろう……そしてあの腕前だ。であれば、数十人規模の部隊は率いたことがあるはずだ」


 カイトはリオ達の一糸乱れぬ軍事行動にも似た様子から、イミナ達がどこかの軍属でリオの護衛だと見抜いていた。それも彼女らは軍でもかなりの上位に位置すると見て良い。十分、指揮が可能だろう。


「うーん……まぁ、確かに未知の遺跡だし、マルス帝国時代の遺跡なら厄介な事もあるかも……」


 エルーシャは色々な事を鑑みて、少しの間どうするべきかを考える。最終的に彼女が出来るというのであれば、別に彼女が率いてくれるだけで良い。分け前はその分増える。が、安全を買うと考えるのであれば、リオ程の剣士の助力は欲しい。勿論、彼女の指揮の腕前を見込んでの事でもある。


「広さ……敵の強さ……難易度……」


 エルーシャは冒険者として考えるのなら当たり前の事を幾つも考える。彼女は脳筋タイプであるが、同時に馬鹿ではない。考えるのが面倒だというのと考えられないというのはわけが違う。

 そして勿論、学力的な意味での賢いと生き方や冒険者としての賢いという意味は違う。どちらかと言えば彼女はエネフィアの平均値から見れば賢い部類――決して学力が劣っているわけではないが――だ。


「うん。リオ、呼んで」

「良いのか?」

「うーん……ランには難色示されそうだけど……他所様のギルドのギルドメンバー預かっといて私のミス一つで死にました、は流石に冒険者としてというよりも私のギルドマスターとしての沽券に関わる話。で、まぁこう言っちゃあなんだけど、ウチのギルドメンバーも頭に関して言えば似たり寄ったりだから……補佐、出来る奴あんまり居ないのよ。で、勿論こんな大人数の指揮はしたことないし」


 エルーシャはカイトの確認に諸手を挙げて降参を示した。案外彼女は冒険者としては慎重派なのかもしれない。とはいえ、それは冒険者としては良い事だ。

 万が一に何が起きるか。それに想定を重ねて、その中で起き得る事、起き得ないだろうと推測される事を見極める。そして起きると判断されたのなら、それに対処するのは当然の事だった。そうして、彼女は自身が最も危惧する事を口にした。


「確か前に貴方がアンリ皇女救援任務に出た時、あの子を手に入れたのよね?」

「ああ……物凄い強かったし、運良くユリシア様のご助力があってなんとかという所だった」

「なら、一番気になるのはそこね。もし万が一、この領域のカスタム機が存在していれば私一人じゃどうにも出来ない事が出てくるわ。カイトにも援護を頼むけど……貴方は自然、別行動になりそうだし」

「というより、ほぼ確定で別行動だな。流石に一つになってると船頭多くして船山に登るになるし、遺跡の広さ次第では別行動にして二手に別れた方が遥かに良い可能性もある」


 エルーシャの推測にカイトもまた同意する。これは先に湖底の遺跡を調べた時もそうだった。実際、遺跡の規模に応じてはどうしても日程の関係から幾つかの班に分かれて行動する事も出てくるだろう。

 それを考えれば、やはり指揮官は多い方が良い。冒険部にも指揮官として動ける面子は居るが、今回は事の経緯を考えて上層部全員とはいかない。なのでリオの助力は欲しかった。


「わかった。じゃあ、こっちから持ちかけておこう」

「出来るの?」

「ああ……流石に同じここでやってりゃ、挨拶もするさ……来るか?」

「……そうね。私は行くべきね」


 カイトはエルーシャの言葉に頷くと、そのまま立ち上がる。リオ達の拠点は聞いている。そこへ向かう事にしたのである。そうして、カイトはエルーシャを伴ってリオ達の拠点を目指して移動する事にするのだった。




 さて、それから少し。カイトはエルーシャを伴ってリオらが拠点としている旅館へとやってきていた。そこは街の中央から少し外れた所にある北町と東町の堺にある旅館だった。そこの旅館の離れを借りているらしい。


「……なんというか、良い所だけど……本当にここ? 流れ者にしちゃ良い所すぎない?」

「ああ、それはオレも疑問に思ったがな……きちんと理由があったらしい」


 エルーシャの疑問にカイトはリオから聞いた話を教えていく。どうやら彼女らがマクスウェルを目指していたのは情報以外にも理由があったらしい。旅の最中に偶然救った人物がこの旅館の総支配人で、離れを格安で貸してくれる事になっていたそうだ。

 あの武闘大会はある種、彼女らの有益性を示す為のデモンストレーションでもあったらしい。敢えて言えば総支配人が従業員達に彼女らを腕利きとして納得させる為だったそうだ。

 まぁ、わかりやすく言ってしまえば用心棒と言って良い。治安の良い北町の境目だとは言え、東町にも近い。故に時々荒くれ者や危ない筋の者が来る事もある。実績のある用心棒を住み込みで雇ったと考えれば、離れを与えてもお釣りが来るだろう。


「なるほどね……確かにこの規模と格式なら、それも納得……あの武闘大会で武蔵・宮本をしてあの大会では別格と言わしめた腕前なら、まかり間違ってもこのホテルにちょっかいを出そうとは思わないわね」


 ホテルの格としては超一流とまでは言わないでも、二流にはならない。一流と言っても良いだろう。そこの離れであれば、間違いなくそこそこの格を有していた。エルーシャは昔取った杵柄とそれを見抜いていた。であれば、納得も出来た。


「ま……とりあえず行くか」

「そうね」


 カイトはエルーシャと頷きあうと、そのまま再び歩いていく。幸いな事にカイトは今では街の顔役の一人と言っても過言ではない。なのでもちろん、このホテルの従業員達も知っていた。何度かこのホテルからの依頼を受けた事があったのだ。


「これは天音様。如何なさいました?」

「ミステリオンの方々に話をしたい。会えるか?」

「かしこまりました。幸い今はミステリオ様もいらっしゃいますので、伺ってまいります」

「頼んだ」


 カイトはホテルの従業員にアポイントを依頼すると、しばらくはロビーで待つ事にする。そうして十分程待っていると、今度は支配人がやってきた。


「天音様。お久しぶりでございます……お連れの女性は……デートでございますか?」

「いや、今日は仕事さ。で、こっちは同業者だ。同盟相手でな」

「ああ、それで……では、こちらへ」


 少しの社交辞令を交わしあった支配人はそう言うと、カイトとエルーシャをリオ達の起居する離れへと案内する。そこはホテルの本館とは僅かに離れた2階建ての建屋だった。冒険者がギルドでやってきた場合等に使われる離れで、それ故にリオ達にも最適だった。と、その入り口付近ではイミナが鍛錬をしていた。


「あ、イミナさん。お久しぶりでっす」

「ん? エルか。なんだ。客はカイト殿だと聞いていたが、一緒だったのか」

「ちょいと仕事の話でな……元々彼女らが持ち込んだ仕事だが、ここら一帯だとオレのが顔が利く。故にオレが話を通した感じだ」


 汗を拭いながら首を傾げるイミナに向けて、カイトがざっとしたあらましを語る。と、その話に納得したイミナは支配人に一つ頭を下げた。


「支配人殿、取り次ぎ感謝する。後は私が取り次いでおこう。リオ様もすでに把握しているから、これ以上手間を掛ける理由も無い」

「かしこまりました。では、私はこれにて」


 イミナの許可を受けて、支配人が頭を下げてその場を辞する。なお、支配人の前でリオの名を出していたが、流石にこのホテルの上層部にはリオも顔と名前を明かしてきちんと挨拶をしていたらしい。

 なので支配人も知っていた、というわけだ。そして幸か不幸かカイト達もリオの事を見知っている。話しても問題無いというわけであった。


「こっちだ。リオ様が待っている」

「頼む」


 イミナは支配人から案内を代わると、そのまま離れの中へと入る。そうして移動したのは、主にギルドマスターが使う一番大きな部屋だ。そもそもリオはギルドマスターだし、主従としても主だ。当然といえば当然だった。そうして部屋に入ると、そこには当然リオが居た。


「お久しぶりです、二人共」

「ああ、久しぶり……と言っても、オレはそうでもないがな」

「そうなの?」

「この間、温泉行った。その時にお土産をな。それ以外に同じ街に起居していれば、何度かは会う」


 カイトはエルーシャの疑問にここしばらくで会っていた事を明かす。やはり同じく冒険者で、ギルド同士だ。ご近所付き合いというわけである。そうしてしばらくの雑談の後、二人は本題に入った。


「遺跡、ですか?」

「ああ。基本はオレが総指揮を執る事になっているんだが、今回は事の性質上指揮官が少なくてな。リオなら、そこら執り慣れているんじゃないかと」

「……まぁ、執った事は何度かありますが」


 リオはカイトの推測を認め、頷いた。元々高貴な出である事は彼女自身が明かしている。なら彼女も認めるしかなかったのだろう。


「で、頼めないか? そちらの目的に有用な物は無いだろうが……」

「……」


 カイトの問いかけに、リオは少しだけ目を閉じて何かを考える。そうして、しばらくの後。彼女が結論を下した。


「わかりました。お受けします」

「良いのか?」

「過去の戦いの形跡を見れば、歴史がわかります。かつてここら一帯を治めていた大帝国。気にならないわけではないですから」

「学術的な興味ということか……まぁ、それなら満たされるかもしれんか」


 カイトはリオの言葉を総括して納得する。リオ達の目的というのは行方不明になったという兄の捜索だ。それには有用ではないが、リオの興味という意味では意味がある事なのだろう。それを考えた結果と考えれば、受けても良いと判断したのだろう。


「それで、仕事は何時から?」

「ふむ……一応準備は公爵家も手伝って進めてくれているが……早くとも三日後という所かな」

「明日には私達が先に向かって準備を整えておくから、こっちは後で合流かな」

「一応移動はウチが持つ飛空艇を使うから、そこらは安心してくれ」


 カイトとエルーシャは二人でリオにこれからの予定を語っていく。そうして、合同調査隊は更にリオ達のギルドを加えて準備を進める事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1320話『疑念』

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