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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第65章 二つの森編

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第1312話 新たなる旅路へ ――ただし出発は未定――

 ソラが『木漏れ日の森』での異変を片付けてから、数日。全ての撤収の用意を終えた後、部隊はマクスウェルのギルドホームへと帰ってきた。というわけで、後片付けを他のギルドメンバーに任せるとソラは執務室に入って報告を先に済ませる事にしていた。


「ただいまー」

「おーう。どうやら、あれ以外に何か問題が起きたっぽい事はなさそうだな」

「おう、とりあえずな」


 出迎えたカイトの問いかけにソラは笑顔で頷いた。とりあえずあの後も撤収の準備だ他に異変が無いか調べたりして少しの間滞在していたわけであるが、エルフ達いわく森も異変は解決したと明言している、との事である。なので問題は無いだろうと判断したわけであった。というわけで、ソラはカイトへと今回の一件の報告を行っておく。


「わかった。マクダウェル家を通して、マクシミリアン家には注意と警戒を促す様にしておこう」

「おう……で、カイト。一つ相談があるんだけど、良いか?」

「うん?」


 ソラからの問いかけにカイトはソラの言葉を書い止めていたメモ帳から顔を上げて小首を傾げる。それに、ソラはここ当分の間悩んでいた事を打ち明けた。


「いや、さ……ちょっとだけ旅に出て良いか?」

「旅? どこに」

「わかんね」


 カイトの問いかけにソラははっきりと首を振る。とはいえ、その目的だけははっきりとしていた。


「なんってかさ。人手が欲しいんだよ」

「人手? 何か不足したか?」

「いや、そうじゃなくてさ……なんってか……えっと……俺専属の秘書、じゃないんだけどさ。そんな補佐してくれる奴が必要だって、今回の一件で気付いた」

「なるほどな……お前もようやくその段階にたどり着いたか」


 ソラからの申し出にカイトは少しだけいたずらっぽい笑みを浮かべて深く頷いた。そもそもソラが単独で無理だということなぞ、彼にはわかりきった話だ。というかわかっているからこそ、彼は優秀な文官達を集めていたし、魔導学園という学園を用意して育てている。人口こそ魔物の影響もあって日本より少ないが、領土面積だけであれば日本を遥かに上回るマクダウェル領。人手はいくらあっても足りないのである。と、そんなカイトにソラが半目で睨んだ。


「お前……やっぱわかってただろ」

「あったりまえだろ。お前が何時申し出るか、ってちょっとした賭けをティナとしてたぐらいだ。ま、遅すぎでノーゲームになっちまったけどな」

「お前らな……」


 楽しげに実情を暴露したカイトに対して、ソラは肩を落とす。大方そんな所だろうと思っていた。基本的な戦略や戦術は彼らが教えてくれているが、何から何まで教えてくれているわけではない。自分で気付くべき所には自分で気付く様に仕向けている。ここはまさにそれだった。


「とはいえ……そうだな。そういうことなら、行って来いと言うだけだ。何時から行くつもりだ?」

「まだわかんね。でも近々にはしとこうと思う。ユニオンの総会が近いだろ? あれには合わせて帰らないと、とは思ってる」

「そうだな。あれには帰ってもらわないと困る」


 カイトはソラの言葉にエネフィアのカレンダーを見ながら頷いた。ユニオン総会。それは言うまでもなく、ユニオンのギルドや有力な冒険者達が集まって話し合いが行われる総会の事だ。大抵は八大ギルドのギルドマスターやその大幹部が勢揃いする事になる。

 とはいえ、そうなると流石に全員が一緒に集まるのは難しい。なにせ大抵がランクSの化物だ。その依頼ともなると国家や大貴族が依頼する物も多い。なのでまだ詳細な日程は決まっていないものの、通例として秋の中旬には行われる事になっていた。

 今回、カイト達も勿論冒険部として招待されているし、彼の場合は更に別の思惑――大陸間連合軍絡み――でも招待されている。カイトは立場上どうあっても行かないといけない立場だった。となると、何時も通りソラには残留してもらう必要があった。


「ふむ……まぁ、オレが紹介しても良いんだろうが……そうだな。それは違うだろう。ふたご姫は知っているか?」

「……誰それ?」

「あっははは。オレの……いや、マクダウェル公としてのオレの婚約者の一人だ。いや、一人ってか二人だけど」

「もう驚かねぇよ」

「別に驚かせようとしてるわけじゃねぇよ」


 呆れ返ったソラに対して、カイトが肩を竦めた。ソラとしても自分の知らないカイトの恋人が居たとて今更といえば今更だし、そもそもカイトとてそんな事を言いたくて言ったわけではない。元々言いたかったのはその種族の事だ。


「珠族という特殊な種族なんだが……それについては?」

「ああ、そっちは流石に知ってるよ。物凄い長い寿命を持ってて、大抵の人がそれ故に賢者として崇められてるってすごい知恵者の……ああ、その二人か。前に挨拶来た事あったな」


 どうやら、ソラもカイトから言われて前に一度だけ挨拶に来た事のある少女らを思い出したらしい。あの時はその後の桜らの変化やらが印象的で忘れかかっていたが、そういう人物も居たと思い出したのである。


「ああ、そう言えば一度挨拶に行った、とか言ってたか。で、珠族の一番の特徴は胸の所にコアがある事だな。それでひと目で彼らだとわかる。まぁ、わかるから大抵は隠してるけどな。あれ傷付けられると拙いし、一時期それ故にそのコアを狙われてひどい目に遭ったからな」

「それは知ってるよ。それで、それがどうしたんだよ」


 当たり前といえば当たり前の事を言われて、ソラはその先を促す。ソラも一応はこの世界の種族の内、有名とされているものや何らかの事情、知っておかねばならない理由のある種族については把握している。この珠族は知っておかねばならない理由がある種族だ。が、それがここでどう関係してくるのか。それがわからなかった。


「彼女らに会いに行け。彼女らの伝手を辿って、賢者に少し弟子入りしてこい。それで見えるものもあるだろう。少なくとも、彼女らの見立てで選ばれた賢者であれば、お前の糧になってくれるはずだ」

「良いのか?」

「あはははは。今更だな。それに何より、地道に賢者を探すってのは不可能に近い。いや、そもそも賢者とは隠者でもある。基本、賢人ってのは英雄が招かないと歴史の表に出ないもんだ。故に、人伝を頼る。古来からな」


 カイトは笑って賢者達の見付け方を教えてやる。実際、この間招いたリルとてそうだ。あれは賢者を賢者と知らず接触したという例外にも近かったが、多くはあれが通常だ。と、そうして笑った彼であるが、一転真剣な目をする。


「が……覚えておけ。賢者は賢者故、人の性根を見極める事が非常に長けている。故に賢者を招けるかどうか、弟子入り出来るかどうかはお前次第だ。彼女らが良縁と思っても、実際に良縁とは言い切れない可能性もある」

「……わかった」


 ソラはカイトの言葉をしっかりと胸に刻みこむ。そうして一頻り注意事項や方針についての助言を与えた後、カイトは一つ深く椅子に腰掛けた。これで重要な事は終わりだ。なので気楽に、というわけだった。そしてそんな彼が一つ頷いて視線を落として、ふとそれに気付いた。


「で……それ、なんだ?」

「え? あ、おっと……そういや忘れてた。これ、えっと……エルネストさんからシャムロックさんに返してくれって」

「ん?」


 カイトが首を傾げたのを受けて、ソラはエルネストから預かっていた神剣を彼の机の上に置いた。


「実は戦いで武器壊れちゃってさ。これ、代用品として借りてた。あ、きちんとエルネストさんにも許可は取ったぞ? 流石に帰りの得物が無いとどうにも出来ないからさ」

「これは……神剣か。使ったのか?」

「あ、うん。頭の中に使い方を直接叩き込まれたってか……そんな感じで」


 ソラはそう言うと、あの戦場であった事をカイトにつぶさに語っていく。それを聞いて、カイトが妙な感慨を得ていた。


「はー……お前もまさかそこまで成長していたとはな……今回は良い旅路だったみたいじゃねぇか」

「ん? どういうことだよ?」


 カイトのつぶやきにソラが首を傾げる。確かに神剣を使ったが、それはエルネストの補佐があっての事だ。驚かれる様な事ではなかったと思っていた。


「いや、普通神剣ってのはいくら英雄の補佐が無くても武器そのものが使い手に資格を求めるものだ。例えば、こいつとかその最たる例と言って良いだろう」


 カイトは己が持つ大鎌を取り出すと、それをソラへと提示する。そうして、彼はソラへと大鎌を差し出した。


「持ってみな」

「おう……あ、意外と……おもっ!? 何これ!?」


 見た目に反して意外と軽い。そう言おうとして、即座にその重さに大鎌を取り落とす。が、それは唐突に重くなった様な感じだった。


「わかったろ? 本来、神剣等の神器ってのは使い手が己の使い手足り得るか、という審査がある。だからいくらオレが手渡したからってお前はシャルの神器を手にする事は出来ない。これが無昧な奴であれば、確実に死神の鎌はその名に恥じぬ結末をもたらすだろう」

「んな怖いの持たすなや!」


 カイトから教えられた結末に、ソラが思わず声を荒げる。まぁ、そう言いたくなるのも無理はない。が、もう一つ更にソラが良い事があった。


「あっははは。それでも、お前はそうはならなかった。お前はその神剣を使うに値する男だと認められたわけだ。それにこいつにとって、その神剣の主の主は自分の主の兄だ。その神剣を使える者であればこそ、重い程度で済ませてくれた。もし状況が合えば、お前も使える可能性はある。まぁ、あるだけだし、その場合近くにオレが居るだろうからそもそもオレが使え、という事になるんだろうがな」

「へー……」


 何か良くはわからないが、とりあえず自分が成長した結果、この神剣を使える程度にはなっていたのだ。ソラはカイトの言葉からとりあえずそれを理解する。

 というより、それ以外に理解が出来なかったらしい。そしてそれで良い。別にこれらの解説を全て理解する必要なぞない。心の隅にでも留めておけば良いだけだ。というわけで、ソラは早々に思考を放棄してカイトへと申し出た。


「って、まぁ、そりゃどうでも良いんだよ。というわけで、これ返しておいてくれよ」

「いや、それはお前が行くべきだろう」

「俺が?」

「お前が、返してくれと頼まれた。であれば、お前が行くべきだ。勿論、流石に神々の王ともなるとオレも一緒に行くべきだろうし、行くがな。それでも、お前が直々に返すべきだ」


 自らを指で示したソラに対して、カイトははっきりと道理を説く。これに間違っている事はないだろう。幸いカイトの立場としても、今回ソラが為した偉業を考えても十分にシャムロックに謁見は可能な状況だ。ならば、彼が返すべきだった。


「ま、そうなると急ぐ必要があるか……椿。悪いが予定を空けてくれ。かつての英雄が使った神剣だ。これは全てに優先される事だろう」

「かしこまりました。ギルド内への通達と共に、即座に予定の調整を掛けます」

「頼む……ソラ、お前も準備をしておけ」


 カイトは椿に予定の調整を任せると、そのままソラへと向き直った。出来る事なら明日か明後日には出たい所だった。帰還して早々ではあるが、善は急げとも言う。ソラが旅に出たいと言っている事もあることだし、替えの武器を見繕う必要もある。急ぐべきだった。


「あ、おう。何時までにしておいた方が良い?」

「由利とナナミさんの二人に頼んで、即座に替えの衣類を用意してもらえ。出来る事なら明日、不可能でも明後日には出る。なに、一泊程度だ。そこまで大きな荷物にもならんし、食事類は向こうでなんとか出来る。浮遊大陸だからな」

「あ、そういやそうなんだっけ。わかった。そういうことなら急ぐよ。このおかげで、俺も助かったからな。じゃ、行ってくる」


 カイトの指示にソラは一つ頷くと、そのまま執務室を後にする。そうして彼が去った後、カイトは一つ呟いた。


「……偶然か、必然か……いや、必然なのだろうか」


 カイトはそう呟いた。それに、椿が首を傾げた。


「どうされました?」

「……この時代。このタイミングで神剣は奴を担い手と認めた。神剣とは英雄の証の一つ……ソラはおそらく、遠い未来で英雄と呼ばれる事になるだろう」

「シャムロック様が保有を認めると?」

「認めるさ。だからわざわざ自分で行け、と言ったんだ」


 椿の問いかけにカイトは薄く笑う。何も道理だから、と言ったわけではない。このタイミングでソラが武器を失い、代わりに神剣を手に入れたのだ。偶然とは言い難い。おそらく、運命だろう。が、そういうことは生きていると度々起こるのだ。カイトには不思議には思えなかった。


「……すぐには帰る。ナナミと由利の二人の予定もソラに合わせて空けておいてやってくれ。そう遠くないタイミングでソラが出掛ける。早ければ収穫祭の後。遅くともその数ヶ月後だな」

「かしこまりました。では、こちらもご準備を」

「ああ、頼む……書類はこれで良いのか?」

「はい。そちらをお願いします」


 椿はカイトの指し示した書類を見て頷いて、その場を後にする。彼女が帰ってくるまでにカイトが終わらせておくべき書類は机の上に乗っている分だけで良かったらしい。そうして、カイトとソラはひとまずの書類仕事を終わらせると、一路浮遊大陸を目指して出発する事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1313話『神域へ』

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