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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第65章 二つの森編

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第1301話 森の遺跡 ――悩み――

 狼達の助言を得て里へと帰還し、ソラ達冒険部の道案内役を務めるウェッジの兄にして『木漏れ日の森』のエルフ達の里の戦士長を務めるシルドアという男性と協力して事に臨む事になったソラ。

 挨拶時には無愛想だったシルドアであったが、意外と面倒見が良い事が発覚してソラは運良く彼から指南と助力を得る事が出来る様になっていた。そんなソラ率いる冒険部と『木漏れ日の森』のエルフの戦士団の混成部隊は先史文明の遺跡を目指して進んでいた。


「ウェッジ。もうそろそろか?」

「ああ、兄さん。この岩があるから……もう10分もすれば見えてくるはずだ」


 シルドアの問いかけにウェッジは少し離れた所に見える成人男性程の苔むした巨岩を見ながら頷いた。なお、苔むした巨岩だが、ソラ達にはどうすればこの違いがわかるのか、と思える程にこの森では何度も見た物だった。おそらく次にこの位置に似た巨岩とすり替えられても間違う自信がソラ達にはあった。


「……ああ、この木から西に……良し。見えてきた」


 道案内役のウェッジが一つ頷いた。そしてそれと共に、ソラ達の目にも開けた場所が見えてくる。


「うっわ……」


 何処かのゲームにでも出てきそうだ。ソラは見えた光景に息を飲んだ。広がっていたのは、明らかに今までとは違う光景だ。石作りの構造体の残骸がそこにはあった。


「凄いだろう?」


 息を飲むソラを見て、ウェッジが自慢げかつ誇らしげに手を広げる。それは確かに残骸だったが、明らかに住居や研究所などとは違う様子が今でも見て取れた。

 敢えていうのであれば、神々しささえあった。神殿というのも頷ける。そして同時に、常にはお高くとまっている様なエルフが興奮するのもわかろうものだ。この森で一番、それこそ先の巨狼よりソラも圧倒された程の威容だった。


「あぁ、この威容。そしてこの木漏れ日…まさにこの森の縮図だ。そして何より、この滅びた神殿を優しく包み込む森の暖かさ……あぁ、なんとも心地よい」

「はぁ……また始まったよ」

「ここに来るとウェッジは何時もこうだよね」


 興奮を隠せないウェッジに対して、里の同胞達は呆れ返る。どうやら、彼らには慣れっこの事らしかった。そしてそれは兄のシルドアからすると、もう何も不思議に思えない程だった様だ。


「ソラ。号令を出せ。この近辺に一時的な拠点を作ってそこを拠点に、遺跡の調査をしよう」

「え? いや、あの……あれ、良いんっすか?」

「放っておけ。自分の仕事はした。あの場からは動かんから、問題もない。見通しも良いから、余程馬鹿でもないと魔物の接近に気付かんということもない。この遺跡の西の外れに開けた場所がある。そこなら良い空き地があり、この人数でも大丈夫だ」

「は、はぁ……」


 完全にスルーする事にしているらしいシルドアのアドバイスに、ソラも気を取り直して指示を執る事にする。


「よーし! この遺跡の西を臨時の拠点にするぞ!」

「「「了解」」」

「里の者は彼らが拠点を作る間、周辺を警戒しろ。何が起きるか分からん。常に三人一組を心掛けろ」


 ソラとシルドアの号令を受けて、部隊が再び動き始める。そうして、ソラ達はここらを探索する為の拠点の設営を開始したのだった。




 そうして始まった野営地の設営作業だが、これについては二時間ほどで終了した。そもそも野営地といっても単に一時的に休める場所を確保する、という程度だ。何か特別な設置作業があるわけでもない。


「天城ー。こっち終わったー。数日なら、これで大丈夫なはずだぞ」

「おーう!」


 ギルドメンバーの言葉にソラが声を上げる。これでソラの担当分は全部終了だった。そして時同じく、シルドアも報告を入れる。


「ソラ。右翼の手配はしておいたぞ」

「あ、ありがとうございます」

「次は何かあるか?」

「えっと……」


 ソラはシルドアの問いかけに少しだけ、自分たちがここでするべき事を考える。


(指揮所……これは俺達でやったな。問題なし。結界の展開はやってくれた。応急処置のスペース……確保した……)


 ソラは幾つもの事を考えていく。それに、シルドアがため息を吐いた。


「はぁ……いちいち思い出すぐらいなら、チェックリストを作れば良い。当分はそれでやれ」

「あ、はい」

「うぅむ……」


 ソラの返答を見ながら、シルドアは僅かに畏怖を感じていた。それは勿論、ソラにではない。これはおそらく見様見真似だというのが彼には分かる。チェック・リスト無しでも今まではなんとかなっていたということは、それだけ十分に手配が行き届いていたという事だ。格の違いを思い知らされる格好だった。


(明らかに、彼らとは性能が違うのか。思考の並列処理。己への支援体制の充実。彼らへの事細かな支援。勿論、ソラでも年齢と経験を考えれば十分に高い。それ以上となると、最早その才能は英雄級だぞ……どんな男だ……?)


 シルドアは僅かに垣間見えるカイトの能力に内心で恐れおののく。それはやはり、彼ら冒険部を日本から来て一年未満の集団としてしか見ていないが故の誤解ではあった。


(いや……それだけではない。聞く限り、同年代では物凄い才能と潜在性を有する者を総ざらいに確保している。自分が居なくても回せる様に、手配も怠っていない。どれだけの人望と慧眼、先見の明があれば出来るのやら……)

「どうしたんですか?」

「あ、ああ、いや。何でもない」


 唐突に思考の海に沈んだシルドアを訝しんだソラに対して、彼は慌てて思考を切り上げる。今は、目の前のことをする必要があった。


「仕方がない。まず、お前は指揮所に篭ってまず自分たちが何をすべきかを書き出せ。それへの道のりはアドバイスしてやる」

「え? でも探索は……」

「私が指揮しよう。ここの周辺だけだ。万が一にはお前も介入できる」


 シルドアはまず、ソラに指揮に専念させる事にした様だ。確かに彼の腕は確かでシルドアから見ても非常に有用だったが、同時にそれ故に彼はあまりに自分で背負い込み過ぎていた。それを何とかするのが、肝要だった。


「あ……じゃあ、頼みます」

「それで良い。基本的に自分の仕事を如何に楽にするか。指揮官はそれを考えろ」

「はい」


 ソラはシルドアの助言を素直に受け入れる。ここら、ある意味ではカイトが悪いとしか言いようがない。彼と彼の布陣は有能過ぎるし、何より慣れがあり過ぎる。

 かつては新人だったクズハ達は今では実力者だ。そしてカイトもティナも地球でも為政者達とやり合っていた所為で前よりも経験を積んでいる。ソラや冒険部が基準なら決して出来ない事が彼らには出来てしまうのだ。


「うーん……」


 指揮所に突っ込まれた様な形のソラは指揮に専念する為の準備をしながら、同時にその更に次を考えていた。


(軍師、かぁ……)


 誰が居るだろうか。ソラは並行してそれを考えていた。が、即座には思い付かなかった。というのも、実は冒険部上層部には頭脳派なぞ居ないからだ。いや、それどころか冒険部には皆無と言って良い。


(そういや……ぜーんぶカイトがやれちまうんだよな、ウチだと……いや、あいつしか出来ないってのもあるんだけど……)


 ソラは今になって、カイトが椿を大金贖ってでも身請けした理由が良く分かった。彼は自分だけで回らない事をあの時点で理解していたのだ。


(ティナちゃんは……出来ても不思議はないか。天才だし……いや、でも確か……)


 ティナには四天王が居る。そう聞いた事があったのを、ソラは思い出した。そして現に今魔族達を治めているのは彼女らだ。つまり、ティナでも無理だという事だ。


(どうすりゃ良いんだろ……サリアさんに聞いてみる? いや、まず金取られるだろうし、そもそもそんなのが居るのならウチが雇用してますわよ、とか言いそうだよな……)


 多分、言う。ソラはそう思っていた。そして事実、言うだろう。カイトも言うだろう。


(くぁー! そりゃ、三国志だなんだで英雄達が隠れた賢者を求めるわけだ! 諸葛亮が優遇されるわな!)


 ソラはようやく、古代から為政者達が賢者を優遇した理由がよく理解できたようだ。たった数十人を一週間程度指揮するだけで、ご覧の有様だ。万単位、下手をすると億単位になれば一人だけで回るわけがなかった。


(どーすりゃいいんだろ……)


 カイトに頼めば良い。それはそれで正解の気もしないではないし、不正解ではないだろう。が、それは違う気がした。彼の与えてくれる人材は確かに有能だろう。が、自分専属ではない。

 ここで手に入れるべきなのは、自分専用の専門家だ。カイトが必要に応じて与えてくれるのではなく、必要でなくとも共に居てくれるある種の相棒だ。敢えて言えば、カイトにとってのティナと同じだ。二人三脚でこれからを行ってくれる相棒が必須だと思ったのだ。


「悩んでるー?」

「結構」


 由利の問いかけにソラは恥じる事なく頷いた。と、そうして由利を見たからだろう。少しだけ、彼女に意見を聞いてみる事にした。


「そういやさ……由利が率いてたチーム」

「んぐっ! ちょ、急に思い出させないでよー!」

「あはははは」


 ぽこぽこと真っ赤になりながら自らを殴る由利にソラは笑うが、別に茶化したかったりしているわけではない。きちんと理由があっての事だ。というわけで、ひとしきりじゃれ合った後、由利が問いかける。


「もー。で、それがどしたのー?」

「いや、一応ヘッドだっ、ぶべ!」

「言い方悪い」

「ご、ごめん……」


 流石に一度目は笑って赦した由利であったが、二度目の失言は駄目だったらしい。ソラの脇腹目掛けて肘鉄を打ち込んでいた。とまぁ、そこでまた脱線するわけだが、今度はソラが脇腹を擦るのを止めた所でジト目の由利が話を戻す事にする。


「で、それが?」

「は、はい……えっと、とりあえず由利、昔走り屋のトップ張ってたじゃん」

「まぁ、ねー」


 恥ずかしげにではあるが由利としても知られているので認めるしかなかった。と言うより、この時代は由利、ソラ、魅衣の三人は絶賛反抗期だったわけで、由利はソラの言う通り走り屋――勿論、バイク――集団のトップ、ソラは高校生相手に喧嘩を売って幾つものチームを壊滅状態に陥れた一匹狼の不良、魅衣は非合法の地下闘技場に出入りする危険な女だった。全員にとってこの時代は黒歴史なので、カイトとティナ以外は誰も自分から語ろうとはしなかった。


「で、そうなるとサブ? みたいな人居たのかな、って」

「あー……」


 由利は自分の黒歴史ではあったが、そこにソラは少しの取っ掛かりがあるのかも、と思ったようだ。かつて由利が率いていたのは十数人規模と今の冒険部とは比較にならない程に小規模だが、それでも組織は組織だった。なら、そこに手がかりを求めても不思議はない。


「……一応、居たかなー」


 由利は相変わらず恥ずかしげであるが、それで恋人の苦悩が少しでも晴れるのなら、とその当時の事を思い出す。なお、一応念の為に言っておくがこの時代でも中学生がバイクに乗るのは違法だ。なので実は由利には何度か補導歴があったりする。

 とはいえ、勿論今は一切法律を犯す様な事はしていないし、するつもりもない。今では趣味になったバイクもきちんと免許を取って、合法的に手に入れた物だ。成人と同時に補導歴は消えるだろう。


「ほら、お雪覚えてる?」

「ああ、あの人?」


 昔を思い出したからか口調の戻った由利の問いかけに、ソラが頷いた。雪というのは勿論、氷の大精霊の雪輝の事や冬やカイト達の所で降っていた雪の事ではない。女性の名前だ。由利の馴染みの女性で、数歳上だったが当時の由利と懇意にしていた女性だった。今でも――と言っても勿論地球に居た頃は、だが――時々は会って話をするらしい。


「雪が一応、ウチが居ない時なんか取り纏めてた。なんだかんだ雪も面倒見良いし、筋通せるから」

「あー……そういや、そうだよな……」


 ソラはちょっとした縁で出会ったその雪という女性を思い出して、由利の言葉に納得した。敢えて言えば姉御肌の女性といえば良いのだろう。そんな女性で、走り屋だった時代から面倒見は良かった。


「でも……そういうのとは別に賢い子も居たよ」

「そうなのか?」

「うん。あ、ソラは会ったこと無いっけ」

「誰?」

玲羽(りょう)……まぁ、正確にはレイハなんだけど。誰かが間違えてリョウって呼んで皆なんでかそっちで呼んでた」

「あ、会ったこと無い」


 聞いたことはあったが見たことの無い名だった事で、ソラは自分が知らない人物だと言う事を理解する。


「まぁ、そうだろうね。だって基本、メカニックに近いから。一応走って調子確かめてはいるけど、そこまで走らないもん」

「あー……」


 それは知らないわけだ。ソラは納得して何度となく頷いた。


「基本、雪がみんなの面倒見て、玲羽がそこに方針決めて、って感じ」

「由利は?」

「基本、走ってた。走り屋は早い奴が偉い、って感じだから」

「あ、あー……」


 そう言えばそうだった。ソラも当時の由利が今とは全然違う無愛想な性格だった事を今更思い出して、納得する。今の面倒見の良さは基本、彼女の継母と父の間に弟が生まれた後からだ。なので当時は違うかったのである。


「まぁ、でもそういうわけだから、基本、ウチはこの二人がチームの面倒見てたかなー」

「あー……あ、ありがと。なんか今の俺に足りないのわかった気がする」

「そっか……じゃ、お茶でも入れてくるねー」

「おーう」


 ソラは由利のアドバイスを有難く受け入れて、いつもの様子でお茶を入れに行ってくれた彼女を見送った。


「やっぱ、必要だよな……」


 頭脳に優れた人材が必要な事を、ここでもソラは理解する。そうして、これは本格的になんとかすべきなのだろう、と思い直した彼は、それで思考を切り替えて本格的に指揮の作業に取り掛かる事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1302話『森の遺跡』

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