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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第65章 二つの森編

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第1300話 助言

 狼達の群れとの会合を得たソラ達冒険部一同であったが、狼達のボスである人語を話す巨狼を介しての森との対話により、どうやらエルフ達が外に増援を求めた事を含めて全てが森の意思だった事を理解する。

 同じくその森の意思により何も知らされていなかったエルフ達の求めにより予定を変更して里に戻ったソラ達は、ひとまず彼らの申し出により休憩を取る事にしていた。


「……多分、カイトを呼んでたってわけなんだろうけど……」

「どういう事なんだろうねー?」


 ソラの呟きに応じた由利が首を傾げる。おそらく森が呼んでいたのは、カイトだろう。それは話の流れというかクズハがこちらに差し向けた事等を加味して考えればすぐにわかった。


「何が目的なんだろ」


 森が自分達を陥れる事は無いだろう。ソラはカイトと自分達の繋がりを考えて、そう考えていた。であれば、何らかの助けが欲しいというのは事実の筈だ。それ故、ソラは森が何を求めているかを考え始める。


「……大昔の戦いに原因がある、ということは多分、遺跡の関連だよな……」


  ソラは一度、地図を見直してみる。幸いな事に日本の教育制度と彼らの善良と言って良いだろう性質が相まってエルフ達から遺跡の多くを教えられている。明日以降はそこへ向かう予定になっている。


「……うーん……でも森に異変が波及してない、ってことは少なくともこの前みたいな事にはなってない、って事なんだから……」


 ソラは地図や今まで自分が得てきた情報から、何が起きているかを推察し始める。そもそもこれを考える事が仕事だ。が、今日得た情報で答えに近付けるかもしれなかった。

 とはいえ、やはりソラでは頭が足りない。この場合は知識もそうだし、発想力や思考力もすべてが、だ。故に作業は難航する。


「……何かは、起きてるんだろうけど……どういう感じで挑めば良いかな……あ、分散させる予定だったチームはなら一つに纏めて、数で戦える様にした方が良いよな……それなら輪番制の見直ししないと……」


 ソラは幾つもの可能性を浮かべては、それに対する対応策を考えていく。そうして、彼はこの日一日偶然にも手に入った時間の大半を明日からの予定の見直しや探索チームの組み直しに費やす事にするのだった。




 ソラが作戦の組み直しをしていた一方その頃。エルフの里の中心の里長の家では、ウェッジ達が里長に報告を入れていた。


「ふぅむ……なるほど。森が……」


 彼らはやはり森の声を聞こえる。なので嘘を言っているか言っていないか、というのは一目瞭然だった。なのでウェッジの報告は即座に真実と捉えられ、次にどうするか、という会議に入っていた。


「何故、我らでは駄目なのか……それは聞いても答えぬか」


 里長は自分でも何度か森に問いかけて、答えを与えてくれなかった事をしっかりと理解していた。そしてであれば、主体はソラ達に任せるべきなのだろう、と彼も考えていた。だが、それでは彼ら森に住まう者達の名折れだ。


「……仕方があるまい。里の戦士達に指示を送る。各地に散っている戦士達を集めろ」

「わかりました」


 里長の指示を受けて、エルフの男が頭を下げる。ソラ達は気付いていなかったが、実はソラが気付いた監視とは見せられていた監視だ。あれ以外にもこの森の各所に監視が居て、それが密かに冒険部を見張っていたのである。

 が、改めてはっきりと森が彼らに任せると言ったのだ。それはエルフの監視を引かせても良いという事だろうし、監視に費やしていた人員で彼らへ協力せよという事でもある。

 そうして、一時間程するとその場に数人の戦士達が現れた。そうしてその中から、戦士達を取り纏めている男が跪いた。ウェッジと同年代の男で、彼の兄だった。


「里長。お呼びですか?」

「うむ……先程、お主の弟が彼らを連れて狼達の所に挨拶に行った」

「存じ上げております」

「そうか……うむ。儂が語るより、森から聞く方が早い。森に先の一件、問いかけてみよ」

「わかりました」


 ウェッジの兄は里長の言葉に少しだけ意識を集中して、森との交信を開始する。言葉を交わすより、森の声を聞いた方が正確だし手間も少ない。エルフ達の間では普通にこういう事は良くある事だった。そうして、少し。ウェッジの兄が僅かに驚いた様な顔で顔を上げた。


「これは……真ですか?」

「真だ」

「……」


 やはり事態が事態だからか、ウェッジの兄は少しだけ不満げだ。とはいえ、森の言葉なので誰に文句を言う事も出来るわけではない。


「……わかりました。では、彼らと協力して遺跡を探れば良いのですか?」

「そうしてくれ。先の戦いに原因があるというのであれば、原因は必然として神殿なのだろう。何も無いとは思っていたのだが……何かあるのやもしれん」


 ウェッジの兄の問いかけに里長はソラ達への協力を明言する。何が原因か、というのは彼らにもわからない。わからないが、座視は出来ない事だけは事実だ。であれば、協力するしか彼らには無い。そうして、彼らは彼らで明日に備えて準備を開始する事にするのだった。




 明けて、翌日。出立前の事だ。ウェッジの言伝を受けたソラは彼と共に、里長の家に呼び出されていた。そこには勿論、里長とウェッジの兄が待っていた。


「おぉ、来たか……わざわざ呼び立ててすまんな」

「いえ……それで、どうしたんですか?」

「うむ……昨日の話は儂も聞いた。森がそなたらに協力しろと言っているのもわかった」


 里長はソラへと昨日の話を聞いた事を改めて明言する。そしてであれば、と里長は横に控えたウェッジの兄へと頷いた。それに、ウェッジの兄が口を開いた。


「ウェッジの兄のシルドアだ。この里の戦士長をやっている」

「は、はぁ……」


 むすっとした様子のシルドアに、ソラは若干困惑しながらも頭を下げる。そんなシルドアの横、ウェッジが少し苦笑して兄の無愛想に謝罪した。


「すまん。兄も悪気があるわけではない。森が信頼してくれていないというわけではない事は分かっているが、やはり外から力を借りる事に戦士としての自尊心が傷付けられているらしくてな」

「あ、いえ。大丈夫です。その気持ちはわかりますから……」


 ウェッジもやはり兄だからだろう。何時もより柔和な顔でその無礼を詫ていたが、それに対してソラは慌てて首を振る。ソラとてシルドアの気持ちはわからないではない。

 シルドアは戦士。それも長だとすると、かなり長い期間この森に携わってきたのだろう。その戦士が他所から戦士を招き入れて事態を解決させよう、なぞと認められるわけがなかった。一種の縄張り意識というのに近いのだろう。とはいえ、シルドアとてすでに300歳以上だ。物の道理は分かっていた。


「別に気にしなくて構わん。不満が無いわけではないが、森がお前達が必要だと言ったのだ。であれば、何らかの理由があろう」

「はぁ……」


 どういう理由があるかはわからないが、わからないでも理由がある事は分かっている。であれば、シルドアはそれに折り合いを付けるだけだ。ここで一番危惧すべきは異変を解決出来ない事だ。だから、不満があれどもシルドアも協力は惜しまない。と、そんなシルドアに一つ頷いて、里長が告げる。


「こやつと戦士団をそなたらの指揮下に加えよう」

「え? こちらに、ですか?」

「うむ。森がそなたらを呼び寄せたのであれば、この異変はおそらくそなたらでしか解決出来まい。であれば、シルドアが指揮をするよりもそなたが指揮した方が良いのだろう。シルドアはこの森の者。外の見地が必要なのやもしれん」


 里長は疑問を呈するソラに対して、推測ではあるが彼なりの考えを語る。と、そんな驚きと困惑を浮かべるソラに向けて、シルドアが問いかけた。


「不満か?」

「い、いえいえ! まさか!」

「ならば、行くぞ。あまり長く時間を掛けても面倒になる。獣達の心配は無くなったといえ、夜の森には危険が多い。夕暮までにはこちらに戻るべきだ」

「あ、はい。じゃあ、失礼します」

「うむ……任せたぞ、若き戦士達よ」


 歩き始めたシルドアに続いて慌てて頭を下げたソラの背に、里長が激励を投げかける。そうして、そんな激励を背に、ソラは再び今日の探索を開始する事にするのだった。




 それから、数時間。やはりなんだかんだ言っても安全を重視したからか、道中ではほとんど何も問題も無く行軍は進んでいた。それはそうだろう。地の利のあるエルフ達に、木々に擬態する『トレント』種に対して特攻を持つソラだ。基本はエルフ達が魔物に気付いて、間合いの外からソラや由利が仕留めればどうにでもなる。今も、そうだ。


「<<草薙剣(くさなぎのつるぎ)>>!」

「ふむ……」


 一撃で安々と『トレント』種を討伐したソラに、シルドアは少しだけ感心していた。というのも、やはり彼が安々とこの森でも有数の強さを持つ『トレント』種を切り裂いていたからだ。

 やはりランクC程度にもなると冒険者でも楽に勝てないのが普通だ。楽に勝てる様になれば熟練や強者と呼んで良いと言える。それを安々と、それも防御が主体であるはずのソラが倒していれば感心もしよう。


「中々の腕か」


 おそらく自分と同程度。シルドアはソラの腕前をそう予想する。そして事実、大体同じ程度と言って良い。やはり戦士である彼は森の外の冒険者とどうしても関わらざるを得ない。なので凡そソラがどの程度かわかったのだ。

 なお、参考ではあるが彼の弟のウェッジは戦士ではないのでランクDという所だ。なのでシルドアはランクBでも中位クラスである事を考えれば、物凄い強いと言って過言ではないだろう。

 ウェッジが一般人なのに普通の一般人より強いのは、やはり長く生きているからだろう。その分経験も積んでいて、戦いを経験せざるを得ないからだ。更にはどうしても種族の差という物もある。基礎的な身体性能は人間よりエルフの方が高い。そこらを考慮した結果、というわけである。


「なるほど。この腕なら……」


 森が許諾したのもわからなくもない。シルドアは表情や態度には見せぬものの、ソラが少なくともこの事件の間は協力して良い相手なのだろう、と理解する。

 そしてだからこそ、彼はどうしても一つアドバイスを与えてやらねばならなかった。彼は真面目なのだろう。見るに見かねて、というよりも生来の生真面目さと面倒見の良さが見えていた。


「ソラ」

「え、あ、はい。なんですか?」

「少々、背負い込みすぎだ。もう少し部隊全体に仕事を割り振れ。今の魔物程度なら貴様が率先して倒す必要もない」

「あ、はい。一応、出来る事は頼んでますよ」


 ソラはシルドアのアドバイスに対して、少し慌てた様子で頷いた。そしてこれは間違いではない。出来る事は確かにソラも頼んでいて、任せている。そこに間違いはない。そんなソラの様子から、シルドアもこれが嘘ではないと見て取った。


「ふむ……であれば、問題は別の所か」

「はぁ……どうしたんですか?」


 歩きながらも少し悩む様なシルドアに対して、ソラが問いかける。彼からすれば唐突に助言をくれて、唐突に悩み始めたのだ。理解出来なくても不思議ではない。


「……ふむ……分遣隊を派遣しているのも問題の一つか……?」


 しきりに訝しむソラに対して、シルドアは冒険部の遠征隊の状況を見る。やはり300年近くも生きていて、部隊の統率という意味であればソラの何十倍もの年月を経験しているのだ。ソラよりも遥かに実務経験は豊富で、何が問題かを理解するのはそれで十分だった。


「ソラ。一つ問いたい。貴様は補佐官を持たないのか?」

「え、あ、それなら一応……彼女が」

「ふむ? 確か由利という名の少女だったか。が、彼女の専門は指揮ではないだろう?」

「ええ。弓兵ですからね」


 ソラから紹介されていた由利を見て、シルドアが問いを重ねる。その問いかけに、ソラは別に何か不思議もなく頷いた。が、これでようやく、シルドアは納得を得ていた。


「なるほど……ソラ。ならば、先達として一つ良い事を教えておこう。指揮の専門家を雇うなり、見付けた方が良い。それか、自分で信頼出来る前線指揮官を探せ」

「どういう事ですか?」

「まぁ、ここだから、という事なのかもしれんが……今の体制は無理がありすぎる。お前は指揮に集中するか、戦闘に集中出来るかどちらかの体制を整えた方が良い。もしくは、そのどちらでも可能な体制か」


 シルドアは部隊指揮の先輩として、ソラへとアドバイスを与える。すでに部隊は数十人規模だ。ソラが戦闘も指揮も、と出来る領域を超えてしまっている。それをやっているのが、今のソラだ。今回はまだシルドアが補佐してくれているので問題はないが、何時かは破綻が目に見えた話だろう。


「試しに聞くが、貴様達のリーダーはどういう体制だ?」

「上層部、という意味ですか?」

「そうだ。指導部だ」

「えっと……」


 ソラはシルドアの求めに応じて、冒険部の上層部についてを語っていく。と言っても語る必要があったのは性格ではなく、各々が得意としている事だ。そしてそれを聞いて、シルドアはただただ称賛しか出せなかった。


「なるほど……それは私から言える事のない布陣だ。いや、私からさえ、見習わせてもらいたいぐらいだ」

「ま、まぁ……俺もそうですから……」


 相手が勇者カイトだとは知る由もないシルドアに対して、それを知るが故にソラは半笑いだ。が、そうして感心して、シルドアは真剣な顔でソラへと話を戻した。


「分かっているのなら尚更、それを見習うべきだ。貴様はリーダーに人材の登用を願い出られる立場なのだろう? なら、それを有効に使え。マクダウェルは隠れた人材の多い地だ。そして隠れた賢人達と密かに繋がる地でもある。それを、探し求めろ」

「え……?」

「考えた事も無かった。そんな顔だな」


 驚きで足を止めたソラに対して、シルドアは少し楽しげに笑って頷いた。そして図星だった。自分で作るなぞ考えた事もなかったのだ。

 基本、人員はカイトが与えてくれるからだ。これは彼が悪い点もあるし、仕方がない側面もある。心配性の彼はどうしても、万が一に備えて彼が信頼出来る誰かを派遣するからだ。

 今回ならティーネだし、それでも無理な場合にも――ソラ達に隠れてだが――きちんと備えている。それでももし無理なら、自分が密かに控えている。どうしても、ソラ達にはそんな事に考慮が行きにくくなっていたのだ。


「探してみろ。謂わば軍師か。お前がこいつとならやっていけるという相手をな。かつて見た勇者カイトと、かの賢帝の様な、こいつなら喩え語らなくても信頼出来る、という相手を」

「……」


 ソラはただ、無言でシルドアのアドバイスに聞き入っていた。そんな彼がまず考えたとすれば、やはりカイトだ。が、彼では駄目だと即座に気付いた。彼の言う事であれば、素直に従える。信頼もし合っている。そう思える。が、そうではないのだ。

 ここで必要なのは、自分が前に出た際に自分に変わって指揮してくれる軍師。もしくは、自分が指揮しているのなら前で戦ってくれる戦士だ。前者であれば、そもそもカイトは違う。後者であれば、そもそもカイトにはティナという軍師が二人も居る。万が一にはあの世からウィルだって出て来るだろう。今更、ソラ程度の知識なぞ不要だ。

 今のソラは中途半端な存在だ。戦士としても、指揮官としてもどちらもやってしまおうとしてしまっている。が、規模を考えればどちらかに決めねばならないタイミングだった。もちろん、それは今すぐではない。相手も居ないのに選べるわけがない。だから、シルドアも笑ったまま頷いた。


「まぁ、探してみろ。この世界は広い。意外な所から見付かる事もあるし、なんだったらクズハミサ様に依頼して伝手を探してみるのも良い。優れた隠者の登用はクズハミサ様も喜ばれる」

「……ありがとうございました!」

「ははは。気にするな。まぁ、ここに居る間ぐらいは、私が手を貸してやろう」


 基本、面倒見が良い性格なのだろう。深々と頭を下げたソラにシルドアは気を良くして頷いた。そうして、ソラは次への指標を思わぬ所で手に入れて、今回はシルドアの言葉に甘えさせてもらう事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1301話『森の遺跡』

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