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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第65章 二つの森編

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第1299話 森の獣達

 『木漏れ日の森』のエルフ達の依頼により彼らの住処である『木漏れ日の森』へとやって来ていたソラ達冒険部遠征隊。彼らは一日目の調査を殆ど何事もなく終わらせると、二日目に入って調査を開始する前に道案内役のウェッジの案内で森の獣達の所に所謂挨拶回りをさせられる事になった。


「ここらに、狼の群れが居るはずなんだが……」


 ウェッジは周囲の音に耳を澄ませながら、なるべく物音立てない様に注意していた。その横、同じく物音を立てない様に注意するソラは数人の冒険部のメンバーと一緒だ。

 と、そんな中の一人、切り札として連れてこられたカナンへと、唐突にウェッジが視線を向けた。


「ど、どうしたんですか?」

「少女。貴様の祖は?」

「祖?……あ、金獅子です。お父さんが金獅子族で……」


 どうやら冒険者暮らしの長いカナンにはまだこういう種族としての言い回しは慣れないらしい。祖、と言われて咄嗟に何か分からなかった様だ。


「は……? い、いや、成る程。獣王ラカムを頂点とした一族の娘だったか……」


 カナンの返答にウェッジは僅かに驚くも、同時に納得もしていた。そうして、彼は唐突に屈めていた身を起こす。


「狼達よ! 里のエルフだ! 話がある!」


 ウェッジが声を上げて、狼へと声を掛ける。そんな彼にソラが驚いた様子で問いかけた。


「急になんですか?」

「ああ、すまない。中々出て来ないので森に聞けば、狼達がその少女に怯えている様子でな。こちらから声を掛ける必要があった」

「私?」


 言われたことが理解できず、カナンが首を傾げる。やはりここら、まだ彼女には高位の獣人という感覚がないらしい。


「獣人のハーフだとは聞いていたし、それ故に連れてくる様に言ったわけだが……まさかそんな高位の獣人のハーフとは思いもしなかった。これは私の手違いだ。許せ。神獣に近い匂いで、獣達が怯えている」

「怯えて?」

「いや、違うか。敢えていえば、前に出るのを憚っているというべきか。我々がハイ・エルフの方々を前にするのと同じ感じ、と思ってくれ」


 ウェッジはカナンの顔を見て、少しだけ言い方を変える。これはなんとなくだが、カナンにも納得が出来た。そんな彼女の横で、ウェッジは再び声を上げた。


「狼達よ! 何をそんなに怯えている!」


 当たり前だが、狼達は人語を話さない。故に言葉は返って来ないが、同時に森は何故狼達が出て来ないかを知っていて、教えてくれた。


「何? どういうことなのだ?」

「分からん……古き者?」

「王の末裔?」

「あー……そういうこと……」


 しきりに訝しむウェッジ達『木漏れ日の森』のエルフ達に対して、同じく森の声を聞いていたティーネは納得した様だ。


「私が代わるわ」

「分かるのか?」

「仲間なんで」


 ウェッジの問いかけにティーネは笑顔で頷いた。そして彼女が分かって代わるということなら、それは必然ウェッジ達には話すべきではないと判断したとウェッジ達も判断する。

 排他的というのは他種族に対してなのであって、同種でしかもクズハの配下のエルフであればほぼ無条件に信頼されていたようだ。故に、ウェッジはその場をティーネへと譲った。それを受けて、ティーネは声を上げた。


「気高き狼達よ! 私は北の森のエルフ! 彼女の仲間だ! 彼女は確かに王の子であるが、誇り高き獅子の子だ! 汝らの王の子ではないが、敵意は無い! 安心しろ! 獅子の王の子は汝らに協力する為に来た! カナン。貴方からも呼びかけて」

「で、出て来てくださーい……」


 ティーネが狼達へと語りかけ、そんな彼女の言葉を受けたカナンがおっかなびっくり呼び出してみる。と、その言葉にようやく、狼達が姿を見せた。


「あ……」

「来たか……ボスに会いたい。居るか?」


 ウェッジの言葉に応じて、群れの中から一匹の巨狼が進み出た。ひと目見ただけで、ソラ達にもこの狼こそが群れのボスだと理解できた程の威容を誇る巨大な狼だった。


『誇り高き獅子の子よ。古き王と同じ匂いをさせし月の子よ……そなたらは何用で来た』

「「「しゃ、しゃべったー!?」」」


 念話とはいえ響いて来た威厳ある声に、ソラ達が大いに驚いた。狼が話すなぞ想像もしていなかった。が、そんなソラ達に群れのボスはため息を吐いた。


『何を驚く。数十年も生きれば人の言葉の一つも覚えよう。それが数百にもなれば、喋れもする』

「は、はぁ……まじっすか……」


 色々地球の常識がまだ残っていた事にソラは内心でびっくりしつつも、取り敢えずボスの言葉に頷いた。とその一方の狼はソラ達に歩み寄っていた。


「っ」

「大丈夫よ。問題ないわ」

『そなたらが森に害を成しておらねば、だが』


 ティーネが警戒しない様に促す傍らで狼の群れのボスが少し冗談めかして、僅かな緊張を覗かせたソラへと語りかける。少なくとも、噛まれれば痛いではすまない。

 始めにソラだったのは、彼女もまたボスとしてこの集団で最も偉いのがソラだと分かったらしい。そうして、カナンを除いた全員の匂いをボスが嗅ぎ終える。


『……懐かしい匂いがそなたらの中に僅かに残っている……小僧。お主、大昔に我らの森に来た者達と知り合いか?』

「えっと……誰ですか?」

『妖精を連れた青年だ。彼らは我らの群れを守ってくれた事がある。まだ、私が長となる前の幼き日の事であるが』

「……あ。ああ、多分知り合いです」

『……嘘は、なさそうだ。良かろう。話を聞こう』


 ソラの目をじっと見つめて納得した群れのボスは、その場に伏せてソラと目線が合う高さまで身を屈める。どうやら、ソラを気遣ってくれたらしい。


「えっと……」

「貴様らが聞かれたのだ。貴様らが答えろ」

「は、はい……」


 ウェッジの明言にソラはおっかなびっくりという具合で今まであった事をこの巨大な狼へと語っていく。それら全てを聞き終えて、彼女は深い溜息を吐いた。


『そうか。そうだったか……うぅむ……それは森としても想定外だったのやもしれん』

「どういうことだ? 何か狼達は知っているのか?」

『知らないではない。少なくとも、森がエルフ達に黙っていた事は知っている』


 ウェッジの問いかけに巨狼はそう、明言した。が、これにはウェッジやその他『木漏れ日の森』のエルフ達が大いに驚いた。そうして、大いに驚いたウェッジはかなり慌てた様子で巨狼へと問いかけた。


「森が我らに隠し事を?」

『うむ……いや、これはそなたらエルフを信頼していないからではない。そなたらエルフを森の一部と考えればこそ、黙っていた事だ』

「……」


 そうであるのなら、わからないではない。ウェッジは同じ森に住まう獣達が自分達に嘘を言うとは思えない為、巨狼の言葉に納得するしかなかった。

 彼らエルフ曰く、森だってエルフ達に隠し事をするらしい。その理由は様々だ。いたずらっぽい森ならいたずらで隠す事もあるらしいし、この森の様に何らかの考えがあっての事もある。本当に人と同じ様に、森にも様々な性質があるそうだ。


『……ふぅむ……森が何を考え黙っていたのか。それについては、我らも古い記憶に記されている……エルフ達さえ知らぬ、遥かな過去に起きた戦いが原因だ』

「遥か昔の?」

『うむ……我らこの森の獣達が古くより語り継いできた古代の戦い……そこに、原因がある』

「古代の……もしやそれは、遺跡に関係があるのか?」


 狼達が知っているという古代の戦い。それについてはウェッジ達『木漏れ日の森』のエルフ達も思い当たる節はあったらしい。まぁ、これが無いという方が可怪しい場所だ。それに、巨狼も頷いた。


『うむ……遥かな過去。この地には神殿があった。それはそなたは良く知ろう。それを巡り、一つの戦いがあったのだ』

「ふむ……」


 ウェッジは自分の知識と照らし合わせ、巨狼の言葉がどういう意味なのかを探る。


「それがどうしたというのだ?」

『わからぬ。何があったか、というのは我ら獣達も知らぬ。それほどの昔の話だ。森のみが、そこであった戦いを知っている。それ故、森はエルフらには語らぬと決めた。我らはそれを知るのみだ』

「その戦いに何かの原因があると?」

『そうだ、と森は言っている。が、それが何故、どうしてというのは我らにもわからぬ。だが、森はどうしてかエルフ達に語らぬ事で外に救援を求めさせた』

「外に?」


 ウェッジが大いに驚いた。大抵、森での事は森の者達が処理する事になっている。故に今回もエルフ達がかなり前から行動を起こしていた。それでもどうしようもなかったからこそ、外に救援を求めたのだ。

 だがそれはどうやら、森の意思でもあったらしい。ただエルフ達のみ、それを何らかの理由で知らされていなかったというだけだった。いや、知っていれば排他的なエルフの事。多少無茶でも自分達で事件を解決しようとしたかもしれない。森は敢えて、知らぬ存ぜぬを通した可能性は高かった。


『うむ……森はエルフ達に事件の解決は出来ぬと考えた』

「森が、か?」

『うむ……森がそう言っている。そしてその証拠に、森はエルフ達には語らぬと決めていた。が、現状が森の思惑から外れていたらしい。我らを介して僅かに事情を語れと言っている』

「うぅむ……」


 ウェッジは僅かに唸って、今までの言葉に齟齬が無い事に頷くしかなかった。そして彼らにしか聞こえていないが、森もまた狼達の言葉に同意していたらしい。そうなっては彼らも納得するしかないのだ。


「……では、彼らを呼んだのは森の意思と?」

『半ば正解と言えるし、半ば不正解と言える。確かに外から助力を求めたのは森だ。森だが、本来の意図とは違う』

「どういうことだ?」

『わからぬ。森は誰かを待っていた。が、森は彼らで良いと決めた』


 巨狼はただなりゆきを見守っていたソラ達へと視線を向ける。どうやら、本当は別の誰かを呼びたかったらしい。らしいが、ソラ達でも十分だと思ったとの事だ。

 そしてそれ故、シルフィも語る様に言ったのだろう。彼女は自身で何が起きているか知っていると明言している。つまり、彼女はソラ達でも解決可能だと考えたというわけだ。


『わからぬか』

「何がだ?」

『何故、我らが語っているかが』

「どういう意味だ?」


 巨狼の言葉にウェッジが首を傾げる。そもそも狼達に挨拶に来て、その流れで森との対話をしているというだけだ。何故巨狼が語っているか、という所に意味はあまり見出だせなかった。


『……わからぬか。まぁ、お主はまだ若い……小僧。森に見込まれたお主は何かわからぬか』

「え? どういうことですか?」

『何故、我らがそなたらと語っているか。その意味はわからぬか、と問うている』

「は?」


 巨狼から唐突に水を向けられたソラは今まで傍観者だった立場からいきなり舞台に上げられ困惑するも、言われた意味を考えてみる。が、それは考えれば理解出来た事だった。


「俺達に聞かせる為……ですか?」

『うむ……彼らは森の声を聞けぬ。聞けぬ者達に森の事情を語るには、語り部が必要。我らに語り部役を森は命じた』

「では、彼らに解決させろと?」

『そう、いうことなのだろう』


 ウェッジの問いかけに巨狼は頷く。ここら、森の考えは彼ら森の住人達にもわからない。ただ察して考えるだけだ。


『……すまぬが、我ら森の獣はこの事件には関われぬ。人語を解し、人語を話す我らとて足手まといにしかならぬ』

「……いや、この話だけで十分だ。森の意図がわかったのであれば、後は我らエルフが彼らへと協力して解決に努めよう。森が何らかの理由で我らに彼らを呼び寄せさせたというのであれば、森は我らに彼らへの協力をする様に言っているという事だ」

『すまぬ。もし何か助力が必要であれば、森を通じて呼びかけよ。我ら程度でもそなたらの足にはなろう。森の獣達にも、我らから告げておこう』

「感謝する」


 巨狼の申し出にウェッジが頭を下げる。相手は同じく森に生きる者だ。獣だろうとなんだろうと、エルフ達にとっては対等の相手だった。そうして助力を明言して身を翻した巨狼に続いて、狼の群れがその場を去っていく。それを見送りながら、ウェッジがソラ達に告げた。


「……すまんが、一度里へ戻らせてくれ。里長にこの事を告げねばならん」

「は、はぁ……じゃあ、全員一度戻ろう」


 とりあえず今までより手厚い支援が貰える様になるらしい。それを理解したソラはウェッジの申し出を受け入れる。そうして、彼らは一向に掴めぬ森の思惑に従って支援を決めたエルフ達と共にかなり早目の帰還をする事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1300話

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