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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第65章 二つの森編

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第1295話 木漏れ日の森

 出発直前に間に合ったオーアからの注意喚起を受けつつも『木漏れ日の森』へと出発したソラ率いる冒険部遠征隊。彼らは一度ティーネの実家のあるマクダウェル領のエルフの村からハイ・エルフの治める地に入ると、『木漏れ日の森』とやらに到着していた。

 ここまでおよそ二日という所だった。通常竜車を使っても四日程の時間が掛かるそうなので、およそ半分で到着出来た、という所だろう。

 とはいえ、どうやらこの『木漏れ日の森』の異空間への出入り口はこの森のエルフの里から少し離れた位置にあったらしく、異空間から出て即座に里というわけではなかった。

 ここの出入り口は大昔――先史文明時代――にあった出入り口をそのまま活用しているらしい。里は少し離れた所だ、というのが道案内を担う事になったウェッジの言葉だった。


「ここが……すげぇ……」


 ハイ・エルフ達の異空間を抜けて見えた『木漏れ日の森』の光景に、ソラがただただ圧倒されて目を見開いた。一言で言えば、幻想的な森の風景だ。

 高い木から洩れる僅かな木漏れ日が筋を為し、周囲を幻想的に照らし出している。岩はどれだけの年月を経たのかほぼ完全に苔むしており、倒れて苔むした木々やそこから生える小さな植物がこの森が数千年に渡って何度も世代交代が起きた事をソラ達にわからせていた。

 おまけに、どこからともなくさらさらという小さな水のせせらぎも聞こえている。幻想的な森の光景、という言葉がこれほど見合う光景も珍しい程だった。


「そうだろう……ここが、『木漏れ日の森』だ」


 圧倒されるソラに対して、ウェッジが少し誇らしげに頷いた。排他的なエルフであるが、やはりその住まう森というのは誇りだ。故にそれに圧倒され魅了される者達に対して悪感情を抱くという事は無い。それは自らの誇りへの最大限の畏敬の念故だからだ。

 故に僅かに上機嫌になったウェッジが馬へと再び跨った。彼は道案内の為に馬に跨っていたのだが、ハイ・エルフ達の前という事があり降りていたのである。


「ついてこい。里に案内しよう」

「あ、うっす」


 ソラは先頭の竜車の御者席に座ると、ウェッジの案内に従って地竜を移動させる事にする。ここ当分の訓練もあり、御者程度なら薬を服用した上でなんとか出来る事になったらしい。ハイ・エルフ達の異空間への出入り口の通行許可証が彼名義だったので、今は彼が先頭の御者を務めていたのである。


「……」


 地竜達が地面を踏みしめる音とウェッジの乗る馬の蹄鉄の音を聞きながら、ソラは興味深げに周囲を見回す。やはり『木漏れ日の森』というだけあって、背丈のそこそこ高い木々が生い茂る森の中であるにも関わらず非常に明るい印象があった。

 と、そんなソラの後ろ。荷馬車の部分に連結されていた上層部愛用の移動基地というかキャンピングカーもどきの部分から、由利が顔を出した。今回は料理番として同行しているナナミやその他面々と共に話をしていた筈だが、何かがあったのだろう。


「ソラー」

「おーう。どした?」

「あれあれー」


 由利の言葉にソラは彼女の指し示した方角を見る。そこには、大きな岩があって表面は苔むしていた。が、この程度なら別に不思議な事はなにもない。この森の中であれば見慣れた光景の一つだ。と、そんな由利の言葉を聞いていたウェッジが少しだけ馬の歩く速度を落として並走し、感心した様に頷いた。


「よく気付いたな、少女……あれは先史文明の残骸だ」

「え?」

「ほら、よく見てみてよー」


 ウェッジの明言と由利の言葉にソラは目を細めて視力を魔術で補佐してやって、しっかりと観察する。よく見てみれば、確かに明らかに人工的な模様の様な形跡が見受けられた。


「レンガ……っぽい?」

「まぁ、ここに何があったのかは我々『木漏れ日の森』のエルフも知らん。が、住宅ではあったのだろう。ああいう痕跡がこの森の中には幾つもある」

「「へー……」」


 ウェッジの語りにソラと由利は二人して感慨深げに頷いた。何時この建物が崩壊したのか、何故この建物が崩壊したのか、元々はどこにあったのか、というのはこの森に住まう誰にもわからない。

 わからないが、少なくとも数千年前にここに文明があった事は確かだと理解出来た。そうして、そんな森の歴史に圧倒された様な二人に気を良くしたのか、ウェッジは少しだけ饒舌だった。


「もう少し奥に行けば、神殿だったと思われる場所もある。どんな神を奉っていたのかは知らんが、そこはもっと凄いぞ」

「そうなんっすか?」

「ああ……滅びた文明の儚さもあるが、同時に森の力強さというものや包容力というものが感じられる良い所だ。小鳥たちがさえずり、リスや山猫達が闊歩する。良い場所だ。時には小精霊達が来る事もある」


 鼻高々、とでも言えば良いのだろう。ウェッジは本当に興奮した様子でソラ達に語って聞かせる。それは森を誇りに思う者だからこその感情だった。


「まぁ、今回の調査ではそこも行く事になるかもしれん。私が案内するかはわからんが、畏敬の念だけは忘れんようにな」

「あ、はい」


 ウェッジの忠告にソラも素直に頷いて、そうするべきだろう、と心に刻む。少なくとも彼とて元々神殿だったと言われる場所で不敬な事はしたくはなかった。良くも悪くも、万物に神が宿るという考えの日本人だからこそなのだろう。そうして、そんな僅かな畏敬の念と共に、ソラ達は『木漏れ日の森』のエルフの里へと移動していく事になるのだった。




 ハイ・エルフ達の異空間を出て、およそ30分。ソラ達は『木漏れ日の里』のエルフの里へとやってきていた。とはいえ、盛大な歓迎なぞあるはずもない。それどころか何方かと言えば、遠巻きにされている感じがあった。少なくとも、歓迎されているようには見えなかった。

 とはいえ、曲がりなりにもシルフィの縁で連れてこられたのだ。出迎えがされなかったわけではない。故に里の出入り口の所には、一人の老齢のエルフの男性が立っていた。


「……来たか」

「里長。冒険者達を連れてまいりました」

「うむ」


 馬から降りて跪いたウェッジの言葉に里長とやらが頷いた。見た目の年齢としては60前後という所で、エルフの特徴である金髪にはすでに白髪が混じっており顔には深いシワが刻まれていた。顔立ちは厳格そうで、里長というのも頷ける風格があった。そんな彼を見て、ソラも御者席から降りて跪いた。


「はじめまして。ギルド・冒険部サブマスターのソラ・天城です」

「……そなたらが、風の大精霊様から頼まれた冒険者か」

「はい。全力を尽くす事をお約束しましょう」

「当然だ。そうしてもらわねば困る」


 やはり外のエルフは排他的なんだな。ソラは里長のどこか排他的な態度にそれを実感するも、予め理解していた事なので特に驚きもしなかった。強いて言えば、少し残念がったぐらいだろう。とはいえ、彼らは排他的であっても、不親切というわけではない。


「お前たちの為にこの里の東側に場を設けておいた。そこを使え」

「良いんですか?」

「構わん。我らは森の為に力を尽くそうとする者、森が拒まぬ者を拒む事はない。我らは森の一部。森の為に動く者を森は拒まぬ。故に、我らも拒まぬ。そして森の一部として、それへの助力は惜しまぬ。森も惜しまぬ」


 僅かに驚きを見せたソラの問いかけに里長ははっきりと協力を明言する。もしかしたら協力はあまりしてもらえないのかも、と密かに危惧していたソラであるが、これは彼の誤解というか、排他的と言われるエルフ達故に他種族が抱く誤解だった。

 彼らは確かに排他的であるが、決して不親切や非協力的ではないのだ。森に迷い込んだとあれば食料を支援してくれる事もあるし、道案内を買って出てくれる事もある。事と次第に応じては森の外の案件でも力を貸してくれる。森の奥深くに住んでいて排他的、というだけに過ぎないのである。とはいえ、勿論それには条件があっての話だ。


「が……狩りに出たりする場合には我々に一声かけてもらう。勿論、我々が同行もする。森を荒らされては叶わん。取って良い獲物等はこちらが指定しよう」

「わかりました」


 彼らの言うことは最もだし、ここに来る前にティーネから貰ったアドバイスもそうだった。彼らエルフはやはり森を荒らされる事を好まない。故に森に入ってからの事は基本は彼らに従う様に、と言われていた。勿論、そんな彼女も今回の旅に同行している。


「それと、里の中には静かに暮らしている者もいる。冒険者故に酒を飲んだりする、という事は我々も知っているが、なるべく騒がんでくれ。火の使用も注意してくれ。火は何より森の動物達が怖がる。それは望まない」

「はい」


 ソラは里長の再度の依頼に頷いた。ここら、やはり注文が多いのはエルフの特徴と言うべきか、やはり排他的だからという所なのだろう。排他的なのは事実なのである。


「では、後は好きにしてくれ」

「はぁ……あ、調査は何時から始めましょうか?」


 ソラは背を向けた里長に対して、慌てて問いかける。今回は遊びに来ているわけではない。依頼で来ているのだ。仕事を何時始めるか、というのは何よりも先に決めておく必要があるだろう。そんなソラの問いかけに、里長もそう言えば、と立ち止まって振り返った。


「……明日の朝、儂の家に来てくれ。地図を使って話し合おう。儂の家はこの里の中心にある。わからなければ里の者に聞くと良い。必要と思われる人材を連れてきなさい。が、里の者はよそ者を嫌う。あまり大人数では来んでくれ」

「明日ですか?」

「疲れた頭で何かを話し合っても上手くは纏まらん。まずはしっかりと身体を休めると良い。本来、我らも調査を頼むつもりはなかった。森がざわめいているという程度だ。異変を知らせてはおらん。急がずとも良い」

「あ……お気遣い頂きありがとうございます」


 ソラは里長の気遣いを有難く頂いておく事にする。確かにここ数日は移動だ準備だ、で目に見えない疲労は溜まっているだろうし、ここから野営の準備も必要だ。今回は人数がそこそこ多いので、里の宿屋を借りる事は出来ないのだ。そうなってくると、そこでまた体力は使う。一日休みが貰えるのなら、貰っておいて損はなかった。

 というわけで、頭を下げたソラに里長も一つ頷いて、共に連れて来ていた里の豪族達とウェッジを引き連れて里の中へと戻っていった。


「さて……あんまり大声は上げない方が良い、ってわけなんだろうな」


 森の動物達を驚かせない様にしてくれ、というのが里長の注文だ。依頼人の指示である以上、ソラ達としてはそれに従う義務がある。


「注文、多かったねー」

「あはは。マジでな」


 由利の言葉にソラは笑う。が、こんなものなのだろう、と納得もしていた。やはり物語に語られるエルフは排他的で、どこか居丈高だ。そう言う意味で言えば、今回彼らが出会ったエルフ達はそのイメージに近しいものがあった。


「よーし。じゃあ、さっさと野営の用意して、今日は休む! じゃあ、全員作業を開始だ!」

「「「おーう!」」」

「ソラー、さっそく忘れてるー」

「おっと」


 早速大声を上げて指示を出してしまったソラに対して、由利が指摘する。それにソラも慌てて口を閉ざして、彼らはその日一日を使って野営地の準備を整える事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1296話『木漏れ日の森の朝』

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