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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第65章 二つの森編

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第1294話 南の森へ

 ひょんなことから起きたシルフィの叱責によって、ウェッジと名乗るマクシミリアン領のエルフからの依頼を聞く事になったソラ。彼へとウェッジは話の粗筋を語っていた。が、それは敢えて言えば、要領を得ない話だった。


「森が……ざわめいている?」

「貴様ら人間にわからんのは分かっている。が、そういうものなのだ」

「はぁ……」


 何処か見下したのとは違うウェッジの言葉に、ソラが生返事で頷いた。ウェッジの態度は見下したというよりも諦めに近い。わからないのも仕方がない、という種族差を嘆いている様でもあった。そしてこれは本当に種族差によるもので、如何ともし難いものだ。


「何やら良くない気配が漂っている、というのが森の言葉だ。が、それ以外にはとんと分からん」

「それを、調べて欲しいと?」

「そう……言って良いのだろうな」


 ウェッジは何処か歯切れが悪かった。そんな様子に、ソラが少しだけ突っ込んで話を聞いてみる事にした。


「どういう事ですか?」

「元々、冒険者に頼むつのりは無かった。クズハミサ様にご相談というのが本来の目的だったのだが……」


 ウェッジは少しの苦渋を滲ませる。どうやら、彼らの考えとは少し違う流れになってしまっていたのだろう。


「クズハミサ様がこちらのカイトというギルドマスターに持ち込む様に、と言われてな。里長と相談して、仕方がなしにこちらに持ち込んだ」


 なるほど、とソラは納得する。どうやら入れ違いになってしまったか、クズハへと情報が上がる前にカイトが出発してしまったのだろう。アウラに報告が入っていて、クズハには後回しになった可能性もある。近くに居てもどうしても表向きは別組織なので起こる仕方がない事態だった。


「とはいえ。流石に風の大精霊様のお申し付けだ。こうなっては貴様らに頼るのが最適なのだろう」


 何故彼らをシルフィが選んだのかは、ウェッジにはわからない。分からないが、エルフにとってはシルフィが言う事が絶対だ。里長には相談できていないが、こうなっては仕方がなかった。彼の独断で語る事にしたようだ。後で里長にはシルフィが、と言えば問題はない。

 ちなみに、であるが。別にシルフィは彼らに依頼する様には言っていない。単に話を聞かせてやれ、と言っただけだ。それをウェッジが早とちりしただけである。ここは少しシルフィも想定外だった。


「はぁ……わかりました。我々もシル……風の大精霊様の言葉であれば、最善を尽くさせて頂きます」

「そうしてくれ。勿論、我々も風の大精霊様のお言葉だ。全力で支援する事を明言しよう」

「ありがとうございます」


 ウェッジの応諾にソラが頭を下げる。そうして、流石にこれ以上話を進めるのなら里長の許可が必要だ、というウェッジはその場を後にして、翌日彼がまたやってくる事になるのだった。




 そんな日から、数日後。それがカイトからの連絡があった日というわけだった。


『なるほどな……森がざわめいているか。確かに、こればかりはオレに持ち込もうというのも不思議がないな』

「たーぶん、里長さんに話を持ってってる間にルゥルさんが来て、って所じゃないか?」

『多分な。一応、こっちが急ぎと判断してアウラに言伝は頼んだが……クズハの所で報告が入れ違いになったパターンか』


 ソラの推測をカイトもまた認め、頷いた。当たり前だが、彼が動くのだ。各所に連絡と伝令は残されていた。


『まぁ、どうにせよお前の判断で受けた以上、そちらは頼む。可能なら瑞樹に頼んでオレもそちらに輸送して貰おう』

「頼むわ。一応、冒険部の活動範囲に入ってた森だから受けたけど……何が起きるかわっかんねーからな」

『注意だけはしておけよ』

「分かってるよ。これでも地球なら一年分は活動してんだぜ?」


 カイトの注意喚起にソラは笑って軽く流す。流石にこれだけの時間が経過すると、第一陣の面々はもう新米とは言えないだろう。油断が生まれる時期は過ぎた。あとは如何に実践出来るか、というだけである。そしてそれはカイトもわかっていた。だから、彼もこれ以上口酸っぱく何かを言うつもりはなかった。


『それは信頼してる。まぁ、あの森はオレも一度行った事がある。良い所だぞ』

「そりゃ、楽しみだな」


 カイトの言葉にソラが嬉しそうに笑顔を浮かべる。彼らが行く森の名前は『木漏れ日の森』。木々の間から光が溢れる良い森だそうだ。地球であれば森林浴で賑わいそうな森、とはカイトの言葉である。


『あはは。そうだな。たまさかの森林浴でも楽しんでこい……そう言っても先史文明の戦いの跡なんかがある。十分に警戒だけは怠るなよ』

「わーってるってさっき言ったろ?」

『それでも、念押しは必要さ』


 ソラの言葉にカイトはそう笑う。何かが起きたのか、それとも起きようとしているのか。それはソラにもカイトにもわからない。わからないが、わからないからこそ警戒だけはするべきだろう。


『まぁ、可能な限り腕利きを連れて行け。後、風の加護持ち多めにな。代理として必要な権限は与えている筈だ。必要ならアルでもルーファウスでも駆り出せ。が、残留組とのバランスは大事にな。相談は椿に頼め。一条先輩との調整も忘れるな』

「サンキュ」


 ソラはカイトのアドバイスを素直に受け入れる。これで可能な限りの人員を動かせるわけだ。なら、素直にそうさせてもらうだけだった。そうして、ソラはカイトとの相談を終えて再び作業に取り掛かるのだった。




 それから、二日後。ソラは与えられている権限をフル活用して出立の用意を整えていた。と言っても、今回はとある理由から荷物は少なめだ。

 シルフィが出たという事がどうやらハイ・エルフ達にも伝わった様だ。彼らが動いて、以前桜達が入ったあの空間への出入りを認めてくれたのである。カイトが拠点とする冒険部だ。シルフィが出たとて不思議はない、と即座に伝わったらしい。なので直接『木漏れ日の森』のエルフ達の里行きが出来る様になったらしい。


「さて……」


 ソラは出立の用意を監督しながら、次の行動を考える。既にハイ・エルフからの使者が来ていて、冒険部宛に通行許可証を渡してくれている。これを渡すだけで、後は目的地まで一直線だ。


「書類良し。武器良し……」

「ソラ。少し大丈夫か?」

「っと、先輩。どうしたんっすか?」

「ああ。オーアさんからの通信だ」


 準備の最終確認を行うソラへと、残留組の中でも武闘派として残る事になっていた瞬が通信機の子機を投げ渡す。やはり隠蔽などの関係から、彼女らからの通信は執務室限定でしか取り次げない。それもカイトの執務用の机限定で、基本は椿が応対する。が、それでもこちらに連絡があったというのだから、よほどの何かがあったのだろう。


「っと、すんません……うっす。代わりました。俺です」

『ああ、出たね。良かった。まだギリギリ出発前だったか』

「っすね。で、どうしたんっすか?」


 僅かな安堵を滲ませたオーアに対して、ソラが問いかける。今日から遠征というのは彼女はさっき聞いたばかりだったが、何か問題があったらしい。


『ああ。ちょっとあんたの武器の精密検査の結果がたった今、出てね。ほら、温泉から帰った後に総大将にやれ、って言われてたあれ。あれの結果でちょっと注意を促したかったんだよ』

「なんかやばいんっすか? 一応、今回も遠征だからきちんと調整はしてもらってるんっすけど」

『まぁ、やばいっちゃやばいんだが……どう言ったもんかねー……』


 僅かな不安の乗ったソラの言葉に、オーアは僅かに悩みを見せる。どうやらやばいと言っても言うほど悪いわけではないのだろう。敢えていえば、注意喚起という所だ。


『うーん……まぁ、ぶっちゃければ内部で結構大きな破損が起きてた。あんた確かラエリアでの戦いでヤバイ奴と戦った、つってたね?』

「まぁ……つっても、俺がメインってわけじゃなかったんっすけど」

『そこらはどうでも良いよ。ここで問題なのは、あんたの成長が私の想定以上だったって所だ。あんた、そいつとの戦い以降、ちょっと気を張り過ぎてたね?』

「……まぁ」


 やはり専門家というわけなのだろう。戦いの詳細を見てもいないし聞いてもいないのに、オーアはソラの戦い方を正確に見抜いていた。

 そんな彼女に対して、ソラは僅かに申し訳なさそうに認めるしかなかった。が、そんな彼にオーアがドワーフらしい快活で豪快な笑みで笑い飛ばした。


『ああ、気にすんな気にすんな! あんたが私の想像以上に伸びたって嬉しいぐらいだ。でもまぁ、それ故に申し訳ない話なんだけど、内部に負担が生じててね』

「負担っすか?」

『ああ。ほら、今のは肉厚で物理的な強度は高いだろ?』


 オーアの言葉にソラは己の武器を思い出す。今の彼の獲物はドワーフ達が使う合金製だ。そこは打ち手と調整役がオーアだろうと村正流の双子だろうと変わるわけもない。それ故に、特質そのものは失われていない。

 どうしても素材の特質として、物理的な強度が高い代わりに魔術的な耐性は低くなっている。こればかりは素材の特性なので、どれだけ腕の良い鍛冶師でもどうにもならないことだった。


「そういや……そうっすね。確か合金でしたっけ?」

『ああ。ウチは基本、合金が主流だからね。で、その結果としてあんたの全力の魔力に耐えられない状態になっちまってる。いや、耐えれるけど耐えれない、って感じだけど』

「どういうことっすか?」


 オーアの矛盾した物言いにソラは理解が出来ず、首を傾げる。耐えられるけど耐えれない。意味がわからないだろう。


『ああ。戦う時には普通、武器に魔力を込めて戦ってるだろ?』

「そりゃ、勿論。そうしないと単なる物理的な一撃っすからね」

『そういうこと。これはどんな武器だって戦士だって当然だ。でも普通、そういう時には攻撃の意図があるから、無意識的に魔力は武器から漏れてる。これをほぼほぼ完全に封じているのは総大将ぐらいなもんだ。クオンだってまだまだ漏れが見え隠れしてる。あんたが出来ないでも自然だし、当然の話だ』

「へー……」


 そうなのか。ソラは初めて知った内容に僅かに驚き、頷いた。とはいえ、だから何なのだ、という話はあった。だから、彼は先を促す。


「で、それがどうしたんっすか?」

『ああ、それでね。あんたの場合は少し力みすぎって所だ。まぁ、これそのものは別に良いんだけど、あんたの場合魔力量を伸ばせって方向性の指示をしちまった。そこでちょっと過剰な魔力が武器に込められてて、内部にダメージが生じちまったのさ。あぁ、これはあんたの腕が悪いんじゃなくて、成長の方向性と素材の特性がミスマッチしちまった、って仕方がない話だから気にしないで良いよ。敢えて言えばこっちのミス。あんたの失態じゃない』

「はぁ……」


 そんなものなのか。ソラはオーアがこちらを気遣っての発言ではないのを数ヶ月の付き合いから理解して、これが気にする事ではないという事に僅かな安堵を得る。そんなソラに、オーアは更に続けた。


『ま、あんたらみたいに十数ヶ月経過した冒険者にゃ良くある事さ。大体、その頃ぐらいには慣れてきて武器なんかにもこだわりや特色ってのが色濃く出始める。お抱えや馴染みの鍛冶屋が出来始める頃、って所だね』

「ん……」


 ソラはオーアの言葉に自分達にも思い当たる節があり、確かにそうなだろう、と納得する。彼らの場合そちらの方が安上がりという理由から桔梗と撫子の二人を雇っているが、彼がそこそこ懇意にしている冒険部外の冒険者達と飲み会をすると、どこどこの鍛冶屋に武器の調整を依頼しているという話を聞く事がある。そして馴染みを一つは持っておいた方が調整もやりやすい。わからない話ではなかった。


『ま、そういう意味で言えば今回はこっちのアドバイスって事で鎧の改良に合わせた成長をさせちまったからね。次の奴も私が面倒見るよ』

「良いんっすか?」

『元々素材の方向性と合わない成長をさせたのはこっちだからね。それに責任は持つさ』


 オーアは笑ってソラの武器の調整を請け負う事を明言する。そもそも方向性に見合わない事になったのは、彼女が鎧の改修をする際に基礎的な身体能力の向上を命じたからだ。

 それそのものは当然の指示だったが、それ故にこそ起きた不具合にはきちんと責任を持つつもりだったらしい。と、そんな彼女だが、豪快に笑いながら本音を暴露した。


『それに……まぁ、実はちょっと面白い素材手に入れちゃってさー! これ試したくて仕方がないのよ! でも素材の特性から総大将じゃあ実験出来なくて! ウチでやっても良いんだけどさー! いやぁ、見た時は丁度良い、ってピンと来たわけ! ってことで、無事に帰ってこいよー!』

「う、うっす……」


 結局は自分がやりたいだけなんだ。ソラはこれが善意の申し出ではなく単なる趣味である事を把握する。わかりやすく言ってしまえば、実験体になれという事である。いつもの『無冠の部隊(ノー・オーダーズ)』技術班の姿だった。というわけで、ソラは呆気にとられながら瞬へと通信機の子機を投げ渡す。


「……どもっす」

「あ、ああ……何だったんだ?」

「いや、ちょっと注意の促しってか……片手剣の素材の方向性と俺の成長がミスマッチしちまったらしくて。で、帰ったら武器の新調を、って話っす」

「ふむ……まぁ、俺はそこらの話はイマイチわからんが、それならそれで気をつけろよ」

「うっす。そのつもりっす」


 瞬は武器を自分の魔力で編んでいる。特に今はもう補助の魔石もほとんど必要がなくなった。なのでこういった武器の問題というのはとんと無関係になってしまい、よくわからないのである。とはいえ、注意を促すぐらいは出来る。

 そんな瞬の促しにソラは一つ頷いて、この少し後には準備が整ったのでソラは遠征隊を率いて『木漏れ日の森』へと向かう事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1295話『木漏れ日の森』

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