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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第65章 二つの森編

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第1293話 一方その頃

 カイト達が 一角獣(ユニコーン)族救援の為にマクダウェル領北西部へ行っていた頃。冒険部ではこの日も普通に活動が続けられていた。

 と、そんな冒険部の上層部執務室へとカイトからの通信が入っていた。別に何かがあったわけではなく、単に定時連絡を、というだけだ。組織である以上、トップが必要になる事もある。なので定期的な連絡を入れていたというだけだ。


「ふーん……じゃあ、終わってもその獣人会議ってのに顔出すわけ?」

『ああ。まぁ、今回の仕事は確かに領主としての仕事だが、大本を正せば獣人会議からの依頼だからな。終わったら依頼人に報告する義務はあるだろう?』

「そりゃそうだ」


 カイトの指摘に通信を受け取ったソラが頷いた。今回、カイトは一応の言い訳として依頼という形での遠征にしている。ソレイユ達を経由した、というわけだ。なので依頼人である獣人会議へ報告する義務はあるし、それについては冒険者である以上はなんら不思議の無い事だ。


『というわけで、もうしばらくはそちらは任せる。何か困った事はあるか?』

「いや、無いよ。あ、でも遠征隊で出るつもりだから、先輩に引き継ぎ頼もうと思ってるぐらいかな」

『遠征隊? 何か依頼が入ったか?』


 ソラの報告にカイトが更に先を促す。カイト達が出発してからまだ一週間も留守にはしていないが、その間にも幾つもの依頼が寄せられている。冒険部は規模が規模。そしてマクスウェルの人口もある。依頼は日に十数件では足りない。

 となると、その中に大規模な遠征隊の要請があっても不思議はなかった。そしてやはり大規模な遠征となれば率いるのは上層部の面子で、依頼に応じてはソラが最適となるだろう。


「ああ、うん……まぁ、ちょっと色々とあってさ」


 そんなカイトの問いかけに、ソラが僅かな苦笑を浮かべる。そうして、彼はカイトが留守にしている間に起きた一つの揉め事を思い出す事にするのだった。




 事の発端は、カイトが出て行って二日後の事だ。頃合いとしては丁度、『封印杖(シール・スタッフ)』の作成に取り掛かっていた頃という所だろう。


「客?」

「はーい。お客様でーす」


 カイトから一時的な冒険部の取りまとめを頼まれていたソラの所へ、シロエが客が来たという報告を持ってきていた。とはいえ、これに不思議はない。

 冒険部はマクスウェルを中心とした規模としてはかなり大きなギルドだ。なので依頼書による依頼だけでなく日に何人もの依頼人が訪れていたし、それ以外にも付き合いのある商家の者達が近くを立ち寄ったので何か入り用ではないか、と顔を見せる事もある。他にも上客や大規模な依頼となれば個別に応対する事もある。今回は、その後者だった。


「誰?」

「マクシミリアン領からのお客様です。エルフの使者と言う話ですね」

「マクシミリアン領のエルフが?」


 シロエのさらなる報告にソラが訝しむ。マクスウェル領を除けば排他的なエルフがわざわざ別の領地の冒険部にまでやってくる理由がわからなかったのだ。

 とはいえ、ソラにも考えられる理由としては一つある。それは勿論、カイトである。それが居ないのだからそれを言う必要もあるだろう。なのでソラは仕方がない、と立ち上がる事にした。


「ナナミー。悪いけどお茶おねがーい」

「はいはーい。じゃあ、先行っといてねー」


 ソラの申し出を受けて、上機嫌なナナミ――おやつのお菓子が上手く出来たらしい――が応ずる。それを背に、ソラは来客用の個室へと移動する。と、そうして移動した個室に居たのは、一人のむすっとした男性エルフだった。


「すいません、おまたせしました。サブマスターのソラ・天城です」

「……来たか」


 うわー、不機嫌さマックス。ソラは不機嫌さが見るまでもない男性エルフに対して、内心で苦笑を隠せなかった。とはいえ、客は客。きちんと応対せねばならなかった。


「えーっと……それで本日はどの様な内容で?」

「私としては、言うつもりは無かったのだが……クズハミサ様がこちらに持ち込めとおっしゃるのでな。ギルドマスター殿はいらっしゃるか?」


 どうやら彼はカイトの事を知らないらしい。かなり不承不承という感じで事情を述べて、カイトの応対をソラへと依頼する。それに、ソラはやはりか、と思ってなるべく申し訳ない感じを出して申し出た。


「すいません。ギルドマスターは今、ソレイユ殿らと一緒に獣人会議からの依頼を受けて、『新緑の森』という所に……」

「『新緑の森』に?」


 やはりいくら排他的なエルフでも、一角獣(ユニコーン)族は信頼出来る種族だと思っている様だ。なのでギルドマスターが有名なハーフリングの冒険者であるソレイユと一緒に『新緑の森』に向かったと言われて訝しんでいた様子である。

 なお、ここらどこに向かったか、等の依頼に直接的には関係が薄い情報についてはカイトが明かしても良いという言伝を残している。なので問題なくソラも明かしていた。


「ふむ……『獣人会議』が依頼を出す程だから、よほどの事態に陥っているか……一角獣(ユニコーン)族が苦境に陥っているのであれば、森が何か知っている可能性もある……ふむ……」


 不機嫌さを前面に出していた男性であるが、ソラの出した情報にカイトの応対は諦めるしかない、と眉をひそめて苦渋を滲ませる。しかも向かった場所が『新緑の森』だ。内容からして、一角獣(ユニコーン)族に何かがあったと考えるのは容易だった。であればこそ、彼も仕方がない、と思ったらしい。


「そうか……では、仕方がない。日を改める事にしよう」

「もしよろしければ、お話をお伺いしますが?」


 ソラは諦めて立ち上がろうとしたエルフの男性に向けて、そう申し出る。これは別に不思議な話ではない。が、これにエルフの男性は僅かにむすっとした様子を深めた。


「いや、それには及ばない。信頼出来ぬ者に事情を話すわけにはいかん。そちらのギルドマスター殿はクズハミサ様が絶対の信頼を置いているという事だからこそ、という所だ」

「信頼……という事でしたらこれでは駄目ですか?」


 ソラはエルフの男性に向けて、シルフィからの贈り物である風の加護の印を見せる。エルフ達は何よりも彼女の事を重んじている。なので大抵はこれを見せれば、エルフ達の態度が軟化してくれるのである。というわけでやはり、この不機嫌なエルフも少しだけ態度を軟化させてくれた。


「む……いや、だが……」


 どうやら確かにこれがあるのなら少しは信頼出来るのかも、と言う感情としかしどこの馬の骨とも知れぬ人間を相手に話すべきか、という感情で揺れ動いている様子だ。不機嫌なエルフも僅かな悩みを見せる。が、少し考えた後、首を振った。


「いや、やはり駄目だ。確かにその印があるのなら信頼出来るかもしれん。が、何分風の大精霊様はよく加護を授けられる。迂闊に話すわけには」

『へー……それは僕の見立てに異議を申し立てる、って言う事で良いのかな?』


 不機嫌なエルフの言葉を遮って、部屋の中にシルフィの声が響き渡る。その声は僅かに、不機嫌そうだった。そして流石はエルフという事で良いのだろう。声の主が一瞬で誰か理解出来たようだ。


「こ、このお声は……も、申し訳ございません! その様なつもりは一切ございません!」


 声はすれども姿は見えず状態のシルフィに向けて、エルフの男性は椅子から転げ落ちる様に降りて土下座で頭を下げる。それに、シルフィが実体化した。


「やっほー。僕、参上。気まぐれに見てたらちょーっと見過ごせなかったからさ」

「お、おう……」

「……」


 気軽げなシルフィに対してもはや顔を上げる事さえ恐れ多い、とばかりにエルフの男性は恐縮し萎縮していた。頭は完全に床に接触している。そんなエルフの男性に、シルフィが告げる。


「まぁ、僕も多くの人に加護を授けてるって自覚はあるけどさ。これでも一応きちんと見繕ってはいるよ?」

「も、申し訳ございません……」


 エルフの男性の声はか細げで、大いに震えが滲んでいた。これが、大精霊という存在とその眷属を自負する者達の関係性だった。先程から床に着いていた額はもしかしたら床を凹ませるのでは、というぐらいに力強く押し付けられていた。そんな彼を見て、シルフィは苦笑して命ずる。


「あ、顔上げていいよ? 確かに苦言は呈したけど、そんな畏まって平伏しないでも」

「恐悦至極にございます。ですが、貴方様の御尊顔を拝謁するわけには……」


 シルフィからの明言にエルフの男性は顔を上げる事もなく、ただただその言葉に恐縮するだけだ。カイトの様に大精霊相手にふざける事が出来るのが可怪しいのであって、これが普通だ。なので何も間違ってはいないが、カイトとの掛け合いしか見たことのないソラとしてはどこか微妙な感じだった。


「まぁ、君がそれで良いなら良いけどさ……で、僕も勿論、君たちの事情は知ってるよ」

「真にございますか!」

「あはは。眷属の事なら、僕らは大半は知ってるよ。その僕が君たちの森で起きている事を知らないわけがないでしょ?」

「ありがたきお言葉……我ら『木漏れ日の森』に住まうエルフ一同、歓喜に耐えません」


 エルフの男性は笑うシルフィの明言にただただ歓喜を滲ませる。敢えて言えばこれは自分達が奉る神が自分達の事をしっかりと見守ってくれているという明言にも等しいのだ。ある意味では信仰心の厚いエルフ達にとって歓喜しかないのは当然だろう。

 その様子は先程までの不機嫌さがどこへ行ったのか、と疑うしか無い程だった。なお、当然ここまで一切顔を上げる事は無かったのでどこか滑稽さがあったが、彼らからすればそれで良いのだろう。


「そっか……で、話を元に戻すけど、少なくともソラは信じて良いよ。それは僕が保証する」

「……は」


 不承不承とはまた少し違う悩んだ様な感じで、エルフの男性はシルフィの言葉に頷いた。他ならぬ風の大精霊が信頼して良い、と明言するのだ。であれば、エルフ達にとってそれは絶対だ。それと今の自分達の状況を天秤にかけて、話すと決意するのに時間を要したという事なのだろう。


「で、まぁ……その上での話だけど、ソラ。悪いんだけど、人員を見繕う際にはそこらなるべく森に傷をつけない様な人選でお願いね。森、傷付けられると彼らが困るからさ」

「あ、おう。とりあえず、そうする」

「とりあえずではない! 絶対にそうするのだ! 後、言葉遣いもきちんと正せ!」

「え、あ、え、あ、は、はぁ……」


 顔を下げたままソラに怒るエルフの男性に、ソラは困惑しながら頷いた。一応言うとこの言葉遣いはシルフィに望まれてやっているのであるが、それはエルフの男性の知る由もない事だ。当然とは言える。

 なお、男性が森を傷付けない様にする事を絶対視したのは、それが彼らが森に生きる者達だからではない。シルフィの意向だからである。彼らにとってシルフィの意向とは絶対なのである。


「あはははは……じゃあ、とりあえずまたねー」

「ありがとうございます」


 そんなソラとエルフの男性に楽しげに笑うと、そのままシルフィは再び風の如くどこかへと去っていった。そうして彼女の気配の残滓が完全にかき消えるまでエルフの男性はただただ黙して平伏していた為、話の再開はこれから数分後、ナナミがお茶を持ってきた時にまで伸びる事になるのだった。




 さて、それから数分後。ナナミによってお茶とお茶請けが出された後の事だ。どういうわけかエルフの男性は再び不機嫌さを前面に出していた。が、今度は信頼の出来ない者に語らねばならない、というわけではなかった。


「……」


 なんでこんな事になったんだろう。眼の前のエルフの男性からの説教を聞きながら、ソラは内心でそう思う。どうやらソラがシルフィを前に平伏もせず言葉遣いも悪かった事に非常にお冠らしい。というわけで、延々説教をされていたのであった。

 マクダウェル領の外のエルフは基本生真面目で融通がきかないとは聞いた事があったソラであるが、まさかそれが本当とは思わなかったのである。良くも悪くも、マクダウェル領の特殊性故なのだろう。

 カイトの領地のエルフは基本は排他的でも融通は利く。更には排他的と言ってもそこまでとは言い難い。他の種族とも普通に語り合う。


「わかったか」

「申し訳ありません……」


 とりあえずここは頷いて置いた方が良い。エルフの男性の説教にとりあえずソラは謝罪しておく。そしてどうやらエルフの男性もこれで一応の納得をしたらしい。一つ紅茶を飲んで、口を潤した。


「さて……ああ、そう言えば名乗っていなかったか。私はマクシミリアン領のウェッジだ。では、改めて依頼の話をさせて貰おう」


 今更だが、エルフの男性は名乗っていなかった。そもそも彼としてもそんな余裕も無かった。というわけで改めて彼が自己紹介を行って、改めて今回の依頼の話がされる事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1294話『南の森へ』

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