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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第65章 二つの森編

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第1286話 新緑の森

 マクダウェル領北西部。かつてカイトが語った事があったが、そこには高位の獣人達が暮らす一帯があった。そんな中の一つ、『新緑の森』。そこは北部にしては温暖な気候と元世界樹のあった場所という事で比較的弱い魔物しか現れない、エネフィアにおいてはかなり安全な地域だった。


「と、言うわけで本来は若葉萌える常春の景色が拝めるはずだったのですが……」

「ですが……」

「にぃー! 寒いよー!?」

「ですねー! 何これ!?」


 ソレイユに続けて、カイトが絶叫を上げる。まぁ、現状はソレイユが述べた通りだ。本来ならここは年中過ごしやすい環境で、草食動物がベースである一角獣(ユニコーン)等の獣人達にとっては食料が豊富に手に入る最適な生息環境となっているはずだった。

 はずだったのであるが、そんな『新緑の森』には雪が降り注ぎ、白銀の銀世界が一望出来る状況だった。幸いといえば良いのかこれでも十分悪いのかはわからないが、少なくともブリザードが吹きすさんでいるという事はない。とはいえ、カイトにはいつもの白いロングコートがあるわけで、この程度の冷気ならばシャットアウト出来たので問題はない。


「持っててよかったロングコート……で、お前」

「何ー?」

「犬かよ……」

「え?」


 カイトはこの寒空の下でルゥそっくりな服装で雪化粧の中を駆け回っていたルゥルに半ば呆れ、半ば恐怖を抱いていた。ルゥそっくりな服装ということはつまり、下着も履いていない上に深いスリットの入った独特な衣装だ。

 まぁ、敢えて言えば決して温かい衣装ではない。健康的な肢体には非常にミスマッチで、それ故にエロティックではあるが、だ。それで雪原を走り回れる彼女の気が知れなかった。確実に雪に触れているはずなのに、この面子の中で一番寒そうでなかった。


「どうして犬なわけ? 僕、狼だよ?」

「犬は喜び庭駆け回る……ずずっ……出たくない……想像以上に雪降ってた……」


 ルゥルの疑問に対して、ユリィがボソリと呟いた。彼女は彼女で寒いらしく、カイトのロングコートのフードの中に避難していた。というわけで、もちろんルゥルには聞こえていない。


「なんでもない……おーい! 一角獣(ユニコーン)の一族の誰か、聞こえているか! 外から来た救援だ!」


 カイトは気を取り直すと、眼の前の氷の壁に向けて大声を上げて問いかける。ルゥルの報告した通り、この『新緑の森』の入り口の直ぐ側を巨大な氷の壁が完全に覆い尽くしていた。そこには一分の隙間もなく、水の漏れ出る隙間も無かった。そうしてとりあえず一度の呼びかけの反応を探る間、カイトへとソレイユが抱きついた。


「にぃ、寒いー」

「良し。今だけは許す。来い」

「うん」


 カイトの開いたロングコートの中にソレイユが避難する。残念ながらルゥルにへばり付いてもあたたまるとは思えない。体温は高そうであるが、服装が冷気をシャットアウト出来るとも思えないし、そもそも避難出来る様になっていない。いろいろと誰かに見られると危ない状態だが、気にしていられる状態ではなかった。


「ずるいー! 僕もカイ兄の中入るー!」

「おい! いきなり飛び掛かんな! ちょ! 潜り込もうとすんな! お前の今のデカさ考えろ! うわわわわ!」

「わー!」

「わー!」

「ちょ、アブないなー! 私居るの忘れてない!?」


 カイトに抱きついたルゥルが楽しげな声を上げて、それに合わせてソレイユも楽しげな声を上げる。そしてそれに気付いたユリィが慌ててカイトのフードより脱出する。とまぁ、それは置いておいてもカイトは背中から雪原に倒れ込む事となった。


「んぎゃあ! 冷て!」

「えー、これぐらい大丈夫だよ?」

「お前の身体構造マジでどうなってんだよ! 後それと流石にお前、ちょっとは考えろ!」


 楽しげなルゥルに対して、カイトがお説教を食らわせる。寒い云々は別にしても、今のこれは流石にこの肢体を持つ少女が男にして良い事ではない。


「えー。前はしてたよ?」

「いや、今のお前の身体でやろうとすんな」

「どしてー?」


 ジト目でのカイトの説教に対して、ルゥルは梨の礫だ。確かに、300年前の彼らならこういう事は良くしていたし、カイトも目くじらを立てるということは無かった。それどころか楽しんでいたとさえ言える。

 言えるわけだが、流石にそれはあの当時だからこそだ。男女七歳にして同席せず、という言葉があるわけであるが、流石に母親譲りのこの肢体を持ち合わせる彼女がしては駄目過ぎるだろう。


「どしてって……流石にその身体でこれは……」

「にぃー、一応私も気にしてるよー?」

「いや、それはわかるけど」


 ジト目のソレイユにカイトは一瞬言い淀む。確かにカイトにへばり付いているのはソレイユも一緒だ。が、彼女は良くも悪くもハーフリングという種族特有の肉体があり、精神的にも子供と変わらない。故にカイトとしても三百年前と同じ接し方で問題はない。いや、駄目は駄目だがそういうものだ。


「……流石にこれはまずくね?」


 カイトは救いを求める様に、どうしても男として目を引き寄せられる巨大な双丘から視線を外して退避していたユリィに視線を向ける。と、そんな困った様な視線に何時もなら茶化すだろうユリィも正論を述べた。


「う、うーん……駄目は駄目だよねー」

「えー」


 ユリィのカイトの言葉への同意にルゥルが不満げに声を上げて、更にカイトへと強く抱きついた。それに、彼女の母親譲りの巨大な双丘が更に潰れ、カイトへとその存在感を確かなものにさせる。


「いや、だから駄目だっつってんだろ」

「むー……あ、そっか! えっと……カイ兄なら、良いよ? 僕、頑張るから……」

「……おい、母親ぁ!」


 明らかに練習させられただろう男を誘惑する様な蠱惑的な上目遣いでの言葉に、カイトは一瞬で全てを悟って元凶を呼び寄せる。が、召喚拒否されたのでその召喚拒否を更に拒否して強引に呼び出した。

 基本は向こう側に全て一任しているが、本来相手はカイトの使い魔という立ち位置だ。強制力は行使出来たのである。というわけで呼び出された元凶ことルゥはニコニコ笑顔でカイトへといたずらっぽく問いかけた。


「あら……ご不満でしたでしょうか?」

「あ、お母さん! こんなので良いの?」

「ええ、合格ね。でも出来れば、もう少しこう……胸の谷間を見せる様に、あら」

「おい、母親」


 カイトは魔力で生み出した拳をルゥの背後に顕現させて、その頭に対してアイアンクローを仕掛ける。わかってはいるが、わかってはいても見過ごせない事はある。こちらもこちらでお説教である。


「あら……お嫌いでしたか?」

「嫌いじゃねぇですけどね!? やばい破壊力ありましたよ!? でもそれとこれとは話が別だ! ってか、いい加減に離れろ!」

「やだー!」

「ちょ、待て! マジでやばい!」


 どうやら、どうあってもルゥルはカイトから離れたくないらしい。純真無垢なのは良い事なのだろうが、流石にこうも無邪気なのは危険過ぎる。

 なお、一応言っておくが彼女がこうするのはカイトだけだ。基本、狼なので警戒心は強い。母親の匂いが染み付いていて、更には幼少期に長い時間を共に過ごしたカイトだからこそ、ここまで無邪気に接してくるのだ。

 そしてそれ故に危険すぎた。今の彼女の肢体は女性として非常に成熟している。並の女性なぞ目でもないのだ。彼女にとっては狼が群れの仲間にじゃれつく程度なのかもしれないが、男からすると非常にアンバランスでそれ故にこそ漂う危うい色香があった。というわけで、少しの騒動の後。カイトはルゥルとルゥの母娘を雪原に正座させてお説教していた。


「良いか。別にオレも今更抱きつくな、とは言わん。が、ルゥル。お前、その身体でそれをやんのはマジで拙い」

「そうかな?」

「お前のヤバさはそこが一番やばいんだよ……」


 わかってないからこそ、ルゥルは危険過ぎる。時として無邪気というのは何よりも危険なスパイスに成りえるということを、カイトはこの時身を以て体感していた。


「まぁまぁ、旦那様。ルゥルも族長として頑張っているのです。旦那様の前ぐらいは、一人の少女としての振る舞いを許してくださいませ」

「お前はわかってやらせとるんだろうが」

「あらあら……何のことやら」


 ジト目のカイトに対して、ルゥは相も変わらずニコニコ笑顔という所だ。一応言っておくが、こんな彼女でも族長時代には物凄い威厳と冷酷さを持ったまさに女王だった。

 が、その反動かこの有様である。ルゥルもそうであってもらいたい、というのはカイトの密かな願いだった。と、そんなカイトに向けて、ルゥが手招きして耳寄せする。


「ですが……これが失われてよろしいのですか?」

「ぐっ……い、いや……駄目だろ……いや、だが……」

「結局さー。カイトはカイトだよねー」

「ねー」


 この危ういエロティックさが失われるのは男として惜しいと同時に、不思議に真面目なカイトの理性が駄目だろう、と諭していたらしい。非常に複雑そうな顔を見ながら、ソレイユとユリィの二人が呆れ返っていた。結局、何と言うとも彼はエロいのである。女の子は大好きだし、エロい事も大好きだ。

 勇者と言われようと、中身は男なのであった。というわけで今回は、という今後も何度となく下される事になる――そしてもちろん、何度も下された――特例を今回もまた下す事にして下げていた顔を上げると同時に、氷壁の先に居た一人の男性と目があった。


「……良し……お? あ、すんません。もしかして……おまたせしました?」

『あ、は、はぁ……』


 カイトの声に気付いて来てみれば、こんな状況だ。男性は非常に困惑した様子であった。それにカイトも恥ずかしげに笑って小さく会釈して、騒動を切り上げる事にした。


「えーっと……あ、一応獣人会議から要請を受けて救援に来ました。一角獣(ユニコーン)の方ですか?」

『あ、あぁ……ありがとうございます。えっと……皆さんで、ですか?』

「ええ。あ、こっちの女の子が神狼族の族長で、こっちのは母親です」

『……は、母親? 確かルゥ様はお亡くなりに……って、まさか』


 どうやら、凡そを理解したらしい。分厚い氷の壁に阻まれて顔色は定かではなかったが、絶句した様な大いに焦った様な顔を男性がする。そうして、彼は大慌てで平伏した。


『も、もももももも、申し訳ございません! ままままま、まさか領主様自らお越し下さるとは! 立ったままご挨拶なぞ、ご無礼を致しました!』

「あははは……いやぁ、此方こそ失礼した。出来ればカイトが来た、と族長殿に取り次いで頂きたい。原因を探る為にも、まずはお話を伺いたい」

『かしこまりました! 今すぐお呼びいたします! では、失礼します!』


 様子を見に来たらしい男性は大慌てで立ち上がると、そのまま奥へと去っていく。


「うーん、やっぱりカイト、凄い敬われてるよねー」

「そりゃぁ……まぁ、これだからなぁ……」


 カイトは神狼族の族長母娘を正座させている状態を見られていた事にため息を吐いた。神狼族は狼や犬等の所謂犬系と言われる獣人の系統で最高位に位置している。

 その威厳は、と言われれば凡そ全ての種族に鳴り響いており、尊大と言われる龍族をしてさえまず敬われる種族の一つだった。その族長と元族長を正座させてお説教なぞ、彼ぐらいにしか出来る事ではなかった。


「はぁ……で、母親。お前マジ何考えてやがる」

「いえ、親子丼を。ただし性的な意味で、なぞと。せっかくあちらで良い女王と知り合えましたので、ねぇ。何時かは四人纏めて、と密かに話し合ったりしたりしておりまして。あ、と言ってもこれ以外にも」

「言わんで良い言わんで良い……お前ら母親共は……てか、いつの間に……」


 ルゥの本気とも冗談とも取れない楽しげな様子に、カイトはため息混じりにジト目で睨みつける。良い女王、というのは彼女の天敵である夜の一族の女王だ。唯一、この女王とだけは非常に打ち解けた付き合いをしていたのである。

 と言ってもこれは地球での話で、この女王も娘を介して知り合ったカイトを非常に気に入っており、ルゥと似たような性格であった事も相まってカイトをからかって遊ぶ友人付き合いをしている様子だった。

 とまぁ、それは良いのだろうが、こちらも此方で未亡人である上にこのルゥの奔放な性格に似た女王だ。いろいろと奔放に娘を巻き込んで、カイトを弄んでいた様子である。なお、その娘の方はルゥルとは正反対の若干厭世的な性格だった。


「いつの間に、と言われましても。自由に顕現出来ますのでインターネットと電話を使っていろいろと」

「あー……それでエリザがなんで電話番号知ってるんだ、って嘆いていたわけか……」

「ええ。素直になれない娘と母親ですもの。ルゥルもたまには反抗期を見せて下さっても良いのですが……」

「?」


 ルゥの言葉を受けたルゥルは小首をかしげていた。話の流れを理解していなかったらしい。こちらも一応反抗期はあったそうだが、残念ながらその間にはカイトらは地球だ。見る事もなく、という所であった。まぁ、居た所で反抗期をカイトに見せる事があるか、と言われると微妙な所だ。そうして、カイト達はそんな様子で先程までの感じで、少しの間族長の来訪を待つ事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1287話『氷壁を隔てて』

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