表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第65章 二つの森編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1303/3926

第1285話 領主のお仕事

 中津国での騒動と療養を終えて、数日。カイト達は予定より少し遅れて入れ替わりとなる人員の中津国行きを見届けると、この日から平常業務に戻っていた。


「というわけで、今日から平常運転ですが」

「「「ほえ?」」」


 カイトの視線を受けた三人の少女らが小首を傾げる。いや、少女の内二人は敢えていう必要のない。ソレイユとユリィだ。

 残る一人の少女はどう見ても少女とは言い得ない肢体の持ち主で、冒険部では瑞樹を除けば誰も知らない少女だった。とはいえ、この二人とじゃれ合っているのだから勿論、カイトも知っていた。


「お前が何でここに居る」

「カイ兄に会いに来たよ!」


 少女は元気よく、カイトに対して満面の笑みで明言する。それはまさに太陽の笑顔と言って良い程に明るく、活力の滲んだ笑顔だった。


「客だから誰かと思えば……お前か。まぁ、客として来てくれるだけ御の字ってとこだが。で、なんだ? 温泉置いて行ったのに抗議か?」

「それもあるよ!」

「あんのかい」


 少女の言葉にカイトは思わずたたらを踏む。相変わらずの元気印が目印のこの少女というか女性というかの名は、ルゥル。言わずもがな、カイトの使い魔のまとめ役筆頭のルゥの娘である。

 というわけで、カイトにとってみればクズハとはまた別の義理の妹にも近い。というわけで、相手は族長であるが気楽に話せていた。


「で、それもってことは別もあるって事だろ? 何だよ」

「あ、そうそう。カイ兄。獣人会議知ってる?」

「いや、それ主催したのオレだから」


 ルゥルの問いかけにカイトは当たり前だ、と呆れた様に言外に告げるだけだ。獣人会議というのは、マクダウェル領に本拠地を置く獣人達が集まる会議の事だ。

 元来、獣人達の中でもカイトの領地にいる高位の獣人達は獣としての性質が強い。故に縄張り意識は持ち合わせており、どうしても縄張りが重なると揉め事に発展しかねない。それは彼らも分かっている。

 であれば、どうしたか。それはある意味、獣ならではの対処と言えた。彼らは一度獣人という種そのものを一つの一族とみなす事にして、その上でカイトを長と据えたのだ。

 元々獣人達は他種族であれ同じく神獣を祖とした者と捉えて好意的だ。それは特に高位の獣人であるほど、その趣が強い。そしてここで問題になるのは古くからの風習を持つ高位の獣人達だ。故にそういう解釈が出来たらしい。カイトは特例らしい。

 そしてそうする事で一度一つの一族となった上で、カイトを長として会議を開いて、もし行動領域が重なりそうな場合に対処していたのである。どうしても獣人でも若い者達の中には獣の性質故に血の気の多い者が多い。そうせねば要らぬ血が流れてしまうので、仕方がない対処だった。

 これは彼らの寿命や領土の広さ、彼らの行動のスパン等から数年に一度となるわけであるが、今年はカイトが帰還したという事で特例として開催されたとの事である。

 そしてそれにルゥルも族長として出席していても不思議はないし、出席した。それはカイトも知っている。であれば、そこで何か問題があった、という事なのだろう。


「何か問題でも出たのか?」

「うん。だから、僕が来たの」

「ふむ……ということは、仕事か」

「まぁ、カイ兄の仕事っていうかカイ兄の仕事だけど仕事じゃない、って言うか」

「ま、少なくとも冒険部のカイトの仕事じゃあねぇわな」


 ルゥルの言葉にカイトも笑って頷いた。先にもカイトから述べられていたが、この会議の主催者は一応はカイトだ。が、このカイトは勇者カイトであり、冒険部のカイトではない。

 冒険者としての依頼ではないだろうし、受けられる物でもない。とはいえ、そんな立場はこの場では意味のない物だ。故に、カイトはルゥルに先を促した。


「良いだろう。聞かせてくれ」

「うん……今回、カイ兄の帰還だからいろいろと決めないと、って事で会議が開かれた事は良い?」

「そりゃな。ありがたい事か面倒な、と頭を悩ませるべきかは知らんがな」

「僕は面倒ー」

「お前は……後でルゥに頼んで」

「頼まれなくても出てきますが。とりあえずひん剥けば良いですか?」

「あ、お母さん」

「はいはい、お母さんは引っ込んだ引っ込んだ……で?」


 何も言わずとも出て来たルゥを引っ込めながら、カイトはルゥルに先を促す。変にルゥが出てきたら面倒な事になる。どうせこの依頼はカイトが受けねばならない話だ。であれば、彼女とのじゃれ合いは後で良い。今は先に問題の程度を知る方が先だった。


「あ、うん。とりあえず僕も出たんだけど……一角獣(ユニコーン)の一族の代表が来なくて」

一角獣(ユニコーン)が? あの一族は義理堅い上に足も速い。遅れるなんて珍しいな」

「うん。僕らもみんな一角獣(ユニコーン)が遅れるなんて、って驚いてたよ」


 驚きを露わにするカイトに対して、ルゥルもまた驚きを露わにする。一角獣(ユニコーン)。それはかつてカイトが皇都での魔導機の試験運用でも戦っていたが、基本的には地球で言われる一角獣(ユニコーン)と同じだ。

 が、実はあのブランシェット家の一角獣(ユニコーン)の女性は非常に珍しい類だ。基本的に一角獣(ユニコーン)は戦いを好まない。故に軍人となる事はあってもそれは治癒術者等の衛生兵がほとんどで、戦闘員となる事は無いのだ。

 その足の速さは獣人でも有数だし、温厚な性格やカイトも述べていた義理堅さから他種族からの信頼は一際厚い。この会議にも最も積極的な種族の一つで、どれだけ遠方に居ても遅参というのは今まで一度も無い事だったらしい。

 それがカイトの帰還と『死魔将(しましょう)』の復活という慶事と凶事が重なった時に起きるというのは、どう考えても可怪しいと考えるのに相応しい出来事だった。


「ふむ……それで使者を立てた、と」

「うん。ウチからね……で、一応先に結論だけ言っておくと、彼らは無事は無事だったよ」

「ふむ。そりゃ、朗報は朗報か」

「うん」


 ルゥルもカイトの言葉に同意する。ここまでは、問題が無かった。彼らは無事は無事、という事は命に別状があるという話ではない。大々的な動きをしなくて良い、という事だ。

 なお、ルゥル達神狼族が使者を立てたのは、速度の問題ともし居るべき場所に一角獣(ユニコーン)の一族が居なければ探す必要があるからだ。彼ら神狼族であれば風に乗った彼らの匂いを嗅ぎ付けて追いかけられるし、速度であればこちらも獣人で有数だ。追いかけられる。

 そして獣人としては最高位の格を有している。カイトとの繋がりから、一角獣(ユニコーン)の一族としても無碍には扱えない。最適な使者の選別だったと言えた。


「でも、問題は起きてたみたい」

「だろうな……で?」

「『新緑の森』は知ってるよね?」

「だーら、ウチの領土だっての。いい加減にしないと尻叩くぞ……それが?」

「どうにも雪が降っちゃってるみたいだよ」

「『あそこ(新緑の森)』に雪が?」


 ルゥルの報告にカイトは目を見開いた。新緑の森というのは、マクダウェル領北西部にある一つの異空間だ。新緑という様に常に青々とした若葉萌える常春の森で、一角獣(ユニコーン)達にとって聖域の一つだった。

 元々は数万年前の世界樹があった場所でもあり、非常に強固な結界が今も残留しているそうだ。故に、戦う力の弱い一角獣(ユニコーン)達にとっては最適な本拠地だった。

 300年前にカイトが赴任して獣人達の自治区を与えて以来一角獣(ユニコーン)の一族はここを本拠地として各地を動いており、ここに何か問題があったとするのなら、確かに遅参も致し方がない事と思われた。


「うん。ウチの使者もここの入り口までは入れたらしいんだけど、そこで大きな氷に阻まれちゃって。で、一応念話は通じたから族長に話は聞けたそうなんだけど……族長も他の一族も出られなくなっちゃってて外に救援を、という事も出来なかったらしいよ」

「なるほどな……で、当然外に出てる奴らはそんな事は知るわけもなく、か」

「そういうこと」


 カイトの納得にルゥルも頷いた。これは何らかの自然現象に端を発する異常気象というわけではないのだろう。曲がりなりにも古い一族だ。魔術は使えるし、自然現象程度ならどうにでもできる。それが出られなくなっていたのであれば、というわけだ。


「わーった。オレが動こう。雪輝に頼めば原因はすぐに分かるだろ」

「おねがーい」

「ま、一応は領主様ですからね。年に何度かはどっかでこういう異常は起きてるしな」


 カイトはルゥルのお願いに対して、特に気負う事も無く笑って快諾する。この世界は剣と魔法の世界だ。故にこういう超常現象じみた事は何時でもどこかで起きている。今回は偶然にもカイトの領土の中だった、というだけに過ぎない。そしてそういうのに対処するのもまた、領主の仕事だった。


「おっしゃ。じゃあ、久しぶりに領主のお仕事しますかね」

「久しぶりっていうか……」

「はい……何時もやっておりますね……」


 ユリィのツッコミにカイトは悲しげに頷いた。基本的な話として、カイトは分身が使える。そして曲がりなりにも公職に復帰している以上、彼の所には頻繁に書類が持ち込まれている。書類仕事は普通にやっていた。ただ単に公に姿を見せないというだけである。


「まー、良いわ。おーい、ユリィ。行くぞー」

「え、私も?」

「おいおい……カイト・マクダウェルが動くのにユリシアが一緒に来ないのか?」

「あ……わーい!」


 カイトの言葉にユリィが嬉しげに彼の肩に座る。今回は、カイトはマクダウェル公カイトとして動くのだ。であれば、その横にはユリィが必要だろう。そう言うだけの話である。


「良し……ルゥルは……行かないと駄目か」

「じゃないとお祖母様達うるさいし」

「だーろうよ」


 カイトはルゥルの不満げな言葉に肩を竦めるだけだ。彼女はまだ族長としては新米も良い所だ。実際に活動を始めて数年、という所だろう。

 確かに族長としては300年前の時点で継いでいるが、流石に齢二桁も前半の良い所の少女というか彼らからすれば幼女に一族を率いらせるわけがない。ルゥルの祖母というかルゥの母にして前族長の妻が未成年後見人として監督していたのである。なお、祖父の方はすでに死去している。


「となると、ソレイユは?」

「え? なんで置いていかれる事になってるのー?」

「そりゃ来るわな」


 完全に行くつもりしか無かったらしいソレイユにカイトはそりゃそうだ、と笑うしかなかった。ユリィ、ルゥルの二人がカイトに同行するというのだ。これでソレイユが行かないはずがなかった。彼女にしてみれば300年前から仲の良い組み合わせだ。どう考えても、こちらの方が楽しそうである。


「さて……とりあえず寒冷地装備やらなんやらの準備しとくか……」

「お布団は一つー! みんなで川の字ー!」

「お鍋食べたい!」

「雪だるまも作ろー!」

「お前らも用意手伝うんだよ! ほら、さっさと行くぞ、小娘共!」

「「「わー!」」」


 完全に遠足気分の三人に対して、カイトが声を荒げる。そうして、彼は一路奇妙な現象により自分達に本拠地に閉じ込められてしまっているという一角獣(ユニコーン)の一族を救うべく、行動を開始する事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1286話『新緑の森』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ