表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第64章 桃陽の里編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1292/3929

第1274話 鉱山の中で

 アルとリィルの武器の強化の為に協力する事になった冒険部上層部一同。彼らは二人の強化に必要な素材が別々である事もあって、二手に別れて行動していた。一つは、カイト率いる鉱山へと向かいアルの武器の刀身の強化の為に必要となる鉱物資源の採掘を行う面子。こちらの主力はカイト以下ホタル、ユリィの三名だ。

 もう一つは、ティナ率いる『桃陽の里』の外に出て魔物を狩ってリィルの槍の柄の強化に使う素材を手に入れる面子だ。こちらの主力はティナ以下彼女の使い魔勢と言って良いだろう。それに冒険部の各員が各々の適性に応じて割り振られていた。

 というわけで、ティナ達と別れたカイト達はというと『桃陽の里』の裏山。豊富な鉱物資源が眠る鉱山へとやってきていた。


「……うっわ。マジで魔術起動しねぇ」


 坑道に入って早々。魔術を試しに起動してみたソラがうんともすんとも言わない魔術に驚きを露わにしていた。ここはティナが言っていた通り、『封魔洞』。魔を封じる力が満ち溢れた洞窟だ。ゆえにソラ達程度――それどころかカイトでもかなり強引にやらねば魔術は使えない――では魔術は使えないのであった。そんな妙な感覚を得ていたソラに向けて、ユリィが教えてくれた。


「ここには色々な鉱物があるからね。その中には『吸魔石』の様な魔力を吸収しちゃう様な特殊な鉱物もあるわけ。で、それがあるということは必然として、ここには魔力を散らす様な力が溢れているってこと」

「ま、わかりやすく言っちまえばここは天然の牢屋だ。もちろん、これは精錬されていないし密度も薄い。だから身体強化の魔術は使えちまう」

「ってこてとは……牢屋ってこんな感じなのか。なーんか肌にピリピリするな」


 何かが違う。ソラにはそれがはっきりと肌身にしみて理解出来ていた。常に身体から発している魔力がどこか引っ張られる様な感覚があったのだ。『吸魔石』は吸魔というぐらいだ。魔力を吸い寄せる力を有している。そしてその力があればこそ、魔術はかき乱されて使えなくなってしまうわけだ。

 魔術を構築するのも結局は魔力、魔素(マナ)だ。魔術師達はそれを意図的に意味ある形にして魔術を構築しているわけであるが、これはその構築した形状を強引に引っ張ってしまうのであった。


「その感覚は正しいな。まぁ、流石にこの純度と精錬具合だと直接触ったから強引に魔力を吸収されるという事はない。ちょっと肌から何かが吸われている様な感覚があるか、ぐらいが関の山で魔力を吸い取られる事もない」

「じゃあ、戦うに何かを気にする事はなさそうだな」

「そう言ったろ?」

「一応、自分で確認しとこかなと」


 カイトの問いかけに対して、ソラは自分でもチェックしていただけだと告げる。そしてその姿勢は良い姿勢と言える。なのでカイトはそれを良しとして、一つ頷いた。


「なら、良い。で、さっそくお出迎えがありそうだな……カナン。見覚える準備をしておけ。瑞樹。今回はオレが一度カナンにやり方を見せたいから、お前は引いていてくれ」

「わかりましたわ」

「はい!」


 カイトの指示を受けて、瑞樹が一歩下がって戦闘の邪魔にならない様に配慮しておく。その一方、ソラが一歩前に出て地響きを立てながら近づいてくる何かに対して身構えていた。


「カイト。こいつは俺がやれる奴か?」

「ああ……アル、お前は周囲の警戒を」

「うん。じゃあ、僕も引いておくね」

「頼む……ソラ。おそらくこいつはお前が以前ドワーフ達の里で見ただろう魔物の原種だ。戦い方は基本同じで良い。が、一撃がでかい事は忘れるなよ」

「わーってる」


 カイトの言葉を耳で聞きながら、ソラは肌身でしっかりと敵の力量を把握する。肌身に感じる圧力はおおよそ自分より少し下。が、もしまだ戦闘態勢に入っていないだけでその実力が隠れているだけなら、同格という可能性もある。そうなると勝てないまでもないが、油断して勝てる相手でもない。それを感じながら、ソラはどう攻略するかを僅かな間に構築する。


(もし俺がやるなら……いや、俺が決めるべきじゃなくて、俺は敵の攻撃をなるべく完璧に受け止めて隙を作り出す方が良さそうな相手だな)


 地響きは連続しているものの、決して小刻みに連続しているというわけではない。敢えて言うならば一歩一歩踏みしめている様な感じさえある。が、これがもし普通に歩いているだけだとするのなら、敵はかなりの重量かつ動きは鈍い事が想像された。

 であれば、その重量から繰り出される一撃はかなり重く、間違っても重装備のソラやアル以外で直撃してはならない敵だろう。そしてカウンターメインで決めるには少しの技が必要となる相手でもある。と、そんな風に攻略法を考えていると、坑道の闇の先から3メートルほどの石で出来た巨人が現れた。


「『石人形(ストーンゴーレム)』……だな」

「そうだ。ランクCの魔物……まぁ、お前でも余裕で倒せるだろう。幸いだったな」


 ソラのつぶやきに応ずる様に、カイトは一つ頷いた。すでに坑道の中に入っているわけだし、ここで取れるのが豊富な金属資源である事もあって基本的に出るのはランクBの『鉄人形(アイアンゴーレム)』だ。

 そうなると流石にソラも全力で防御せねばならなくなるわけだが、流石に防御主体のソラが格下相手に全力で防御する必要もなかった。なので今回は準備運動、とばかりに少しだけソラは肩の力を抜く。


「で? 俺は最初は防御した方が良いのか?」

「ああ。基本的にはお前が防御して、攻撃役が攻撃だ。今回はまだ初の連携という事もあって、連携のやり方を確認しておく意味もある」

「おっけ。わかった……来い」


 ソラは肩の力を抜きつつも気合を入れ直すと、地響きを立てて迫り来る『石人形(ストーンゴーレム)』をしっかりと見据えて地面に足を踏みしめる。この程度の相手なら動きは見切れるし、回避も出来る。十分、防御は可能だろう。そしてそんなソラを横目に、カイトはカナンへと今回彼女に教えたい事を見せる事にしていた。


「さて……カナン。お前に今回学んでもらいたいのは、いわゆる(ネイル)系の(スキル)だ。レイ達が使う<<血の爪(ブラッディ・ネイル)>>とかの系統だな」


 カイトはそう言うと、己の右手を少しだけ上に上げてカナンに見える様に魔力を形作っていく。そうして右手に魔力を纏わせると、それを鋭く、まるで爪の様に尖った形へと変形させる。


「流石にオレには夜の一族の因子も獣人の因子も流れていないからな。オレが使っているのは<<龍の爪(ドラゴン・ネイル)>>だ。これは基礎の基礎。カナンがやっているものとそう変わらない」


 まずは基礎の学び直しから。カイトはカナンへと改めて座学の復習を叩き込んでおく。そして学んで欲しいのは、ここから更に先。彼女の特質を活かした力だった。


「さてと……ここまでなら、カナンには出来た話だ。が、今回はお前にはレイの力を応用した<<血の爪(ブラッディ・ネイル)>>の習得をしてもらう」

「でも、目的はその更に先なんですか?」

「そうだ。目的は更にその先……お前にしか出来ない領域だ」


 カナンの問いかけにカイトははっきりと頷いた。<<血の爪(ブラッディ・ネイル)>>は言ってしまえばカナンがレイナードの血脈、夜の一族の力を使えれば普通に彼女には出来る様になる(スキル)に過ぎない。だが、そこから発展させた力は違う。彼女の血の特異性があればこそ出来る事だった。


「まぁ、流石に血の関係でオレにも出来ないが……一応、見た目を似せる事は出来る。お前に最終的に習得してもらいたいのは……<<月の刃(ムーン・ネイル)>>。白銀の刃だ」


 カイトは魔力で編んだ爪を変色させて白銀に輝かせる。彼自身が言った通り、これは単に変色させただけだ。ラカムとレイナードの一族が保有していた古文書に書かれていた内容を頼りにして探し出せた形に近づけただけである。


「夜の一族の力と獣人の力の両方を使いこなしてはじめて出来る超高等技能。これを使う事がお前の最終目標と思って良い」


 カイトは改めてカナンへと彼女が目指すべき最終到達点を示す。これは彼女の<<月の子(ムーン・チャイルド)>>としての力だ。ゆえに彼女しか出来ず、そしてカイト達にも情報は足りなかった。なので古文書を頼りとして情報を調べていくだけだった。


「と言っても、それをする為には獣人としての因子と夜の一族としての因子をどちらも使いこなす必要がある。なのでここでは夜の一族の力を使い、<<血の爪(ブラッディ・ネイル)>>を使いこなせ。獣人の爪の強化とは大きく違う。その感覚に慣れろ」

「はい」


 カイトの指示にカナンがしっかりと頷いた。というわけで、カイトはそのやり方を告げる。


「さて。で、獣人の爪と夜の一族の(ネイル)系の違いだが……まず流体と固体の差だと思えば良い」

「流体と固体の差?」

「ああ。ウォーターカッターって知ってるか?」

「……なんですか、それ?」


 カイトの問いかけにカナンは首を傾げる。まぁ、ウォーターカッターは科学の産物だ。エネフィア出身かつ冒険者畑の彼女が知らなくとも無理はない。


「水を使った刃。水刃の一種だ。超高速で水をぶつける事で物質を削り、切り裂く刃だな」

「<<血の刃(ブラッディ・ネイル)>>もその系統ですか?」

「そうだな。あれはオレ達龍の爪ともラカム達獣人達の爪とも違い、己の魔力を血……流体に見立てて敵の表面を削っているんだ。こんな風に……な!」


 カイトはそう説明するや否や、腕を振りかぶってソラへ振り下ろした『石人形(ストーンゴーレム)』へと突き立てる。流石に彼程の技量になれば、魔力を流動させて擬似的な流体とする事は容易な事だ。故に結果こそ両断されるという同じ結果になっても、攻撃方法としては全くの別種だった。


「今のは手加減してはいるが……それでも流石に獣人達の爪でもここまで綺麗な断面になる事はまず無い」


 カイトは己の一撃で尻餅をついた『石人形(ストーンゴーレム)』を尻目に、己が切り落とした腕を見せる。その断面は彼の言う通り、磨かれた様に綺麗だった。


「更には、この流体化した魔力にはもう一つ利点がある……ソラ。再度防御を頼む。だが、今度は防ぐ必要はあまり無い。力は抜いても大丈夫だ」

「へ?」

「良いから信じろ」

「お、おう」


 カイトの少し獰猛に牙を剥いた笑みでの有無を言わせぬ言葉に、ソラは起き上がる『石人形(ストーンゴーレム)』を見ながら頷いた。とはいえ、やはり己の腕を両断したからか視線はカイトに向いていて、そのままではカイトを狙いにいくだろう。


「まぁ、一応連携の確認って所で良い……んだよな?」


 ソラは今度は薙ぎ払いで自分達を丸ごと始末しようとでも考えている様子の『石人形(ストーンゴーレム)』に対して、足を踏みしめてその場に留まるべく力を入れる。

 後ろに仲間が居る場合、彼のなすべき事は回避ではなく防御。後ろの味方に攻撃が及ばない様にする事だ。と、そのはずなのだが、唐突にカイトがその前に躍り出た。


「ちょっと前を通りますよっと」

「はい?」


 防御役より前に出たカイトに、ソラが目を丸くする。これではせっかくの防御の意味がない。一方、そんなカイトは手を前に出して魔力を纏わせた爪で虚空を縦に一薙ぎする。


「っと」


 虚空を撫でたと同時に、カイトはその場を蹴って後にする。が、そんな彼の居た場所には彼の魔力で編まれた爪の斬撃が残されていた。そして、その次の瞬間。その斬撃によって石の巨大な腕が切り裂かれ、すっぽ抜ける様に飛んで行った。


「……はい?」

「まぁ、こんな感じ。流体の斬撃は固体の斬撃より非常に残る。勿論、今のはわかりやすくする為に意図的にかなり長く残したがな」


 キョトン、と目を丸くしたソラを横目に、カイトはカナンに向けてもう一つの利点を述べる。が、勿論これは利点だけではない。欠点は確かにある。


「が、流体故にこそ難しい所はある。例えば、魔爪の形成が非常に難しい。やってみればわかるがな」


 考えればわかる事だ。固体は放置していても形状を保つが、液体は広がっていく。常に斬り裂ける程の薄さと強度を保つ必要があったのだ。

 そうして、カイトはカナンに魔爪の形成の教授をしながら、アルと己の武器に必要な鉱物資源を求めて奥へと向かう事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1275話『道中にて』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ