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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第64章 桃陽の里編

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第1271話 残った者のお仕事

 カイトとユリィが二人で武器の修復素材がある鉱山へと消えていった一方その頃。他の面子はというと、他の面子も他の面子で武器の修繕を行ってもらっていた。

 先に竜胆自身も瞬に述べていたが、やはりカイトに対して何らかの詫びは見せねばならない。というわけで、村正一派がカイト達の武器を修繕してくれる事になっていたのである。

 瞬が別途で呼ばれたのは彼だけ武器の修繕が必要なかったからだ。彼の武器は自分の魔力一つで作れる。修繕の必要がないし、一応補佐の籠手もあるがそれもそれで鍛冶師の出番でもない。


「そ、そんな所に行ってるんですのね……」


 相変わらずと言えば相変わらずぶっ飛んだ所に行くものだ、と瑞樹が頬を引き攣らせる。当然だが彼女も彼女で久秀達の襲来に際しては魔物を相手に戦っており、武器は摩耗していた。如何に冒険部の上層部だろうと、所詮はランクBが最大だ。武器も無しにはそんな危険度の高い鉱山への突入なぞ出来るわけもない。なので彼女もまた残留だった。

 と、そんな彼女らにカイトが向かった先を語っていたのは、当然だがここに来た事があるティナだった。そして彼女は武器の修繕も自分で行ってしまうし、瞬と同じく杖のどこに鍛冶師の出番が、と言う話でもある。そして今回彼女は敵が強敵であると見て魔術師として戦っていた。杖でのちゃんばらをしていたわけでもない。

 なので問題なく同行出来るわけだが、今度は逆に魔術師ゆえに『封魔洞』の魔術を封じる部分が問題になってしまうだろう。なので残留していた、と全員は思っていたわけであるが、真実は全く違う。ゆえに瑞樹の問いかけにティナがあっけらかんとその真実を語る事になる。


「とはいえ……さすがのティナさんも魔術を封じられては戦えませんものね」

「む? おお、余か。いや、別に。何も封魔というても何でもかんでも封ぜれるわけでもなし。例えば単なる魔力放出なら使えるからのう」

「? なぜですの?」

「そりゃ、魔術では無いからじゃろう。封魔というてもこれにはきちんと道理のあっての事じゃ。例えば今回の『封魔洞』であれば、原因などもしっかりと解析されておるぞ」


 瑞樹の問いかけにティナは特にどうでも良いとばかりに軽く語ってくれる。まぁ、そういうわけで彼女ほどの出力があれば単に魔力をぶっ放すだけで十分にランクA程度の魔物は消し飛ばせる。なので問題なく倒せるわけであった。


「ではなぜこちらに?」

「面倒じゃから」

「あ、あはははは……」


 そうなのか。それならそれで何も言えないわけだし、そもそもカイトからも手を貸してくれという要請はなかった。が、面倒だから、というだけで恋人にして婚約者が危険地帯に行くのをさも平然と見送った挙げ句にここまでのんびりされては頬の一つも引きつろうものだった。もちろん、その裏にあるのが絶対的な信頼であろうとも、だ。


「ま、そりゃ良いわ。どーせそれ以外にも封魔系統の対処方法なぞごまんとある」

「そうでしたわね。そう言えばティナさんは魔王でしたわね」

「どやぁ……とまぁ、ふざけてみたわけじゃが。ここらは本当に余じゃから出来た事と言える。なので真似したりはせん方が良い事だけは明言しておこう。そして真似させん為にも、方法は言わぬ。余かティスぐらいしかできん事じゃからな」


 ドヤ顔を晒したティナであったが、一転真面目に忠告だけは行っておく。簡単に出来ると思ってもらっても困るほど、残りの技術は凄いらしい。そして彼女はこの時は明言しなかったが、実際にこれを行った場合はまさに彼女が天才と呼ばれるだけの事はあるとはっきりと理解出来るそうだ。

 なお、そんな彼女はやはり義弟が濡れ衣だとわかったからか、ティステニアの名を普通に出す様になっていた。カイトが隠れてこそこそとしていた事にはしきりに感謝していたし、同時に少し怒ってもいた。そしてに、やはり真剣に考えてくれていたからと理解も示していた。


「で、それはともかくじゃ。お主らの武器は修繕に出したわけじゃが……実際の所、今の内に武器の使用感を聞いておこうと思うておる」

「武器の使用感……ですか?」

「うむ。ここらソラであれば頻繁にオーアあたりから報告が上がっておるから、特に気にもせんがのう。お主らはそういう面で言えばあまり報告が上がらん。まぁ、カイトが直々に見ておるに等しかった桜はともかく、他の面子はそういう事をあまり言わんからのう」


 どうやら、残るには残るなりの理由がきちんとあったらしい。怪訝な顔の桜の問いかけに、ティナは改めて全員を見ながらはっきりとそう明言する。確かにこういった武器に関する事は彼女らに相談されても困る側面はあるが、やはり曲がりなりにも指導者として動いている以上は腹心とも言える上層部の武器の状態をこまめに確認するのもまた彼女らトップの仕事と言える。

 なので丁度よいタイミングなので彼女も改めて確認をしておこう、というわけなのであった。というわけで、彼女は己が手がけたと言える瑞樹をまずは見た。


「というわけで、瑞樹。お主の大剣の調子はどうじゃ。そう言えば最後にオーバーホールをしてからそこそこ時間が経過しておったからのう」

「そう……ですわね。私としては大剣に不満はありませんわね。最近になり魔力量も増大しておりますので……」


 瑞樹は少しだけ考える様に上を向いて、己の現状をおおよそ考える。当たり前だがあの数ヶ月で彼女がしていたのはレイアとの連携を強化する事だけではない。

 それ以外にも例えばレイア自身の強化――息吹(ブレス)系の種類の増加など――を行ったり、彼女自身も上空から砲撃出来る様に魔力量の増加を行っている。ソラほどの伸び率は無いものの、やはりまだ魔力保有量であれば彼女が部内ナンバーワンをキープ出来るほどの保有量を誇っていた。


「ふむ……まぁ、研磨程度であればあの二人でも問題はあるまいし、調整は余がしておるか。であれば、問題はあるまいな。ふむ……それにお主の現状であればリミッターももう一段階ぐらいは外して良いか」


 瑞樹からの所感を聞いたティナはそれをメモにまとめて今後の改良に活かす事にする。基本的に彼女の武器の中でもメインの一つとなる大剣の調整はティナがしている。流石にあんな複合武器の調整なぞティナぐらいにしか出来ないわけで、それ故こちらに問題はなさそうと即座に判断したというわけであった。


「で、そちらはまぁ、敢えて言えば余が見ておるから問題も無いとしておくとして。両手剣の方はどうじゃ?」

「ふ、む……」


 瑞樹はティナの問いかけに再び己の武器を思い出す。こちらは今研いでもらっている最中だ。が、こちらにはやはり問題が起きていた。


「そうですわね。ちょっと魔力の通りが悪くなっている様な気がしますわね」

「ふむ……えっと、瑞樹のスペックシートは……お主の状況を鑑みるに、そろそろ武器の素材の側が悪くなっておるのかもしれんな」

「武器の素材の側ですか?」

「うむ。武器の素材……まぁ、魔力保有量が莫大なお主じゃ。両手剣ゆえにかなりのキャパシティはあったものの、それでも込められる魔力には限度がある。それらを考えた場合、お主の現在の身体能力を考えれば素材が合わなくなって来ておる可能性は高いのう」


 ティナは持っていたノートパソコン型の魔導具に表示される瑞樹のスペックを鑑みて、おおよそ考えられる原因を告げる。ティナも言っていたが、いくら魔導金属だろうと込められる魔力には限度がある。

 その限度はほぼ無制限――ほぼなのでもちろん有限――と言われる最上位の素材である緋緋色金(ヒヒイロカネ)を頂点として、後は下に下がり続けるだけだ。それを考えれば、今の瑞樹が使っている魔法銀(ミスリル)ではその瑞樹の限界に耐えられなくなっていても不思議はない。

 特に彼女は一撃一撃の重いパワーファイター。誰よりも一撃に込める魔力は莫大な量になる。必然として、誰よりも最初に限界が訪れやすかったのだ。


「ふむ……そろそろ更に上の素材を見繕うか……うむ。帰ってから一度きちんと調査すべきじゃな」


 ティナは瑞樹の武器について、一度専門家による調査を行うべきと結論を下す。彼女は所詮は魔導具やそれに活かす為の魔術の研究者。敢えて地球に馴染みのある言い方をすれば発明家やメカニックと言っても過言ではない。

 が、それ故にこそこういった鍛冶に関係する事は門外漢だ。それでも彼女自身の多才さから触れないではないが、決して専門家には勝てるわけではなかった。生命をあずける以上は専門家に任せるべき、という判断は非常に理に適うものだった。


「さてと……では、次じゃ」


 ティナは瑞樹の診断を終えると、次に取り掛かる。今回村正一派が武器の修繕はしてくれる事になっていたが、その彼らは長く彼女らを見てくれているかかりつけ医ではない。なので帰ってからきちんと桔梗と撫子と相談の上、竜胆ら<<無冠の部隊(ノー・オーダーズ)>>にも協力を求めるのも良いだろう。彼らの場合は好き勝手に出来る実験体が来たと喜んで手を貸してくれる可能性は高かった。


「で、次は……」


 ティナはその次に、と桜を見て、彼女から状況を聞いていく。そうして彼女は一通りの面子から聴取を終えて、ノートパソコン型の魔導具を閉じた。


「うむ。とりあえず急場で処置が必要となり得るのは瑞樹じゃな。で、次にソラ、お主はやはりオーアの指示を仰げ。お主の武器や防具についてはあれが主治医。あれに一括して任せるのが一番良かろう。余が診断結果を送っておくゆえ、一度あれに相談しておけ」

「おう」


 ソラはやはり結論としてはオーアに指示を仰ぐべき、となったようだ。そしてせっかく主治医がいるのにティナが下手に指示を出す必要もない。そしてソラもそれはわかる。というわけで、素直に従う事にしたようだ。


「で、まぁ、そもそも村正からの武器であるリィルらについては敢えて言うまでもなく、しかも軍人なのでここらは問題は無し、と……」


 やはりアルとリィルは軍人だ。なのでこの二人については武器こそ仕事道具。その調整は常日頃から行っている事であり、敢えてティナが指摘する必要も無い事だった。しかもこの二人の場合は英才教育が施されていると言っても良い。というわけで聴取さえ取っていない。

 なお、軍人といえばルーファウスとその妹のアリスの二人は今回の旅に同行していない。この旅での主目的は武器の修繕。宗教的な問題もある。なので妖刀打ちと言われる村正流に調整させるのは駄目だろう、という判断で同行していない。

 そう言ってもティナとしても聴取を取るわけにもいかないので、居たところでこの会話には参加していなかっただろう。


「良し……まぁ、とりあえずここで修繕してもらうので、特に何かをする必要も無いじゃろうし、お主らとて武器もなくどこかへ行けるわけでもなし。ここではのんびりと武器の調整が終わるのを待つが良い」


 ティナは一同に向けて改めてそう明言しておく。兎にも角にも修繕を待たねば動けない。特にここらの周辺は今まで彼女らが居た温泉街よりも遥かに危険度の高い地帯だ。確かに瑞樹達でも戦えないわけではないが、それでもそれは前提として武器があっての事だ。武器が無いなら、ここで止まっておくべきだろう。そうして、ティナらは武器の修繕が終わるまでの間、村正邸にて一時的な宿を借りる事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1272話『武器の改良を』

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