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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第64章 桃陽の里編

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第1269話 強化のやり方

 榊原家に封印されていた<<裏八花>>の最後の一つとなる名もなき勾玉。それを使ったダオゼという小悪党の討伐の為にかつて異世界全部を飛び回っていた『もう一人のカイト』が手に入れたチート殺しのチートとでも言うべき力を解放させたカイト。その結果ダオゼは呆気なく討伐が完了したわけであるが、その対価として彼の使った村正流のふた振りの刀は妙な歪みが生まれてしまっていた。

 その修繕の為、カイトは村正流が拠点とする『桃陽の里』へと入って海棠・竜胆の村正流鍛冶の当主達との再会を果たしていた。そこでの少しの話し合いの後、カイトは改めて己の刀の診断を終えた海棠翁へと問いかける。


「で、爺。オレの刀はどんな状態だ?」

「ふむ……その前に一つ聞いておきたい」

「なんだ?」

「お主のその過去世……使っておったのは神剣の類じゃな?」


 海棠翁は真剣な目でカイトを見る。彼は先程までこのふた振りの刀の診断を行っていた。なのでこの刀に行われた事がよく理解出来ていた。そしてそれ故、この力を使われるのであれば、といろいろと推測が立てられたようだ。


「……ああ、よくわかったな。そいつが使っていたのは神の剣。神剣の類だ。まぁ、どの程度の物なのかはオレにもわからん。わからんが……あいつらはよく頑張ってくれたよ」


 カイトは懐かしさと共に、無限の時を共に駆け抜けた己の相棒達を思い出す。見た目は今彼が主兵装として使うふた振りの大剣と似ている。が、やはり同じではない。


「何度となく激戦をオレと共に駆け抜けた。あのおかげで助かった戦いはいくつもある。まぁ、本当に神剣だから誰が作ったか、とかは本当に知らない。なぜ持ってたか、ってのもな」

「ふむ……やはりまだ神域には至らぬか」


 自らの刀が神剣以下だと知った海棠翁であるが、その顔には掛け値なしの嬉しそうな笑みが浮かんでいた。敢えて言えばまだ上がある事を知った求道者のえみ。そんな荒々しい笑みがあった。


「良し! よかろう! 今のこれを見ていくつか思い浮かんだ修繕案はある! そうと決まれば、カイト! お主は今から素材を取りに行けい!」

「いや、無茶言うなよ。今の時間、何時だと思ってやがる」


 意気軒昂の様子を見せる海棠翁に対して、カイトはただただ深くため息を吐いた。そもそも今日カイト達は移動して、こちらに来たばかりだというのだ。そして素材を取りに行く可能性は考慮して武装は持ってきている。が、それでもその日の内に行く事は想定していない。というより、時間として想定出来ていない。流石に無理のある話だった。


「……うむ?」

「……うん?」


 海棠翁と竜胆の二人は外を見て、外が夕暮れに包まれている事に気が付いた。幾ら何でもこの時間になると、カイトでも出るのは避ける。特に素材集めとなると基本は鉱山だ。夜の方がヤバい魔物が多い為、滅多な事では冒険者達も近寄らなかった。


「「……おぉ、夜か」」

「お前らな……今の今まで打ちまくってて完全に時間感覚狂ってやがったな……」


 親子による同時のつぶやきに、カイトはおおよその状況を理解する。なお、この後の飲み話で発覚する事であるが、この上に曜日感覚までズレていた。何時もの事と言えば何時ものことなので気にする必要も無いが、いつもの事ゆえに呆れるばかりだった。


「あぁ、それならまぁ、明日で良いだろ。親父も流石に文句ねぇだろ」

「……そう言えば妙にけだるいからのう」

「寝なさすぎだ、お前ら……」


 どうやら時間感覚のズレに気付いて、更には時間の経過に気付いたからか海棠翁は自分が疲れている事に気付いたらしい。言ってしまえば今まではアドレナリンが出て疲れが感じていなかっただけだ。そして落ち着いた事でアドレナリンは抑制されている。気怠くて当然である。そうして、カイト達はとりあえず村正邸にて一夜を明かす事になるのだった。




 明けて翌日。カイトが己の刀の修繕の為に素材集めに村の各所を回っていた頃。瞬は竜胆に呼び出されていた。そうして彼が案内された先は、村正邸の奥にある鍛冶場だった。

 そこではすでにもろ肌を脱いだ竜胆がまるで朝の準備体操とでも言わんばかりに鉄を打っていた。なお、準備体操なので打っているのは普通の鉄だ。これが、彼なりの朝の運動らしい。


「おう、来たな」

「あ、おはようございます」

「おう。朝飯は食ったか?」

「はい、ごちそうさまでした」


 朝食は各自別というか流石に疲労から眠り続けていた為に遅れた竜胆の問いかけに瞬は頭を下げて感謝を示した。それに竜胆も一つ頷いた。


「おう。そりゃぁ、良かった……で、呼んだのはほかでもねぇ。昨日話聞いててちぃっと思った事があってな」

「思った事、ですか?」


 瞬も村正邸で行われた宴会には参加させてもらっていた。なので竜胆に問われていくつかの話はしていたが、そこで何か語っただろうか、と首を傾げていた。


「ああ……お前さん、武器を魔力で編むんだったな?」

「あ、はい」

「今、ここでやってみな。ああ、穂先に刃引きとかの遠慮は要らねぇ。きちんと、何時も使う槍を作れ。可能な限り全力で、自分が出来る最大の物を、だ」

「ここで、ですか?」

「ああ、ここで、だ。鉄火場だ。特に問題も無い」


 確かにここでは鉄を打つ者達しかいないわけで、しかもここは当主が使う専用の鍛冶場だ。ゆえにここに立ち入れるのは限られた者達だけで人気はない。

 そしてなにより、竜胆は鍛冶師とはいえ瞬以上の実力者だ。もし彼が<<鬼島津(おにしまづ)>>を使うのなら良い勝負になるかもしれないが、それでも即座に倒せるわけではない。無論、準備も出来ていない現状ではどうしようもないと言えるだろう。というわけで、瞬は竜胆の指示に従って魔力で槍を編み出した。


「じゃあ……こんな感じで大丈夫ですか?」

「おし……貸せ」

「はい」


 瞬は竜胆の求めに応じて、槍の実体化をしたまま彼へと槍を手渡した。そうして、竜胆はそれを一度構えて数度振るってみた。それはきちんと腰が乗っていて、敢えて言えば使い慣れた感じがあった。下手をすると瞬よりもずっと、使い慣れた様子だろう。


「……ふむ。まぁ、こんなもんか」

「……出来るんですか?」

「ん? おうともよ。これでも数十年ぐらいは槍も使ってるからな。別に刀だけってわけでもない。槍を作ってもみたし、斧も作ってもみた。結局、一番しっくり来るのが刀ってだけでな」

「いえ……それにしては使い慣れている感じがあるというか……」


 敢えて言えば戦士特有の慣れがあった。確かにカイトの仲間である以上、そして三百年前のあの大戦を生き抜いた以上はそれも不思議はない。が、それにしたって限度というものがあるだろう。


「そりゃ、造り手が使えなきゃ危ないだろうが。使った事もない物を誰かに渡すほど、俺達は無責任じゃいられない。俺達の作った武器が、明日の仲間の生命を救いもし、殺しもする。もし俺達が満足出来ない品を出したくないのは、そういう事だ。俺達は戦う奴らに武器を渡す。そいつらにとって武器はもう一人の自分だ。分身だ。その自分の分身を俺達に預けてるんだ。そいつらの生命を預かったと同義だ。俺達が納得できにゃ、そいつは渡せねぇ」


 確固たる信念を持って、竜胆ははっきりとそう断言する。そうして何度も何度も使っていればそれは熟練の動きにもなるだろう。と、そう言った彼であるが、そこで一転して笑った。


「ま、つっても俺達がやってるのは単なる真似事とか使い勝手を試すだけのお試しってやつだ。お前さんら戦士達は俺達にゃ出来ない動きと扱い方をする。だから、ま、俺達はお前らには一歩及ばねぇ。どうしてもな」

「は、はぁ……それで、自分の編んだ武器はどうでした?」

「うん? ああ、こいつか……駄目だ。ダメダメだ。俺から言わせればゼロ点だ」

「っ……」


 竜胆からの酷評に、瞬はただただ苦い顔をする。地球時代を含めて数千数万と槍を振るってきた彼にとって、自分の分身と言える槍を酷評されるのはかなり辛い様子だった。が、これはそれはそうとしか言い様がないのだ。


「あぁ、そんな顔すんなや。そりゃ、そうだろうおめぇさん。お前、今まで鍛冶に携わった事は?」

「は? いえ、そんな事は一度も……」

「だろうよ。だから俺達鍛冶師から言わせればお前さんの作る槍はゼロ点。失格だ。確かに槍の体裁は成しているから、その点で加点したとしてもせいぜい30点。お前らで言わせれば……あー、なんだ? 赤点? どっちにしろそんな感じだ」


 落ち込んでいた所の問いかけに慌てて答えた瞬の返答に、竜胆は改めて叩き込む。とはいえ、これは一応、彼なりの慰めだったらしい。まぁ、それでも赤点と言っている時点で瞬からすればかなりのダメージと言えるのもまた、やはりこれは仕方がない事なのだろう。


「そうだな。はっきりと言ってやろう。お前さんの作る槍の穂先の部分。あれに問題がある」

「……? どういうことですか?」

「あの部分に一切の理が無い。敢えて言えば槍の穂先っていう概念だけで出来上がっているのが、お前さんの武器だ。いや、そういう意味で言えばお前さんの武器は敢えて言えば槍っていう概念だけで出来ている。ゆえに俺達鍛冶師からすればゼロ点ってわけだ」


 なんとなくだが、瞬にも竜胆が言わんとする事が理解出来た。そしてそれを敢えてはっきりと分からせる為、竜胆は瞬の槍を一度瞬に返却する。


「ほれ。これ、そのまま持ってろ」

「あ、はい」


 瞬に槍を手渡した竜胆はそのまま、自分の鍛冶場にあるいくつかの刀を見繕う。そうしてこれは、と思った刀を手にとって、鞘から抜き放った。


「そのまま穂先を向こうにして持ってな……はっ!」

「っ!」


 竜胆が唐竹割りに瞬の槍の穂先に向けて斬撃を放つ。やはり流石は村正流の二代目当主の作品という所だろう。おそらく練習で作った彼としての数打ちの筈だが、それでも瞬の槍の穂先がまるでチーズかバターの様に軽く斬られてしまった。


「見てみろ」

「……はぁ。これが?」


 瞬は竜胆の助言に従って自分の編んだ槍の断面を見てみたが、首を傾げるしかない。そこにあるのは、単なる金属の断面だ。敢えて言えば、一体どんな刃物で斬ったのだ、と思えるほどにきれいな断面しかない。


「ああ、わかんねぇわな。そうだわな……えっと、確かこの辺に……いや、こっちじゃねぇな。確か向こう持ってったか。ちょっと待ってな」


 竜胆は周囲を見回して何かが無い事を理解すると、そのまま瞬の返答を聞くまでもなくどこかへと移動していく。そうして、数分。瞬が何があるのかわからず待たされていると、竜胆が帰ってきた。その手には先程とはまた別の刀が握られていた。


「ほらよ。こいつは親父が練習に打った刀だ。中身、見てみな」

「……軽い?」

「刀身が半分ぐらい無いからな」


 鞘ごと投げ渡された刀を受け取った瞬に対して、竜胆はそう明言する。受け取った際に鞘の長さに反して感じる重さが非常に軽かったらしい。そうして瞬が鞘から刀を取り出してみれば、真実半ばからばっさりと斬られていた。


「断面、見てみな?」

「これは……層ができてる?」

「そうだ。ざっくりと三つの模様が見えんだろ? 心鉄(しんがね)皮鉄(かわがね)・刃先の三つだ。この三つを魔導金属で作るのはすげぇ難しい事でな。十年でようやくうっすらと形に出来て、二十年で……って、んなこたぁ、戦士であるお前さんにゃどうでも良いな。とりあえず、お前さんの穂先とそいつの断面。違いはわかるな?」

「はい」


 はっきりと見れば瞬にも己の槍の穂先が駄目と言われた理由がよく理解出来た。理がない、というのは穂先や刃がこうなっているのが最適だ、という理がそこになかったのだ。

 敢えて言えば瞬の槍の穂先は単に尖っているだけの金属の塊。それに対して彼ら鍛冶師が打った槍の穂先はきちんと研磨され鍛えられたまさに人を殺す為の刃だった。


「お前さんの槍にはその道理がない。単に金属を尖らせただけ。単に尖らせただけの槍でももちろん、人は殺せる。殺せるしお前さんは幸い己の魔力で槍を編めるから、魔力の通りは抜群に良い。だからそこそこは火力を出せる。が、それが限度だ。その更に先。大火力は出せない」

「だから、名槍を持て、と?」

「ああ、違う違う。いや、違わねぇが……流石に俺達村正は刀鍛冶。槍も一応打っちゃいるが、今からワンオフで作るってのは効率的じゃあねぇな。しかも俺達もこっからカイトの所に向かう必要があるしな」


 竜胆は瞬の問いかけに肩を竦める。やはり彼としても出来る事には限りがあるし、何より今はもう出立の準備の真っ最中らしい。瞬は知る由もないが、本当はここももっと人――弟子達が中心――が多いらしいが、その準備に忙しく人気が少なかったという事だそうだ。


「ま、そういうわけで俺がしてやれるのは、お前さんに少しでも刃の作り方を教えてやる事だけだ」

「良いんですか?」

「あー、まぁ、ホントはこんな事は当主じゃなしに弟子にやらせろ、って話なんだろうが……なにせ遅れたのは俺達だからな。カイトに対する詫びって所だ」


 竜胆は少し困った様子だったが、どうやらそういう所らしい。やはり遅れたのなら遅れたで少しは詫びを見せる必要があった。その一環として、瞬に対して槍の修正を行ってやろうというわけだったらしい。というわけで、瞬は里に滞在する間は竜胆の下で槍の別方面からの強化の為に勉強をする事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1270話『かつての話を』

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